トップアジア諸国の情報をさがす刊行物アジア情報室通報巻号から探す第16巻(2018年)>『いわゆる「ウェルダイイング法」(尊厳死法)の施行に伴う刑事政策的課題』:アジア情報室の社会科学分野の資料紹介(17):アジア情報室通報 16巻2号

『いわゆる「ウェルダイイング法」(尊厳死法)の施行に伴う刑事政策的課題』:アジア情報室の社会科学分野の資料紹介(17):アジア情報室通報 16巻2号

2.16.  박미숙(パク・ミスク), 강태경(カン・テギョン), 김현철(キム・ヒョンチョル)[]일명'웰다잉법'(존엄사법) 시행에 따른 형사정책적 과제 = Legal challenges in criminal justice under "well-dying" law いわゆる「ウェルダイイング法」(尊厳死法)の施行に伴う刑事政策的課題)ソウル : 한국형사정책연구원(韓国刑事政策研究院), 2016.7, vi, 170p.AK4-741-K8

2016年2月3日、韓国では、臨終過程の患者の延命医療[1]及び延命医療の中止に係る事項等を定めた「ホスピス・緩和医療及び臨終過程にある患者の延命医療決定に関する法律」(以下、「尊厳死法」という。)が公布された[2]

本書は、序論、尊厳死法の制定過程、比較法的検討、尊厳死法の意義及び争点別の議論並びに結論の5章で構成されている。著者のパク・ミスクは韓国の政府系研究機関である韓国刑事政策研究院の専任研究委員、カン・テギョンは同副研究委員、キム・ヒョンチョルは梨花女子大学法学専門大学院教授である。全5章のうち、本書の中心的な内容を構成する、キム教授による「第4章 刑事政策的な観点からみた尊厳死法の意義及び争点別の議論」を紹介する。

第4章は、「法律の概要及び争点」及び「法学的争点及び刑事政策的課題」の2節で構成されている。「法律の概要及び争点」ではまず、同法の概要を各章順及び時系列順に説明した上で、「目的」「対象」「方法」「意思決定文書」「決定の履行」「その他」の項目別に同法の争点について考察した後、結論を提示している。争点は数多く提示されているが、以下では、運用における重大な問題点を指摘したものを紹介する(以下に掲げる条項は、全て「尊厳死法」の条項である)。

・「延命医療」の定義は第2条第4号に規定されており、延命医療中止の決定等によって実施しないか、中止することのできる医学的施術は、心肺蘇生術、血液透析、抗がん剤投与、人工呼吸器装着の4つに限定される。他方、第19条第2号では、栄養や水の補給等、中止してはならない医療行為等を定めている。そうすると、例えば輸血のような、いずれの条項にも含まれない延命医療は同法によって規律されず、医療慣行に基づいて処理される可能性が高い。(タ・1))

・臨終過程の患者が口頭で担当医に延命医療の中止等を要請した際、第17条で意思確認のための文書として定める延命医療計画書や事前延命医療意向書がない場合にどうすべきかについて、第17条の中で最も重要な価値は、患者本人の意思を尊重するという点にあるので、このような場合もその意思を尊重し、担当医は延命医療の中止等の決定をすることが妥当である。(マ・1)(3))

・患者の意思を確認できない場合において、親権者による意思表示等により延命医療の中止等の決定を可能とする第18条は、同法において最も問題となる可能性がある。親権者による意思表示等があっても、医療機関の倫理委員会で患者本人の「最善の利益」のための規範的判断が再度できるような手順を整備することが妥当と考える。(マ・2))

 「法学的争点及び刑事政策的課題」では、まず、尊厳死法と憲法上の生命権及び自己決定権との関係について、「生命権が最も重要な基本権であるといっても、(中略)人間の尊厳(中略)に合致する方法で保護されるべきであろう」とする大法院の立場や、「人間としての尊厳と価値を守るために延命医療の拒否又は中断を決定することができるといえるであろうし、上記の決定は、憲法上の基本権である自己決定権の一つとして保障されるといえよう」とする憲法裁判所の立場等を紹介している。次に、尊厳死法と刑事法との関係について、韓国の刑法学では、延命医療中止などの決定は殺人罪の構成要件に該当するが、違法性阻却事由(正当行為)がある場合は犯罪が成立しない、という論理でこの問題の解決を試みていること等を紹介している。

最後に、今後の課題として、さらなる法整備や法改正が必要であるとしている。例えば、第39条第1号の処罰を受ける者は、延命医療中止などの決定を履行した者であるが、これ以外に、事前に家族が共謀する、該当分野の専門医が患者本人の意思を故意に無視する等して、患者の意思に反して延命医療中止等の決定をした場合にも処罰できるようにする法改正を挙げている。

本書の全文は、韓国刑事政策研究院ウェブサイトにおいてPDFファイルで閲覧できる[3]

なお、保健福祉部は、尊厳死制度の本格実施に備えるため、2017年10月16日から2018年1月15日まで、延命医療モデル事業を行った。この期間中、事前延命医療意向書が9,336件、延命医療計画書が107件作成され、延命医療中止等の決定が54件履行(延命医療の保留又は中断)された[4]

(アジア情報課 廣田 美和)



[1] 日本語では「延命治療」という語を用いるのが一般的であるが、本稿ではあえて「延命医療」という語を用いた。同法に使われている基本用語の定義について、韓国の国家生命倫理審議委員会で検討が行われた際、「延命治療」という語は「肯定的な結果を想起させるとともに、治療は必ず行われるべき行為として認識されており、「延命治療」を中止する場合、非倫理的なイメージから誤解を生じさせる懸念」があるため、「中立的な用語として」「延命医療」を用いて統一することとなったためである。後掲注2の尊厳死法日本語訳の参照資料p.64(注72)を参照。

[2] 尊厳死法の日本語訳は、下記を参照。

「参考資料5 韓国の「ホスピス・緩和医療の利用および終末期患者の延命医療の決定に関する法律案」の日本語訳(洪賢秀訳)」『国際高等研究所・国際ワークショップ 終末期医療の倫理:報告』[2016], pp.60-81.

http://www.cape.bun.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2014/03/67741ee2a9b734a044f0048e00fe1278.pdf

また、同法の立法背景や経緯、概要などは、下記を参照。

藤原夏人「韓国 尊厳死法の制定 : 終末期医療に係る法整備」『外国の立法 月刊版』267-1号, 2016.4, pp.16-17.

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9929060

白井京「海外法律情報/韓国 韓国法,解放から70年の「現在地」 : 電子訴訟と尊厳死法」『論究ジュリスト』17号, 2016.春, pp.192-193.

[3] 「일명 '웰다잉법'(존엄사법)시행에 따른 형사정책적 과제(いわゆる「ウェルダイイング法」(尊厳死法)の施行に伴う刑事政策的課題)」韓国刑事政策研究院ウェブサイト, 2016.9.2.

https://www.kic.re.kr/pubdata/public/Read.jsp?paramNttID=9105&paramPage=1

[4] 「'18년 2월 4일, 연명의료결정제도 본격 시행('18年2月4日、延命医療決定制度の本格施行)」保健福祉部ウェブサイト, 2018.01.25.

http://www.mohw.go.kr/react/al/sal0301vw.jsp?PAR_MENU_ID=04&MENU_ID=0403&CONT_SEQ=343672&page=1

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