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アジア情報の利活用促進に向けた課題 ―平成28年度アジア情報関係機関懇談会 概要報告―:アジア情報室通報 15巻2号

アジア情報室通報 第15巻2号(2017年6月)
冨田 圭一郎(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

平成29年2月7日(火)、国立国会図書館関西館において、平成28年度アジア情報関係機関懇談会を開催した。この懇談会は、当館と国内のアジア情報関係機関との連携を深め、国全体としてのアジア情報資源の充実と流通促進に資することを目的として、平成13年度から毎年度開催しているものである。

今回は、「アジア情報の利活用促進に向けた課題」をテーマとして、基調報告、参加者からの報告、当館からの報告及び懇談を行った。以下、その概要を紹介する。

1. 懇談の目的

日本国内には、アジア言語資料を大規模に収集・提供している機関として、アジア情報室のほか、ジェトロ・アジア経済研究所、東洋文庫、京都大学東南アジア地域研究研究所、幾つかの大学の附属図書館等があり[1]、国内外のアジア研究者を中心に利用されている。

ただし、上記機関に配置されている司書のうち、アジア言語を解する者の数は多くはない。また、日本語資料や欧米言語資料に比べ、アジア言語資料を利用する人の数は少ない。このような状況において、アジア資料を収集・提供する機関には、資料の利活用を促進し、あるいは停滞させないための取組が求められていると考えられる。

そこで、今回は、"アジア資料・情報の利活用促進"に焦点を当て、そのための課題と、それを解決するための方策について、関係者間で話し合った。日本関係資料を収集・提供している機関の参加も得て、意欲的な取組を御紹介いただくとともに、地域研究における現地語資料の活用という共通の論点についても、認識や知見を共有した。

2. 基調報告:アジア研究とアジア諸語資料収集・保管の意義について

(名古屋大学大学院国際開発研究科教授 島田 弦氏)

インドネシア法研究の経験から、アジア言語資料の利用と研究をめぐる環境は、下記のような状況にあると考えている。

  • 独自性のある研究を行うためには、現地語資料(及び旧宗主国の資料)を利用することが不可欠である。
  • アジア言語資料は、利用者数は少ないが、所蔵機関も限られている。
  • インドネシア語資料には、網羅的な収集が困難で、かつ保存上の問題(虫食い、紛失等)が大きいという問題がある。
  • 現地語資料を所蔵していても、それを解して資料を整理・管理できる専門的な司書が存在しないと、資料が利用不可能となってしまう可能性がある。
  • 価値ある資料が利用できる場所には、多くの研究者が集まり、研究が活発になる。

資料と研究が両輪となる(司書と研究者が連携する)ことによって初めて、独自性があり水準の高い研究成果が生まれるのである。

3. 参加機関及び当館の報告

3.1. 報告①:東京大学附属図書館「アジア研究図書館」計画とU-PARLの試み

(東京大学附属図書館 アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門副部門長・特任准教授 冨澤 かな氏)

「アジア研究図書館」は、東京大学「新図書館計画」の柱の1つである。学内各所のアジア関係資料をできるだけ集約し、研究機能を持つ図書館を開設し、東大内外のアジア研究を結ぶハブを構築することを企図している。

平成26年度に発足した寄付研究部門U-PARLの研究者と図書館司書が協力して、開設準備を行ってきた。資料整備では、地域言語資料や寄贈資料の適切な受入体制の確立や他館の蔵書との棲み分けが大きな課題である。

開館に先立って実現できる資料・情報提供として、東大附属図書館と台湾国家図書館の提携のサポートやデータベースの充実を進め、また、研究情報の発信を積極的に行っている。例えば、大型シンポジウム「むすび、ひらくアジア1・2」、専門的なワークショップ、アジア研究文献探索セミナー等の開催や、「世界の図書館から」「アジア研究この一冊!」等の研究情報のウェブでの発信等がある。

研究情報の発信は、同部門の研究者の専門知識に拠るところが大きいが、資料と研究が有効に循環する研究図書館を実現するためには、図書館司書と研究者との協働が非常に重要である。

3.2. 報告②:アジア歴史資料センターにおける「アジア歴史資料」のデジタル公開と海外に向けた情報発信

(国立公文書館アジア歴史資料センター研究員 平野 宗明氏)

アジア歴史資料センターは、日本及び関係諸国の国民が、「アジア歴史資料(近現代の日本とアジア近隣諸国等との関係に関する資料)」を容易に利用でき、併せて、諸外国との相互理解の促進に資することを目的として、国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所から提供されたデジタル化資料を、インターネットで公開している。

海外の利用者の利便性を高め、ニーズを把握するために、下記の取組を行っている。

① サービスの多言語化

ホームページの主要部分は日・英・中・韓4か国語で提供している。また、資料検索・閲覧のインターフェイスと目録情報も、日本語版に加え英語版でも提供している。目録情報の英訳は、各分野の専門家による「データ検証委員会」が検証を行った訳語を定訳として蓄積し、これに基づいて行っている。

② 海外での広報活動

毎年数回、国際学会・会議等に出向いてブース出展やプレゼンテーションを行い、司書や研究者と対話している。併せて、近隣の関係機関で資料調査や意見交換も行っている。

3.3. 報告③:国際日本文化研究センターの海外日本研究者・司書へのアプローチ

(国際日本文化研究センター図書館 江上 敏哲氏)

国際日本文化研究センターは、日本文化に関する国際的・学際的な総合研究と、世界の日本研究者に対する研究協力・支援を行うことを目的としている。同センター図書館は後者の役割を担っており、具体的には、外国語で書かれた日本研究図書及び訳書(「外書」)等日本研究に必要な資料等を幅広く収集し、国内外の日本研究者に提供している。

最近、同センターがウェブ上で提供しているデータベース「外像」[2]と「古写真」[3]の利用状況を検証した。両者とも、2015年7月以降、Google検索によりデータベース内のコンテンツが探し出せるようになった。それ以降に寄せられたデータベース画像の掲載利用申込件数をみると、前者は、数が大幅に増えたが、海外からの申込や照会はほとんどない。一方、後者は、以前と変わらず一定数の申込があり、その多くは、利用事例が紹介された書籍等を見た者であると考えられる。

今後、海外の日本研究者に情報提供・発信を行う際には、データベースの提供("食材の流通")に加え、コンテンツの具体的な活用事例・方法等を紹介すること("レシピの共有")が重要になると考えている。

3.4. 報告④:資料の利活用促進に向けたアジア情報室の取組

(国立国会図書館関西館アジア情報課アジア第二係長 齊藤 まや)

アジア情報室では、資料の利活用促進に向けて、主に下記3点に取り組んでいる。

    ① 書誌情報の整備

利活用促進の大前提として、当館所蔵の未整理・未入力のアジア言語資料の書誌情報を鋭意作成して当館ホームページで公開し、また、アジア言語資料を所蔵する他機関と書誌作成に関する情報交換を行っている。

    ② 情報発信

アジア諸国に関する調査において、当館調査及び立法考査局が行う国会向けサービスに協力し、また、「アジア諸国の情報をさがす」[4]のページで、一般利用者向けに資料・情報へのナビゲーションを行っている。

    ③ 外部機関との連携

ジェトロ・アジア経済研究所との共催によるアジア情報研修や、大学図書館と合同での学生向け利用ガイダンスの実施、アジア情報関係機関懇談会における課題の共有等により、アジア情報利用リテラシーの普及と職員のスキルアップを図っている。

4. 各報告に対するコメント

(名古屋経済大学経営学部准教授 中村 真咲氏)

モンゴル憲法史の研究者として、アジア情報の集積拠点としての図書館・文書館の役割に関心を払ってきた。アジア情報の利活用促進のためには、資料の収集・共有、コンテンツの作成、研究情報の発信、司書の育成等、様々な局面において、司書と研究者が連携することが非常に重要であると考えている。具体的には、下記が挙げられる。

    ① 史資料の収集・保存と研究の両立

史資料を収集する際に、研究者が持つ情報やネットワークを生かすことが不可欠である。

    ② アジア情報・日本情報の発信

前掲「アジア諸国の情報をさがす」のページは有用だが、研究者の協力によりさらに改善できる可能性がある。

    ③ 司書・アーキビストの養成

アジア情報研修等の取組は重要であり、研究者が積極的に協力して、拡充すべきである。

このほか、図書館と研究者が協力してフォーラム等を開催し、アジア研究の知見を生かした解説・議論を行って社会に貢献することも必要だと思われる。

5. 懇談-アジア情報の利活用促進に向けた課題

懇談では、下記の論点について、全参加者で意見交換を行った。

  • 現地語資料を選書・収集する際の、司書と研究者の連携
  • 研究者・学生の情報ニーズの把握と、それをふまえた図書館の情報発信
  • 研究情報を作成・発信するための、司書と研究者の協力の枠組み
  • 海外の司書や研究者との関係構築

いずれについても、司書と研究者が、現在の活動状況や役割分担を踏まえ、両者の得意分野を生かした協力を行うことが可能であり、また必要であるとの認識が共有された。

おわりに

本懇談会では、アジア資料と日本関係資料を収集・提供している機関が一堂に会し、現地語資料の利活用促進という共通の課題について議論し、知見を共有することができた。これを踏まえて今後のアジア情報室の取組を検討していきたい[5]。

(とみた けいいちろう)



[1] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「アジア情報機関ダイレクトリー」を参照。 http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/directory.php

[2] 「日文研データベース:外像」 http://db.nichibun.ac.jp/ja/d/GAI/

[3] 「日文研データベース:古写真」 http://db.nichibun.ac.jp/ja/d/KSA

[4] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「アジア諸国の情報をさがす」 http://rnavi.ndl.go.jp/asia/

[5] なお、本懇談会の当日配布資料等は下記を参照。
国立国会図書館リサーチ・ナビ「平成28年度アジア情報関係機関懇談会」 http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-meeting28.php

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