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インドネシアの出版、書店、図書館――出張報告 : アジア情報室通報第6巻第3号

アジア情報室通報 第6巻第3号(2008年9月)
小笠原綾(国立国会図書館アジア情報課)

1. はじめに

2008年1月に、地域研究コンソーシアム・情報資源共有化研究会の海外調査1に同行し、タイのバンコク、シンガポール、インドネシアのジャカルタとジョグジャカルタで、出版社協会、図書館、書店等を訪問する機会を得た。前号(6巻2号)でタイについて報告したが、本稿ではインドネシアの状況について報告する。

2. 出版事情

インドネシアは約13,600の島、300余の民族から成る多民族国家で、ジャワ語、スンダ語をはじめ約250の地方語が話されていると言われている。インドネシア語は、オランダからの独立を目指す民族主義運動の中で統一言語として掲げられ、独立後の国家では、国語として教育やメディアによって普及が図られたが、現在でも、多くの国民にとって、学校に入ってから学習する第一外国語のような存在である。実際、ジョグジャカルタでは人々の会話においてはほとんどジャワ語が使用されていた。地方語での出版活動も、スハルト大統領時代には中央集権的な政治により押さえ込まれていたが、近年では地方分権化に伴って盛んになってきている。

2007年のインドネシアにおける1年間の書籍出版点数は、新刊、再版を合わせて約15,000タイトル2で、1998年以降増加を続けている。このうち約8割が教科書で、それ以外は、ビジネス、PC関連の実用書や海外文学の翻訳、イスラーム関係の宗教書が多い。学術書も出版されるが、1冊の発行部数は2,000~3,000部と少なく、これに比べてハリー・ポッターの翻訳は約400,000部発行されている。出版社数は、1960年代前半には、政府の印刷用紙に対する補助金や印刷機材の提供のおかげで約600社ほど存在したが、1966年以降補助金がカットされたため多くの出版社が倒産に追い込まれ、1970年代には約100社まで激減した。その後は徐々に増加し、現在は約800社である。

インドネシアでは、国民の平均収入に比べて書籍の価格が高いため、国民一人当たりの年間書籍購買数は1~2冊にすぎない。読書習慣を定着させるためには、書籍の低価格化が必要条件である。

出版に対する規制については、1930年代から1997年にかけて、マルクス主義やイスラーム批判への弾圧が強かった。中部ジャワ出身でノーベル賞候補にもなった、インドネシアを代表する作家プラムディア・アナンタ・トゥルの“Bumi Manusia(『人間の大地』)”(1980年)など計36タイトルが発売禁止になっている。しかし、スハルト政権崩壊後、1999年には発禁、検閲の禁止が明記された「報道法」が公布され、その後は発売禁止になった作品はない。

2.1 Ikatan Penerbit Indonesia(IKAPI)
インドネシア書籍出版協会

インドネシア書籍出版協会は、1950年に設立され、2007年7月現在、793の出版社が加盟している。2010年までに、出版業が、インドネシアやASEAN諸国のマーケットにおいて資本を引き付けるような産業に育つことを目指している。さらに、長期的(2020年まで)には、①出版件数と新刊出版件数の両方が国内の需要を満たすことができるよう、出版業界が力を持つこと、②良質で低価格の書籍を出版することによって出版業界全体が国際的な競争力を持ち、インドネシアブックフェアを国際的な行事にすること、の2点を目標としている。ジャカルタ以外にも、各地方に13の支部を持ち、加盟出版社のうち493社は地方支部のメンバーである。

ブックフェアは、ジャカルタで開催するインドネシアブックフェア、イスラミックブックフェアなどのほか、スラバヤやジョグジャカルタなど地方の各都市でも開催しており、その数は年間合計で25回にもなる。

ブックフェア以外の活動としては、優れた文学者や挿絵画家、出版社に対する表彰、若者への読書推進運動などを行っている。また、加盟出版社が出版した図書の書誌を公開している。これは、2003年までは、“Daftar buku(『図書目録』)”として出版していたが、現在はホームページ3でのみ公開している。

2.2 Indonesian Society for Social Transformation Press(INSISTPress)
インドネシア社会変容協会出版会

インドネシア社会変容協会出版会は、ジョグジャカルタで、民主主義、宗教的融和、人権問題、地方分権などをテーマとして活動している出版社である。以前はフォード財団など外国からの援助を受けて活動していたが、2004年に企業として独立した。編集者3名、その他スタッフ11名の小さな出版社である。図書は1年間に約20~25タイトル出版しており、欧米の大学が出版した英語文献の翻訳なども手がけている。雑誌では知識層向けにWacana:jurnal ilmu sosial transformatif(『アイデア:社会変容学術雑誌』)を出版している。60年前の古い印刷機を使うなど、経費を節約しながら、良質な資料の出版に努めている。


INSISTPressで使用している印刷機

INSISTPressで使用している印刷機

3. 書店

3.1 Toko Buku Gramedia
グラメディア書店

新聞社、出版社なども傘下に持つ、インドネシア最大の出版企業グループ、コンパス・グラメディアグループによるチェーン店である。全国に69店舗を展開しており、本店はジャカルタ東部マトラマン地区にある。地下1階(駐車場)地上4階建ての明るい大きな建物で、漫画、雑誌や、ビジネス書、宗教書、学術書、小説など幅広い出版物を扱っている。分野ごとにフロアが分かれていて、各フロア別にベストセラーが順位をつけて山積みされていた。1階では、アラビア文字で書かれ、ページをめくるとコーランが流れるトークブックが売られていて、人だかりができていた。

3.2 Toko (Buku) Gunung Agung
グヌンアグン書店

全国に28店舗を持つ、インドネシア第2の書店チェーンである。ジャカルタの本店は4階建てだが、文房具、PC用品、机、画材などの売り場がかなりの面積を占めており、書籍は主に4階で販売されている。漫画や語学学習書、コンピュータや経営ノウハウに関する実用書を多く扱っている。また、2階にはイスラームコーナーがあり、モスクをかたどったゲートなど独特の装飾が施され、コーランの豪華本や解説書、イスラームを題材にした小説などが集められていた。

4. 図書館

4.1 Perpustakaan Nasional Republik Indonesia (PNRI)
インドネシア国立図書館

インドネシア国立図書館は、1980年に、教育文化省の下、国立博物館図書館や図書館開発センター全国書誌・納本事務局など4つの図書室を統合して設立された。設立当時は3箇所に分かれていたが、1987年に現在のジャカルタ中央部サレンバラヤ通りに移転して一箇所で機能するようになり、1989年には、大統領令により、行政府から独立した機関となった。所蔵資料数は約160万点、職員数は約700人である。

1990年に納本に関する法律が制定されて納本図書館となったが、国内の出版物をすべて収集しているわけではなく、著名な作品、他の公共図書館や大学図書館で収集しない資料、古い出版物の収集に力を入れている。また、各州に分館があり、地方の出版物は各分館で収集している。

オンライン目録のほか、所蔵している絵画や写真、写本のデジタル化を進め、ホームページ4で公開している。例えば、デンマーク出身でオランダ東インド会社の兵士としてバタビアに赴任していたヨハネス・ ラッハ(1720-1783)の風景画について、同館所蔵分202枚とアムステルダム国立美術館所蔵分40枚を共同で電子化するなど、国外機関との合同プロジェクトも進めている。筆者が訪問した際にも、独立前後に撮影された写真のファイルを見ることができた。社会活動家や軍人などの人物が写っている貴重な写真が多く、“Daftar photo bersejarah Republik Indonesia, Jild1 Tahun 1940-1960”(『インドネシア歴史写真目録 第1巻 1940-1960年』)として公刊されている。これらの写真も将来的には電子化し公開される予定である。

4.2 Pusat Dokumentasi dan Informasi Ilmiah, Lembaga Ilmu Pengetahuan Indonesia (PDII-LIPI)
インドネシア科学院・科学文献資料センター

1967年に科学技術の発展のために設立された国立の学術情報機関で、ジャカルタ郊外にある。円柱型の目を引く建物で、6階建ての3階から5階が図書館になっている。図書約77,000冊、雑誌約3,000タイトル、テクニカルレポート38,000件などを所蔵している。

同センターはUNESCOの国際逐次刊行物データベースのインドネシアセンターになっているため、逐次刊行物に関する情報が特に充実している。事業の例として、学術雑誌1,156タイトルを収録した“Directory of Indonesian learned periodicals with an additional introduction in Indonesian”(2004年)の刊行、1961年から行っている雑誌記事索引の作成、1980年から行っている新聞記事の切り抜きなどが挙げられる。新聞記事はホームページ5で検索が可能である。また、同センターでも20タイトルの学術雑誌を刊行しているがそのうち13タイトルについては、Jurnal Online6というデータベースでフルテキストを公開している。

この他、逐次刊行物のマイクロ化も精力的に行っている。所蔵する新聞16タイトル、雑誌約200タイトルをマイクロ化し、アメリカ議会図書館、オーストラリア国立図書館、オランダ東南アジア研究所など、欧米の図書館のジャカルタ事務所に提供している。

4.3 Universitas Indonesia
インドネシア大学

インドネシア大学は、1950年に設立された、インドネシアを代表する総合大学である。1970年代以降、経済学部と法学部を中心に、エリート官僚を数多く輩出している。現在、ジャカルタに3学部、デポックに9学部があり、国内外から3万人余りの学生が在籍している。メインのデポックキャンパスは318ヘクタールと広大で、中央の池の端には大きなモスクを模った建物が建っている。国際交流が盛んで、日本からの留学生も多く、また、文学部には日本語学科があり日本人の教官が指導にあたっている。

4.3.1 Perpustakaan Pusat
中央図書館

中央図書館は、1983年にデポックキャンパスに設立された。インドネシア大学には、中央図書館以外に学部図書館が13館あり、全体で、図書約75,000冊、雑誌350タイトルを所蔵している。

中央図書館では、同大学が出版する学術雑誌や学位論文、レポート等の索引データベースを作成している。ホームページ7では書誌データと抄録を公開しており、また、キャンパス内からはフルテキストの入手が可能になっている。同図書館では、さらに、2003年から国内50の国立・私立大学と共同で機関リポジトリの開発を始めているが、メタデータの標準化が課題となり、進行が困難な状況にあるという。

4.3.2 Lembaga Penyelidikan Ekonomi dan       Masyarakat, Fakultas Ekonomi(LPEM-FEUI)
経済学部経済社会研究所

経済社会研究所は、1953年に設立されたインドネシア大学で最大のシンクタンクで、63人の研究者と64人の職員が在籍している。インドネシアの経済・社会の発展に結びつくような経済政策を提言すること、またそのような提言や意思決定が可能な人材を政財界に送り込むことを使命とし、毎年、約30件の研究プロジェクト、約10件のセミナーを実施している。

同研究所が発行している雑誌Ekonomi dan keuangan Indonesia(『インドネシアの経済と金融』)は2004年から、すべての論文を英語で執筆・掲載するようになり、タイトルもEconomics and finance in Indonesiaと英語に変更した。

図書館は、図書21,909冊、雑誌355タイトル、レポート類728件、CD-ROM129枚を所蔵しており、所蔵資料はホームページ8で検索可能である。また、国際通貨基金(IMF)の寄託図書館にもなっている。

4.3.3 Lembaga Demografi, Fakultas Ekonomi(LD-FEUI)
経済学部人口問題研究所

人口問題研究所は、1964年に設立され、37人の研究者と24人の職員が在籍している。各州に出向いて人口変動の基本統計の収集や、貧困問題の調査などを行っており、この調査は近年、ラオスなどの周辺地域まで調査範囲を広げている。国連人口基金(UNFPA)、世界保健機構(WHO)などの国際機関とも共同で研究を行い、インドネシアの関係省庁に対して、調査レポートの提出や政策提言などの活動を行っている。

主な刊行物として、Journal of populationと、Warta demografi(『人口統計学雑誌』)の2誌が挙げられる。前者は、同研究所の研究者のみでなく、バングラデシュ、インドなど外国の研究者による論文も掲載されている。上記2誌は、ホームページ9で目次と抄録を見ることができる。

4.4 Centre for Strategic and International Studies(CSIS)
戦略・国際問題研究所

戦略・国際問題研究所は、1971年にジャカルタに設立された、国内外の問題について政策策定のために研究を行う非営利組織である。研究成果は、図書やレポート類のほか、2つの季刊誌Analisis CSIS(1971年~)、The Indonesian quarterly(1972年~)で発表されている。

戦略・国際問題研究所図書館の入り口

戦略・国際問題研究所図書館の入り口

図書館の事業として特筆すべきは、新聞記事の切り抜きである。主要な新聞4紙について、1965年以降全ての記事を切り抜き、政治、経済、国防、社会、文化など細かい主題ごとに分けて貼付・保存し、閲覧に供している。DDC分類法に基づいた主題別索引も用意されており、求める主題の記事をたどることができる。索引は、来館者しか利用できないが、切り抜きした記事は、Dokumentasi kliping tentang ○○(分野名)(『○○(分野名)に関する文献』)として販売もされている。

また、1980年からは、主要な雑誌約50タイトルについて雑誌記事索引を作成している。現在は館内のみで検索が可能だが、将来的にはホームページでの公開を予定している。

4.5 Universitas Gadjah Mada
ガジャマダ大学

1949年に創立された、インドネシアで最も古い国立総合大学で、ジャワ島中部の古都ジョグジャカルタにある。18の学部、28の研究所を有する総合大学で、約4万人の学生が在籍し、インドネシア大学同様、日本からの留学生も多い。また、文化学部には日本語・日本文学学科があり、日本研究センターも設置されている。

4.5.1 Perpustakaan
中央図書館

中央図書館は1951年に設立された。図書718,000冊などを所蔵している。緑に囲まれた3階建の建物で、隣接して大学院生以上のための図書館が併設されている。

特色ある資料として、ハッタコレクションがある。インドネシア初代副大統領でガジャマダ大学の名誉教授を務めたモハマド・ハッタ氏の蔵書約33,000冊で、内容は、政治、文化など様々な分野に及んでいる。

1984年以降、同大学が刊行している雑誌76タイトルを中心に、重要な雑誌の記事索引を作成している。データベースは現在のところ館内でのみ利用可能だが、5つの分野に分け、Indeks artikel jurnalというタイトルで不定期に刊行している。また、図書館からも隔月でBerkala ilmu perpustakaan dan informasi (『図書館情報学雑誌』)という雑誌を発行している。

4.5.2 Pusat Studi Kependudukan dan Kebijakan(PSKK-UGM)
人口・政策研究所

人口・政策研究所は1973年に設立された。長年、家族計画に関する研究で名高かったが、1993年以降は、移民、ジェンダー、地域開発、地域分権など、様々な問題に関して研究プロジェクトを立ち上げ、より政策に直結した研究を行うようになった。研究成果としては、これまでに約400タイトルの図書や研究レポートを出版したほか、Populasi: Buletin kependudukan dan kebijakan(『人口:活動と政策』)という雑誌を刊行している。

図書館は、図書約20,000冊、雑誌425タイトルを所蔵している。インドネシアの各省庁や、欧米の関連機関の寄託図書館になっており、灰色文献の所蔵が多いのが特徴である。

ガジャマダ大学の入り口。正面にムラピ山が見える。

ガジャマダ大学の入り口。正面にムラピ山が見える。

5. おわりに

今回の訪問では、首都ジャカルタに加えて、デポックやジョグジャカルタでの出版活動や図書館についても調査することができた。特に、ジョグジャカルタにもインドネシア社会変容協会出版会のような小さくとも良質な出版社があること、ガジャマダ大学のような地方の大学においても着実に研究成果を発信していることが分かり、大きな収穫であった。インドネシアでは、1998年以降各地方での出版や学術研究が活発化している。そのため、この国全体の出版事情や図書館活動を把握するためには、各地方の状況についてさらに調査する必要があるだろう。

最後に、様々な情報をご教示くださった地域研究コンソーシアム・情報資源共有化研究会の皆様と、訪問を快く受け入れ親切に対応してくださった、諸機関の方々に心よりお礼申し上げる。
(筆者の所属は当時。現在は収集書誌部外国資料課)


1 http://www.jcas.jp/koubo/jouhoushigen2007.html外部サイトへのリンク

2 インドネシア書籍出版協会でのヒアリングによる。

3 http://www.ikapi.org/new/katalog.php外部サイトへのリンク

4 http://digilib.pnri.go.id/in/外部サイトへのリンク

5 http://opac.pdii.lipi.go.id/外部サイトへのリンク

6 http://www.jurnal.lipi.go.id/外部サイトへのリンク

7 http://www.digilib.ui.edu/opac/themes/libri2/外部サイトへのリンク

8 http://www.lpem.org/pustaka/search_terms.php外部サイトへのリンク

9 http://www.ld-feui.org/外部サイトへのリンク (URLの最終アクセスは全て2008.8.20)

参考文献

・北村由美, 青柳英治, 小笠原綾「東南アジアにおける学術情報の共有化―現状と今後の可能性―」『専門図書館』(231) 2008.9

・高橋宗生「発禁、脅迫、暴力の荒波と出版メディア (特集 インドネシアの民主化10年--その成果と課題)」『アジ研ワールド・トレンド』14(7) 2008.7 pp. 37~39

・箕輪成男『インドネシアの出版事情』ブックガーデン・国際出版学研究所 1998

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