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エジプトとトルコの出版事情―出張報告 : アジア情報室通報第5巻第2号

アジア情報室通報 第5巻第2号(2007年6月)
邊見由起子

1. はじめに

2007年1月下旬から2月上旬にかけて、出版事情と日本関係資料の調査のため、エジプトのカイロとトルコのアンカラ、イスタンブルに出張する機会を得た。
日本関係資料の調査*1については『国立国会図書館月報』第557号 (2007年8月)で報告予定であるので、ここでは両国の出版事情について報告する。

2. エジプト

(1) معرض القاهرة الدولي للكتاب(カイロ国際ブックフェア)

現在のエジプトやアラブ諸国の出版状況を知るには格好のイベントである。39回目の今年は、2007年1月23日から(一般公開は25日から)2月4日まで、カイロ郊外の国際展示場で開催された。26カ国667の出版社が参加し、164のセミナーや講演会が行われ、入場者数は200万人と報じられた。例年、業界関係者だけでなく、割引価格の書物を求める学生や地方の読書人、海外からの研究者、小学生の遠足、家族連れなどでにぎわう。主催は総合エジプト書籍機構(GEBO)で、年間600冊を出版する出版社であり、全国に23のセンターをもつ取次であり、エジプトを代表して海外のブックフェアに出展する、出版界で重要な位置を占める文化省所属の機関である。なかなか全貌が把握できないことで有名であるが、今回はウェブサイト*2で出展者と出展ホールの一覧が提供され、一部のホールは配置見取り図も公開されていた。

メインホールでは、ゲスト国のイタリアをはじめ各国が、各種ダイレクトリや参考図書、自国の文化や歴史、偉人についてのシリーズなど、国を代表する出版物を展示する。また、大手出版社や学術機関も出展し、ノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズに関する展示や児童書フェアも同時に開催され、国際的な文化イベントという雰囲気をかもし出す。


メインホールの様子

メインホールの様子

一方、即売が行われているホールは客でごった返し、小売書店の主人がゆっくりと仕入れる本を選んでいたり、店員が伝票を書いたりと活発な商業活動が展開されている。宗教書や古典、辞典類、外国語の教本やコンピュータ関連の本、料理本などの実用書や人気作家の小説が所狭しと並び、電子辞書やCD-ROMのセールスも盛んであった。

湾岸諸国のホールには宗教書を求める東南アジアやアフリカからの学生も多くみられた。湾岸以外のアラブ諸国の書店が多く出展するホールには、それぞれに多彩な出版物が並べられていた。アラブの書店の特徴として、出版、印刷、取次も手がけるところが多く、他のアラブ諸国に系列店をもっている場合もある。

エジプトの出版社数は約3,000 *3、書籍発行数は18,000タイトル(2000年)*4で、発行部数は学術書で1,000-3,000部程度、人気作家の本などでは10,000部で何版も重ねることもあるそうだ*5

(2)書店事情

エジプトの書店はほとんどがカイロなどの大都市に集中している。カイロの書店については、『カイロ書店案内. 2004』(日本学術振興会カイロ研究連絡センター、2004)に詳しい*6。小規模店がほとんどだが、最近はショッピングセンター内に大きな書店もでき始めている。

店内には本がぎっしり積み上げられ、何がどこにあるかわかりにくいが、探している分野を店員に告げるとあれこれと出してきてくれる。新聞や雑誌は、露店や街角の売店で売られている。2.5エジプトポンド均一ショップでも子供向け絵本が売られていた。

価格は図書本体には印刷されておらず、値札シールや手書きのメモに示してある。出版社の希望小売価格はあるようだが、実売価格は書店が決め、さらに買い手との交渉で変わることもある。取次の規模によって手数料が違うので*7、小売価格を勘案して取次を選ぶこともあるそうだ。売上税(10%)は出版物にはかからない。

(3) دار الكتب والوثائق القوميـة (エジプト国立図書・文書館)*8

1870年に前身のヘディーブ図書館が設立され、GEBOとの統合分割を経て1993年の大統領令により設置された。図書2,000,000タイトル(7,000,000冊)、逐次刊行物10,000タイトルのほか、写本やパピルスなどを所蔵し、アラブでも有数の歴史と蔵書を誇る図書館である。今回は図書館部門で主に納本制度について話をうかがった。

1954年から法定納本制度が実施され、過去の出版物は同図書館に収蔵されている。出版者は国立図書館に校正刷りを提出し、納本番号とISBNを与えられる。また、2006年から出版時図書目録(Cataloging In Publication:CIP)制度が導入された。

著作権保護収用法第38条(1992年)により、現在出版者は10部を納本することになっている。2部は保存用で国立図書館と27の公共図書館のみで利用可能である。国民議会と高等国防機構に各1部が収められ、残りの6部は希望や順番に応じて公共図書館に配布される。納本されない場合、クレーム→裁判→罰金50,000LEとなるが、実際は納本しなければ次の図書のISBNが発行されないため、ほとんどが速やかに納本される。地方出版物は法律が周知されず収集に問題が残るが、非売品も依頼すればほとんど納本され、納本率は90%近い。

目録規則はAACR2(アラビア語版もあり)、分類はDDCを採用し、収集整理された本は毎月発行の“Legal Deposit Bulletin”で知ることができる。同図書館のOPACはまだ提供されていない。カレントのデータは電算化されているが、遡及入力のプロジェクトは特になく、月間約2,000件のペースでしか入力できていない。また、以前入力した別フォーマットの電子データをMARCフォーマットのデータに統一するのに時間がかかっている。

(4)Library of Congress Office, Cairo(アメリカ議会図書館カイロ事務所)*9

1963年に設立された収集と整理のための事務所であり、海外への図書流通が整備されていない現地での取次の役割を果たす。スタッフは35人で、中東・北アフリカの21の国と地域を対象とし、LCの収集基準に沿って学術的に有用な資料や3,815タイトルの逐次刊行物を収集する。中東地域で開催されるブックフェアや各地への収集ツアーにも出かけ、現地のエージェントとface to faceで連絡をとり、現地にいるメリットを最大限に活かして収集活動を行っている。クルドの地下出版物までも収集しているという。

エージェントから送られた資料や情報は、LCのトレーニングを受けたエジプト人スタッフによって選択される。不要本は返却し、収集するものには英語で簡単な解説をつけ、目録をとる。雑誌は費用の安いカイロで製本され、資料は空軍郵便で運ばれる。

MECAP(Middle East Cooperative Acquisitions Program)という共同収集プログラムを運営しており、アメリカの大学など44機関が参加する。収集、選書、目録を管理するMOMs(MECAP Orders Manipula-tion System)というシステムが構築されている。参加機関は電子メールで送られた解説付きの目録を見て欲しい資料を選択し、MECAPのサイトでネット書店で本を買うように注文できる。

(5) المجلس الاعلى للثقافة (高等文化評議会)*10

ナイル川に浮かぶゲジーラ島の南部、オペラハウスの敷地内にある。1956年に高等芸術文学監護評議会として設立され、1980年に現在の組織名になり、1982年より4部門からなる今の体制になった。文化省の下部組織で、エジプトの文化施策を担う機関であり、出版活動や表彰、文化人データベースの作成なども行っている。図書館も併設する。

同評議会の重要な機能の一つに著作権保護があり、著作権の専門家がいて、世界知的所有権機関(WIPO)とも連携をとっている。取り締まりはせず強制力はもたないが、啓蒙活動や侵害の訴えがあったときの指導を行っている。著作者は自分の著作を納本番号で登録することができる。著作権侵害の訴えは頻繁にあるが、ほとんどは罰金刑で服役にいたる例はめったにない。著作者の許諾なしに別の出版社が勝手に発行する、著作者没後に作品を著作権相続者の許諾なしに発行する、外国の作品を無許可で翻訳出版する、などはよくあるケースだが、盗作は少ない。

エジプトの読書振興策としては「すべての人のための読書プロジェクト(一例としてFamily Library がある)」というプロジェクトや、古典の良書を廉価出版するプロジェクトなどがあり、その多くはスーザン・ムバーラク大統領夫人の牽引による。

同評議会は読書振興のため、主に芸術関係の書籍を格安で出版している。外国の作品をアラビア語で出版する翻訳出版プロジェクトは1,000冊を超え、2006年だけで360冊を出版した。また、初めて本を出す若い作家を支援する「First Books」という出版助成制度や、著作活動に専念したい著述家に著作が出版されるまで奨学金のようなものが出る制度もある。

エジプトの識字率は、長らくあまり高い水準にはなかった*11。全国に470カ所ある文化省管轄の「文化パレス」が識字率向上の活動もしているが、十分な成果をあげているとは言いがたい。近年は年配者だけでなく、ストリートチルドレンや学校に行けない児童の非識字も問題になっている。

3. トルコ

(1)出版・書店事情

中規模の専門書店、学習参考書や文房具が主な小さな書店など種類や数は多い。大型書店は、返品できなかった本*12がワゴンセールになっているのを除けば日本の書店の様子とほとんど変わらない。CDショップやカフェが併設された書店もある。また、スーパーマーケットでも図書が売られている。付加価値税(VAT)は通常18%であるが、図書は8%、新聞・雑誌は1%である。

トルコでは銀行に文化事業が義務づけられており、多くの銀行が出版部をもつ。銀行は財政的に安定しており、定評のある銀行出版部も多い。自社出版物のみを扱う書店をもつ銀行もある。

店頭や街角の売店をみると、新聞や雑誌の種類がとても多いのに驚かされる。しかし、1タイトルあたりの発行部数はあまり多くない*13。トルコには巨大なマスメディアグループがあり、中でもHürriyetとMilliyetという主要全国紙を傘下におさめるDOĞANグループは、出版界でも重要な位置を占める。

コンピュータやインターネットもよく発達しており、訪問したEREN書店*14では、10人のスタッフで学術書の編集・出版や、取次、小売り、稀覯書取引、ネット書店の運営などを効率よく行っている。ネット書店は日本の研究者にも利用者が多い。

イスタンブルの古書店街は、旧市街ベヤズィット地区のサハフラルが有名だが、新市街ガラタサライ地区にも古本屋が軒を連ねるビルがある。雑誌のバックナンバーや絵葉書なども多く、熱心に本を選ぶ学生の姿も見られた。


ガラタサライ地区Aslıhan Pasajıの古書店街

ガラタサライ地区Aslıhan Pasajıの古書店街

(2)Milli Kütüphane(トルコ国立図書館)*15

アンカラの市街地から南西に少し行ったところ、文化観光省と同じ通り沿いに同図書館がある。開館は1948年で、1983年に現在の新館でのサービスが開始された。1,701,377点の資料を所蔵し、職員は約200人である。明るく広い総合閲覧室をはじめ、参考図書室、定期刊行物室などがあり、休日開館、夜間開館を行うなど閲覧サービスが充実している。利用者は学生が多いそうである。

法定納本制度は1934年から実施され、筆者が訪問した2カ月前に改正されたという法律により、出版者は6部を納入する。2部は国立図書館に、議会図書館、ベヤズィット国立図書館に各1部、アンカラ公立図書館に2部が収められる。

納本率は図書が約70%、逐次刊行物や地図が100%とのことである。納本をしない場合の罰則はあるが、少額の罰金である。電子出版物は利用者の要望で選択収集しているが、納本対象ではなく網羅的収集はされていない。

目録規則はAACR2(トルコ語版もあり)、分類はDDCを採用し、MARC21で書誌データを作成している。全国書誌“Türkiye Bibliyografyası”は2003年からCD-ROMで配布される。全国書誌のOPACや雑誌記事索引は同図書館のウェブサイトで検索できる。

(3)Atatürk Kitaplığı(アタチュルク図書館)*16

イスタンブル新市街タクシム地区にある六角形が組み合わされた独特の建物の同図書館は、著名人の寄贈文庫や定期刊行物のコレクションで名高い。約40,000冊を開架する1階閲覧室は一般的な公共図書館といった感じだが、地下の逐次刊行物閲覧室はオスマン語や19世紀のアルメニア語、フランス語などの貴重な新聞を読む熱心な研究者でほとんど空席がない状態であった。

1860年のテルジュマヌ・アフヴァル紙から本格的に始まったトルコの新聞業は急激な発展をとげ、1867年から1878年にかけて定期刊行物の数はイスタンブルだけで113紙に達したという*17。古めかしい新聞や雑誌がずらりと並ぶ書庫は圧巻であり、歴史の厚みが感じられた。

イスタンブル市の郷土資料図書館としての機能ももち、資料のデジタル化も行っている。

(4)Türkiye Yayıncılar Birliği(トルコ出版社協会)*18

イスタンブル旧市街ベヤズィット地区の雑居ビルにオフィスを構える同協会は、トルコ最大の出版社協会で国際出版社協会(IPA)にも登録している。*19

同協会の資料によれば、トルコの出版社数は1,511、書店数10,000、取次数50である。2004年の図書発行数は15,398冊で、出版傾向はビジネス経済書3割、文学3割、テクノロジー関係が1割となっており、歴史地理、宗教がそれに続く。ベストセラー10タイトル中6タイトルは海外ベストセラーの翻訳である。平均小売価格は、教養書9US$、学術書12US$、輸入書10-40US$である。

ISBNは文化観光省図書館出版物管理局から付与される。申請用紙は同協会のウェブサイトからもダウンロードできる。

知的芸術的財産法81条により、販売される本にはすべてバンデロールというホログラムのシールの貼付が義務付けられ、貼っていない本は海賊版とみなされ罰せられる。著作者協会(EDISAM*20)の報告によれば、2002年6月1日からの13カ月間に、346件の摘発があり350,587冊の海賊版が没収された。ISBN登録された約13,000タイトルのうち、よく売れる350から450タイトルには海賊版が存在する。経済的損失は深刻で、出版産業の経済規模500兆TL(トルコリラ)(350,000,000US$)のうち4割近くを海賊版やコピー本、古本が占めるほどである。

憲法28、29条で報道の自由や出版の権利が定められているが、出版社協会の調査によれば2002年に77タイトル、2003年に35タイトルが没収・発禁処分となった。主な理由はイスラーム批判や賛美、クルド問題、猥褻、国政批判である。2004年6月の報道法改正では、出版の自由を促進する一方で阻む条項も制定された。当局はバンデロールの調査を口実にすべての出版社を取り調べることができる。バンデロールの偽造や盗難もあるため海賊版の防止にはあまり有効ではなく、むしろ出版の自由を脅かすものになっている側面がある。

トルコは識字率が比較的高い*21が、トルコ人は本好きか?の質問にはNOとの答えが返ってきた。イスタンブル、アンカラやイズミールなどの大都市は書店数も読者数も多いが、タイトルあたりの発行部数が少ないこともあって、地方はさほど豊かな出版事情というわけではないそうである。

(5)IRCICA(イスラーム歴史芸術文化研究センター)*22

イスタンブル新市街ユルドゥズ地区、かつてはスルタンの宮殿であった壮麗な建物に本部がある。イスラーム諸国機構(OIC)の下部組織で、国際的なイスラーム文化芸術学術機関である。

各地でさまざまなテーマの国際会議を開催し、芸術関係のコンペや表彰など活動は多岐におよび、ブック・ホスピタルを開設する計画もある。図書館は図書65,000冊、定期刊行物1,500タイトル、19-20世紀の写真70,000点や貴重書などを所蔵する。

出版物も豊富で書誌類や研究書、史料集などがあり、ウェブサイトで一覧が見られる。オスマン朝の官報“Takvim-i Vekayi”1831-1923年分のほぼすべて収録したDVDといった電子出版物も出している。同一タイトルをトルコ語、アラビア語、英語で出版する例も多い。

トルコは2008フランクフルトブックフェアのゲスト国に選ばれており、文化観光省によるTEDAプロジェクト(トルコの文化芸術作品の翻訳出版助成)など、国を挙げて自国の文化や歴史、学術の成果を紹介していこうという意気込みが感じられた*23

4. おわりに

近年では日本の図書館にも多数のアラビア語やトルコ語の図書が所蔵されているが、そのほとんどが学術書である。カラフルな雑誌や実用書・娯楽書、ベストセラー小説などがあふれている現地の様子は新鮮であった。また、国が学術・文化発展のために出版を支援している活動についても知ることができた。活発に出版が行われている両国から、当館が何を選択収集していくかは重要な課題であると感じた。

人と人のつながりを大切にする地域であり、いろいろな方の紹介を得て訪問がかなった機関も多い。最後になるが、お世話になったすべての機関と関係者の方々に心より御礼申し上げる。

*1 エジプトでは国際交流基金カイロ事務所、カイロ大学政治経済学部アジア研究センター、同大学文学部日本語学科、トルコではアンカラ大学言語・歴史・地理学部日本語学科、土日基金を訪問した。

*2 http://www.cibf.org/外部サイトへのリンクであったが、フェア終了後は接続できなくなっている。

*3 GEBOの方のお話による。

*4 International Publishers Association http://www.ipa-uie.org/外部サイトへのリンク

*5 高等文化評議会の方のお話による。

*6 以下のサイトでも閲覧できる。http://asj.ioc.u-tokyo.ac.jp/html/guide/cairo/c_s.html外部サイトへのリンク

*7 大手の取次は3-4割の手数料をとる。

*11 外部サイトへのリンク UNESCO Institute for Statistics によれば、2004年は55.6%(男性67.2%女性43.6%)。2005年は71.4%(男性83.0%女性59.4%)と、急激な伸びを見せている。

*12 仕入れた本の10%まで返品できるそうである。

*13 定期刊行物の数は3,450におよび、その半数は週刊。地方新聞の1日平均発行部数は1,000-15,000部である。2005年の雑誌数は918誌で総発行部数は2,300万部。(首相府報道出版情報総局監修『トルコ 2005』トルコ通信社、p.434)

*17 『トルコ 2005』トルコ通信社、p.430-431

*19 ほかにBasın Yayın Birliği(報道出版協会)がある。

*20 Edebiyat ve İlim Eseri Sahipleri Meslek Birliği。334の著作者、出版社が加盟する。

*21 UNESCO Institute for Statistics によれば、2004年は87.4%(男性95.3%女性79.6%)。

*23 http://www.fbf2008turkey.com/en外部サイトへのリンク

(すべてのURLのlast access:2007/5/14)

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