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ローマ字で書かれた中国の地名(レファレンス事例・ツール紹介(6)):アジア情報室通報 15巻2号

アジア情報室通報 第15巻2号(2017年6月)
山本 彩佳(国立国会図書館関西館アジア情報課)

アジア情報室には、中国の地名に関するお問い合わせが数多く寄せられます。漢字表記がわかっている場合は、比較的容易に調べることができますが、中には英文文献に出てくるローマ字で書かれた中国の地名を調べたいというお問い合わせもあります。

ローマ字による中国語の表記方式として、現在は1958年に中国で公布された「ピンイン」が主流となっていますが、地名の表記には、イギリスのトーマス・ウェードが用いた「ウェード式」など、ピンインが定められる以前に普及していた方式が用いられることもあります。

今回は、実際の問い合わせ事例をもとに、ローマ字で書かれた中国の地名を調べる方法をご紹介します。おたずねがあったのは「Newchwang」という地名で、1900年代の初め頃に日本と中国の間を運航していた「Takasago Maru」の到着地となっていた場所とのことです。インターネット検索でもある程度の情報を得ることができますが、インターネット上の情報には根拠が不確かなものも含まれているため、今回は主に当館の所蔵資料を用いて調査します。

*【 】内は当館請求記号、ウェブサイトの最終アクセス日は2017年5月8日です。

1. 地名辞典・地名録で調べる

中国語のローマ字表記方式に関する知識がない場合は、「Newchwang」という地名がどの方式で表記されているのか判断することができません。まずは、地名辞典や地名録を使って調べてみます。ローマ字表記から検索できる資料としては、以下の資料があります。

1.1. ピンイン表記から調べられる資料

張治国 監修『最新中国地名事典』(日外アソシエーツ 1994)【GE11-E4】
日本語資料。行政地名(省、自治区、直轄市、市、県)、自然地名、産業地名(鉄道、道路、橋梁など)、名勝旧跡など5,489件の地名を収録しています。ただし、出版時点で使用されていない旧地名は収録していません。排列は日本語音読みの50音順で、巻末にピンイン索引を付しています。

劉鈞仁 原著 ; 塩英哲 編著『中国歴史地名大辞典』(凌雲書房 1980)【GE11-17】
日本で出版された資料。本文は中国語。1930年代に出版された劉鈞仁著『增訂中國地名大辭典(附滿州國)』(刊行年不明)を底本に、欠落部分と台湾部分を補っており、出版時点で使用されていない地名も収録しています。排列は頭字の部首別の画数順で、第6巻にピンイン順の総索引を収録しています。

国家测绘局测绘科学研究所地名研究室 编『中国地名录 : 中华人民共和国地图集地名索引』(中国地图出版社 1983)【GE11-C6】
中国語資料。『中华人民共和国地图集』(地图出版社, 1979)【XP-D-444】の索引で、行政地名(鎮級以下の地名も含む)、自然地名、人工物(運河、ダム、橋など)、古跡類など約32,000件の地名を収録しています。排列はピンイン表記のアルファベット順で、各地名の緯経度と『中华人民共和国地图集』での掲載箇所も記載しています。

中国地名委员会 编『中华人民共和国地名录』(中国社会科学出版社 1994)【GE11-C17】
中国語資料。郷鎮以上の行政地名、人民政府所在地を中心とした郷鎮の集落名、自然地名、名勝旧跡など約100,000件の地名を収録しています。排列は、ピンイン表記のアルファベット順です。

1.2. 他のローマ字表記から調べられる資料

外務省情報部 編『中国地名辞典 : 英中・日中対照』(原書房 1985)【GE11-25】
日本語資料。県、市、城、鎮および著名な山、河、港湾、鉄道駅名など約15,000件の地名を収録しており、「英中対照」と「日中対照」の2編で構成されています。ローマ字表記は、国民政府交通部郵政總局版「中華郵政輿圖」や欧文地図に基づいており、主にウェード式が用いられています。「英中対照」の排列は英語名のアルファベット順で、付録として「トーマス・ウェード式ローマ字・漢語拼音(ピンイン)字母対照表」を付しています。

中国地名研究会 編『中国歴史地名辞典』(科学書院 1995)【GE11-E7】
日本語資料。約34,000件の地名を収録しています。第1巻から第3巻で、ウェード式表記とピンイン表記、レッシング式(ドイツ式)表記、仏式表記を対照しており、排列はウェード式表記のアルファベット順です。第3巻の巻末には、上記の4種類のローマ字表記対照表を付しています。第4巻は「Pin-Yin・Lessing式・仏式表記順索引」、第5巻は「欧文表記総合索引・漢字部首画数順索引」で、表記方式が判然としない場合は、第5巻の総合索引を使って調べることができます。

以上の地名辞典や地名録で調べても、「Newchwang」という地名は見当たりませんでした。「New」という文字の並び自体が見当たらないため、探している地名の表記方式は、ピンイン、ウェード式、レッシング式、仏式のいずれでもないようです。

2. 歴史事典で調べる

1900年代の初め頃に使われていた地名ということなので、次は歴史の面から調べてみます。アジアの歴史について調べる際に有用な資料としては、次の資料があります。

平凡社 編『アジア歴史事典』(平凡社 1985)【GE8-81】
日本語資料。アジアの歴史に関する総合事典で、アジア地域の主要な地名も立項されています。漢字表記の見出し語にはローマ字表記を付記しており、中国語の転写にはウェード式を用いています。排列は50音順で、第10巻にローマ字索引を収録しています。

上記の資料のローマ字索引で「Newchwang」が見つかりました。見出し語にはなっていませんが、「えいこう 営口 Ying-kou」の解説文中に「1858(咸豊8)年の天津条約によってニューチャン(牛荘Newchwang)が開港場と決まり、イギリス領事館が営口に設けられたため外国ではニューチャンの名でも呼ばれる。」との記述があります(第1巻、p.362)。「Newchwang」の漢字表記は「牛荘」であり、「営口」の別称でもあったことがわかりました。

3. 新聞記事で調べる

「牛荘(営口の別称)」が「Takasago Maru」の到着地であったことを確認するため、当時の新聞記事に関連する情報がないか調べてみます。

今回は、当館が契約している新聞記事データベースの中から「朝日新聞記事データベース 聞蔵Ⅱビジュアル」を使用します。「Takasago Maru」の漢字表記は「高砂丸」であると推測し、「高砂丸 牛荘」をキーワードにして検索したところ、8件の記事がヒットしました。検索結果の中で一番古い1901年2月3日の記事「北清と浦塩航路の開始」を見ると、「日本郵船會社の韓国北清航路は來る三月二十日高砂丸にて神戸出帆開始すること」「廻港地は下関、長崎、釜山、仁川、芝罘、牛莊」という記述があり、「牛荘」が高砂丸の到着地の一つであったことが確認できました。

4. 地図で調べる

最後に、地図を使って、「営口」と「牛荘」の位置を確認してみます。今回は、中国で出版された地図を使って調べます。

4.1. 現代中国語の表記等を確認する

中国(大陸)では「簡体字」と呼ばれる簡略化した字体が使われており、文字によっては日本の漢字と字形が大きく異なるものもあります。中国語の地図で調べるために、まずは「営口」と「牛荘」の現代中国語での表記と、地図の索引を引く際に必要となるピンインを確認してみましょう。地名について、日本語の漢字表記から中国語の漢字表記とピンインを調べたい場合は、次の資料が有用です。

和泉新 編『現代中国地名辞典』(学習研究社 1981)【GE11-21】
日本語資料。行政地名(旧地名を含む)、自然地名、鉄道名、名勝旧跡などを収録しています。排列は、日本語音読みの50音順です。日本語と中国語の漢字表記が異なる場合には、簡体字での表記を併記しており、ピンインも付記しています。付録として、「漢語拼音字母・ウェード式ローマ字対照表」も付しています。

上記の資料で調べると、「営口」と「牛荘」の現代中国語での漢字表記とピンインは、それぞれ「营口Yingkou」、「牛庄Niuzhuang」であり、ともに遼寧省の地名であるということがわかりました。

4.2. 地図で位置等を確認する

アジア情報室では、新しい地図として省別の「中国分省系列地图册」シリーズ(中国地图出版社, 2016)を所蔵していますが、索引が付されていません。そのため、索引のある『中国地图集』(中国地图出版社, 2004)【G72-C93】を使って調べると、営口は遼寧省の市であり、牛荘は遼寧省鞍山市にある「郷鎮、村庄」レベルの地区であるということがわかりました(pp.74-75)。

さらに、牛荘の行政単位まで知りたい場合は、前述の「中国分省系列地图册」シリーズの『辽宁(遼寧)』【G72-C227】で、鞍山市の地図を見て確認します。すると、牛荘が鞍山市の下位の行政単位である海城市に属する鎮であるということがわかりました(pp.56-57)。

牛荘はかつて遼河の河口に位置しており、港として栄えていたため、天津条約で開港場と定められましたが、開港場は後に、より河口に近い営口へと移されました。地図で確認すると、営口のほうが港として便利であったことがよくわかります(図1参照)。

図1 営口市と牛荘鎮の位置
図1 営口市と牛荘鎮の位置

© OpenStreetMap contributors

まとめ

以上の調査から、高砂丸の到着地であった「Newchwang」の漢字表記は「牛荘」で、現在の営口市に当たる場所であったということがわかりました。

今回は、地名辞典のみではうまく調べることができなかったため、周辺情報から調査しました。ローマ字で書かれた中国の地名について調べる基本的な方法は、以下のとおりです。

  1. ローマ字表記から検索できる地名辞典で調べる
  2. 地名辞典に見当たらない場合は、他分野の資料を用いて周辺情報から調べる
  3. 地図で位置等を確認する

なお、「Newchwang」という表記は、ピンインの公布前に郵便事業者が使用していた「郵政式」という方式によるもので、古い地図等で確認することができます[1]。

中国の地名を調べるツールについては、過去の本誌の記事[2]でも紹介していますので、併せてご参照いただき、うまく調べられない場合は、お気軽にアジア情報室にご相談ください。

(やまもと あやか)



[1] 例えば、ハーバード大学図書館がインターネット上で公開している『China postal working map = 大清郵政公署備用輿圖』等があります。
http://ids.lib.harvard.edu/ids/view/12106056?buttons=y

[2] 湯野基生「中国の地名を調べるための辞典」『アジア情報室通報』5巻4号, 2007.12, pp.18-19. http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin5-4-4.php
福山潤三「中国、コリアの地名のローマ字表記について調べる」『アジア情報室通報』11巻4号, 2013.12, pp.8-10. http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin11-4-2.php

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