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イラン関係資料・出版情報の収集方法:アジア情報室通報 15巻4号

アジア情報室通報 第15巻4号(2017年12月)
徳原 靖浩
(東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)特任助教)

国立国会図書館関西館アジア情報室では、資料収集が困難な地域の蔵書構築の参考とするため、定期的に外部有識者の意見を聴取している。平成29年3月17日、徳原 靖浩 氏をお招きし、イラン・イスラム共和国(以下、「イラン」とする。)の出版事情及びイラン関係資料の収集方法について解説していただいた。本稿はその概要である。

(関西館アジア情報課)

1. イランにおける出版の概況

イランの出版の歴史は、17世紀にアルメニア教徒が印刷を行っていた記録はあるが、本格的な形では19世紀前半に始まる。活版印刷、石版印刷ともに1810年代に始まったが、手書き写本風の書体やレイアウトと相性が良かった石版印刷が長らく主流であった。

権力との関係では、19世紀後半のガージャール朝期には出版物の監督が行われるようになる。当時は、出版物そのものに対してよりも、著者に対する処罰が主であり、著者や記者の逮捕や処刑が頻繁に行われた。その後、1950年代ごろからの経済成長を背景に出版が盛んになる一方、1963年からの白色革命を機に、文化省による事前・事後の検閲が行われるようになった。

現在のイラン憲法においては、出版の自由が保障されているが、「イスラムの原理等を害しない限りは」とのただし書が付く(第24条)[1]。検閲も、出版物法[2]第4条で行うべきでないとされている一方、イスラムの原理や規則等を害する報道は罰則の対象となる(同第6条)。また、出版は免許制となっている(同第8条)。出版後であっても、問題があるとされた書物は回収の対象となることがあり、新聞の場合は、発行後に出版物裁判による発行停止処分が下される。特に露骨な性的内容を含むもの、イスラム共和国体制を批判するものは、事実上出版できない状況である。一方、街中では、政府による増刷許可の下りない書物の海賊版が作成され、露天商によって盛んに売られている。

近年では、ハタミ政権時代(1997~2005年)の規制緩和からアフマディネジャード政権(2005~2013年)での規制強化を経て、現ローハニ政権(2013年~)においては再度緩和を志向している。ある統計[3]によると、数年前から年間7~8万タイトル前後の新刊書が刊行されており、出版は非常に盛んであると言える。2017年2月に筆者が現地の書店を訪れた際には、海外の名作小説の翻訳が多く出版されており、また、政治関係以外のジャンルでは、規制は緩くなっている印象を受けた。

2. イラン関係資料・出版情報の収集方法

イラン関係資料や出版情報の収集方法としては、昔ながらの書店等の店頭での選書と、インターネットや図書館のOPAC(蔵書検索システム)での検索という、大きく分けて2つの方法がある。また、近年著しく発展している電子書籍等のデジタル資料も、見逃すことができない。以下、順に解説する。

2.1. 書店店頭やブックフェアでの収集

主に現地の大学図書館の選書担当や研究者の間で、従来から行われている方法である。筆者がヒアリングを行った、テヘラン大学中央図書館のベテラン職員も、普段から書店を回って現物を手に取り、良書の情報を記録しておき、自館になければ購入するとのことであった。この方法は、手間や時間が掛かるものの、タイトルや著者名だけでは判断できない内容の確認や、イランではまだ少なくない乱丁・落丁本を避けること、また、予想外の書物との出会いも得られること等、メリットが多い。さらに、書店員と直接会話することにより、良書や近刊等、ネット検索では必ずしも得られない情報を得ることができる。

なお、イランでは、書店によって扱う資料の種類や分野が異なる。以下、テヘラン大学にほど近い書店街であるエンゲラーブ通り近辺にある代表的な書店を紹介する。老舗書店の多くは、タフーリーのように、母体である出版社の名を冠しているが、基本的に他社の本も扱う。

  • タフーリー出版社書店 انتشارات طهوری(Tahuri)[4]
    百科事典・学術書を多く扱う。カウンター形式のため、直に手にとって見ることができるのは一部のみである。大型の百科事典を探す際は、まずここに行くと良い。
  • トゥース出版社書店 انتشارات توس(Tus)[5]
    ウェブサイトに英語のページがあり、多少古くはあるが、英語のカタログも掲載されている。掲載されている数も多くはないが、英語で出版情報の収集ができる利点がある。在庫をデータ管理しており、資料のタイトル等を伝えればその場で検索してくれる。
  • モウラー出版社書店 انتشارات مولی(Mowla)[6]
    哲学書・思想書を多く扱う。この書店では、盗難防止のためのICタグが、本文の余白に貼られていることが多いため、それを剥がすと糊が残るので注意が必要である。
  • ギーターシェナースィー地理地図学研究所 موسسه جغرافیایی و کارتوگرافی گیتاشناسی(Gita Shenasi)[7]
    代表的な地図作成会社である。英語版のウェブサイトがある。地図のCD-ROMも出しているが、GISには今のところ未対応である。
  • エフテハールザーデ書店 کتابسرای افتخارزاده(Ketabsara-ye Eftekharzade)
    タフーリー書店で一番目利きだった若い店員が独立して開業した小さな書店で、在庫は少ないが、必要に応じ、ネットワークを駆使して熱心に本を探してくれる。考古学・歴史分野に強い。
  • ノグーシュ نقوش(Noqush)
    新刊書・古書ともに扱う。稀少な古書も、地方まで出掛ける等して大抵見つけてくれる。
  • シャフレ・ケターブ شرکت شهر کتاب(Shahr-e Ketab)[8]
    英語名称は「Book City」。文房具や児童書も扱うチェーン店である。旗艦店にはカフェが併設される等、従来の書店とは大きく違った形態の書店である。

このように有用な書店があるが、現地書店等で収集するためには、当然ながら現地に赴く必要があり、旅費が掛かること、また、Wi-Fi環境が整った書店でない限り、その場で重複調査ができないこと等の難点がある。筆者の場合は、良さそうな書物に出会うと、一旦メモを取り、ホテルに戻って重複調査をしてから、店に戻って購入している。

支払は、基本的に現金で行う。イランでは、日本のデビットカードのようなシステム「Shetab」[9]が非常に普及しているが、イランの銀行口座を持っていないと利用できない。

日本に輸送する際には、国際郵便を使うのが一般的であるが、郵便料金が年々値上がりしており、資料代よりも高額になる。通常、書店は郵送サービスをしないので、購入した本は自分で郵便局に持ち込む必要があり、局備付けの段ボールで梱包が行われる。宛名を荷札と箱の両方に記入する必要があるため、あらかじめラベルシールに印刷して持っていくとよい。梱包する際には、ガンタッカー(工作用ホッチキス)による封印が行われる等、扱いが丁寧とは言い難いため、新聞紙を一番上に詰める等、資料破損防止の対策が必要である。

なお、現地では、DHLのような国際運送会社も利用できるが、大変高額であるため、数十キログラムの単位であれば、郵便を使うのが適当である。

そのほか、日本に本を送ってくれる書籍商(アリー・ヘジャーズィヤーン氏)に、資料の手配も含めて郵送を依頼する、という方法もある。日本語を少し解する方で、地方出版社の資料等も取り寄せてくれる。ただし、法人の形をとっていないため、日本の大学図書館等から現地の本人への支払が難しい。

2.2. インターネットを用いた収集

最近のイランでは、Telegram[10]というSNSの利用が盛んであり、独自のチャンネルをTelegram内に持っている出版社や学術機関もある。それらを登録することで、各出版社・学術機関が発する最新の出版情報を得ることが可能である。また、そのほかにも、以下のような書店のウェブサイトや図書館のOPACを使って、出版情報を得ることができる。

2.2.1. 現地の書店等のウェブサイト
  • 「本の家」(Iran Book House) خانه کتاب(Khane-ye Ketab)[11]
    1993年から出版物の普及活動を行っている団体である、「本の家」が運営するオンラインショップである。イランの出版物を、比較的網羅的に掲載している。出版関係の業者や書店のリストも掲載されており、英語サイトには、2011年までのものではあるが、出版点数の統計も載せられている[12]。
  • シャフレ・ケターブ・オンライン شهر کتاب آنلاین(Shahr-e Ketab Online)[13]
    前述のシャフレ・ケターブのオンラインショップである。支払方法は、Shetabに限定されているため、出版情報の入手のために使うのがよい。
  • エッテラーアート出版社 انتشارات اطلاعات(Entesharat-e Ettelaat)[14]
    新聞社でもあるエッテラーアート社のオンラインショップである。新刊書が最初に出てくるので、新刊情報の入手が容易である。

その他、自社サイトでオンライン購入できる仕組みを備えている出版社は数多くあるが、残念ながらVISAやMastercardといった一般的なクレジットカードは基本的に使えない。あらかじめ料金を銀行に振り込むか、もしくはShetabのようなオンラインサービスを利用した支払となる。現地の書店等のウェブサイトの利用は、購入の面では外国人にはハードルが高いが、新刊等の出版情報を得るうえでは有用である。

2.2.2. イラン国外の書店のウェブサイト

イラン国外にも、イランの出版物を扱う書店はある。これらの書店では、一般的なクレジットカードやPayPalで支払ができる。

  • Mazda Publishers[15]
    1980年代から経営されているアメリカの中東専門出版社のオンライン書店である。品ぞろえは網羅的ではなく、革命前の出版物のリプリント、在外作家による文学作品、回想録等が多い。
  • IranFarhang[16]
    フランスで受注・支払手続を行い、現地から資料を発送する形式を採っている。受注と発送を別の主体が行っているため、発注しても資料が届かないことがあるのが難点である。
2.2.3. 図書館のOPAC
  • イラン図書館情報データベース پایگاه اطلاع‌رسانی کتابخانه‌های ایران(Iran Libraries Information Website)[17]
    大学図書館、公共図書館、専門図書館、宗教図書館を含む600以上の図書館の蔵書を横断検索することができる、大変利便性の高いデータベースである。

このほか、テヘラン大学図書館のOPAC[18] 等、使いやすいものが出てきている。

2.3. デジタル資料の活用

イランでは、電子書籍や電子ジャーナルが近年非常に発展している。一般書の分野では、Fidibo[19]という電子書籍出版社が、スマートフォンで閲覧するためのアプリケーションを公開する等、精力的に活動している。ただし、こちらもShetabによる支払となっている。

イラン研究に有用なサイトとしては、下記がある。

  • ヌール電子図書館 کتابخانه دیجیتال نور(Noorlib) [20]
    イスラム学コンピュータ研究センターمرکز تحقیقات کامپیوتری علوم اسلامی(Computer Research Center of Islamic Sciences)[21] が運営する電子化書籍閲覧・販売サイトで、資料をスキャンしてPDF化するだけでなく、OCRにかけて本文検索機能を付加している。おおむねイスラムに関する資料を対象としており、PayPalでの支払が可能である。
  • ヌール専門雑誌データベース پایگاه نورمگز(Noormags)[22]
    同上のセンターが運営している。約280社の商業誌の論文・記事が網羅的に収録されている。イラン国内の格付けに基づき、種別情報(研究論文か一般記事か)が付されているほか、イスラム世界学術サイテーションセンター(Islamic World Science Citation Center)[23]による認証を受けた雑誌かどうかの判別もできる。本文の閲覧は有料だが、雑誌名や記事レベルでの検索は、無料である。
  • ピーシュハーン پیشخوان(Pishkhan)[24]
    インターネット上で新聞が読めるウェブサイトである。2017年1月現在、جمهوری اسلامی(Jomhuri-ye Eslami)、اعتماد(Etemad)、اطلاعات (Ettelaat)、کیهان(Keyhan)、شرق(Shargh)等の有力紙を含む58紙につき、各社が無料で公開している部分がPDFで閲覧できる。メールアドレスを登録すれば、各紙の1面の情報を毎日メールで受信できる。

このほか、アジア情報室でも所蔵しているاطلاعات(Ettelaat)【Y771-SN-4】[25](1926年創刊)のウェブサイト[26]では、紙面のPDF版も閲覧できる[27]。

なお、イランの新聞には、特定の政党や政治家の宣伝媒体として機能しているものも多く、一紙のみを情報源とすることは避けた方がよいと思われる。

3. 研究動向の把握と選書

単に新刊情報を得る、資料を検索するだけではなく、限られた予算の中で買うべき資料を選ぶ方法となると、一般化することは難しい。現地の研究者と欧米や日本の研究者とでは、必要とする、または重視する資料・情報が異なるからである。

イラン国内では、欧米のジャーナルは高価であり、また政治的な理由も相まって利用が難しく、参照されることは少ない。大学図書館においても、海外の研究書は予算に余裕があれば買うといった状況で、体系的に収集はされていない。現地刊行資料については、現地の研究者は、同業者からの口コミやSNS等への投稿内容等から、出版情報を得ている。

反対に、欧米における研究では、一次資料は現地語のものを用いても、言語の制約もあるため、二次・三次資料や研究書については欧米言語で書かれたものが重視され、現地語の研究書や雑誌論文などはあまり利用されない傾向がある。

日本や欧米で行う社会科学分野の研究では、欧米の方法論で現地の事象を説明しようとするケーススタディーが多い。これは、そもそも社会科学のフィールドスタディーを現地で外国人が行うということが、体制的に非常に難しいためである。結果として、この分野では欧米のジャーナルの利用が必要不可欠となる。最近は、自分の論文を掲載・共有できるAcademia.edu[28]というSNSがあり、欧米の研究動向はそういったところからも推し量ることができる。

他方、日本の人文科学分野の研究者は、現地の研究者と交流を保ち、そこから現地の研究情報を得ていることも少なくない。イランの高名な研究者には、出版や研究の動向に精通している人物が多く、こうした人物と交流を持つ日本の研究者から、研究動向等の情報を得ることができるだろう。

また、イラン研究者集会(イラン研究会)等の研究会や公開講演会は、学会と違って研究者以外でも参加できるため、こうした会に参加すると、発表者のレジュメの参考文献等から、研究者の間でどういった資料が使われているのかを知ることができる。

4. アジア情報室のペルシア語蔵書について

アジア情報室のペルシア語資料の所蔵状況を概観した限りでは、法律関係の資料(法令の解説書等)が少ない印象を受けた。大学図書館ではあまり購入しないと思われるが、国立国会図書館としてこの分野にもう少し注力してもよいと思う。また、図書館情報学関連の資料も多くないようである。

今後は、辞書・事典・書誌・索引等の参考図書はもちろんであるが、通史、社会史、文学史等、参考図書に準じた利用がなされる基本文献や、AsiaLinks(国立国会図書館ウェブサイト内のアジア関係リンク集)等のウェブコンテンツ拡充に資する政府刊行物、統計・年鑑といった資料群を重視するとよい。政治・宗教団体関連資料や灰色文献、日本関係資料等、特定のテーマで、特色あるコレクションを構築するのも面白い試みであろう。また、定期刊行物が充実すると、遠隔複写サービスでも記事が入手できるため、われわれ研究者にとっても大変便利になると考える。

(とくはら やすひろ)



[1] Constitution of the Islamic Republic of Iran
http://www.wipo.int/edocs/lexdocs/laws/en/ir/ir001en.pdf
(ウェブサイトの最終アクセス日は、2017年11月22日。以下同じ。)

[2] Press Law (as amended on April 18, 2000)
http://www.wipo.int/edocs/lexdocs/laws/en/ir/ir013en.pdf

[3] 2015年9月30日付イラン学生通信(ISNA)記事に掲載された、「本の家」(後掲p.4参照)が公表した出版統計によると、2015年3-9月の出版点数は33,886タイトルであり、前年同期よりも12%上昇している。
http://www.isna.ir/news/94070805150/%D8%A2%D9%85%D8%A7%D8%B1-%D9%86%D8%B4%D8%B1-%DA%A9%D8%AA%D8%A7%D8%A8-%D8%AF%D8%B1-6-%D9%85%D8%A7%D9%87-%D9%86%D8%AE%D8%B3%D8%AA-%D8%B3%D8%A7%D9%84

[4] http://tahoory.blogfa.com/
なお、以下の注では、本文中に機関やサイト名等が明記してあるものについては、名称の記述を省略する。

[5] http://www.toospub.com/

[6] http://www.molapub.com/

[7] http://gitashenasi.com/

[8] http://www.bookcity.org/

[9] イラン中央銀行が統括する銀行間情報交換チャネル。現金の引き出し、電子商取引、送金、料金振込、残高照会が、加盟銀行のATMや、インターネット、携帯電話などから可能である。
http://www.cbi.ir/page/16090.aspx

[10] https://telegram.org/

[11] http://www.ketab.ir/

[12] Iran's Publication Statistics
http://www.ketab.org.ir/Statisticsen.aspx

[13] http://shahreketabonline.com/

[14] http://www.ketabettelaat.com/shop/

[15] http://www.mazdapublishers.com/

[16] http://www.iranfarhang.com/

[17] http://www.lib.ir/

[18] http://searchlib.ut.ac.ir/

[20] http://www.noorlib.ir/

[21] 最高指導者であるハメネイ師の好意により、1989-1990年にゴム市に設立された研究機関。
www.noorsoft.org/

[22] http://www.noormags.ir/

[23] 科学・研究・技術省の下部組織にあたる、学術論文の索引機関。 http://www.isc.gov.ir/

[24] http://www.pishkhaan.net

[25] 【】内は、国立国会図書館請求記号。

[26] http://www.ettelaat.com/etiran/

[27] http://www.ettelaat.com/etHomeEdition/index.htm

[28] https://www.academia.edu/

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