引揚者等援護緊急対策実施に関する件

昭和21年10月22日 閣議決定

収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.297-298 当館請求記号:AZ-332-17

海外引揚者は、終戦とともに多年に亘り海外において築き上げてゐた地歩を根底より覆へされ、而も引揚後においても内地に何等生活の基盤なきため、その大部分は未だ生活再建の途を確立し得るに至らず、甚しきはその日その日の住居にさえ事欠く有様で絶えず生活の危機に曝され、その窮状は日を追ふて深刻化し、今や重大なる社会不安の要因を形成し、この儘放置するにおいては冬期を控え破局的様相を呈するに至らんとする情勢にさえあるので、これら引揚者の定着及び生活再建上、当面最も緊要と認められる寝具、住宅、資金の三者につき次の如き緊急の措置を講じ以て事態の解決を図ることと致し度い。

一、越冬用寝具の給与
国民全般が、寝具の確保に困難を感じつゝある際引揚者等をしてその自力により、冬期に必要な寝具を獲得確保せしむることは凡ゆる点より見て至難であるので、この際政府の責任においてこれら引揚者等の越冬に必要な寝具(毛布、布団)を確保し、給与すること。
二、住宅の応急的確保
住宅難の重圧は、国民の大半が多かれ少かれ受けてゐる所であるが、引揚者等の住宅難は別して深刻であり冬を控え勢の趨く所或は住宅難に苦しむ引揚者等が団結の威力をかり住宅の不法占領を敢行するの風潮を生ずるに至る虞なしとしないので、この際住宅難に悩む引揚者等に対する住宅確保を目標とし、次の内容を含む緊急住宅対策を急速に実施すること。
(イ)集団収容施設として利用し得る一切の施設は、現に使用されて居らず且つ近き将来にもつと緊切な用途に用ゐられる予定のない限り、これに必要な施設を施して引揚者等の集団住宅に充当すること。
(ロ)現に住宅として使用されてゐる家屋でも余裕のあるものは、その余剰部分を引揚者に貸付させることを条件として必要な間仕切り台所、便所等の施設を国の負担において行ひ、これを引揚者等の住宅として使用すること。
(ハ)已むを得ない場合には学校の一部をもこの目的に使用すること。
三、在外預貯金等の解除、返還
引揚者が、海外で金融機関その他に対してなしてゐた預貯金及び之に準ずるものを内地並に取扱ひ、その一定額を第二封鎖預金とし又は之を返還することは極めて緊要と認められるので、政府としてはその実現のため必要な財政的措置を講ずるとともに連合軍総司令部の了解を求めることに着手すること。