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国立国会図書館関西館アジア情報室が所蔵する朝鮮語資料に関して-経済・経営分野を中心に-:アジア情報室通報 16巻4号

中川圭輔(下関市立大学経済学部国際商学科准教授)

 国立国会図書館関西館アジア情報室では、蔵書構築の参考とするため、定期的に外部有識者の意見を聴取している。平成30年2月21日、中川圭輔 下関市立大学経済学部国際商学科准教授をお招きし、関西館アジア情報室が所蔵する、経済・経営分野の朝鮮語資料の蔵書評価及び研究情報の入手についてご助言をいただいた。本稿はその概要である。

(関西館アジア情報課)

 1. 下関市および下関市立大学の紹介

 山口県下関市は、人口約26万人で、中国や韓国の国際航路の玄関口にもなっている。地元で「ふく」とよばれるふぐのほか、あんこうやくじらなどもよく食される。

 下関市立大学は、1956年に下関商業短期大学として開学し、現在は経済学部(1学年:450名)のもとに、経済学科(195名)、国際商学科(195名)、 公共マネジメント学科(60名)を擁する。在学生は2,255名で、そのうち外国人留学生が42名である。専任教員は54名(うち外国人教員1名)、特任教員6名 (うち外国人教員4名)である。学内には鯨資料室やふく資料室も設置されている。

2. 学部・院生時代から現在の研究に活用した情報

 学部時代は第二外国語で選択した中国語に興味があり、国有企業改革に関する専門書を邦訳するなどしたほか、ゼミも中国関連であった。シンクタンクへの就職を目指したが研究員になるためには大学院修了が目安だと知り、内部進学で大学院へ進んだ。

 大学院では中国人の先生に指導を受ける予定だったが在外研究に出ることがわかり、同じ移行経済国であったロシア研究の先生の下で、指導を受けることとなった。

 当初の研究テーマは中国における企業倫理問題であったが、2000年代初期の中国はオリンピック開催前の経済成長一辺倒の時期で、企業倫理や企業の社会的責任の議論は皆無であった。学術文献もまったく見当たらず、テーマか、あるいは対象国を替えてはどうかと助言を受け、韓国に研究対象を変更することにした。

 しかし、まず語学の壁にあたり、朝鮮語を覚えるところからスタートせざるを得なかった。NHKハングル講座(テレビとラジオ)の視聴のほか、東京外国語大学言語モジュール、西江大学韓国語プログラム、KBS able(テレビやラジオの視聴)等のオンライン教材が役立った。ハングルの入力にもやや時間がかかったが、どこにどんな情報があるのか、欲しい情報はどのサイトを見れば入手できるのか等、まったく見当がつかないという問題もあった。

 そんな中、国立国会図書館ホームページの「リサーチ・ナビ」内にあるアジア情報室作成のコンテンツである「アジア情報の調べ方案内」や「AsiaLinks-アジア関係リンク集-」のおかげで、次第に情報源がわかるようになったのは幸いであった。例えば、韓国に関して以下のような情報源を活用した。

  • 『経済白書』なら企画財政部
  • 貿易や投資の動向、『知識経済白書』なら、 産業通商資源部
  • 労働統計や法令なら、雇用労働部
  • 統計情報なら、統計庁のKOSIS(国家統計ポータル)や韓国銀行のECOS(経済統計システム)
  • 書籍検索なら、教保文庫や永豊文庫、アラジン、韓国・国会図書館(ただ、当時は検索だけでも「住民登録番号」の入力が必要だったと記憶している)
  • 論文はKERIS(韓国教育学術情報院)の学術研究情報サービスで、一部が無料入手可能。論文検索だけなら、上記に加え、KISS(Korean studies Information Service System)やDBpia、PaperSearchにGoogle Scholarも。
  • 日本語文献は、NDL-OPAC[1](国立国会図書館)やCiNii、Webcat Plusなど。

 その他、研究の過程で以下のような情報源も確保できるようになった。

  •  「倫理経営」(企業倫理)の調査結果は、全国経済人連合会[2](以下、全経連)
  • 企業好感度の調査結果は、大韓商工会議所
  • 財閥関連の情報は、公正取引委員会およびOPNI(企業集団情報ポータル)
  • 財閥の株式比率なら、韓国取引所の「株式」のページ
  • 日本語のホームページなら外務省、日本貿易振興機構(JETRO)並びにアジア経済研究所にて最新の情報が充実。
  • 書籍購入に関しては、神保町にあった三中堂(現在は千葉県佐倉市)にて注文

 以上のような情報源を活用しつつ、データや論文を取得し、研究を進めた。韓国の国民のみが有する「住民登録番号」が必要な場面が多く、インターネットを通じての情報収集に困難な面もあったものの、修士論文を完成させることができた。

 2005年に同じ大学の大学院博士後期課程へ進学し、アジア情報室作成のコンテンツのほかに、以下のような情報源も活用した。

(1) 日本国内の図書館

  • 東京都立中央図書館
  • アジア経済研究所図書館
  • 韓国文化院図書映像資料室
  • 日韓文化交流基金図書センター(現在は閉鎖)

(2) 経済関連記事のホームページ

(3) 韓国の政府系シンクタンク

  • KDI(韓国開発研究院)
  • KIEP(対外経済政策研究院)
  • KLI(韓国労働研究院)
  • 経済・人文社会研究会

(4) 民間のシンクタンク

  • SERI(サムスン経済研究所)
  • HRI(現代経済研究院)
  • LGERL(LG経済研究院)
  • HERI(ハンギョレ経済社会研究院)

(5) その他(企業経営関連)

  • KEF(経総プラザ、旧韓国経営者総協会)
  • 韓国上場会社協議会
  • KPC(韓国生産性本部)
  • KMA(韓国能率協会)
  • KIS report(企業報告書の閲覧が可能)
  • DART(金融監督院企業情報)
  • KITA(韓国貿易協会)
  • KOTRA(大韓貿易投資振興公社)
  • 재벌닷컴(財閥ドットコム)
  • 自由企業院 など

(6) 市民団体

  • 参与連帯[3]
  • 経済改革連帯[4]
  • 経済正義実践市民連合[5](以下、経実連)

(7) 世論調査

  • 한국갤럽(韓国ギャロップ)

(8) 新聞

(9) 経営系の学会

学会のHPで論文を全文公開している例もある。

 研究の過程で、現地でのインタビューも試みた。サムスンをはじめ財閥企業へメールで問い合わせたが、すべて謝絶された。次に、財界代表の全経連にメールで依頼をしたところ、了承された。さらに公正取引委員会の元委員長、経済改革連帯や経実連といった市民団体にもメールで依頼したところ、これらも了承された。また、経済改革連帯の代表に現代自動車とSKに連絡を取ってもらうと、二社の上層部に対してのインタビューも可能になった。コネクション社会だと実感する出来事であった。

 下関市立大学に教員として赴任することとなり、下関という地方都市で研究を進めていくうえで、長所としては、研究対象の韓国に近いということが挙げられる。釜山へは下関からのフェリーや博多からの高速船が利用できるほか、北九州空港、福岡空港からの飛行機でソウルへもアクセスできる。一方、短所としては、東京方面へ行く機会が少なく、研究会や学会に参加しづらくなった点、下関に大型書店がなく、大学周辺に古書店もない点等が挙げられる。ただ、理系と比べ、文系の場合は、研究上の有利・不利はそれほどないとも感じている。

 文献について、書籍は韓国の書店サイトで検索し、日本の代理店を通して入手している。論文はKISSで検索し、本学附属図書館を通じて国立国会図書館からの複写物を郵送にて入手している。同館の電子ジャーナルの遠隔複写サービスのおかげで、現地で複写する負担が大いに減った。その他、日韓経済協会発行(月刊)の『日韓経済協会協会報』【Z3-22】[6]も重宝している。また、2016年11月国立国会図書館主催の「アジア情報研修」へ参加し、「国家法令情報センター」などの情報源を教わったことも役立っている。

 3. 国立国会図書館アジア情報室の朝鮮語資料への評価-社会科学、かつ現代のものを中心に-

(1) 評価の方法

 国立国会図書館ホームページ「リサーチ・ナビ」にある「韓国・北朝鮮関係資料(13件)」[7]の中から、開架年鑑リスト、朝鮮語雑誌リスト(大韓民国発行)、日本語雑誌リスト、欧文雑誌リスト、継続受入新聞リスト、電子資料の6件を閲覧した。

 (2) 継続受入新聞

 全国紙はもちろんのこと、地方紙まで幅広く網羅されている。地方紙まで扱っているのは大学図書館でもあまり見られないことである。大変充実していると考えられる。

 ただ、実際のところ、地方紙を利用する人がどれだけいるかは不明な部分もある。今後、新規に経済・経営系の業界紙も扱うか否か検討してはどうか。

 (3) 日本語雑誌

 主要なもの、例えば『現代韓国朝鮮研究』【Z71-L205】、『韓国朝鮮の文化と社会』【Z71-J98】、『朝鮮学報』【Z8-413】、『韓国経済研究』【Z71-F258】などが所蔵されており、大変充実している。ただ、日本においてもCiNiiやJ-STAGE、あるいは学会のホームページ上において、論文はpdfファイルで閲覧可能になりつつある(『現代韓国朝鮮研究』、『アジア経営研究』【Z71-R461】など)ように、ペーパーレス化の時代にあって、今後、紙媒体での発刊をしない雑誌が出てきた場合の対応が気になるところである。希望を言えば、国立国会図書館アジア情報室にて1部を製本し、紙媒体の形で後世に残しておくのが望ましい。紙媒体での保管が難しければ、CD-Rにpdfファイルで保存しておくことも考えられる。いずれにしても、インターネット上以外の保存先を1つ確保しておくことが肝要だと感じる。

(4) 欧文雑誌

 そもそも、韓国の研究者であれば、多くの情報は朝鮮語文献から得られるため、韓国内の機関が英語で発行している雑誌よりも、むしろ第三国が発刊する英語雑誌を充実させた方がよいものと考える。例えば、以下の機関が発行する雑誌を受け入れてみてはどうか。

  • Center for Korean Studies, UC Berkeley - Institute of East Asian Studies
  • University of Hawaii Center for Korean Studies
  • SOAS University of London

 (5) 朝鮮語雑誌(大韓民国発行)および電子資料

 KISSやDBpia等のデータベースの導入により、数十年前に比べて研究環境が劇的に良くなっている。大変充実しており、重宝するものばかりと思われる。ただ、選定基準が明確ではないものも幅広く所蔵されている。また、KISSでカバーできるものについては、紙媒体を置く必要はなくなるかもしれない。KISSが網羅できていないものについては、DBpia[8]や「教保文庫スカラー」と契約することでカバー可能であろう。あるいは、各団体のホームページ上で閲覧可能なものも今後増えてくるのではないかと考えられ、雑誌の取捨選択の必要性も今後出てくる可能性がある。

 (6) 開架年鑑

 年鑑や白書、報告書関連の資料は非常に充実しており、アジア情報室の真骨頂といえる。ただ、民間出版社の年鑑類は別としても、近年では、白書や報告書の資料の多くがインターネット上ですべてpdfファイルで閲覧できることも多い。このようなペーパーレス化の時代にあって、今後、韓国の各機関が紙媒体の出版をやめた場合でも、国立国会図書館で資料の検索結果からクリック一つで白書や報告書のページに跳べるようにしてもらえると大変助かる。また、刊行物が非売品扱いになっても所蔵するか否かも今後検討する必要があろう。なお、これらの点については、本学の附属図書館でも検討中である。

 続いて、国立国会図書館、東京都立図書館、アジア経済研究所図書館の3館のOPACを利用し、朝鮮語資料の蔵書の傾向を窺った。各OPACの詳細検索にて、「재벌」(Chaebol、財閥)と入力し、所蔵冊数と所蔵資料で最も古い出版年の資料を確認したところ、表1のとおりであった。

 表1 「재벌」でヒットした冊数、最古の出版年の比較

図書館名

件数

最古の出版年

国立国会図書館

19

1984

東京都立図書館

33

1979

アジア経済研究所図書館

52

1965

 

 所蔵資料の傾向でいえば、アジア経済研究所図書館が最もヒットし、東京都立図書館でも基本書はおさえられているように感じられた。その点で、国立国会図書館においても、関連書籍の充実が望まれる。

 朝鮮語資料の選書への若干の助言をするとするなら、政府機関、企業や団体、協会の発行物は十分網羅されているため、これに加えて、参与連帯や経実連など市民団体が発刊するものを置いてはどうかと考える。また、朝鮮語雑誌については、民間のシンクタンクの雑誌を入れてはどうか。経済雑誌についても追加の余地がありそうである。

 サービス面では、閲覧室内で、主要局のニュース番組、大学の講義などの韓国の映像資料が見られるサービスがあるとなおよさそうである。

 また、韓国のサイト(個人でID登録できないサイト)について、国立国会図書館でIDを取得し、日本人利用者が使えるようにするということも一考に値する。数年前に比べ、外国人もID登録できるサイトが増えたが、未だ「住民登録番号」の壁が存在するのも事実である。

 資料の収集面では、国内の韓国研究者から書籍の寄贈を受けてもよいのではないか。

 資料の検索面では、日本のWebcat Plusのように、キーワード検索だけで書籍の目次も検索できるようなサイトができるとよい。なお、韓国教育学術情報院が提供しているRISSでは、目次は入力されているようである。

 国際的な協力の面では、韓国国立中央図書館と連携し、書籍の国際郵送貸与サービスの実現を望みたい。とりわけ、韓国は出版事情がよくないため、比較的新しいと思われる本でも絶版が多い。また、同館では、所蔵資料のデジタル化を進めており、同館内にあるデジタル閲覧室では閲覧可能である。これらのデジタル化資料は、同館と「協約図書館契約」を締結すれば、他館でも閲覧することができるが、この契約を国立国会図書館でも締結し、アジア情報室でも閲覧できるようになるとよい。なお、東京にある韓国文化院図書映像資料室ではすでに実施されている。韓国の書籍の乱丁・落丁もずいぶん減ったため、デジタル化資料でも使用に耐えうるだろう。

 朝鮮語が読めること自体の優位性は、Google Chromeや各種翻訳ページの充実化で、もはやなくなったといえる。朝鮮語の書籍であっても、ペン型のリーダーでなぞれば、即時に邦訳してくれるような時代になれば、語学の障壁もなくなるであろうし、朝鮮語資料や他の言語の資料の利用者もさらに増えるような時代が来るのではないだろうか。

 (なかがわ けいすけ)



[1] 2018年1月からは国立国会図書館オンライン(https://ndlonline.ndl.go.jp/

[2] 1961年に企業関係者により設立された民間の経済団体。自由市場経済の成長と健全な国民経済の発展のために、正しい経済政策を具現し韓国経済の国際化を促進することを目的とする。http://www.fki.or.kr/about/history.aspx

[3] 1994年に設立された非営利民間団体。国民各界各層の自発的な参加により国家権力を監視し、具体的な政策と対案を提示し、実践的な市民運動を通じて自由と正義、人権と福祉が正しく実現される参与民主社会の建設を目的とする。http://www.peoplepower21.org/index.php?mid=about_PSPD&document_srl=1254892&listStyle=%24listStyle

[4] 2006年、参与連帯傘下の経済改革センターの独立により設立された経済専門団体。

[5] 1989年設立の市民団体。韓国社会の経済正義と社会正義の実現のための平和的な市民運動を展開することで民主福祉社会の基盤を整備することに貢献することを目的とする。http://ccej.or.kr/intro/about-ccej

[6] 【 】内は国立国会図書館請求記号。以下同。

[8] (編集者注)平成30年11月1日に導入。

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