食糧危機突破対策要領

昭和21年6月7日 閣議決定

収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.295-296 当館請求記号:AZ-332-17

第一 食糧危機突破の国民運動の基盤確立に関する事項
(1)政府は本食糧年度に於ける食糧危機の実態を明にすると共に救国精神の喚起を期する為食糧非常時宣言を行ふこと
(2)右非常時宣言を機とし各政党、言論機関等に対し危機突破の為の全面的協力を懇請すること。尚要すれば政府施策並に国民運動の推進機関として各政党、農業団体、農民組合、労働組合等の代表者を網羅せる食糧対策委員会の設置を関係方面に要望すること
備考 国民運動は各界を通じ夫々の分野に於て之を期待するも全体的統制を紊さざる様特に留意すること
第二 危機突破の為に差当り執るべき施策
(1)昭和二十年産米の供出に付ては可能最大限度の促進を図ることとし右は自主的救国運動に依り之を期待すること
(2)危機突破上最も重要なる麦、藷類の供出に付ては旧穀の農家残存食糧との関連に於て総合的に之を考慮し特に月別供出計画の確実達成を期すること
(3)農家残存食糧及び今後の麦、藷類等に依る農家の明食糧年度への喰繋ぎに関し必要なる消費計画、供出計画等は市町村食糧調整委員会に於て決定せしむることとし右委員会は耕作農家を主体とせる民主的機構たらしむること
(4)供出に関する強権措置は之を存続し其の発動は市町村食糧調整委員会の申請に依るを原則とすること
(5)供出報奨の為繊維製品、石鹸、地下足袋、作業衣等の農家用所要物資の大量集中的の供給を図ることとし麦、藷類の供出に付ては肥料の全面的リンク制を実施すること
(6)既割当以上の超過分及び麦、藷類の供出に対しては全額新円払ひと為すこと
(7)農業倉庫等の一斉調査を施行すると共に官民合同の調査機関を設け隠退蔵食糧の発見を積極化すること
(8)大消費都市に於ては今後の地方転出者に付て無条件自由復帰を認め其の人口疎散を促進するの外、国民学校及中等学校に於て原校に優先復帰を認める条件の下に地方への転入学を勧奨し又は授業時間の短縮若は休校を行ひ、大学、専門学校に於ては夏期休業を繰上げ実施する等適当なる措置を講ずること
尚事務所、工場、事業場等に付可能にして支障なき範囲に於て交代帰郷等を勧奨すること
(9)労務者の家庭加配は之を廃止すると共に重点主義並に生産実績主義に依り労務加配の範囲、数量に付再検討を為し加配数量の節減を図ることとするも要維持基本産業の労務者に対する食糧の確保に付ては特別の措置を考慮すること
(10)高級料理店、高級飲食店の臨時休業を全国的に実施すること
(11)大消費都市に対する生鮮食料品の供給確保の方策を実施すると共に特に水産物に付ては漁船、燃油、漁網等生産資材の急速確保及水産活動の活溌化を図ること
(12)消費都市に於ける食糧の末端配給の公正に努むると共に其の民主化を図ること
(13)未利用食資源の動員特に救急食糧たる葛根の徹底的動員を図ること
備考
(1)肥料増産確保対策に付ては別途至急確定すること
(2)経済安定本部に臨時に食糧対策部を設け、関係各省一体となり食糧施策を強力に推進実施すること
第三 連合軍司令部に対する懇請事項
(1)総理大臣陣頭に立ちて政府の全力を挙げて輸入並に輸入食糧の引渡しの促進に努むること
(2)京浜地区、北海道、青森、山梨等現に窮迫の度甚しき地帯に対する当面所要の食糧補給に必要なる数量約十万噸の確保に関し懇請すること
(3)輸入食糧の裏打ちに依る地方在米の一時借入を為すことに付ての了解を求むること
(4)水産物増産の為現操業海面外に於ける特定漁業の臨時操業の許可を得ること