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平成23年度アジア情報研修概要報告: アジア情報室通報 第10巻第1号

アジア情報室通報 第10巻1号(2012年3月)
水流添真紀(国立国会図書館関西館アジア情報課)

平成24年2月15日(水)、16日(木)に、国立国会図書館関西館第二研修室において、平成23年度アジア情報研修を実施した。この研修は、大学図書館、専門図書館、公共図書館または研究機関の職員等で、アジアに関連する情報を扱う方を対象とし、日本国内の各図書館におけるアジア情報にかかるサービスの向上に資することを目的に実施するものである。第10回目の開催となる今回は、外部講師および当館関西館アジア情報課の職員による講義を行った。

受講生の内訳は、大学図書館8名、専門図書館1名、公共図書館2名の計11名であった。

1 研修内容

研修各科目の概要を以下に紹介する。

なお、講義のほかに、アジア情報室および書庫の見学も実施した。

(1)アジア情報の調べ方-国立国会図書館サーチ、新NDL-OPACを中心に

(国立国会図書館関西館アジア情報課 濱川今日子)

2012年1月からリニューアルした当館のサービスを中心に、アジア関連情報の調べ方について紹介した。詳細については「国立国会図書館サーチ、NDL-OPACにおけるアジア言語資料の検索について」で後述する。

(2)上海新華書店旧蔵書について-連環画を中心に

(近畿大学文芸学部特任講師 中野徹氏)
連環画とは

中国で出版されている、一頁一コマの絵に解説文が施された絵物語。連続した絵でひとつの物語がつづられる。

中華民国期には、古典・神怪・武侠小説など通俗小説が多く、子どもや労働者を読者層として貸本屋等で流通していた。中華人民共和国期になると、政策の宣伝、科学知識の普及などの役割を担うようになり、内容も日中戦争や国共内戦を題材とするなど、社会主義の国家建設にふさわしいものへと変化した。その後、文化大革命期には一時出版が停止されるが、1978年以降大量に再版されることとなり、第二の黄金期を築いた。1980年代以降には出版が下火になるが、1990年代にコレクターによるブームが起こり、目録が整備される一方、値段が高騰するなど、連環画研究にも影響を及ぼした。

日本国内の所蔵は、国立国会図書館、滋賀県立大学図書館陳コレクション、武田雅哉氏(北海道大学教授)の個人蔵書など、数えるほどしかない。

上海新華書店旧蔵書について

新華書店は1937年に創業、全国の書籍や雑誌の発行、流通、販売の中枢として機能していた。過去には出版社から新華書店へ書籍を見本書として献本する制度があり、連環画市場では「新華書店様書(見本書)」印が押されたものも多い。

国立国会図書館所蔵のコレクション「上海新華書店旧蔵書」はそのような見本書から構成されている。

連環画研究の可能性

「上海新華書店旧蔵書」のうち、関西館で所蔵する連環画は約4,000タイトル存在する。昨年、鴇田潤「国立国会図書館関西館所蔵中国連環画書名一覧」(本誌第9巻第4号、2011年12月、2-12頁)が作成されたことにより、検索と資料へのアクセスが簡便化された。連環画の絵師や出版、作品の受容史、政治運動の検証等、今後の研究の可能性が大きく広がったといえる。

なお、講義終了後に実施した書庫見学では、当館所蔵の連環画の現物を手に取って見ることもできたため、より講義への理解が深まったと思われる。

また、講師の中野徹氏による講義内容にもとづく巻頭論文「上海新華書店旧蔵書と中国の連環画」も参照されたい。

(3)現代タイ情報の調べ方-所蔵と入手方法

(大阪大学外国語学部非常勤講師(当館非常勤調査員) 増田真氏)
図書館事情

近年、タイの図書館の利用環境は整ってきており、OPACによる蔵書や雑誌記事の検索が可能である。図書館自体も、無料もしくは数十バーツの入館料で誰でも利用できることが多い。係員または近隣のコピー店による資料の複写も可能である。一方、デジタル化資料については、利用が館内に限定されている場合が多い。

国立図書館は本館と17の分館からなる。利用者層は幅広く、日本の公共図書館のような雰囲気である。古い新聞・雑誌が充実しており、貝葉文書のコレクションもある。

大学図書館は、チュラーロンコーン大学、タムマサート大学が代表的である。単科大学から創立した大学が多いため、図書館蔵書にも大学ごとの特色がある。また、国内で分野ごとの中心図書館が決まっている。例えば、開発行政研究院は社会科学系、カセートサート大学は農学系、マヒドン大学は医学系など。

その他、タイ中央銀行図書・文書館、タイ証券取引所図書館、サイアム・ソサエティ図書館も充実した専門図書館である。

タイ国内で代表的な総合目録は二つある。ThaiLIS外部サイトへのリンクは25の大学図書館の総合目録である。また、Journal Link外部サイトへのリンクは227の図書館の逐次刊行物総合目録で、ネットワーク参加館は複写物の取り寄せも可能とのことである。ただし、日本からの利用には検索に制限があり、要旨までしか見られないなど制約がある。

日本におけるタイ語資料に関しては、当館アジア情報室を始め、京都大学東南アジア研究所、アジア経済研究所、大阪大学外国学図書館等で比較的多く所蔵している。当館アジア情報室の所蔵資料では、ラーマ5世時代の三蔵経が特筆すべき資料といえる。他に、東南アジア研究所の「チャラット・コレクション」など、特徴あるコレクションを持つ図書館も多い。

書店

大手チェーンではオンラインでも購入できる。2011年はタイの電子書籍元年といわれている。娯楽、仏教、児童書、コンピュータ関連が比較的多いが、まだ発展途上である。

国内の主な書店には次のようなものがある。チュラーロンコーン大学ブックセンター(タイ語・英語の学術書籍。他大学にも出店。)、SE-EDブックセンター(タイ最大の書店チェーン)、Naai-In(出版業界最大手のAmarin Printing & Publications傘下)、B2S(電子書籍、文房具やCDも販売。百貨店のセントラル傘下。)、Asia Books(電子書籍も含めた英語書籍の販売)など。

ウェブサイトによる情報収集

行政・立法・裁判所等各機関でウェブサイトが開設されている。英語版もあるが、統計データに関してはタイ語のみで提供されている場合が多い。個々のウェブサイトについては、講義資料を参照されたい。雑誌は無料で見られるのが目次までなど限定的なものが多いが、新聞はオンラインで読める。ただし、タイの政治事情の混乱から、政府によりサイトが閉鎖されることがあるなど、報道の自由や中立性に問題があることには注意したい。

講義の中では、講師によるアジア地域の研究者への聞き取り結果も報告された。研究者の蔵書には貴重なものも多く、資料の散逸を防ぐためにも、退官後には図書館に蔵書を引き取ってほしいという要望が寄せられているという。

(4)仏教典籍(漢文資料)の調べ方

(東洋文庫図書部資料整理課長兼閲覧複写課長、主幹研究員 會谷佳光氏)
仏教の誕生と仏教典籍編纂の経緯

仏陀の死後、4度に渡る仏典結集により、仏典がサンスクリット語・パーリ語等に文書化された。最後の仏典結集は2世紀頃といわれる。中国では、2世紀中頃の後漢の時代から漢訳(訳経)が開始された。訳経は、皇帝の庇護の下、組織的・大規模に実施された。漢訳の過程で、中国思想や用語が取り込まれている。また、中国人による仏典の注釈・抜粋、著述も作成された。高僧伝、総集、類書、音義、禅籍、仏教史書、偽経など。

仏教典籍が増加するにつれ、散逸、翻訳に関する情報の喪失、偽経の出現などの問題が生じたため、仏典を収集して体系的に整理する必要性が高まった。最初に作成された仏教典籍目録は、東晋・道安撰『綜理衆経目録』であるが、現存しない。各目録は、経名・巻数・紙数・訳者・訳出時期・大蔵経内での分類等から構成されている。また、目録の種類には、各時代の仏典を編年的に配列した「代録」、大小乗・経律論などの分類を主眼とした「標準入蔵録」、特定の寺院に収められた経典を目録化した「現蔵入蔵録」等がある。

『開元釈経録』は唐・開元18年(730年)、智昇によって編纂された総合的な目録である。収録経典には経・律・論、西土聖賢の著述・伝記、中国人作成の目録・伝記・注釈・儀軌を含んでいる。以後、この『開元釈経録』が大蔵経の書写・刊行の基準とされた。

大蔵経の流伝

大蔵経は最初、写本や石刻(房山石経)の形式で伝えられた。最初の刊刻大蔵経は宋・太祖開宝4年(971年)に作成された『開宝蔵』である。以後、さまざまな大蔵経の底本として伝えられることとなる。

中国でも大蔵経の刊行は続くが、高麗でも『高麗大蔵経』(高麗・顕宗2年(1011年))、日本でも『天海版大蔵経』(寛永14年(1637年)開版)、『黄檗版大蔵経』(寛文7年(1667年)開版)等が刊行された。

近現代の日本で代表的なものは『大正新脩大蔵経』(大正11年(1922年)刊行開始)である。高麗大蔵経の再彫本を底本とし、他の大蔵経も校本とする。また、漢訳仏典だけでなく、中国人や日本人による著述、敦煌文書等も収録されている。誤植が多い等の問題点もあるが、世界中に流布しており、仏教研究の基本資料としての地位を確立している。索引・目録やデータベースも整備されており、データベースは「大正新脩大蔵経テキストデータベース(SAT)外部サイトへのリンク」、「CBETA中華電子仏典協会外部サイトへのリンク」の二つがある。

その他、各種の大蔵経の詳細と検索方法については、講義資料を参照されたい。

2 研修の総括

研修終了後に行ったアンケートでは、全般的に、今後の業務のなかで「役に立つ」、難易度、分量ともに「適切」という意見が多数を占め、おおむね高い評価をいただいた。

一方で、「内容が多い」「時間がもう少しほしい」「実習時間があるとよい」といった内容への意見、東京での開催などの要望も寄せられた。また、今後研修で取り上げてほしい地域は「中国」「韓国・北朝鮮」、分野は「人文学」という要望が比較的多かった。来年度以降の研修に活かしていきたい。

なお、講義資料の一部については、当館ウェブサイト内アジア情報研修のページに掲載する予定である。

最後に、研修講師および参加各機関の方々にこの場を借りて改めてお礼申し上げる。

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