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トルコの図書館: アジア情報室通報 第9巻第1号

アジア情報室通報 第9巻第1号(2011年3月)
林瞬介(国立国会図書館アジア情報課)

1 はじめに

アジアとヨーロッパの両大陸にまたがるトルコ共和国は、数千年にわたって栄えた諸文明の文化遺産に恵まれ、最近は観光地として人気がある。面積にして日本のおよそ2倍(約78万km2)の国土に日本の半分強(約7,000万人)の人口を有し、経済面では主要20か国・地域(G20)のひとつに数えられる地域大国でもある。

本稿では、日本ではあまり紹介されることのないトルコの図書館事情を紹介する。

2 図書館の歴史

トルコの国土であるアナトリアは、紀元前の古代から先進的な文明が栄えた地域である。古くはヒッタイト、ペルガモンなどの遺跡に図書館が見いだせる。

15世紀にビザンツ帝国を滅ぼしたオスマン帝国でも、図書館は数多く建設された。オスマン帝国の支配階層が建設した写本図書館では、イスラム法に基づいたワクフ(寄進)の枠組みを利用した経営が行われ、書物の内容と所在に精通した知識人たちが司書に任命された1

アジアの中でも早くからヨーロッパの圧迫を受け始めたオスマン帝国政府は、19世紀以降ヨーロッパを模範とする改革を進め、ワクフ制度による写本図書館も政府の管理下に移し、それまで存在しなかった目録を整備するなどの運営の近代化をはかった2 。一方、国民の教育・啓蒙を目的とする近代的図書館の設立は財源不足から遅れ、政府予算で運営されるものは1882年にイスタンブルで創立されたオスマン公共図書館が最古である。

第一次世界大戦後に誕生したトルコ共和国では、公共図書館の運営はワクフから教育省(現在の国民教育省)へ移管された。1926年には図書館局(現在の図書館・出版総局)が設置され、同局によって各地に公共図書館が開かれた3 。また、帝国時代の旧都イスタンブルや、共和国の新首都アンカラなど、主要な都市には新たに高等教育機関が置かれ、ドイツ人司書の指導を受けて大学図書館が設立された4

第二次世界大戦後、1946年にアンカラに国立図書館が設立された。この頃、トルコは西側諸国の一員となって米国から経済援助を受け始め、図書館も主に米国の影響を受けるようになった。1952年に米国から図書館顧問が招かれ5 、1954年には米国人教員による図書館養成が始まった6

1971年には国民教育省から文化省(現在の文化観光省)が分割、図書館行政が移管された。

今日では、全国81県すべてに公共図書館があり、100を超える国・私立の大学に大学図書館が設置されている。

3 国立図書館

オスマン帝国期には教育省直属の公共図書館だったオスマン公共図書館 Kütüphane-i Umumi-i Osmani(現ベヤズト国家図書館 Beyazıt Devlet Kütüphanesi。詳細は後述。)が事実上の国立図書館だった7 。しかし、納本制度に基づいて国内出版物を収集し、全国書誌と雑誌記事索引を作成する図書館は、1946年に設立された国立図書館 Millî Kütüphane8 が最初のものである。

トルコ国立図書館(アンカラ)

トルコ国立図書館(アンカラ)

国立図書館は、組織上では文化観光省の本省に属する中央部局のひとつで、公共図書館行政を所管する図書館・出版総局と同等のステータスにある。2009年の職員数は212人で、うち32人が司書有資格者である9

1983年に移転した現在の建物は、トルコ大国民議会議事堂前を東西に走るイノニュ大通りを西に2kmほどの場所にあり、約4万平方メートルの敷地に大閲覧室2室のほか、逐次刊行物、貴重書、データベース、参考図書、マイクロフィルムなどの閲覧室を持つ。週7日間、朝9時から夜22時まで開館し、年間約70万人が利用する10 。入館は無料だが、継続して利用するには発行料が有料の登録カードが必要である。

所蔵資料の中核は、1934年以来、納本制度に基づいて収集される国内刊行資料である。このほか、トルコ国内の貴重な写本や1928年の文字改革以前に発行されたアラビア文字印刷本が重点的に収集されている11 。2009年末の所蔵資料数は図書1,253,232冊(うち写本26,780冊)、逐次刊行物1,411,674点、非図書資料208,451点である12 。目録規則はAACR2、分類はDDCを使用し、書誌はMARC21形式で作成される13

電子図書館事業では写本と文字改革以前の逐次刊行物の電子化がほぼ完了し、それぞれがインターネット上の画像データベースに公開されている(有料)14 。最近の報道によると、今後は欧州連合(EU)の電子図書館「Eurpeana」へ参加する計画もある15

トルコの納本制度

トルコでは、1934年に制定された「印刷文書および図画納本法 Basma Yazı ve Resimleri Derleme Kanunu」(以下「納本法」)その他の法令によって出版物6部の納本が出版者に義務付けられている。

納本法の適用対象となる出版物は、図書、雑誌、新聞、地図などの印刷技術によって作成された文書図画で、CD-ROMなどの機械的に再生される媒体の資料は対象ではない。納本された出版物は、国立図書館、トルコ大国民議会図書館、アンカラ県アドナン・ウテュケン公共図書館、イスタンブル大学中央図書館、ベヤズト国家図書館、イズミル国民図書館の6館で保管される。

出版者は、出版後15日以内に6部を文化観光省が各県に置く納本事務所に送付しなければならない。納本事務所は、送付を受けた出版物の記録を取って1部ずつ6個の小包に仕分け、各納本図書館に発送する。納本された資料を利用して全国書誌と全国雑誌記事索引を作成するのは国立図書館の仕事である。

納本法は制定以来75年以上にわたってほとんど改正されておらず、時代遅れになってしまったと言われて久しい。2008年、文化観光省はようやく、トルコ国内で印刷または複製された作品を媒体にかかわらず納本対象とする全面改正案「思想および芸術作品の複製物の納本に関する法律案 Çoğaltılmış Fikir ve Sanat Eselerini Derleme Kanunu Tasarısı」をトルコ大国民議会に提出したが、この法案はまだ成立していない。

参考文献
M. Türker Acaroğlu, "Yeni Bir Derleme Yasası Gereklidir," Türk Kütüphaneciliği, 9(4), 1995, pp.448-450.
Coşkun Polat, "21. Yüzyılıa Girerken Ülkemizde Derleme Sorunu," Bilginin Serüveni : Dünü, Bugünü ve Yarını..., Türk Kütüphaneciler Derneği, 1999, pp.579-612.
Burcu Umut Zan, "Elektronik Yayınların Derlenmesi," Türk Kütüphaneciliği, 23(2), 2009, pp.299-320.

4 公共図書館

(1) 公共図書館の設置母体と館数

トルコの公共図書館の最大の特色は、数多くの公共図書館が、中央政府によって設置され、中央政府の出先機関として運営されていることである。

トルコは国土全域を県に、県全域を複数の郡に分け、それぞれに内務省から県知事、郡知事が派遣される。県知事の管理下には、中央政府各省庁の地方支局が置かれ、中央政府による地方統治が行われている。

他方、地方自治体としては郡の領域のうち都市的地域に市、農村的地域に村がある。アンカラ、イスタンブルなどの大都市地域では、市自治体の連合体として複数の郡の領域にまたがる広域市が置かれる。

このほか、公選の県知事と民選の議会の下で運営される県特別行政体という中央と地方の中間的な行政機関もある(表1)16

地方区分
中央政府の
地方行政機関
県知事(官選) 郡知事(官選)
中間的な
地方行政機関
県特別行政体(議会民選)  
地方自治体 広域市(大都市のみ) 市(都市部)
村(農村部)

表1 トルコの地方行政

現在、公共図書館の多数が中央政府によって全国81の県、894の郡に設置され、文化観光省の地方支局である県文化観光局に属する国の出先機関として運営されている。この種の図書館はすべての県、主要な郡、一部の街区に配置されており、2010年の館数は、県公共図書館が81館、郡公共図書館が713館、その他の公共図書館が296館、児童図書館が45館である17

文化観光省に所属する公共図書館に対し、自治体や民間団体に所属する公共図書館は少ない。文化観光省所属以外の図書館の館数を含めた公共図書館数の統計は、管見の限り存在しないが18 、2004年にトルコ図書館員協会が策定した「公共図書館宣言19 」はトルコの公共図書館の総数を1,502としている。やや年代は異なるが、2010年の文化観光省設置の公共図書館数と比較して推量すると、自治体等の図書館数は350館程度ということになる。

公共図書館の運営形態が典型例でもある地方自治の弱さは、トルコ政府が目指すEU加盟の障害でもある。地方行政改革を迫られた政府は、過去に2度提出した地方自治拡大に関する法案で、公共図書館の地方移管を盛り込んできだ20 。現在のところ移管は実現していないが、トルコ図書館員協会(TKD)の機関誌では、自治体財政が脆弱であること、図書館が自治体内で重視されるほどには社会に根付いていないこと、文化観光省が図書館の現場に疎くなってしまうことなどを理由として、性急な地方移管には慎重な意見が見られる21

セリミエ公共図書館(イスタンブル)

セリミエ公共図書館(イスタンブル)

(2) 文化観光省の公共図書館

文化観光省の公共図書館は、図書館・出版総局の監督下にあり、省の定める規則22 に基づいて運用される。各県ごとに、県公共図書館が県内の公共図書館の中央図書館となり、県の図書館計画を策定し、郡公共図書館その他の公共図書館を行政的に監督する仕組みである。

2009年の職員数は臨時雇用者まで含めても3,084人で、1館に平均すると3人に満たない。そのうち、司書有資格者は448人に止まる23

図書館には誰でも入館することができ、利用者として登録すれば資料を借りることができる。

所蔵資料は、貸出用の資料と館内利用限定資料(レファレンスツールのほか、学術図書などが含まれる)に分けられる。蔵書冊数は館によってまちまちだが、県公共図書館で数万冊から十数万冊、郡公共図書館と地区公共図書館で数千冊から一万数千冊の規模である24 。目録は国立図書館と同様、AACR2とDDCが用いられる。

イスタンブル県の地区公共図書館であるセリミエ公共図書館 Selimiye Halk Kütüphanesi の場合、職員は非常勤の用務員を含めて6人だが、司書はいない。蔵書は貸出用と館内利用資料を合わせて1万2,000冊ほどで、貸出期間は2週間、貸出冊数の上限は3冊である25

文化観光省の図書館の利用者数は、2006年の延べ2,113万人をピークに伸び悩み、最近2年は延べ2,000万人を割っている26 。理由として、県特別行政体や市などの自治体の負担によって拠出される資料購入費が不足しているために、所蔵資料が少なく、また資料の多くは古く利用者にとって魅力に乏しいことが挙げられる。

最近、文化観光省は資料の古さと少なさを解決するために「図書館のための資料購入」プロジェクトに着手し、省中央で資料費を予算化して2005年に449タイトル8万冊、2006年に1,691タイトル32万冊、2007年に2,069タイトル44万冊を購入した27 。しかし、このプロジェクトでは中央で一括購入した図書を地方の図書館への配本にあてるため、司書が地元の実情に応じて選書することができない。そのため、地域に必要な資料を必ずしも収集できないという問題が残されている28

(3) その他の文化観光省の図書館

図書館・出版総局の監督下にある図書館には、公共図書館の他にイスタンブルのベヤズト国家図書館 Beyazıt Devlet Kütüphanesi29 と、全国各地の写本図書館 Yazma Eser Kütüphaneleri30 がある。

ベヤズト国家図書館は納本制度で収集された資料を所蔵するほか、前身であるオスマン公共図書館から受け継がれた写本コレクション、ジャーナリストのハック・タールク・ウス Hakkı Tarık Us 旧蔵の逐次刊行物コレクションなどを所蔵する31 。なお、ハック・タールク・ウス・コレクションは日本の東京外国語大学の支援により電子化が完了しており、電子データは東京外国語大学のホームページで無償公開されている32

写本図書館は、多くがオスマン帝国時代のワクフ図書館を引き継ぐもので全国に14館あり、各都市に伝来してきた貴重な写本を所蔵する。図書館・出版総局は最近、写本の電子化に力を入れており、国立図書館と共同で運営するデータベースで公開している33

(4) 自治体設置の公共図書館

地方自治体のうち、図書館の設置は主に市が行う。市自治体の基本法である「市制法 Belediye Kanunu」では、2005年の全面改正まで、市の任務を列挙した第15条の第33号に「公衆のために図書館または読書室を開くこと」が挙げられていた34

イスタンブル県の場合、県内にある市のいくつかに図書館がある35 。市の連合であるイスタンブル広域市も図書館を設置しており、その中央館であるアタテュルク図書館 Atatürk Kitaplığı は定期刊行物や地図、郷土資料のすぐれたコレクションで知られる。ただし、そのような充実した自治体の図書館は例外的なもので、ほとんどは公共施設に付随した貸出文庫程度のものである36

(5) その他の公共図書館

文化観光省にも自治体にも属さない、非営利法人や民間の公共図書館はほとんど見られない。

例外的に規模の大きい私立図書館に、イズミルの国民図書館 Milli Kütüphane37 がある。1912年に地元政財界有志によって設立されたこの図書館は、現在もイズミル国民図書館財団の運営で、経費は財団が所有する劇場の賃貸収入と、寄付金でまかなわれている38

5 大学図書館

(1) トルコの高等教育制度と図書館

トルコでは長らく大学進学率は低く、4年制大学の数は1947年に3大学、1978年に19大学で、すべて国立大学だった。1981年に「高等教育法 Yükseköğretim Kanunu」が制定されてからは高等教育機関の整備が進展し、私立大学の設置も可能となった結果、現在では102の国立大学、54の私立大学が設立認可された39 。そのため、大学図書館はまだ新設間もないものが多い。

2009年の館数は435、うち中央図書館117館、学部図書館は297館、分館は21館である40

図書の分類では、公共図書館で一般的なDDCも多く用いられる一方、LCCも比較的普及している。

(2) 国立大学図書館

国立大学は、高等教育機関の組織を定める政令により、大学本部事務局に「図書館・ドキュメンテーション部」という名称の組織が必置と定められている。

新設大学でない限りは、一館あたりの職員数、所蔵資料数は文化観光省の公共図書館よりもはるかに多い。イスタンブルの名門校ボアズィチ大学図書館 Boğaziçi Üniversitesi Kütüphanesi41 の場合、職員数65人(うち司書有資格者24人)で、図書と雑誌合わせて約55万冊を所蔵する42

(3) 私立大学図書館

私立大学は、国立大学と比べると自由な組織を取っており、運営には各大学の裁量が許される面が大きい。そのため、私立大学の教育環境は、設置母体によって左右される。特に大きな影響を与えるのが資金力である。

トルコでは1990年代以降、サバンジュ・ホールディング会長サークプ・サバンジュら、トルコ経済を支える企業家らが私立大学を創設した。これらの大学では潤沢な資金で最新の施設と教育カリキュラムが整備されており、広大なキャンパスの中心に置かれた図書館(大学によっては情報センター)も非常に充実している。

サバンジュ大学情報センター(イスタンブル)

サバンジュ大学情報センター(イスタンブル)

(4) 大学図書館のコンソーシアム

大学図書館で学術情報の電子化への対応が重要な問題であることはトルコも他国と同様で、紙媒体の雑誌購入から電子ジャーナルのみの契約へ移行している。

こうした大学・研究図書館共通の課題への対応については、大学図書館員協会(ÜNAK)や国立学術ネットワーク・情報センター(ULAKBİM)の果たす役割が大きい。トルコでは現在3つの大学電子ジャーナルコンソーシアム(ANKOS、ÜNAK-OCLC、EKUAL)が結ばれているが、ÜNAK-OCLCはÜNAKの、EKUALはULAKBİMの事業である43

国立学術ネットワーク・情報センター(ULAKBİM)

国立学術ネットワーク・情報センター(Ulusal Akademik Ağ ve Bilgi Merkezi ; ULAKBİM)は、トルコ科学技術研究機構(Türkiye Bilimsel ve Teknik Araştırma Kurumu ; TÜBİTAK)に所属する研究支援機関で、アンカラ郊外のビルケントにある。大学図書館その他の学術図書館および研究者個人に対し、学術ネットワークの構築とドキュメントサプライサービス(DSS)事業を提供しており、日本で言うと、科学技術振興機構(JST)の文献情報提供事業と国立情報学研究所(NII)の学術情報基盤事業を合わせたような役割である。

ULAKBİMの図書館部門であるジャーヒト・アルフ情報センター(Cahit Arf Bilgi Merkezi ; CABİM)はトルコ唯一のDSSのナショナルセンターであり、トルコ国内で学術文献を必要とするすべての人が利用できる。来館者は学術雑誌で紙媒体として所蔵する約500タイトルと、電子ジャーナル約14,500タイトルを利用できる。また、遠隔地からも紙媒体すべてと電子ジャーナル約8,500タイトルの複写物を発送可能で、銀行口座やクレジットカードの番号を登録すれば、複写と郵送にかかる実費のみの低廉な料金で文献を入手することができる。

トルコの学術研究図書館の中心的な役割も担っており、2006年には電子ジャーナルのライセンス問題に対処するため、EKUAL(Elektronik Kaynaklar Ulusal Akademik Lisans ; National Electronic Sources Academic Licence)を立ち上げ、国内の多くの大学・学術図書館が参加可能なコンソーシアムを取りまとめている。

そのほか、国内学術誌の抄録データベースを構築し、インターネット上で無償提供している。分野は医学、生命科学、人文社会科学、建築学、基礎科学などで、2010年には新たな抄録作成分野として法学が加わった。

参考文献
ULAKBİMホームページ(http://www.ulakbim.gov.tr/)
Mehmet Toplu, "Belge Sağlama Hizmetlerinin Gelişimi ve Türkiye Perspektifi," Türk Kütüphaneciliği, 23(1), 2009, pp.83-118.

6 学校図書館

初等・中等教育機関に設置される図書館の運営通則は、1959年に初めて制定され、2001年に全面改正された「国民教育省学校図書館規則 Millî Eğitim Bakanlığı Okul Kütüphaneleri Yönetmeliği」である。この規則によれば、国民教育省が所管する初等中等教育機関である幼稚園、初等教育学校(5年制小学校と3年制中学校を1997年に統合、8年制)と高校(4年または5年制)のうち、すべての学校が学校図書館を、また初等教育学校は各学年に学年図書室を設ける。図書3,000冊以上を所蔵する学校図書館は、原則として大学で図書館学課程を修了した司書を置くこととされており、司書が置けない場合は教員のうち原則として国民教育省が実施する学校図書館司書講座を受講した者を学校図書館の担当教員に指名し、図書館担当学校事務職員を教員の補助者として置かなければならない。

このように計画された制度設計を持つものの、学校図書館の整備は依然十分ではない。トルコにおける初等中等教育機関数は5万を超えるが、2009年の統計における学校図書館の館数は22,970館に留まっている44

7 専門図書館

企業、行政機関、研究機関、非営利団体などに設置される専門図書館は、トルコの政治・経済・文化の中心都市であるアンカラとイスタンブルを中心に数多く存在するが、館数に関する統計は存在しない。

首都であるアンカラには、官公庁や非営利団体の図書館が50以上ある45 。トルコ最大の都市であるイスタンブルは企業や非営利団体の研究機関が集中しており、専門図書館数は100を超える46 。これらの中には、納本図書館のひとつでもあるアンカラのトルコ大国民議会図書館 Türkiye Büyük Millet Meclisi Kütüphanesi47 、イスタンブル屈指の研究図書館であるイスラム研究センター図書館 İSAM Kütüphanesi48 などが含まれる。

いくつかの専門図書館は、一定の条件で一般の研究者(修士課程以上の学生等)の利用を許可している49

国家計画庁図書館(アンカラ)

国家計画庁図書館(アンカラ)

8 トルコの図書館・情報政策

トルコでは、国立図書館と公共図書館を中心とする図書館に対する政策は文化行政の一部とされる。

文化観光省における図書館政策の担当部署は、図書館・出版総局 Kütüphaneler ve Yayımlar Genel Müdürlüğü50 である。「文化観光省の組織と所掌に関する法律 Kültür ve Turizm Bakanlığı Teşkilat ve Görevleri Hakkında Kanun」によると、同局は公共図書館の企画立案のほか、「他の公的機関によって運営される図書館と、私人または法人によって設置され公衆に公開されている図書館の運営上、学術上および技術上の活動の準備、実現および発展を援助し指導すること」も所掌し、あらゆる図書館の振興に関する政策をつかさどる。しかし、これまで見てきたように、文化観光省は国立図書館と公共図書館の運営に直接携わっているのみで、総合的な図書館政策は実現していない。

一方で、情報化政策については国家計画庁の主導で政府を挙げて取り組まれている。その一環として図書館にかかわるプロジェクトが行われることもある。2006年から2010年まで5か年で実施された情報化社会戦略行動計画51 では、運輸通信省主管による公共インターネットアクセスセンター構築事業が盛り込まれた。この事業は、約5千万トルコリラ(約30億円)を投じて学校などの公共機関に国民が無償使用できるインターネット端末を整備するものである。事業の結果、公共図書館にもインターネット環境が構築され、公共図書館には読書よりもインターネット利用を目的とした利用者が集まっている。

また、同計画には、統合電子図書館システム構築事業も盛り込まれていた。同事業は国立学術ネットワーク・情報センター(ULAKBİM)が担当となり、全国総合目録 Ulusal Toplu Katalog (TO-KAT)52 が構築された。全国総合目録は、最終目標としてすべての大学、研究機関、公共図書館を網羅する計画である。

9 おわりに

以上、トルコの図書館事情について、駆け足に紹介してきた。

目につくのは、国営だが予算の乏しい公共図書館と、比較的恵まれた一部の学術図書館との好対照である。また、資料利用環境はデジタル媒体へと急速に移り変わりつつあり、国立図書館等における貴重資料の電子化、大学図書館における電子ジャーナルの導入は教育・研究に激変をもたらしている。

(はやし しゅんすけ)


1. イスケンデル・パラ(高松洋一訳)「トルコの文化と歴史に関する文字資料を図書館の環境で利用すること」『史資料ハブ地域文化研究』9, 2007, pp.80-81.

2. Jale Baysal, "Cumhuriyet Döneminde Türk Kütüphaneciliğinin Gelişmesi," Cumhuriyetin 50. Yılına Armağan, İstanbul : Edebiyat Fakültesi, 1973, p.101.

3. Ali Can, "Kütüphaneler Genel Müdürlüğü'nün Tarihçesi," Türk Kütüphaneciliği, 12(1), 1998, pp.54-61.

4. Ahmet Çelik, "Türkiye'deki Üniversite Kütüphanelerinin Tarihsel Gelişimi," Prof. Dr. İlhan Kum'a Armağan, Ankara : Türk Kütüphaneciler Derneği, 1994, pp.31-33.

5. Lawrence S. Thompson, Türkiyede Kütüphaneleri Geliştirme Programı, İstanbul : MEB Basımevi, 1952.

6. 林瞬介「トルコの司書職制と図書館情報学教育」『カレントアウェアネス』307, 2011, pp.12-14.

7. Hasan Duman (haz.), Beyazıt Devlet Kütüphanesi 100 Yaşında, İstanbul : Türk Kütüphaneciler Derneği İstanbul Şubesi, 1984, pp.9-10.

8. http://www.mkutup.gov.tr/

9. Cultural Statistics 2009, Ankara : Turkish Statistical Institute, 2009, p.68.

10. Ibid., p.67.

11. The Turkish National Library, Ankara : Presicency of National Library, 1995, pp.15-21.

12. Cultural Statistics 2009, pp.65-67.

13. 邊見由起子「エジプトとトルコの出版事情 : 出張報告」『アジア情報室通報』5(2), 2007, p.7.

14. https://www.yazmalar.gov.tr/ ; http://sureli.mkutup.gov.tr/

15. "Milli Kütüphane AB'ye Girdi," Anadolu Ajansı, 2011.1.21.
(http://www.aa.com.tr/tr/milli-kutuphane-abye-girdi.html)
国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係「トルコ国立図書館がEuropeanaに参加か」『カレントアウェアネス・ポータル』
(http://current.ndl.go.jp/node/17508)

16. 間寧「トルコ : 地方統治から地方自治へ」伊能武次, 松本弘(共編)『現代中東の国家と地方. 2』日本国際問題研究所, 2003, pp.1-8.

17. Kültür ve Turizm Bakanlığı, "Kültür ve Turizm Bakanlığı 2010-2014 Stratejik Planı," Kültür ve Turizm Bakanlığı Strateji Geliştirme Başkanlığı, 2010, p.29.
(http://sgb.kulturturizm.gov.tr/dosya/1-235086/h/stratejikplan.pdf)

18. 2009年の文化統計では、公共図書館の館数は1,149であるが、上述した文化観光省の公共図書館数1,135に、同省所属の写本図書館数14を合算した値と思われる。
Cultural Statistics 2009, pp.84-85.

19. Türk Kütüphaneciler Derneği İstanbul Şubesi, "Halk Kütüphaneleri Bildirgesi," Türk Kütüphaneciler Derneği, 2004.
(http://www.kutuphaneci.org.tr/index.php?option=com_content&view=article&id=66&Itemid=100)

20. 「全国的性格を有さない図書館」の市への移管に関する規定を含む2004年の「公共行政の基本原則およびその再構築に関する法律 Kamu Yönetiminin Temel İlkeleri ve Yeniden Yapılandırılması Hakkında Kanun」は、大統領の拒否権行使により未施行。県公共図書館を県特別行政体、その他の図書館を市に移管する2006年の「文化観光省の地方機関の県特別行政体または市への移管に関する法律案 Kültür ve Turizm Bakanlığı'nın Bazı Taşra Kuruluşlarının İl özel İdareleri ve Belediyelere Devredilmesi ile Bazı Kanun ve Kanun Hükmünde Kararnamelerde Değişiklik Yapılmasına Dair Kanun Tasarısı」は、審議未了である。

21. İsmail Akman,"Halk Kütüphanelerinin Yerel Yönetimlere Devri," Türk Kütüphaneciliği, 18(1), 2004, pp.73-75.
Id., "Bir Felaket Senaryosu : Kütüphanelerin Belediyelere Devri," Türk Kütüphaneciliği, 22(2), 2008, pp.226-229.
Hasan Duman, "Halk Kütüphanelerinde Yeniden Yapılanma," Türk Kütüphaneciliği, 18(4), 2004, pp.418-445.

22. 「公共図書館所掌・職務規則 Halk Kütüphaneleri Görev ve Çalışma Yönetmeliği」および「公共・児童図書館規則 Halk ve Çocuk Kütüphanleri Yönetmeliği」。

23. Cultural Statistics 2009, pp.106-109.

24. イスタンブル県内の複数の公共図書館における聴き取り。

25. セリミエ公共図書館長ギュルデレン・ディンダル氏 Gülderen Dindar からの聴き取り。

26. Cultural Statistics 2009, p.5.

27. Kültür ve Turizm Bakanlığı, "2008 Yılı Kurumsal Mali Durum ve Beklentiler Raporu,"Kültür ve Turizm Bakanlığı Strateji Geliştirme Başkanlığı, 2008.
(http://sgb.kulturturizm.gov.tr/dosya/1-130889/h/kulturturizm.pdf)

28. トルコ図書館員協会会長アリ・フアト・カルタル氏 Ali Fuat Kartal からの聴き取り。

29. http://www.beyazitkutup.gov.tr/

30. http://www.yazmakutup.gov.tr/

31. ベヤズト国家図書館司書エルデム・セルチュク氏 Erdem Selçuk からの聴き取り。

32. http://www.tufs.ac.jp/common/fs/asw/tur/htu/

33. https://www.yazmalar.gov.tr/

34. 農村サービス総局のホームページに掲載されているテキストを利用した。
http://www.khgm.gov.tr/mevzuat/Kanun/belediyekanunu.htm

35. 筆者が訪問した範囲内では、市自治体のうちベイオール、カドゥキョイには図書館があり、ウムラニエは「文化教育センター」や「情報の家」という名称の図書館機能を有する施設を各街区に置いている。

36. ベイオール市立トゥラビババ図書館 Beyoğlu Belediyesi Turabibaba Kütüphanesi における聴き取り。

37. http://www.izmirmillikutuphane.com/

38. Ahmet Gürlek, "İzmir Millî Kütüphanesi," Türk Kütüphanecier Derneği Bülteni, 29(4), 1980, pp.241-253.

39. "Üniversiteler," Yükseköğretim Kurulu.
(http://www.yok.gov.tr/content/view/527/222/

40. Cultural Statistics 2009, p.71.

41. http://www.library.boun.edu.tr/

42. ボアズィチ大学図書館・ドキュメンテーション部専門員ゼリハ・ギュンダイ氏 Zeliha Günday からの聴き取り。

43. Mehmet Toplu, "Elektronik Yayıncılığın Ortak Koleksiyon Geliştirme ve Kütüphane Konsorsiyumlarına Etkileri ve Türkiye'deki Uygulamalar," Türk Kütüphaneciliği, 23(3), 2009, pp.466-479.

44. Cultural Statistics 2009, pp.75-83.

45. トルコ図書館員協会アンカラ支部のホームページには、官公庁等46館、非営利団体13館の専門図書館が掲載されている。
"Ankara Kütüphaneleri," Türk Kütüphaneciler Derneği Ankara Şubesi.
(http://www.tkdankara.org.tr/index.php/ankara-kuetuephaneleri)

46. トルコ図書館員協会イスタンブル支部の運営するホームページ「イスタンブルの図書館」には、103館が掲載されている。
"İstanbul Kütüphaneleri."
(http://www.istanbulkutuphaneleri.org/)

47. http://www.tbmm.gov.tr/kutuphane/

48. http://www.isam.org.tr/
小笠原弘幸「トルコ宗教財団イスラーム研究センター(İSAM)」『アジア経済』48(4), 2007, pp.102-108.

49. 研究者の立場からの利用については以下の文献を参照。
秋葉淳「イスタンブル : 図書館ガイド」『アジア研究情報ゲートウェイ』
(http://asj.ioc.u-tokyo.ac.jp/html/guide/istanbul/is_t_f.html)
宇野陽子「トルコの文書館・図書館案内 : トルコ共和国建国史研究のために」『イスラム世界』65, 2005, pp.37-46.
藤波伸嘉「トルコ国内におけるオスマン帝国・トルコ共和国議会関係史料の所蔵状況」粕谷元(編)『トルコにおける議会制の展開』東洋文庫, 2007, pp.191-342.

50. http://kygm.kulturturizm.gov.tr/

51. Bilgi Toplumu Stratejisi Eylem Planı (2006-2010), Ankara : Devlet Planlama Teşkilatı, 2006, 44p.

52. http://www.toplukatalog.gov.tr/

(URLの最終アクセスは全て2011年2月15日)

(注49補遺)脱稿後、次のウェブサイトが公開された。
吉田達矢「トルコ共和国イスタンブル・アンカラの文書館・資料館」『イスラーム地域資料館・研究機関ガイド』(http://www.tbias.jp/researchguide_detail.html)

(追記)本稿は筆者が国立国会図書館の在外研究制度により、トルコ語研修及びトルコにおける図書館事情に関する調査を目的として平成22年9月から11月にかけて行った出張の成果である。出張期間中、多くの図書館を訪問する機会を得たが、紹介し尽くせなかった。面会した図書館員の諸氏に筆者の力不足をお詫びするとともに、改めてお礼申し上げる。

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