農地制度改革ニ関スル件

昭和20年11月22日 閣議決定

収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.283-284 当館請求記号:AZ-332-17

健全ナル農家ノ育成ニ依リ農業生産力ノ発展ヲ図ルハ食糧生産確保ノ要諦タルノミナラズ日本再建ノ基盤ナルニ鑑ミ自作農創設ノ強化、小作料金納化等ノ措置ニ依リ農業停滞ノ要因タリシ農地制度ヲ根本的ニ改革セントス
一、自作農創設ノ強化
今後五ケ年以内ニ急速且全面的ニ健全ナル自作農ヲ創設スルモノトス
1 自作農創設計画ノ対象ハ概ネ不在地主ノ所有スル農地及在村地主(隣接市町村ニ在住スル者ヲ含ム)ノ所有スル五町歩程度(全国平均)ヲ超ユル農地トスルコト
不在地主ガ近キ将来ニ於テ自作ヲ為スヲ適当トスル農地及在村地主ガ現ニ五町歩程度(全国平均)ヲ超エテ自作シ又ハ近キ将来ニ於テ五町歩程度(全国平均)ヲ超エテ自作ヲ為スヲ適当トスル農地ハ前項ノ自作農創設計画ノ対象ト為サザルコト
自作農ガ五町歩ヲ超エテ現ニ自作スル場合モ前項ノ取扱ヲ為スコト
2 都市計画法ニ依ル都市計画区域ニ存スル農地ニシテ自作農創設ヲ為スヲ不適当トスルモノニ付テハ本計画ノ対象ト為サザルコト
3 自作農創設ノ方法ニ付テハ事業ノ急速ナル進展ヲ図ル為要スレバ市町村農業会等ヲシテ小作地ヲ一括買取ラシメ此ノ農地ノ再配分ヲ図ル様指導スルコト
4 地主ノ土地売却代金ハ長期預金、証券交付等ノ特別方法ヲ採リ適当ナル限度ニ其ノ使用及処分ヲ制限スルコト
5 土地ノ買受ニ要スル資金ニ付テハ自己資金ノ活用ニ依リ可及的ニ即時支払ヲ奨励スルコトトシ資金ノ融通ヲ必要トスル場合ハ長期年賦償還方法ニ依リ資金ノ融通ヲ認ムルコト
6 自作農創設ニ要スル農地ノ提供ヲ促進スル為市町村農業会、市町村農地委員会等ガ農地ノ譲渡ヲ申込ミ地主ガ之ヲ拒絶シタルトキハ地方長官ニ於テ之ヲ強制シ得ル方途ヲ講ズルコト
7 農地ノ価格ハ自作農創設ヲ促進スル為自作収益価格(田ハ賃貸価格ノ四〇倍、畑ハ賃貸価格ノ四八倍程度)ヲ基準トシテ之ガ統制ヲ継続スルコト
8 自作農創設ノ為農地ヲ提供スル所有者ニ対シ国庫ヨリ一定ノ報奨金ノ支給ヲ為スコト
9 地方長官ノ譲渡ノ強制及其ノ農地ノ価格ニ対シテハ異議ノ申立、訴願等ノ方法ニ依リ農地ノ所有者ニ法律上ノ救済手段ヲ認ムルコト
二 小作料ノ金納化
自作農ノ創設ト共ニ小作料ハ之ヲ金納化スルモノトス但シ米ノ現物小作料ニ付テハ昭和二十一年産米ヨリ之ヲ適用スルモノトス
1 現物小作料制(代金納ヲ含ム)ハ之ヲ認メザルコトトシ現存ノ現物小作契約(代金納ヲ含ム)ハ昭和二十年産米ノ地主価格(米以外ノ現物ニ付テハ別ニ定ムル価格)ニ依リ之ヲ金納契約ニ改ムルコト
2 小作料ノ統制ハ之ヲ継続スルコト
三 市町村農地委員会ノ刷新
自作農創設ノ促進、小作料ノ適正化等農地制度ノ改革ハ地主並ニ耕作者ノ協力ニ依ルコトヲ要スルヲ以テ市町村農地委員会ヲ改組シ委員ハ両者ノ立場ヲ正当ニ代表スル如キ選挙方法ヲ以テ選出スルト共ニ之ニ広汎ナル権能ヲ与ヘ自作農創設ノ促進、小作料ノ適正化等農地問題ノ自主的解決ニ当ラシメントス
備考
1 農地ノ移動、潰廃ノ統制ハ之ヲ継続スルコト
2 本件ニ関スル法的措置ハ農地調整法ノ改正ニ依ルコト
3 国家総動員法ニ基ク小作料統制令、臨時農地価格統制令及臨時農地等管理令ハ之ヲ廃止スルコト