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東南アジアの人名(レファレンス事例・ツール紹介(8)):アジア情報室通報 15巻4号

アジア情報室通報 第15巻4号(2017年12月)
大西 啓子(国立国会図書館関西館アジア情報課)

人の名前のあり方は、国・地域によって異なります。外国との交流や人の往来が盛んになり、日常生活や仕事において、外国の名前の仕組みや慣習に対する理解が必要となる場面が増えています。本稿では、東南アジアの人名に関する3つの質問を例に、名前に関する基礎知識と慣習的用法を知るためのツール、図書館資料を探すための人名表記をご紹介します。

*【 】内は当館請求記号、ウェブサイトの最終アクセス日は2017年11月22日です。

1. 名前の基礎知識(仕組み・姓名・呼称)

質問①「ベトナムから来客の予定があり、名前をPhạm Thị Hồng Dungさんという。姓名の区別、発音、呼びかけ方が知りたい。」

著名な人物の場合は、人物からのアプローチで情報が得られますが、今回のケースは一般の方のようです。まず、リサーチ・ナビの調べ方案内「アジア諸国の姓名[1]」及び「姓名(外国人)[2]」で紹介している資料を調べます。

松本脩作, 大岩川嫩 編『第三世界の姓名 : 人の名前と文化』(明石書店, 1994)【G27-E3】
東アジア、東南アジア、南アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカ、オセアニアの主要な国・民族について、姓名の構成、文化的・歴史的背景を解説しています。

島村修治『外国人の姓名』(帝国地方行政学会, 1971)【G27-1】
東アジア、東南アジア、南アジア、中東を含む世界の約30か国について、創姓の由来、姓名の特徴、歴史的背景等を解説しています。

東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック. 2. アジア・アフリカ地域』(三省堂, 1998)【KE61-G1】
アジア・アフリカ地域の主要23言語の特徴を解説する資料です。各言語ごとの「知って得する○○語情報」の欄では、その言語圏の人名の構造・由来を簡潔にまとめています。

この3点の資料から、ベトナムの典型的な人名に関する以下のような事情がわかります。

  • 姓、中間名、名の3要素で構成され、各要素が1音節、全体で3音節であることが多い。
  • 中間名が無く姓名のみの名前も存在する。
  • 中間名thịは女性、vănは男性によく用いられる。性別を区別しない中間名もある。
  • 名は2音節または3音節のこともあり、全体で4音節、5音節の名前が増えつつある。
  • 呼称には名を用いる。

さらに、より新しい情報を求めて、近年出版された資料を参照すると、岩波書店辞典編集部 編『世界の名前』(岩波書店, 2016)【G27-L7】今井昭夫, 岩井美佐紀 編著『現代ベトナムを知るための60章』第2版(明石書店, 2012)【GE543-J58】にも、ベトナムの名前の仕組みや呼称に関する記述があり、既に調べた内容が現在でも通用することが確認できます。

次に、発音を知る手がかりとなる資料の一例として、辞典、人名録をご紹介します。

川本邦衛 編『詳解ベトナム語辞典』(大修館書店, 2011)【KL2-J2】
見出し語55,500語を収録する辞典です。単音節語(親音節)については、発音を国際音声記号(IPA)による読み及び音調の平仄を図案化した声調記号で表記しています。姓として用いられる語には、該当する漢字及びカタカナ表記を収録しています。
例:Phạm【范】[姓] ファム, 范 [はん].

ビスタ ピーエス 編『ベトナム国家人名録 = Who's Who in Vietnam Government』(ビスタ ピー・エス, 2014)【A112-L125】
ベトナムの国家中央機構の構成員、国会議員、人民委員会委員約3,000名の情報を収録する人名録です。氏名については、ベトナム語表記、ローマ字表記、カタカナ表記を収録しています。

これら2点の資料を参照した結果、質問①の名前Phạm Thị Hồng Dungは、カタカナでは「ファム ティ ホン ズン」と表記できそうです。ただし、ベトナム語には声調がありますので、カタカナ表記がベトナム語の発音を完全に反映しているわけではありません。

呼称に関しては国際儀礼(プロトコール)も参考になります。次に紹介する日本の外務省のページから、ベトナムでは公式な場でも名を呼称として使用していることがわかります。

各国の元首名等一覧表(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/po/page22_001297.html
世界各国の元首、首相、外相の名前をローマ字表記とカタカナ表記で掲載しています。姓名の区別がある場合は姓を大文字で記載し、姓以外の部分を呼称に使用する場合及び姓名の区別がない場合には、呼称に使用する部分を太文字で明示しています。

ここまでの調査から、質問①に対しては、例外があることをお伝えした上で、以下の内容を回答することができます。

  • Phạmは姓、Thịは女性に多く用いられる中間名、名はHồng Dungであると思われる。
  • カタカナ表記はファム ティ ホン ズンだが、ベトナム語の発音には声調がある。
  • 名を呼称として使用する通例に倣えば、Hồng Dungさんとなる。

2.  称号・敬称

質問②「仕事の関係でマレーシアのY.B. Dato' Lamin bin Hj Mohd Yusof さんに手紙を送る必要があるが、宛名で用いる名前は何とするのが適切か。Y.B.は名前の一部か。」

前項の紹介資料から以下の情報が得られます。

  • マレー人の名前は「本人名+父親名」が基本構成である。姓はない。
  • bin~は「~の息子」の意味である。
  • 称号を有する場合は称号を冠して呼ぶ。
  • Dato'は連邦政府及び州政府が国民に一代限りで与える称号である。
  • HjはHajiの省略形で、メッカに巡礼した男性に付く称号である。

これらの情報から、質問例の人物はメッカに巡礼したMohd Yusofさんの息子Laminさんであると思われます。Y.B.については、辞書をひくと尊称であることが判明します。例えば、以下の辞書にY.B.の意味が掲載されています。

小野沢純, 本田智津絵 編著『マレーシア語辞典』(大学書林, 2007)【KL122-H6】
Y.B. [Yang Berhormat] 大臣、副大臣、国会議長、国会議員、州議会議員への尊称(p.772.)

さらに、文書での用法を調べるためにマレーシアの国際儀礼に関する資料に当たります。

Datuk Abdullah Ali, Malaysian protocol & correct forms of address, 3rd ed.(Times Books International, 2002)【AM12-211-P14】
マレーシアの国際儀礼に関する英語資料です。国王、議会、内閣、行政機関、軍、警察、外交団及び各州における称号の種類、略称、用法等を解説しています。この資料には次の記述があります。(p.60.)

  • 上院及び下院の議員は、Yang Berhormatの尊称を与えられる。省略形はY.B.である。
  • 例えば、Encik Mohammed bin Ali議員宛ての手紙の冒頭は「Yang Berhormat(又はY.B.) Encik Mohammed」あるいは「Yang Berhormat」とする。
  • 同議員がDatuk等の称号を有する場合は、「Yang Berhormat Datuk Mohammed」とする。
  • 手紙の本文では、「Y.B. Datuk」あるいは「Datuk」を用いる。

以上の調査から判明したこととして、質問②には次のとおり回答することができます。

  • 宛名に用いる名前はYang Berhormat Dato' Laminが適当であると思われる。
  • Y.B.はYang Berhormatの省略形で、国会議員等に対する尊称である。

3. 図書館資料を探すための人名表記

質問③「ミャンマーの作家ジューの作品でビルマ語のものを探しているが、名前のビルマ語表記がわからない。図書館にある資料をどのように調べればよいか?」

著者名のビルマ語綴りやローマ字表記が判明している場合には、それを検索語にできますが、ここではカタカナ表記から調査を始めます。

まず、国立国会図書館検索・申込オンラインサービス(国立国会図書館オンライン)[3]で、著者名「ジュー」及びビルマ文学の分類記号[4]「KL46」を手がかりに検索すると、ジューの翻訳作品を収録する短編集が複数見つかります。翻訳作品の著者紹介から、ジューの本名はティン・ティン・ウィン、1958年生まれの女性作家であることがわかりますが、著者名の表記はカタカナのみです。

日本語及び英語の主要な人名事典、文学事典にも情報は見当たりません。

ビルマ語またはローマ字による名前表記を探して、「Myanmar」「writer」等の検索語でウェブ検索をすると、「Juu Writer, feminist and activist」という記述が見つかります[5]。検索語に「Juu」を追加して再度検索すると、ジューのビルマ語綴りは「ဂျူး」の可能性があること、ローマ字では「Ju」「Juu」「Jue」等複数の表記が使用されていることがわかります。

次に、図書館で所蔵している資料を探します。当館では、ローマ字表記ではないアジア言語の資料の書誌情報を、原語の綴り及びローマ字翻字形で入力しています[6]が、ローマ字翻字形でのみ入力している図書館もあります。図書館で一般的に用いられる翻字規則は、ALA-LC翻字規則[7]で、この方式で「ဂျူး」をローマ字に翻字すると、「Gyūʺ」となります[8]

上記をふまえて、国立国会図書館オンラインを著者名「ဂျူး」または「Gyūʺ」で検索すると2件の資料が見つかります。このほか、大阪大学、京都大学、東京外国語大学の各附属図書館のOPACでも、ジューの著作の所蔵が確認できます[9]。

まとめ

本稿の要点は、以下のとおりです。

  • 名前に関する資料等から基礎知識を得る。
  • 慣習的用法については、国際儀礼に関する資料等も参考にする。
  • 図書館資料を探す際には、翻字での検索も有効である。

名前の適切な用法は、資料のみで正解が得られるわけではありません。呼称も発音も本人の希望に基づくことが基本であり、時と場合に応じた使い分けも必要です。基礎知識を持ったうえで、本人の希望に沿った使い方ができると良いと思います。

(おおにし けいこ)


[1] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「アジア諸国の姓名」http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-asia-94.php

[2] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「姓名(外国人)」http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-101071.php

[3] 国立国会図書館オンライン(平成30年1月5日開始) https://ndlonline.ndl.go.jp

[4] 国立国会図書館分類表(NDLC) http://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/classification_subject/ndlc.html

[5] "50 outstanding Myanmar women" The Myanmar Times, The Modern Woman, 2013.6.10. http://www.mmtimes.com/special-features/167-the-modern-woman/7103-we-nominate-50-outstanding-women-of-myanmar-deserving-recognition.html

[6] 1985年以前に受け入れた図書は、ローマ字翻字形でのみ検索できます。

[7]ALA-LC Romanization Tables
http://www.loc.gov/catdir/cpso/roman.html

[8] 米国議会図書館典拠レコードの標目形は「Gyūʺ」となっており、他の表記形からの参照はありません。
Library of Congress Authorities
http://authorities.loc.gov/

[9] 京都大学附属図書館及び東京外国語大学附属図書館のOPACでは、翻字で検索する必要があります。

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