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『香港における一国二制度の実践』:アジア情報室の社会科学分野の資料紹介(15):アジア情報室通報 15巻4号

1.21. 劉兆佳 著『一國兩制在香港的實踐(香港における一国二制度の実践)』香港:商務印書館(香港), 2015.10, xiv, 333p【AC9-1311-C54】

2017年7月、香港は中国返還20年を迎えた。本書は、その約2年前に刊行された資料で、香港の「一国二制度(一國兩制)」を基本的には肯定的に評価しつつ、香港返還から18年が経過した時点の現状、問題点及び今後の方向性を論じたものである[6]。

著者の劉兆佳氏は、現任の中国人民政治協商会議全国委員会[7]の香港地区委員であり、また、返還前は、香港事務顧問[8]、返還後は香港特別行政区政府の中央政策グループ[9]の首席顧問を務めた、中国との繋がりも深い元香港政府関係者である。そのため、例えば序文では、中国の中央政府(以下、「中央政府」)の政策への肯定的評価や「反対派」[10]の言動への批判的見解が示されている。

以上のような著者の経歴及び視点に留意したうえで、全5章のうち、第三章から第五章の概要を紹介する。

  • 第三章 「一国二制度」の矛盾、難しさ及び完成に必要な条件の不足

中央政府、中国の法学者及び香港の「国を愛し香港を愛する」人々と、香港の「反対派」等との間で、香港基本法、特に国家安全にかかわる第23条の解釈が異なる[11]ことを述べ、次に、「一国二制度」の基本的な方針[12]と現在現れている矛盾点として、次の6つを挙げている。

①香港と中国の「経済融合」と「政治の分離」:
香港と中国の経済的な融合が、経済以外の公共領域に政治的影響を及ぼすことがある。

②「現状維持」と「現状改革」:
香港返還当時の「現状」は、必ずしも全てが理想的ではなく、財政・福利等の面で改革が求められている。

③「資本主義の維持」と「民主化の順次進展」[13]:
植民地政権の下で成立した香港の資本主義は、「民主化の進展」によって維持できなくなる。

④「小さい政府」と香港・中国の経済融合:
香港は元来自由放任主義であったが、中国の経済・社会政策に呼応し、計画に基づき政策を実施し始めている。

⑤「行政主導」と立法・司法による抑制均衡:
立法及び司法機関が行政と対立し、行政が主導権を握れないことがある。

⑥中央政府による関与と不関与の難しさ:
中央政府は、従来は香港に対する関与は希薄であったが、特に2003年の香港基本法第23条立法化問題[14]の後は、中央政府と香港特別行政区政府を攻撃する勢力の存在を理由として、関与を強めている。

また、現在生じている問題点として、香港人による自治のために必要な人材の不足や、重大な政治論争に対する権威ある機関による対処能力の不足等を挙げている。

  • 第四章 香港返還までの過渡期及び香港返還後の中国内外・香港の状況の変遷

近年、周辺情勢が激変する中で、香港自身も変化を余儀なくされているとし、今後香港は、「一帯一路」政策をはじめとする中国主導の東アジア・東南アジアの経済協力の枠組みの中で、「一国二制度」によって付与された外交権を行使し、広くアジア各国との連携を強めていく必要があるとしている。

  • 第五章 「一国二制度」実践の重要な時期

「一国二制度」は基本的に成功を収めていると評価した上で、直面している課題として、中央政府と香港の「反対派」との対立を挙げている。そして、中央政府が「8.31決定」[15]のように政治論争に対し方針を示すことで、将来的には「反対派」の勢力は減退し、特別行政区政府は香港の経済発展、社会的調和及び住民生活の改善等に取り組めるようになるとしている。

(アジア情報課 丹治 美玲)

[6] 本書のタイトルは、下記の白書を意識して付けられたものと思われる。
中华人民共和国国务院新闻办公室「《"一国两制"在香港特别行政区的实践》白皮书(全文)」2014.6.
http://www.scio.gov.cn/zxbd/tt/document/1372801/1372801.htm

[7] 中国人民政治协商会议全国委员会
(英語版)http://www.cppcc.gov.cn/zxww/zxyw/home/
(中国語版)http://www.cppcc.gov.cn/

[8] 返還前に香港側の意見を聴取するため、中国国務院港澳事務弁公室及び新華社香港分社が任命した。

[9] 中央政策組
(英語版)http://www.cpu.gov.hk/en/home/index.html
(中国語版)http://www.cpu.gov.hk/sc/home/index.html

[10] 反共産党勢力、民主派党派、社会改革を目指す団体等、中国共産党が中国を統治する事実を認めず、一国二制度に対し半信半疑であり、特区の行政官の政治的合法性・正当性を認めない者らを指す。

[11] 具体的には、前者は中国の利益・法律・対港政策、後者は香港特別区の利益・個人の権利・普通法等との整合性を重視している旨の説明がある。

[12] 本書第二章で「資本主義の維持」「香港人による統治」「高度な自治」「行政主導」「五十年間不変」等が紹介されている。

[13] 原文「循序漸進發展民主」。この「民主」は下からの民主化を指すのではなく、中国主導の「普通選挙」の実現等を指すものと推察される。注15を参照。

[14] 同問題の詳細については、以下の論文の「はじめに」を参照。
諸橋邦彦「香港基本法をめぐる諸問題―附属文書の公定解釈をめぐって―」『レファレンス』647号, 2004.12, pp.49-50.
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/999915

[15] 第12期全国人民代表大会常務委員会第10回会議で採択された、2017年の香港行政長官普通選挙で民主派の立候補を事実上不可能にする制度を採用する決定を指す。
「全国人民代表大会常务委员会关于香港特别行政区行政长官普选问题和2016年立法会产生办法的决定」中国人大网,2014.8.31.
http://www.npc.gov.cn/npc/cwhhy/12jcwh/2014-08/31/content_1876904.htm

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