公共事業処理要綱

昭和21年9月3日 閣議決定

収載資料:林道事業のあゆみ 日本林道協会 1964 pp.353-356 当館請求記号:AZ-431-102

一、経済安定本部は国費に依り行はるる一切の公共事業の計画及一般的監督の責に任ずる。
二、各省が公共事業を実施せんとするときは経済安定本部の認証を受くることを要する。
三、前号の認証に当っては経済安定本部は別表の順位表により順位を定め適当と認むるときは定められたる予算の範囲内に於て必要と認むる額を認証する。
事業計画適当ならずと認むるときは経済安定本部は認証を拒否することを得る。
四、第二に依り認証する金額は三ヶ月以内の分とし事業を継続せんとするときは認証後七十日以内に認証を受けたる事業の実施状況報告を添付し更に三ヶ月以内の継続を受くることを要する。
第二に依り認証を受けたる事業に付ては各省は前項の報告の外事業終了後又は会計年度終了後二ケ月以内に実施状況報告書を提出することを要する。
五、経済安定本部は既に認証したる期間に於ける事業の実施状況を考慮したる上事業継続に必要と認むる額を認証する。
六、経済安定本部に於て認証したる金額は大蔵省所定費目より配付する。
七、経済安定本部は事業実施方法適当ならずと認むるときは未だ使用又は契約せざる資金の返還を命ずることを得る。
八、本規定に依り認証を受けたる事業に於ける労働者の使用に就ては左の条項を遵守することを要する。事業が所管省の監督下にある行政官庁公共団体、公共機関に依りて行はるる場合又は補助を受くる者が行う場合に於ても所管省は事業者をして之を遵守せしめる責任がある。
(1)労働者の傭入は公立の職業紹介機関に依ること。
(2)労働者に対する賃銀支払額及支払方法は事業の行はるる地方に於ける同様の作業に於て普通行はるる所に依ること。
(3)監督者は一定の俸給及事業の成績に依りて支給せらるる賞与の外報酬を受けることを得ないこと。
(4)昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム宣言」の受諾に伴い発する命令に関する件に基く就業禁止、退官、退職等に関する件に依り公職に就き得ない者を監督者として使用せざること。
(5)事業者は労働者が作業怠慢にして充分の能率を発揚せずと認むるときは何時にても傭入を停止し又は解雇することを得ること。
(6)労働者に対する賃金は少くとも月二回作業終了後五日以内に之を支払い、分類所得税、社会保険料その他法令の定むるものの外賃金より差引くことを得ないこと。
(7)事業場には賃金簿を備付け労働者毎に支払額を正確に記入しておくこと。
(8)労働者には作業の性質に応じ労務加配に関する規定に従ひ特別加配食糧を配給すること。
(9)配給物資が正確に直接に労働者に配給せられる様適当なる措置を講ずること。
(10)事業場には配給簿を備付け各人毎に配給品の種類及数量を正確に記入すること。
(11)賃金簿及配給簿は経済安定本部、所管官庁、関係労働組合又は労働者の要求あるときは何時にても閲覧に供すること。
九、経済安定本部は労働者の傭使、募集、賃金、物資配給、労働時間につき必要なる事項を決定することを得ること。
一〇、公共事業を所管する官庁は各事業毎に経済安定本部の定むる所に従ひ経理に関する詳細な記録を保存し、経済安定本部の要求あるときは之を提示することを要する。
政府が補助金にて行う公共事業に於ては補助を受けた事業者をして前各項を遵守せしめることを要する。
一一、経済安定本部は公共事業の監査を行う。
一二、鉄道特別会計及通信特別会計の資本勘定にて施行する事業計画の実施に付ては前各項を適用する。

(別表)
A級 直ちに必要品の生産又は分配を著しく増加し又は之に便宜を与ふるもの。
(1)資材労力共に適当なるもの。
(2)資材適当にして労力充足し得べきもの。
(3)労力適当にして資材充足し得べきもの。
(4)資材労力共に充足し得べきもの。
以下各級共(E級を除く)右に準じ(1)(2)(3)(4)の四級に細分す。
B級 一年間に必需品の生産又は分配を著しく増加し又は之に便宜を与ふるもの。
C級 直接生産の増加なきも国民生活に不可欠の運輸、通信、公安、衛生、教育、社会福祉等の最少限度の要求を充すに極めて重要なもの。
D級 二年内に必需品の生産又は分配を著しく増加し又は之に便宜を与ふるもの。
E級 相当に必需品の生産若くは分配を増加し又はC級に挙げたる効果を挙ぐるも、資材の使用比較的大にして雇傭比較的少きもの。
(1)一年内に生産の結果を挙げ得るもの。
(2)二年内に生産の結果を挙げ得るもの。
(3)C級に挙げた効果を挙げ得るもの。
F級 二年後に於て必需品の生産又は分配を著しく増加し又は之に便宜を与ふるもの。
G級 生産の増加なきも、公安、衛生、教育、社会福祉等に欠くべからざるもの。

備考
1 資材が適当なものとは現在一般に不足する資材、燃料及運搬を要すること比較的少なく、且所要資材は当該事業の要する時に於て調達し得ること明かなものを謂ふ。
2 資材充足し得べきものとは、所要資材の量過大ならず必要の時に於て充足する見込あるものを謂ふ。
3 労力適当なものとは当該事業に必要とする種類の労力が充分その地方にあるものを謂ふ。
4 労力充足し得べきものとは、当該事業に要する労力は供給さるべきも、その中若干は他の地方より招致することを要するものを謂ふ。

附属了解事項
本件八、の(1)公立職業紹介所の利用に就ては、職業紹介所が実際適当なる労働者を紹介すること困難なる場合に於ては、事業者が必要なる労働者を直接雇入れ、職業紹介所に登録するを以て足る様取計ふ等極力手続の簡易化を図ること。