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中国と東南アジア諸国の政府情報を調べる ―平成27 年度アジア情報研修 概要報告―:アジア情報室通報 14巻1号

アジア情報室通報 第14巻1号(2016年3月)
冨田 圭一郎(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

平成27(2015)年9月17日(木)及び18日(金)、独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所(以下、「アジ研」という。)において、当館とアジ研との共催により、平成27年度アジア情報研修を実施した。この研修は、国内の図書館等におけるアジア情報の収集・提供に関する知識増進とスキル向上を図り、また、当館とアジア情報関係機関との連携を深めることを目的として、当館が平成14(2002)年度から毎年実施しているもので、今回が14回目の開催である。

今回は、「中国と東南アジア諸国の政府情報を調べる」をテーマに、中国と東南アジア諸国の政府情報(法令や統計)の調べ方に主眼を置いた研修を行った。以下、その概要を報告する。

1. 研修の特徴と目的

今回の研修には三つの特徴と目的があった。

第一は、アジ研との共催である。既に、平成26年度のアジア情報研修においても、共通したテーマのもとで、当館とアジ研のそれぞれが、所蔵資料や調査ノウハウの蓄積において強みをもつ分野の科目(当館が法令、アジ研が統計)を担当して研修内容の充実を図っていたが、今回は、両者の共催という位置づけのもと、千葉市のアジ研を会場とした。これは、関東地方におけるニーズに応えるためでもあり、関西館以外の場所での開催は今回初めてであったが、ふたを開けてみると、当日の研修参加者18名のうち16名が関東地方の方であった[1]。

第二は、研修の形式である。前回の研修に引き続き、調べるツールを紹介する講義形式ではなく、研修生自身がグループワークで調べる実習形式を中心とし、事前課題も課した。事前課題や当日実習では、実社会のニーズを反映した質問を題材とした。このような課題に自ら取り組むことで、各研修生が主体的に成果を得られると考えた。

第三は、参加者の多様な属性である。これも前回の研修に引き続き、本研修が情報交換の場となることを期待して、図書館や調査研究機関の職員以外にも広く参加を呼びかけた。その結果、各種図書館のほか、中央省庁、大学院生、国会職員、企業等、多様な属性の研修生が集まり、グループワーク等において、活発な意見・情報交換が行われた。

2. 各科目の概要

2.1. イントロダクション

(アジア情報課課長補佐 冨田圭一郎)

最初に、前述した本研修の特徴と目的を明確に示し、その上で、政府情報(法令や統計)を一次資料・情報に当たって調べることの意味や意義について、具体例も交えて説明した。

  • 政府情報(法令や統計等)は、中国や東南アジア諸国に限らず、各国の事情を調べる際に把握しておくべき基礎的な情報である。
  • 政府情報を調べる際には、他人によって編集・加工されていない一次資料・情報に当たることが重要である。
  • 一次情報を調べることは、自分で事実関係やデータを確認する(裏を取る)作業である。多少手間はかかるが、図書館員や研究者だけでなく、中央省庁、企業等の業務においても、この作業は必要かつ有益である。

2.2. 実習① 中国の政府情報を調べる

(アジア情報課アジア第二係長 齊藤まや)

初めに、中国の政府情報の基本的な調査方法について、以下の3点を説明した。

  1. 様々な制度は、法律やそれに基づく規則・基準などで定められているため、政府機関のウェブサイトなどで各種法令を調べる必要がある。
  2. 中国の場合、最初に日本語資料・情報、次に中国語資料・情報という2つのステップを踏んで調べるのが有効である。
  3. ただし、統計の場合は、最初から定評ある中国語情報に当たるのが合理的である。

次に、事前課題の解説とグループワークによる当日実習を行った。いずれも、研修生による調査結果の報告後に、法令原文や統計を確認する際に有用な情報源を紹介した。また、有料データベースのうち無料で利用できる機能を上手く活用して調査する方法も紹介した。

当日扱った事例は下記のとおりである。

  • 事前課題「中国における食品添加物のシリカゲルの使用可能量」
  • 当日実習1「中国において知的財産に関する案件を専門に扱う裁判所の有無と、ある場合の管轄内容」
  • 当日実習2「中国における家庭用冷蔵庫の年間生産台数(最新のデータ)」

2.3. 講演 中国法令情報の調査―中国の障害者法制の研究を例として

(アジア経済研究所新領域研究センター主任調査研究員 小林昌之氏)

中国は、2007年から2008年にかけて「障害者権利条約」[2]を署名・批准し、それに伴い「障害者保障法」「障害者就業条例」等の国内法規を改正・整備した。しかし、禁止する「差別」のなかに「合理的配慮の不提供」が含まれない等の問題点がある。

中国には、「中国障害者連合会」[3]という半官半民の団体が、障害者の権利擁護のために積極的に活動しており、特に統計においては、政府とは異なる独自の情報も発信している。そのため、障害者の実態を把握するためには、必ず政府情報と上記団体の情報をクロスチェック(比較対照)する必要がある。

また、クロスチェックすべき情報源としては、Internet Archiveも挙げられる[4]。ここでは、例えば、中国のNGOが作成した障害者の権利擁護に関する報告書のように、一旦は公開されたものの、その後、おそらく中国政府の要請により削除されたと思われる情報も確認することができる。

以上のように、中国についての調査を深める際には、政府機関による一次情報だけでなく、異なる立場の機関が発信する情報も併せてチェックする必要性を説いた。

2.4. 実習② 東南アジア諸国の人口統計を調べる―華僑・華人を中心に

(アジア経済研究所図書館  小林磨理恵氏、土佐美菜実氏)

初めに、東南アジア諸国の統計機構について、国によって分散型(各省庁が作成)と集中型(中央統計局が集中して作成)があること、分散型の場合は各省庁と中央統計局のそれぞれのウェブサイトと冊子版資料を確認する必要があることを説明した。

次に、人口統計を調べる際には、総合統計年鑑と人口センサス(国勢調査)を参照する必要があること、人口センサスは情報の宝庫であり、人口動態に加えて社会・経済状況を知ることができること等を紹介した。

さらに、シンガポール、マレーシア、インドネシア各国の統計局ウェブサイトにおいて華僑・華人人口を確認する際のポイントを説明したうえで、下記の事前課題の解説と当日実習を行った。

  • 事前課題「シンガポールの華人のうち、家庭内の使用言語が「中国語諸方言」である人数と、華人人口に占める割合」
  • 当日実習「インドネシア・東ジャワ州の都市部と農村部の人口において華人が占める割合」

まとめとして、各国が集計・公表している様々な一次情報源に当たる必要があること、人口統計を通じて様々な国際比較が可能となること、国によって統計事情や民族の定義等が異なるため比較分析する際には注意を要すること等を指摘した。

3. 研修に対する反応

実習終了後の質疑応答では、各研修生から、各科目の内容に関して多くの質問が寄せられた。また、平素利用している有用な情報源やデータが十分に入手できない場合の回答方法等について、講師陣との意見交換に発展する場面もあった。

終了時に行ったアンケートでは、すべての回答者から、本研修に対して肯定的な評価が得られた。個別の意見や感想としては、アジア各国の実情を把握するツールは業務で活用できる、調査する際にリサーチ・ナビの「アジア諸国の情報をさがす」[5]のページが有用であることを認識した、関東で開催されたので参加できた等、アジア各国の情報を一次情報に当たって調べる研修内容とアジ研との共催を評価する声が多く寄せられた。

また、有益な内容なので開催回数を増やしてほしい、アジア各国の議会情報、規格・特許情報等をとりあげてほしい等の要望も寄せられた。

おわりに

今回の研修では、多様な属性の参加者が、事前課題や当日の実習に意欲的に取り組んだ。グループワークは冒頭から熱気を帯び、各研修生から有益なご質問やご意見を頂いた。本研修が成功裡に終了したことについて、アジ研及び研修生の皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げる。

短い研修では十分に紹介できなかった内容もあるが、本研修を通じて、現地の最新情報を正確に把握するためには、法令や統計といった一次情報を調べれば、手間に見合う正確な情報が得られることを実感していただけたのではないかと考えている。

なお、研修当日の配布資料は、当館及びアジ研のウェブサイトに掲載したので、併せてご参照いただきたい[6]。もし、講師派遣による研修実施のご要望等があれば、ご遠慮なくアジア情報課あるいはアジ研までご連絡いただきたい[7]。

(とみた けいいちろう)



[1] なお、定員20名を超える申し込みがあり、最終的に18名が参加した。

[2] 正式名称は、「障害者の権利に関する条約」(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)である。日本は、2014年1月20日に本条約を批准している。

[3] 中国残疾人联合会 http://www.cdpf.org.cn/
ウェブサイトの最終アクセス日は、2016年2月12日である。以下同じ。

[4] https://archive.org/index.php

[5] 「アジア諸国の情報をさがす」のページでは、アジア諸国について調べる際に有用と思われる図書館資料、ウェブサイト等の情報を紹介している。http://rnavi.ndl.go.jp/asia/index.php

[6] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「平成27年度アジア情報研修」http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-workshop27.php 日本貿易振興機構アジア経済研究所「図書館イベント開催報告:平成27年度アジア情報研修「中国と東南アジア諸国の政府情報を調べる」」http://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Event_report/20150917_kouen.html

[7] 平成27年12月22日には、福岡市の(公財)九州経済調査協会BIZCOLIで開催された「中国・台湾の統計・諸制度に強くなる~ワークショップin福岡」に、当館アジア情報課とアジ研図書館から講師を派遣した。http://www.kerc.or.jp/seminar/2015/11/-pdf-20151222.html

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