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東洋文庫の3年間--実務研修報告: アジア情報室通報 第10巻第2号

アジア情報室通報 第10巻第2号(2012年6月)
中村邦子(国立国会図書館国際子ども図書館企画協力課)
新谷扶美子(国立国会図書館総務部人事課)

財団法人東洋文庫(以下、「東洋文庫」という。)は、岩崎家第三代当主の岩崎久彌氏がロンドンタイムス北京駐在員であったG.E.モリソンから1917年に譲り受けた中国・東アジア関係文献コレクション約2万4,000冊を基礎として、1924年に設立された東洋学分野の研究図書館である。

私たちは2009年4月から2012年3月までの間、国立国会図書館からこの東洋文庫に実務研修員として派遣された。中村は2009年4月から2011年6月まで、新谷は2009年4月から10月、及び2011年4月から2012年3月まで実務研修を行った。この3年間は東洋文庫の新館建設、移転、グランドオープンという節目の時期であったため、貴重な瞬間に立ち会うことができ、得がたい経験をさせていただいた。

中村は洋書担当として主にG.E.モリソン旧蔵コレクション(以下、「モリソン文庫」という。)資料検索データベース構築に従事し、新谷は中国語図書担当としておもに図書分類作業に従事した。以下に、それぞれの実務研修について報告する。

なお、中村が担当した「モリソン文庫資料検索データベース」作業の詳細については『東洋文庫書報』第43号(2012.3) http://www.toyo-bunko.or.jp/library3/opening.html を参照いただきたい。

I 「モリソン文庫資料検索」データベース構築と「モリソン書庫」展示

1 はじめに

「モリソン文庫」は1917年の購入以来、特に洋書において、東洋文庫のコレクションの基礎となってきた。しかし100年近くの歳月を経て、モリソン文庫と、その後収集された資料は完全に混配された状態となり、どの資料がモリソン文庫のものであるのか容易には判別し難い状況になっていた。そこで、モリソン文庫由来の資料だけを検索するデータベースを構築し、改めてモリソン文庫の全容を把握することが計画され、2009年に調査が始まった。また、ほぼ同時期に、このデータベースの検索結果を利用してモリソン文庫を従来の書庫から抽出、2011年完成の新館に新設される展示室「東洋文庫ミュージアム」内に排架し、再現展示する計画も立てられた。

これらの作業を、東洋文庫の田仲一成図書部長の指揮のもと、會谷佳光図書部閲覧複写課長兼資料整理課長、同部資料整理課目録係(洋書担当)の橘伸子氏とともに、中村が担当させていただいた。

2 モリソン文庫資料の探索

「モリソン文庫資料検索データベース」は既存蔵書データベースを利用し、「モリソン文庫」と確認されたものの書誌データに決まったフラグ(以下、「モリソンフラグ」という。)を立てることにより構築した。従って、最も重要な作業は、「モリソンフラグを立てるべき資料を蔵書の中から探し出す」ことであった。

まず、モリソン文庫購入の際に作られた目録Catalogue of the Asiatic Library of Dr. G. E. Morrison, now a part of the Oriental Library, Tokyo, Japan. -- Tokyo : Published by the Oriental Library, 1924(以下、「Catalogue」という。)を手がかりとし、これに収録された全文献を東洋文庫の書誌データベースで検索、該当するものに仮にモリソンフラグを立てた。これは2009年度に外部委託で作業を行ったが、該当する資料が特定できたものは全体の約8割にとどまり、あとの2割のうち約半数は複数の書誌がヒットする、書誌事項に異同があるなど「決め手に欠けるもの」、残りは「検索できず」と報告された。

そこで2010年4月から12月にかけて中村が残作業を引き継ぎ、「決め手に欠けるもの」について1点ずつ現物調査を行い、「G.E.モリソンの蔵書票またはサインの有無」を確認した。残りの1割「検索できず」については検索をやり直すほか、直接関連分野の書架をブラウジングする、東洋文庫図書部職員の皆様に心当たりがないか聞き取りする、などの方法で調査を行った。

この結果、データベースに未入力であった資料群の中に、例えばChina. Imperial maritime customs. I. Statistical series のような中国海関総税務司署刊行物、Agreement between the United Kingdom and Japan, relative to China and Corea, signed at London, January 30, 1902. -- London : Printed for H.M.S.O. [1902](Treaty series ; no. 3(1902))のような英国外交資料、Papers relating to the foreign relations of the United States, with the annual message of the President の各年のアジア各国関連ページを切り取ったもの、などが見つかり、かつモリソン文庫と確認することができた。また、一部にはG.E.モリソンの筆跡と推測される書き込みが見られ、大変興味深かった。

最終的にこの時点で約600件の書誌データを追加入力、モリソンフラグを立て、データベースの構築のための資料探索はここでひとまず一段落となった。

3 「モリソン文庫資料検索」データベースの公開

上記の作業と並行して、このモリソンフラグが立っているものだけを検索対象とするプログラムの設計を東洋文庫サーバー室に依頼し、資料探索の目途がついてきた2010年8月から東洋文庫HPに「モリソン文庫資料検索」 http://61.197.194.11/open/MorisonQueryInput.html 及び「モリソン文庫書誌分類検索」 http://61.197.194.11/morisoncategory/index.html として順次公開した。

特に後者の「モリソン文庫書誌分類検索」はモリソン文庫の大半を占める洋書(貴重書、地図・エッチング類、手稿、モリソンパンフレットを含む。)を対象に、洋書分類表の各項目から検索できるようにしたもので、各分野においてG.E.モリソンが集めたものを一覧し、その世界を垣間見ることができる興味深いものである。

4 「モリソン書庫」展示に向けて

最後の作業として、新館への資料移転を終えた2011年4月、すべての資料の現物確認、及び東洋文庫ミュージアム「モリソン書庫」の展示準備を開始した。ミュージアムの内装完了までの間、書庫内に準備書架を設け、これまでに構築したデータベースの検索結果を使ってモリソン文庫の現物抜き取りと仮排架を行い、同時に現物確認を行った。決め手は「G.E.モリソンの蔵書票またはサイン、彼に宛てたメッセージの有無」としたが、いざ作業を始めると「東洋文庫に1冊しかないのに蔵書票もサインもない、もしくは別人の蔵書票がある」「蔵書票と日本の書店のシールが一緒に貼ってある」などの意外な事態が次々発覚した。そこで再度東洋文庫図書部職員の皆様と相談、疑わしいものを排除したり判断保留扱いにするなど、データベース上もいくらかの修正を行った。この際に、モリソン文庫が日本に上陸した直後に水害に見舞われたこと、その後日本の書店で被災資料の代替物を購入した可能性があることなど、東洋文庫の歴史に関わるさまざまな事柄を文献や図書部職員の皆様からの聞き取りにより知ることができた。

2012年6月までに、すべての資料の確認とデータベースの修正を終え、この時点で収録データ数は17,455件となった。Catalogue 収録文献の数からみると、約24,000件から保留したもの、どうしても探し当てることができなかったものを差引き、データベースに登録できた文献はおよそ23,120件、96パーセントにのぼった。

その後モリソン文庫の資料は「モリソン書庫」に移され、2011年10月のグランドオープンにより公開展示された。この「モリソン書庫」は展示、保存、利用提供を同時に行う画期的な試みである。構築されたデータベースと、その活用の成果ともいえる「モリソン書庫」が今後の研究を発展させるための基礎となれば幸いである。

東洋文庫ミュージアム「モリソン書庫」

東洋文庫ミュージアム「モリソン書庫」

II 中国語図書分類

1 はじめに

東洋文庫所蔵の中国語図書は、(1)旧「近代中国研究委員会(1954-2003)」収集資料、(2)「図書部」収集資料、(3)その他(榎文庫など受増コレクション内の資料)があり、それぞれ異なる体系の請求記号が与えられている。

このうち(2)については、漢籍と同様に中国の伝統的な分類法である四部分類によって分類され、それを反映させた請求記号が付与されている(例:経部/諸経/総義類はI-1-A-○○)。しかし、当然のことではあるが近現代の新しい学問には対応していない分類法であるため、類似の項目に多少無理をして入れ込んだり、四部分類にない項目を加えたりして対応してきた。一例を挙げると、1840年以前の対外関係については史部の「外國関係」(II-7-B)に分類する一方、1840年代以降の対外関係については子部の「類書類」(III-15)の後に、科学技術関連の「西学」(III-16)とともに「近代社会」(III-17)を新設し、その下位の「外國関係」(III-17-B)に分類する。結果、せっかく分類と請求記号をリンクさせていながら、近現代図書については利用者が分類から資料を探し辛い状態にあった。一方で、旧近代中国研究委員会においては、(1)の収集当初より日本十進分類法(以下、NDC)に依拠して作成した「中文書籍分類表」に基づき、分類を行っていた。

2002年9月、現在の田仲一成図書部長の着任を機に、図書部収集資料においても新たに分類を付与することが決定した。この新たな分類「東洋文庫中国図書分類表」(以下、TDC)は、旧近代中国研究委員会が作成した「中文書籍分類表」に基づいて、図書部資料整理課目録係の篠﨑陽子氏が中国や台湾の「中国図書館分類法」を参考にしながら、独自に作成したものである。TDCの大きな特徴としては、NDCの日本と中国を逆転させて、中国を主体として構成されていること、中国情勢と、歴史分野に重点をおく文庫の蔵書体系とが反映された分類であること、工業部門を工学・技術と産業に振り分けていることが挙げられる。

分類付与作業は、(1)を研究部近代中国研究班が、(2)を篠﨑氏と新谷が担当した。以下では、新谷が行った作業の具体的な内容およびそこで直面したいくつかの課題についてご紹介する。

2 作業

まず、該当範囲の資料(約22,000件)を順次書庫から運んでくる。図書部収集の近現代図書(洋装本)には1000番台の書架番号(請求記号の最後の数字)を付与することになっているため、これは特に迷うことはない。一部1000番台未満に、文庫初期に整理した洋装本が混ざっていることもあるが、目視で探し出せる範囲である。(ちなみに、前述の「西学」など新設項目や民国期以降の叢書については、漢籍に当たるものがないため一桁台から順に書架番号が振られている。)

次に、運んできた資料の請求記号群について、分類未入力のものを作業用のWEBデータベースで検出する。これを容易にするため、あらかじめ分類のゼロ検索機能が付与されており、書架番号を除く請求記号との掛け合わせで、ある程度の絞り込みができるようになっている。あとは、検出された未入力のデータと現物とを突き合わせながら、適宜分類を付与していく、という流れである。

作業中、どこに分類するべきか迷った場合は、既入力分を検索して参考にするのはもちろんであるが、そのほか中国国家図書館のOPACや当館のNDL-OPAC、NIIのNACSIS Webcatなども参照した。

3 直面した課題

作業を行っていくうちに、何度か考え込んでしまうような課題に直面した。その第一は、1.で大きな特徴の一つとして挙げた、工業部門の振り分けである。具体的には560「金属工学.鉱山工学」、570「化学工業」、580「製造工業」が、工学・技術ではなく産業に振り分けられた。この分野については所蔵件数もさほど多くないことから、下位分類は簡略化されており、工学は下位分類としても項目立てされていない。そのため、内容的には工学でも産業としての工業と同じ分類を付与することとなり、慣れないうちは少々戸惑った。

第二には、NDCと既分類分とが乖離しているケースが挙げられる。NDCに準拠した分類を行うというルールの一方で、先行して作業が行われていた旧近代中国研究委員会収集資料の分類に合わせる必要もあるが、ところどころ両者が違っていることがある。例えば専売事業の場合、NDCでは、塩は水産業の「製塩.塩業」、たばこは製造工業の「その他の雑工業」になるが、TDCではいずれも財政の「専売」に含める。前例を確認しながら作業をしていないと、分類が割れてしまうところであるので、注意しながら作業を進めた。

また、非常に基本的なことではあるが、バランスよく分類をしていくことは、全体を通して心がけたことの一つである。もともと四部分類で分けられたものに対して分類単位で作業を進めたため、一日中内容の似通ったものばかりを手にすることも多かった。そのような中では、経験の浅い自分はつい安易に同じ分類を付与してしまい、翌日改めて分類表を見直すと、より妥当な分類が見つかるということもよくあった。近視眼的にではなく、全体を見渡しながら作業するようにはしていたが、結果はどうであろうか。

その他、日常的にあれに悩みこれに迷いといった毎日であったが、問題と思われることはその都度篠﨑氏や研究部と相談して、解決しながら作業を進めた。

4 まとめ

正味一年半の短いとも長いとも言える期間、全力を傾注して分類作業に当たってきた。しかしながら、余裕があれば作業範囲に含める予定であった1.(3)については、篠﨑氏がいくらか入力されてはいるものの、自分としては結局手つかずのままで、この点は非常に心残りである。

最後になったが、本稿で述べてきたTDCによる検索を行う「中国語図書分類検索」 http://61.197.194.11/chinacat/moumoku.html は、東洋文庫HP http://www.toyo-bunko.or.jp/ の蔵書検索のページからアクセスできる。

III 結び

私たちは実務研修員として東洋文庫に赴き、それぞれモリソン文庫データベース、中国書図書分類と、東洋文庫の蔵書検索機能の向上に、ささやかなお手伝いをさせていただいた。

今後国立国会図書館と東洋文庫は資料保存を中心に協力関係を続けていくこととなっている。貴重な資料を多数所蔵していればこその、資料の保護・保存上の課題の解決に向けて、この関係が意義あるものとなるよう、心から願う次第である。

最後になるが、3年間に及ぶ財団法人東洋文庫の皆様の御厚意に感謝し、この報告の結びとしたい。

(なかむら くにこ、にいや ふみこ)

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