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平成24年度アジア情報研修概要報告: アジア情報室通報 第11巻第1号

アジア情報室通報 第11巻1号(2013年3月)
水流添真紀(国立国会図書館関西館アジア情報課)

平成25年2月7日(木)、8日(金)に、国立国会図書館関西館第一研修室において、平成24年度アジア情報研修を実施した。この研修は、大学図書館、専門図書館、公共図書館または研究機関の職員等で、アジアに関連する情報を扱う方を対象とし、日本国内の各図書館におけるアジア情報にかかるサービスの向上に資することを目的に実施するものである。

第11回目の開催となる今回は、中国・韓国等の資料・情報に関する科目を中心に、外部講師および当館関西館アジア情報課の職員による講義を行った。

研修生の内訳は、公共図書館6名、大学図書館12名、専門図書館3名、その他機関5名の計26名であった。また、東北から九州まで、日本全国から参加があった。

1 研修内容

研修各科目の概要を以下に紹介する。

なお、講義のほかアジア情報室および書庫の見学、希望者の参加による懇親会も実施した。

(1)中国情報の調べ方

(国立国会図書館関西館アジア情報課 齊藤まや)

中国語資料の所蔵調査と入手、雑誌・新聞の記事検索、インターネット情報の活用方法について、日本国内と中国、台湾の情報源を紹介した。インターネット上で利用できる統計情報と漢籍テキストデータベースについては詳しく説明し、実習では問題への回答を各自で作成した後、講師による解答例の提示と解説を行った。

また、付録資料として「中国語の入力方法」「中国語用語集」「主要デジタル化資料閲覧サイト一覧」等を配布した。

(2)コリア情報の調べ方

(国立国会図書館関西館アジア情報課 福山潤三)

コリア関係資料の調べ方について、国立国会図書館で提供している情報源を中心に紹介した後、韓国で提供されているデータベースの利用方法を紹介した。対象は所蔵情報、電子化情報、雑誌論文、新聞記事等である。また、個別分野の情報源として、統計と歴史について詳しく説明した。

実習では、「中国情報の調べ方」と同様、問題への回答作成の後、講師が調査方法を解説した。付録資料としては「ハングル入力の基礎」「辞書・翻訳ツール」「データベースでよく用いられる用語集」「分野別インターネット情報源」等を配布した。

(3)朝鮮の出版文化

(富山大学名誉教授 藤本幸夫氏)
はじめに

朝鮮半島では古来から印刷文化が盛んであったが、現物が失われたものも少なくない。一方、日本へは、室町時代の大蔵経の伝来、豊臣秀吉の朝鮮侵略による書物の掠取、江戸期の対馬宗家を通じた入手、植民地時代と流入する機会も多く、完全な形で残っているものが多数存在する。日本所在の朝鮮本から当時の状況が分かることも多く、これらの研究は、朝鮮だけでなく中国や日本の研究にとっても重要である。本講義では、時代ごとに朝鮮の印刷文化について概観した後、日本の印刷技術や文化への影響についても触れたい。

なお、講義では木版と活字印刷を中心に扱う。木版の特徴は、作成に手間がかかるが、一枚の版木で大量に印刷できることである。一方、活字印刷の特徴は、活字を再利用できる半面、印刷を繰り返すうちに活字がずれたりするため、印刷できる枚数に制限があることである。

統一新羅時代(677-935年)

1966年、韓国慶州仏国寺釈迦塔から『無垢浄光大陀羅尼経』が発見された。釈迦塔は751年に創建、日本の百万塔陀羅尼の製作年(770)よりも古く、内部に収められた陀羅尼経は世界最古の木版印刷物と考えられている。しかし、その後に釈迦塔が高麗時代に修理されていることが判明した。陀羅尼経がどの時点で塔に入れられたかも確定できておらず、製作年については現時点で決着はついていない。

その他の新羅時代の書物については、写経がいくつか存在するのみである。

高麗時代(918-1392年)

高麗時代には、中国の宋からの購入や寄贈により、また、元の皇帝からの下賜により印刷物が大量に流入した。一方、朝鮮半島においては、外国からの侵略を退けることを祈願して初彫大蔵経(1011-1087)、再彫大蔵経(1236-1251)が刊行されたり、外典(仏典以外の書)として個人の文集等が刊行されたりした。日本の『今昔物語集』の出典ともいわれる『金蔵論』の刊行もこの時代である。なお、朝鮮の出版物には刊年や作成場所が記されていないことが多い。紙の種類や印刷方法等で作成年代・場所を推定することによって、中国や日本の出版物と区別することができる。

また、高麗時代には活字による印刷も開始された。現存する世界最古の金属活字印本『白雲和尚抄録佛祖直指心體要節』(高麗曹渓大禅師景閑、号白雲(1298-1374)撰、上下二巻、存巻下一冊、総三十九張、欠首一張)は1377年に刊行され、現在はフランス国立図書館で所蔵されている。

その他、複数の活字印本の検証の結果、木版本を一字ずつバラバラにしたものを木に貼り付けて彫り、活字を作成したことや、異なる書物が同一の活字で印刷されたことが判明している。

朝鮮時代(1392-1910年)

朝鮮時代に作成された書物は木版、写本、活字版がある。写本はあまり残っていない。

木版は朝鮮半島各地で作成されていた。当時の両班(ヤンバン)のための生活手引き書『攷事撮要』(1554)には、木版の種類とその所在、所有者が記されている。書物を入手したい者が、必要に応じて所有者に版本の印刷を依頼していたことがうかがえる。

活字版では、木活字と金属活字の両方が使用されていた。金属活字はほとんどが銅製であるが、日本から輸入した鉛で作成されたものもある。多種多様な金属活字が作成され、作成年の干支を名称とした。代表的な活字は次のとおりである。癸未字(1403)、庚子字(1420)、初鋳甲寅字(1434)、丙辰字(1436)、庚午字(1450)、乙亥字(1455)、丁丑字(1457)、戊寅字(1458)、乙酉字(1465)、甲辰字(1484)、癸丑字(1493)、丙子字(1516)、再鋳甲寅字(1580)。一定期間しか使用されなかったものもあるが、大きさによって用途別に使い分けられたものもあった。また、甲寅字のように、美しく質が高いとされたものは複数回作成された。印刷された書物の作成年代については、活字の種類や、内賜本(王から臣下へ配布)として配布する際に表紙裏へ墨書された内容(誰から誰へ、いつ贈られたものか)によって判断することが可能である。

朝鮮活字印刷と日本古活字本

朝鮮の活字印刷技術は、日本の出版文化にも大きな影響を与えた。日本で出版された『勧学文』勅版(1597)には、「一つの木に字を彫り、それを並べて印刷した。朝鮮から伝わった方法で便利である。」という旨の記載があることから、日本が朝鮮の技術の影響を受けていたことが分かる。また、日本で古活字(木活字)印刷された『新編医学正伝』(1597)は、16世紀中頃に朝鮮で銅活字印本として刊行されたものの翻刻であるなど、日本では朝鮮由来の書物が多数翻刻、出版されていた。活字印本だけでなく、大量に刷って流通させやすい木版本も多数出版されている。版木を検証することで、朝鮮由来ということも判明している。


講義では、配布資料として図版が豊富に示されるとともに、金属活字や無垢浄光大陀羅尼経の複製物、『한국의 고활자』(韓国の古活字)(1982)等の活字の見本帳も間近で見られる形で進められ、講義内容への理解につながった。

なお、講師の藤本氏は、今回の講義でも言及のあった日本所在の朝鮮本の総合目録を『日本現存朝鮮本研究集部』(京都大学学術出版会, 2006.2)として出版されており、今後は経部・史部・子部、索引および図録も出版予定である。


また、二日目午後には別の行事としてアジア情報研修と同じ国立国会図書館関西館で「平成24年度アジア情報関係機関懇談会」を開催し、希望する研修生には聴講を認めた。多数の研修生が聴講し、今回の研修で扱った朝鮮本や中国語、韓国語資料を含む東アジア資料のデジタル化に関する議論を聴講でき有意義であったとの感想が多く寄せられた。

2 研修の総括

終了後に行ったアンケートでは、全体的に「役に立つ」との評価が多数を占め、「充実した研修だった」「日常業務・レファレンスに役立つ」「持ち帰って職員間で共有したい」等のコメントをいただいた。一方、中国・コリア情報の調べ方については、難易度について「やや難しかった」、分量について「やや多かった」との評価も見られた。実習問題も好評だったが、「もっと時間があるとよかった」とのコメントがあった。

今後の研修内容については、地域は「中国」「韓国・北朝鮮」「東南アジア」、分野は「経済・社会」「人文学」「法律・政治」の要望が高かった。これらの回答を今後の研修の運営に活かしたい。

また、今回は多数の参加申し込みがあった上に、懇親会への出席や懇談会聴講希望者も多く、参加者間での情報交換も活発に行われた。これらの理由は、科目の内容や日程、広報等にあったと考えられるが、次回以降につなげられるようにしたい。

なお、当館職員による講義の資料については、当館ウェブサイト内アジア情報研修のページに掲載している。

最後に、研修講師および参加各機関の方々にこの場を借りて改めてお礼を申し上げる。

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