華中電気通信株式会社設立要綱

昭和13年7月12日 閣議決定

収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 84 ゆまに書房 1997.5 118-127 当館請求記号:YC-98

第一 方針
中支那ニ於ケル経済復興ニ資シ併セテ国防上ノ要求ヲ充足スルト共ニ日満支ヲ一連トスル通信政策ノ実現ヲ期センカ為維新政府ノ特殊会社タル華中電気通信株式会社ヲ設立ス
第二 要領
一、名称 華中電気通信株式会社(仮称)
二、目的
(イ)中支那ニ於ケル電気通信事業(放送無線電話事業ヲ除ク)ノ統制経営
(ロ)電気通信設備ノ貸付
(ハ)前記各項ニ附帯スル業務並ニ関係事業ニ対スル投資
三、資本
(イ)資本総額  一千五百万円
内訳
維新政府現物出資   五百万円
現金出資       一千万円
(ロ)現物出資ハ全額払込トシ現金出資ハ第一回払込半額トス
註一、現物出資ハ維新政府所有ノ公衆通信ノ用ニ供スル電気通信設備並ニ其ノ附属設備トシ其ノ評価標準ハ之ヲ現存財産価値ニ置キタルモノナリ
二、現金出資中六百万円ハ中支那振興株式会社ニ於テ引受クルモノトシ残余ノ四百万円ハ関係事業会社ヲシテ引受ケシムルモノトス
四、国籍及本店ノ所在地
維新政府ノ特殊会社トシ本店ヲ上海ニ置ク
五、役員
役員ハ社長、副社長各一人、取締役三人以上、監査役二人以下トス
六、統制要領
維新政府ハ本会社以外ニ電気通信事業ノ新設ヲ認メス且現ニ国有以外ノ同種事業ハ会社設立後可及的速ニ合併、買収其ノ他ノ方法ニ依リ本会社ノ統制下ニ入ラシムル様必要ナル措置ヲ為スモノトス
七、特典
(イ)払込株金額ノ二倍迄ノ社債募集ト其ノ元利金支払保証
(ロ)維新政府以外ノ者ノ持株ニ対スル優先配当
(ハ)会社ノ財産、所得及営業、会社ノ為ス契約、登記及登録並ニ会社ノ事業ニ要スル物件ニ対シテハ租税其ノ他一切ノ公課ヲ免除サルルモノトス
(ニ)会社ハ土地ノ収用、電線路ノ建設、道路、河川、橋梁、堤防其ノ他公共用土地ノ使用、料金ノ徴収ノ手段及手続等通信事業経営ニ関シ必要ナル一切ノ特権ヲ享有スルモノトス
八、特殊義務
維新政府ハ本会社ニ対シ公益上必要ナル命令ヲ為シ又ハ其ノ設備ニ関シ公益上必要ナル措置ヲ為スコトヲ得。因テ生シタル損失ハ維新政府之ヲ補償スルコトアルヘシ
九、借款ノ処理
電政借款ニ対シテハ将来維新政府ト外国トノ間ニ借款整理協定成立スルコトアルヘキヲ予期シ本会社ヨリ維新政府ニ別途研究ノ上定メラルヘキ金額ヲ上納スル如ク措置スルモノトス
備考
(一)鉄道及航空事業ニ附帯スル施設並ニ警備専用施設ニ関スル方針ハ後日関係ノ向ト協議ノ上決定スルモノトス
(二)本会社ハ差当リ株式公募ノ方法ニ依ラス発起設立ニ依リ急速ニ成立セシムルモ将来適当ナル時期ニ於テ一般国民カ本会社ノ株主タリ得ルノ途ヲ拓クモノトス其ノ際出征者及其ノ家族、在支邦人等ニ対シ特別ノ考慮ヲ払フモノトス
(三)本会社ノ従業員ノ採用ニ付テハ出征者及其ノ家族、在支邦人等ニ対シ事情ノ許ス限リ特別ノ考慮ヲ払フモノトス

閣議諒解事項(其ノ一)
(一)本会社ト振興会社トノ関係
(イ)本会社ノ社長及副社長ノ選任及解任ニ付テハ振興会社総裁ノ承認ヲ得シムル如ク措置スルモノトス
(ロ)本会社ノ定款ノ変更、利益金ノ処分、事業計画其ノ他事業上ノ重要事項ハ予メ振興会社ノ承認ヲ得シムル如ク措置スルモノトス
(二)本会社ト維新政府トノ関係
本会社カ維新政府ノ認可ヲ受クヘキ事項ハ概ネ定款ノ変更、合併並ニ解散ノ決議ノ程度トス
(三)本会社ニ対スル日本政府ノ国防上ノ要求
中支那振興株式会社法第二十三条ニ依ル日本政府ノ振興会社ニ対スル命令ニ基キ国防上必要トスル事項ヲ本会社ヲシテ実施セシムル件ニ付テハ右規定ノ趣旨ニ則リ関係庁間ニ於テ研究ノ上決定スルモノトス

閣議諒解事項(其ノ二)
東亜ニ於ケル無線通信ノ整正確実ヲ期スル為支那ニ於ケル無線通信ニ使用スル周波数ノ選定及変更ニ付テハ日支両国政府間ニテ協議ノ上日本政府(各庁対支行政事務ノ統一保持ニ関スル事務ヲ掌ル中央機関)ニ於テ一元的ニ統制スル如ク措置スルモノトス

閣議諒解事項(其ノ三)
華中電気通信株式会社設立要綱実施ニ当リテハ資金物資ノ関係ニ付左記ニ依ルモノトス

(一)本邦ニ住所ヲ有スル者(法人ヲ含ム)ノ引受株式ノ払込ハ本邦ニ於テ之ヲ為シ資金必要ノ都度之ヲ現地ニ送金スル様措置スルモノトス
(二)本事業遂行ニ要スル諸物資ハ能フ限リ之ヲ本邦ニ於テ調達スルモノトス
(三)本邦ヨリ既ニ積出済ノ貨物ノ代金ノ決済ハ之ヲ本邦ニ於テ為スモノトス
(四)外国資本(支那資本ヲ含ム)ノ買収ハ極力之ヲ避ケ現物出資ノ方法ニ依ルコト。已ムヲ得ス買収ノ要アルトキハ契約締結前ニ日本政府ト協議スルモノトス
(五)起業費、運転資金ノ送金及設備用機械類ノ無為替輸出ニ関シ今後ノ為替状勢及物資需給関係等ニヨリテハ当初ノ資金物資計画ヲ変更スルノ要アルヘシ