価格報奨制度要綱(案)

昭和18年3月30日 閣議決定

収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 89 ゆまに書房 1997.5 81-87 当館請求記号:YC-98

昭和一八年二月十六日閣議決定「緊急物価対策要綱」ニ基キ生産増強ニ寄与シタル経営ニ対シ左記ニ依リ価格政策上ノ報奨的措置ヲ講ジ以テ生産者ノ熱意ヲ振起セントス

一、価格報奨制度適用ノ範囲及報奨措置ノ対象
(一)本要綱ニ依ル価格報奨制度ハ特別価格報奨及一般価格報奨ノ二種トシ特別価格報奨ハ特定緊要物資(差当リ鉄鋼、石炭、軽金属、非鉄金属、船舶及肥料トス)ノ増産ヲ実現シタル場合ニ於テ之ヲ適用シ、一般価格報奨ハ統一原価計算ニ基キ個別価格ヲ形成スル場合ニ於テ之ヲ適用スルモノトス
特別価格報奨ハ一般価格報奨ト併行シテ之ヲ適用スルモノトス
(二)価格報奨措置ハ生産単位タル工場事業場毎ニ之ヲ実施スルモノトス
二、報奨ヲ為スベキ場合、方法及其ノ程度
(一)特別価格報奨
特別価格報奨ハ生産量増強ニ対シ左ノ措置ヲ講ズルモノトス
(イ)基準生産量ヲ超エテ増産ヲ遂行シタル場合
基準生産量ハ各工場事業場ニ付一定期間ニ対シ之ヲ定ムルモノトシ之ヲ超過スル増産部分ニ対シ増産ノ度ニ応ジ割増価格ヲ認ムルモノトス
割増価格ハ概ネ人件費ニ対スル一定割合ヲ限度トシ超過増産遂行率ニ応ジ逓増的ニ之ヲ算定シ原則トシテ一定期間毎ニ一括シテ速ニ之ヲ後払ヒスルモノトス
割増価格ノ算定及其ノ交付ニ当リテハ能フ限リ生産品ノ企画又ハ性能、前数期ノ成績及当該工場事業場ノ属スル企業ノ総合成績等ヲモ斟酌スルモノトス
(ロ)生産期間ヲ短縮シタル場合
業種ノ特質ニ応ジ(イ)ニ代ヘ之ヲ行フモノトス
生産期間ノ決定、割増価格算定ノ方法及其ノ程度ハ(イ)ニ準ズルモノトス
(二)一般価格報奨
一般価格報奨ハ(イ)能率向上ニ依リ生産品原価ヲ低減シ又ハ其ノ増嵩ヲ抑制シタル場合及(ロ)生産品原価ガ当該業種ノ基準原価ニ比シ低位ナル場合ニ之ヲ実施スルモノトス
一般価格報奨ハ当該工場事業場ノ生産品ノ価格形成ニ当リ原価ニ附加スベキ利潤ノ算定ニ際シ原価ヲ低減シ若ハ其ノ増嵩ヲ抑制シタル部分又ハ生産品原価ガ基準原価ニ比シ低位ナル部分ノ一定割合ヲ特別利潤トシテ賦与スルモノトス
右ノ一定割合ハ能率向上ニ依リ生産品原価ヲ低減シ又ハ其ノ増嵩ヲ抑制シタル場合ト生産品原価ガ当該業種ノ基準原価ニ比シ低位ナル場合トニ付業種ノ特質又ハ工場事業場ノ実情ヲ斟酌シテ之ヲ定ムルモノトス
尚生産品原価ガ当該業種ニ於テ一定限度以下ナル優秀工場ニ対シテハ右ノ一定割合ヲ増加スルモノトス
一般価格報奨ハ別途決定スベキ戦時適正利潤算定要綱ニ於テ適正利潤トシテ之ヲ認ムルモノトス
三、価格報奨制度ニ依ル特別利潤ノ処分
(一)特別価格報奨ニ依リ企業ニ生ジタル利潤ハ企業者ヲシテ最モ生産増強ニ寄与スル如ク処分セシムルモノトス、而シテ其ノ役員、社員及労務者又ハ株主ニ対スル分配ニ関シテハ会社経理統制令及賃金統制令ノ運用ヲ調整スルモノトス
一般価格報奨ニ依リ企業ニ生スベキ利潤ノ分配ニ付テモ右ニ準ジ会社経理統制令及賃金統制令ノ運用ヲ考慮スルモノトス
(二)特別価格報奨中企業ノ基礎ヲ堅実ナラシムル等ノ目的ヲ以テ社内ニ留保セラレタル部分ニ対シテハ租税減免ノ措置ヲ講ズルコトヲ考慮スルモノトス
四、前各号実施ノ為左ノ措置ヲ講ズルモノトス
(一)報奨基準生産量等ノ決定
特別価格報奨ノ基準ト為ルベキ生産量ハ国家計画ニ基ク所要生産量ヲ確保スル為当該工場事業場ニ於ケル最近ノ実績、生産能力、資材労務ノ配当等ヲ勘案シ陸海軍ノ管理下ニ在ル工場ニ対シテハ陸海軍、其ノ他ノ工場及事業場ニ対シテハ当該生産担当庁ニ於テ生産品ノ品種及品位別割合ト共ニ毎年度之ヲ決定スルモノトス
(二)弊害ノ防止措置
本制度実施ニ伴ヒ報奨基準生産量ノ低減ヲ図リ又ハ特定工場事業場若ハ特定期間ノ増産達成ノ為他ノ工場事業場若ハ次期ニ於ケル減産ヲ顧ミザル等ノ弊害ヲ防止スル為報奨ニ当リ企業ノ全般ニ亘リ充分ニ生産ノ実情ヲ把握スルハ勿論統制会等ヲシテ責任ヲ以テ能率監査ヲ実施セシメ所要ノ措置ヲ講ズルモノトス
備考
一、外地ニ於テモ本要綱ニ準ジ価格報奨措置ヲ実施スルモノトス
二、重要兵器(艦艇ヲ含ム)ノ増産ニ対スル価格報奨ニ付テハ陸海軍ニ於テ別途適当措置スルモノトシ、之ニ基ク利潤ノ分配ニ付テハ本要綱ニ準ジ会社経理統制令及賃金統制令ノ運用並ニ租税減免ノ措置ヲ講ズルモノトス
三、本要綱ニ依ル特別価格報奨トシテ交付スベキ金額ハ価格調整補給金ニ依リ支出スルモノノ外ハ国庫ニ於テ別途之ヲ負担スル趣旨トス
四、特別価格報奨ヲ実施シタル場合ニ於テハ之ト同様ノ性質ヲ有スル奨励金、補助金等ハ之ヲ廃止スルモノトス
五、報奨措置ノ的確ヲ期スル為速ニ原価計算、原単位計算、財務及経営比較等ニ基ク経営ノ総合的能率基準ヲ設定スルモノトス
六、本要綱ニ基ク価格報奨制度ノ外生産増強上ノ貢献ニ対スル各種ノ報奨ヲ別途実施ノ要アルモノトス