日華和平交渉に関する在京独逸大使宛回答文

昭和12年12月21日 閣議決定

収載資料:日本外交年表並主要文書 下巻 外務省編 原書房 1966.1 pp.380-381 当館請求記号:319.1-G13n-h

本月七日貴大使ヨリ本大臣ニ対スル口頭御説明並ニ同日附覚書ニ依ル日支事変ノ和平直接交渉ニ対スル貴国政府ノ好意的御配慮及在支貴国大使ノ御努力ハ本大臣ノ感佩スル所ナリ然ルニ最近戦局急速ニ発展シ事態ニ大ナル変転ヲ見タル情勢ニ鑑ミ帝国政府ノ提示セントスル基礎条件ハ左記ノ如キモノニシテ支那側カ之ヲ講和ノ原則トシテ総括的ニ承認シテ帝国政府ニ和ヲ乞フノ態度ヲ表示シ来ルニ於テハ帝国トシテモ之ニ応シ日支直接交渉ヲ開始スルノ用意アリ
若シ右原則ニシテ受諾セラレサル場合ニハ帝国トシテハ遺憾乍ラ従来ト全ク新ナル見地ニ立チ事変ニ対処スルノ已ムナキニ至ルヘキコトヲ含ミ置カレ度
左  記
一、支那ハ容共抗日満政策ヲ放棄シ日満両国ノ防共政策ニ協力スルコト
二、所要地域ニ非武装地帯ヲ設ケ且該各地方ニ特殊ノ機構ヲ設定スルコト
三、日満支三国間ニ密接ナル経済協定ヲ締結スルコト
四、支那ハ帝国ニ対シ所要ノ賠償ヲナスコト
口頭説明
(一)支那ハ防共ノ誠意ヲ実行ニ示スコト
(二)支那ハ一定ノ日限内ニ講和使節ヲ日本ノ指定スル地点ニ派遣スルコト
(三)我方トシテハ大体本年中ニ回答アルモノト考ヘ居ルコト
(四)蒋介石カ只今内示ノ原則承認ノ意ヲ表明シタル上ハ独逸側ニ於テ日支双方ニ対シ停戦ノ慫慂ニアラスシテ日支直接交渉方ノ慫慂ヲ為サルル様致度
(五)独逸大使ノ質問ニ応シ只今内示ノ原則ヲ一層具体化セル条件トシテ我方ニ於テ考慮シ居ル所ヲ御参考迄ニ申上クレハ別紙ノ通ナリ(極秘トシテ)
日支講和交渉条件細目
一、支那ハ満洲国ヲ正式承認スルコト
二、支那ハ排日及反満政策ヲ放棄スルコト
三、北支及内蒙ニ非武装地帯ヲ設定スルコト
四、北支ハ支那主権ノ下ニ於テ日満支三国ノ共存共栄ヲ実現スルニ適当ナル機構ヲ設定之ニ広汎ナル権限ヲ賦与シ特ニ日満支経済合作ノ実ヲ挙クルコト
五、内蒙古ニハ防共自治政府ヲ設立スルコト其ノ国際的地位ハ現在ノ外蒙ニ同シ
六、支那ハ防共政策ヲ確立シ日満両国ノ同政策遂行ニ協力スルコト
七、中支占拠地域ニ非武装地帯ヲ設定シ又大上海市区域ニ就テハ日支協力シテ之カ治安ノ維持及経済発展ニ当ルコト
八、日満支三国ハ資源ノ開発、関税、交易、航空、通信等ニ関シ所要ノ協定ヲ締結スルコト
九、支那ハ帝国ニ対シ所要ノ賠償ヲナスコト
附記
(一)北支内蒙及中支ノ一定地域ニ保障ノ目的ヲ以テ必要ナル期間日本軍ノ駐屯ヲナスコト
(二)前諸項ニ関スル日支間ノ協定成立後休戦協定ヲ開始ス
支那政府カ前記各項ノ約定ヲ誠意ヲ以テ実行シ日支両国提携共助ノ我方理想ニ真ニ協力シ来ルニ於テハ帝国ハ単ニ右約定中ノ保障条項ヲ解消スルノミナラス進テ支那ノ復興及其ノ国家的発展、国民的要望ニ衷心協力スルノ用意アルコトヲ茲ニ闡明ス