軍備制限ニ関スル帝国ノ方針

昭和4年6月28日 閣議承認

収載資料:日本外交文書 ロンドン軍縮会議予備交渉・条約説明書 外務省 1977.3 pp.108-110 当館請求記号:A99-Z-77

一、軍備制限ニ対スル帝国ノ態度
軍備ヲ縮少シ国民ノ負担軽減ヲ計リ以テ世界平和ノ維持ニ寄与セントスル崇高ナル企図ニ対シテハ帝国ハ真摯ナル態度ヲ以テ列国ト協調スルニ努ムヘシ
雖然列国間ノ軍備制限ハ公正且合理的ナラサルヘカラス且又特殊ノ国情ニ在ル国家ニ対シテハ之カ国情ヲ充分考慮スヘキモノニシテ若シ夫レ国家自衛上安全確保ヲ期シ得ラレサル如キ縮少案ハ世界的軍備縮少ナル大事業ノ真目的ヲ達成スル所以ニアラサルモノト認ム
二、帝国海軍軍備ノ目標
帝国海軍軍備ハ一ニ受動的ニ国家ノ自主独立ヲ擁護スルヲ目的トシ素ヨリ何等侵攻的意図ヲ有スルモノニアラス従テ自衛的作戦方針ノ要求ヲ充シ得ルト同時ニ吾国民生活必需資源ヲ海外ニ仰カサルヘカラサル特殊国情ニ鑑ミ須要ナル交通線ヲ維持確保スルニ必要ナル兵力ヲ保有スルヲ絶対必要トシ且之ヲ以テ足レリトスルモノナリ
而シテ右ノ目的ヲ達成スルニハ補助艦ニ関スル限リ世界最大海軍ニ対シ少クモ七割程度ノ兵カヲ必要ト認ム
三、制限方式
制限方式ノ決定ニ関シテハ制限目的ノ趣旨ニ合シ且簡明正確ニシテ実行容易ナルヲ期スルヲ要ス而シテ其ノ内容ハ多岐ニ亙ルト雖其ノ主要点ヲ要約スレハ保有兵力量、比率及兵力ノ内容ノ三件ヲ協定スルコトニ帰着スヘシ
而シテ此等三件ハ各国特殊ノ国情ヲ参酌シ国家安全ノ平等ヲ期スルノ精神ヲ基調トシテ決定セラルヘキモノナリ
保有兵力量ニ関シテハ軍備制限ノ趣旨ニ基キ軍備ノ縮減ヲ期スルニ努メ苟モ拡張ニ亙ル如キコトナキヲ要ス
比率ニ関シ帝国ハ量的不平等ヲ認ムルノ已ムヲ得サル現状ニアルモ国家自衛平等ノ主義ニ則リ国防的平等ヲ期セントスルモノナリ
保有兵力ノ内容ニ関シテハ二十糎砲搭載巡洋艦以上ノ大艦ハ特ニ比率ヲ重視シ軽巡洋艦以下ノ小艦及潜水艦ニ於テハ自主的所要量ヲ主トシテ考慮スヘキモノナリ海軍力測定ノ尺度ハ合理的且簡単ナルヲ可トス備砲口径速力其他ノ能力要素ヲ加味スルノ案ハ一見妥当ナル如クニシテ実ハ合理的ナラス且之カ実際ノ適用ハ頗ル困難不確実ナリ
結局排水量若ハ排水量ニ艦齢ヲ加味セルモノヲ以テ勢力比較ノ尺度トスルヲ最妥当ナリトスルニ帰スへシ
四、海軍軍備制限問題ハ其ノ性質上二、三強大国ノミニテ討議協定スルハ妥当ナラス会議ハ直接利害関係ヲ有スル 主要海軍国全部協力シテ之ヲ開催進行セシメサルヘカラサルモノト認ム