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関西館アジア情報室が所蔵するインドネシア語資料について:アジア情報室通報 15巻2号

アジア情報室通報 第15巻2号(2017年6月)
小西 鉄(大阪経済法科大学経済学部助教、前 国立国会図書館非常勤調査員)

はじめに

筆者は、平成28(2016)年4月から平成29(2017)年3月にかけて、国立国会図書館非常勤調査員として、同館関西館アジア情報室(以下、「アジア情報室」とする。)で所蔵しているインドネシア語資料の蔵書評価及び書誌作成等を行った。

本稿では、上記の作業を通じて得られた知見に基づき、アジア情報室が所蔵するインドネシア語資料の状況を整理したうえで、課題を抽出し、改善策を提言する。

1. 蔵書の構成

アジア情報室が所蔵するインドネシア語図書(マレーシア語図書も含む)の分野別構成は、下表のとおりである。

表 アジア情報室所蔵インドネシア語図書の分野別書誌数及びその割合(2016年8月現在)
分野 件数 割合(%)*
政治・法律・行政 2,991 23.8
経済・産業 1,218 9.7
社会・労働 942 7.5
教育 427 3.4
歴史・地理 3,278 26.1
哲学・宗教 1,145 9.1
芸術・言語・文学 1,926 15.3
科学技術 345 2.7
学術一般・ジャーナリズム・図書館・書誌 284 2.2
総計 12,556 100.0

*小数点第二位以下は四捨五入。

最も多いのが、「歴史・地理」分野(3,278件、26.1%)である。植民地期の歴史、政治史、インドネシア・アイデンティティ形成史、民族誌、文化史、都市形成史、地誌、スカルノ初代大統領などの国家英雄、現代の政治家の伝記などを、幅広くカバーしている。

次いで、「政治・法律・行政」分野(2,991件、23.8%)である。政治では、政治理論から官僚制、汚職、イスラムと政治、民主主義論、国際関係にいたるまでの研究書や専門書が、行政では、国家行政・地方自治論の研究書、環境行政・福祉行政などの実務書、外交資料が、また法律では、司法理論や各法律論、地方の慣習法論の専門書から各種法令・規則集等までがある。このように、現代インドネシアに関する社会科学分野の図書が揃っている。

三番目に多いのは、「芸術・言語・文学」分野(1,926件、15.3%)である。各地・各民族の民話、伝統芸能論の概説書、文化史、ジャワやバリをはじめとする各民族の精神文化論、宗教人・文化人の伝記やエッセイなどがある。

その次は、「経済・産業」分野(1,218件、9.7%)である。農業・鉱業部門をはじめとする産業別状況や、各地の経済事情に関する概説書、国家経済開発政策の専門書などである。

2. 蔵書の特長

アジア情報室所蔵の、インドネシア語資料をはじめとするインドネシア関連資料には、以下のような特長がある。

2.1. インドネシアの政治・経済・社会の現状をとらえる豊富な資料

1998年のスハルト政権崩壊後、出版・メディアの自由が大幅に認められるとともに、経済成長に伴って消費と生産を担う中間層が拡大したことにより、多様なメディア主体が登場しており、政治や経済に関する言論が溢れてきている。アジア情報室所蔵のインドネシア語資料は、このような同国の言論・出版状況を反映し、現状を知るための情報を提供している。

例えば、公平性・正義に関するエッセイ集Menuju Indonesia Berkeadilan: Cerita Keadilan di Indonesia(正義あるインドネシアへ向けて:インドネシアにおける正義録)【Y735-TS-2047】[1]からは、人々の国家観・社会観を垣間見ることができる。当時の交通副大臣によるProtes Publik Penerbangan Indonesia(インドネシア航空業界に対する批判)【Y735-TS-2046】からは、民主化時代の航空行政とその問題点を理解できよう。Ekonomi Politik Pangan(食料の政治経済)【Y735-TS-2137】に所収される各論文からは、農業政策は改革後も旧態依然としたものであることが把握できる。

また、The Jakarta Post【Z91-272】などの主要日刊紙、Globe Asia【Z76-A463】やWarta Ekonomi【Y735-ZS-158】といった主要雑誌など、現代インドネシアの動向を把握するうえで必須のメディアが、所蔵・開架されている。特に、前二者はジャカルタを出版地とする英語媒体であり、インドネシアに関心がありながら必ずしもインドネシア語能力が高くない利用者も、十分に活用できる。

さらに、政治家やビジネス・パーソンの伝記の充実も指摘できる。こうした書物は、現地書店の店頭でも多く並んでおり、現地の出版状況が反映されている。例えば、ジョコ・ウィドド現大統領に関しては、「変革の人」と位置づけるJokowi Tokoh Perubahan(変革の人ジョコウィ)【Y735-TS-2140】、アホック氏とともに庶民派をアピールした州知事選までを語るJokowi-Ahok: Pemipinan yang "Biasa-biasa Saja"(ジョコウィ―アホック:「普通」の指導者)【Y735-TS-2142】など、多数の伝記がある。スカルノ初代大統領といった国家の英雄に関する伝記(例えば、Bung Karno & Kemeja Arrow(スカルノ兄とYシャツ)【Y735-TS-2151】)も多数所蔵している。

アストラ・グループ創設者ウィリアム・スルヤジャヤ氏のMan of Honor:Kehidupan, Semangat, dan Kearifan William Soeryadjaya(名誉の人:ウィリアム・スルヤジャヤの人生、努力、知恵)【Y735-TS-2148】、サリム・グループ創設者スドノ・サリム氏に関するLiem Sioe Liong's Salim Group: The Business Pillar of Suharto's Indonesia(リエム・シユウ・リヨンのサリム・グループ:スハルトのインドネシアにおけるビジネスの支柱)【(DH111-P11)】のように、実業家たちの伝記も、インドネシアの政治経済史を鮮明に描いている。こうした伝記や自伝は、インドネシアの政治や経済に関心のある来館者にとって、魅力的であろう。

2.2. 所蔵資料の幅の広さ

社会科学分野では、上記以外にも、契約に関する理論と実践を指南するKontrak Bisnis: Teori dan Praktek(ビジネス契約:理論と実践)【Y735-TS-2154】などのビジネス実務書や、中部スラウェシ鉱区住民の開発戦略を取り上げたStrategi Pengembangan Wilayah Pertambangan Rakyat di Kabupaten Bombana(バンバナ県における住民の鉱区開発戦略)【Y735-TS-2136】のように、インドネシア科学院(通称LIPI)が出版する政策分析書をはじめとする政策関連図書も充実している。

また、ブタウィの伝統・慣習に関するFolklor Betawi(ブタウィの民話)【Y735-TS-2143】のような人文芸術分野、有機農業技術に関するTeknologi Hijau dalam Pertanian Organik(有機農業におけるグリーン・テクノロジー)【Y735-TS-2139】などの自然科学分野、さらには、森林管理・保護に関する論文とともに森林社会学関連といった学際的な論文を所収する科学論文集Iptek mendukung kelestarian hutan dan kesejahteraan masyarakat : kumpulan karya ilmiah Balai Penelitian Kehutanan Makassar 2012(科学技術による森林保全と人民福祉の支援:マカッサル森林研究学術成果集)【Y735-TS-2150】等、極めて広範な分野の資料がある。

このほか、インドネシア社会のあらゆる場面でイスラムが浸透していることも、Menuju Kampus Rahmatan lil 'alamin(高等教育におけるイスラム)【Y735-TS-2149】、Agama Nelayan(漁業におけるイスラム)【Y735-TS-2144】等の所蔵資料を通して、伺い知ることができる。

2.3. 現地の店頭や欧米の流通市場で入手困難な資料の充実

上記のスルヤジャヤ氏の伝記のように、現地書店の店頭に並んだ図書・雑誌は、一定期間が経過した後には、廃棄されてしまう。出版後、現地の図書館に所蔵されるまでには時間がかかり、出版社に問い合わせても在庫がなく、現地古書店でも検索が難しい。

さらに、インターネット上のものを含めた流通市場においても、めぐり合うことが稀有か、もしくは極めて高価となっている資料が少なくない。そうした資料と出会うことができる点で、アジア情報室の所蔵資料は、極めて魅力的である。

2.4. 所蔵資料の出版地の多様さ

アジア情報室では、首都ジャカルタのみならず、ボゴールやタンゲランなど首都圏の各都市、デポックといった学術研究都市、ジョグジャカルタやバリなどの文化・観光都市のほか、メダンやマカッサル、ジャヤプラなどの地方都市で出版されたものを所蔵している。執筆者も各地に在住しているため、首都圏の政治経済動向、ジャワやバリの文化だけでなく、地方自治・農村・慣習・自然環境など、インドネシアの多彩な側面に関する知見が得られる。

例えば、メダンで出版されたPrahara di Kota Tebingtinggi(トゥビンティンギ市での嵐)【Y735-TS-2147】では、北スマトラのトゥビティンギ出身の研究者が、1945年12月13日に同地で起きた事件を詳細に記録している。ほかにも、ミナン地方のメディアの発展を描いたSejarah Perkembangan Pers Minangkabau, 1859-1945(1859-1945年のミナンカバウ・メディアの発展史)【Y735-TS-2146】、カトリックが普及しているフローレス地方の宗教と政治の関係を描いたAgama Flores, Politiks Flores(フローレスの宗教、フローレスの政治)【Y735-TS-2145】がある。

以上のように、アジア情報室は、現代のインドネシアに関心を持つすべての人の知的好奇心を満たす蔵書を保有している。

インドネシア関連図書を所蔵する他の図書館との比較をしてみると、その特徴はさらに浮き彫りになる。例えば、京都大学東南アジア地域研究研究所図書室が各分野での古典や名著を揃えているのに対して、アジア情報室の蔵書は比較的近年出版されたものが多い。アジア情報室は、現代インドネシアをとらえるうえで貴重な情報源となっていると言えよう。

3. 改善が望まれる点

筆者は、2011年11月から2013年6月までインドネシアに長期滞在したほか、これまでに数度、現地の書店・図書館において資料収集を行ってきた。この経験を基に、アジア情報室の資料において今後改善・充実が望まれる点を、いくつか指摘したい。

3.1. 各産業部門の動向に関する資料の収集

インドネシアについては、その経済成長や経済制度の進展、ビジネス動向にも注目が集まってきている。この経済分野に関する資料では、Pertanian Indonesia di Bawah Rezim WTO(WTO体制下での農業経済論)【Y735-J144】のように、第一次産業部門に関する図書や、経済法令関係の図書は充実している[2]。

しかし、管見の限りでは、インドネシアにおける各産業部門の動向や歴史的経緯を把握できる資料は少ない。そのため、インドネシア経済の現状を知りたい利用者のニーズには、必ずしも応じきれていないのではないだろうか。経済分野に関心のある筆者としては、製造業、中小企業、金融などの各部門の年鑑の充実を期待したい。

3.2. 主要紙以外の新聞の収集

現地で発行されている新聞は、利用者が現地の最新状況を把握するための重要な情報源である。この観点から、既に所蔵している主要新聞以外に、下記のような新聞を収集することを望みたい。

Bisnis Indonesia紙やDaily Investors紙などの主要経済紙は、経済成長著しいインドネシア経済の現在の状況を把握するうえで欠かせない媒体である。

また、地方分権化が加速する現代インドネシアの状況を知りたい利用者にとっては、Jawa Pos紙(出版地:スラバヤ)、Sinar Harian紙(出版地:メダン)などの地方紙の講読が必要である

このほか、新聞に限られるものではないが、宗教分野に関して、イスラム教徒が総人口の9割を占めるインドネシアについて理解を深めるうえでも、イスラム関連資料のさらなる充実も課題である。特に、イスラム教に基づく生活習慣に関する図書や、近年拡大してきたイスラム金融に関する入門書などは、多くの人を引き付けよう。

3.3. 同一トピックでの重複とシリーズもの不揃いの回避

英雄や政治家の伝記(上述)のように、一つのトピックについて、多様な資料が揃っていることもある。このことは、インドネシアの出版状況を反映している点や多様な資料を参照できる点で、極めて興味深い。ただし、上述の不足分野を補うためにも、同一トピックの資料については、適切に選別する必要があろう。

また、Sejarah Kecil Petite Histoire Indonesia(インドネシア小史)【Y735-TS-2323】(1-7巻中、アジア情報室所蔵は5-7巻のみ。)のように巻号が不揃いのケースもあるため、それを解消する努力も必要であろう。

4. 提言

これまで述べてきたように、アジア情報室が所蔵するインドネシア語資料は、質的にも量的にもある程度充実し、魅力あるものであるが、改善が望まれる点もいくつかある。また、必ずしも利用者の需要を的確に捉えきれていない可能性もある。

資料収集において考えられる改善策としては、これまで中心的な役割を果たしてきた、米国議会図書館の東南アジア共同収集プログラム(Cooperative Acquisitions Program for Southeast Asia、以下「CAP-SEA」とする。)[3]による収集に加えて、独自の収集方法を構築することが挙げられる。具体的な方法として、以下のようなことが考えられる。

まず、インドネシア語資料への国内ニーズを的確に把握するために、現地在住または在住経験のある日本人や現地事情に詳しい専門家から、幅広く資料に関する意見を聞くことをお勧めしたい。

次に、現地の出版傾向や書店の店頭状況を捉えるために、出版・販売側からの情報収集が重要である。具体的な対象としては、Kompas Gramedia社[4]やGunung Agung社[5]などの現地出版社・書店、インドネシア書籍出版会(通称「IKAPI」)[6]である。直接のやり取りは難しいかもしれないが、ウェブサイトに掲載される出版情報をチェックするだけでも、CAP-SEAとは違う視点での選書が可能になる。多巻ものを全巻収集するうえでも、大事な情報源の一つとなりえよう。

さらに、良書を選定するために、日本在住のインドネシア人からの意見聴取を検討する余地もある。あるいは、各分野に精通した日本人研究者との継続的な協力によって、各分野での重要資料に関する情報を交換する。こうした意見・情報の収集により、上記のニーズを踏まえた効率的な資料選定・収集が可能となる。

あるいは、毎年10月頃にジャカルタで開催される国内最大級の古書市"Indonesia International Book Fair[7]"や、毎年3月に開催されるイスラム関連書市"Islamic Book Fair[8]"といった機会に、古書やイスラム関連書の情報収集を、在ジャカルタの日本人専門家に委託することも一案である。通常の書店で入手不可能な資料も発掘できる絶好の機会であり、各専門家にとっても専門書情報を得るうえで大きな利益となる。

最後に、現地の各機関との協力を試みることを挙げたい。具体的には、国際交換のさらなる活用や新たな展開を図ることが考えられる。マンガやJポップなどの日本のポップ・カルチャーに対する現地の若者の関心が高まっているため、日本語資料への需要は高い。それを踏まえて、例えば、インドネシア大学経済ビジネス学部(通称FEB-UI)図書館との関係を発展させて、同大学の日本センター(通称PSJ-UI)[9]図書室を加えた国際交換を実施することが考えられる。これにより、PSJ-UI図書室には、日本文化関連の日本語資料を提供し、FEB-UI図書館からは、インドネシア経済関連の現地語資料を提供してもらうなど、蔵書の相互融通を図ることができよう。

また、今後重要性を増すインドネシア経済関連資料の収集のために、経済金融開発研究所[10]や戦略国際問題研究所[11]といった、現地シンクタンク等との国際交換を視野に入れるのもよい。

このように、多様なネットワークを形成して新たな収集体制を整備し、これまでに構築した蔵書に厚みを増すことが出来れば、インドネシア情報を求める多くの利用者にとって、アジア情報室はさらに魅力ある存在になると考えられる。

(こにし てつ)



[1] 【 】内は当館請求記号。以下同じ。

[2] 法令集自体は、東京本館の議会官庁資料室が所蔵している。

[3] 米国議会図書館は、インドネシアの首都ジャカルタに事務所を設け、東南アジア各国の資料収集を行っている。アジア情報室は、CAP-SEAから提供される情報をもとに、インドネシアの各分野の新刊書籍を収集している。
Jakarta Acquisitions Programs http://www.locjkt.or.id/acq-program/jacq-eng.asp
(2017年5月15日最終アクセス。以下同じ。)

[4] Kompas Gramedia http://www.kompasgramedia.com/

[5] Gunung Agung http://www.tokogunungagung.com/

[6] Ikatan Penerbit Indonesia (IKAPI) http://www.ikapi.org/

[7] Indonesia International Book Fair http://indonesia-bookfair.com/
2013年までは"Indonesia Book Fair"の名称で開催された。

[8] Islamic Book Fair http://www.islamic-bookfair.com/

[9] Pusat Studi Jepang, Universitas Indonesia (PSJ-UI) http://www.pusatstudijepang.ui.ac.id/

[10] Institute for Development of Economics and Finance (INDEF) http://indef.or.id/

[11] Centre for Strategic and International Studies (CSIS) https://www.csis.or.id/

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