政府等の請負契約に基く支払の節減に関する法律案要綱

昭和22年10月24日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.1002-1005 当館請求記号:DG15-19

第一 政府、連合国軍その他政令で指定する者のためになされた工事の完成、物資の生産その他の請負に係る給付につき政府に対して対価の請求をしようとする者は、支払請求書に、当該給付に関して使用されたすべての材料及び労務並びに当該給付に関して提供された労務以外のすべての役務につき、材料については、その数量、規格、品質及び価額、労務については、その労務者の職種別の員数及び賃金額、その他の役務については、その対価の内訳を明記しなければならない。但し、材料及び労務以外の役務で契約成立の際その対価について物価統制令に規定する統制額(以下統制額という。)のないもの並びに官給材料等注文者から無償で供給した材料、労務その他の役務については、この限りでない。

第二 第一により支払請求書に記載する事項については、材料の価額及び労務以外の役務の対価は、請負契約成立当時の統制額(契約成立後統制額の改訂があった場合においては、統制額の改訂後使用された材料又は提供された役務については、改訂後の統制額が改訂前の統制額よりも多額であるときは改訂後の統制額、改訂前の統制額が改訂後の統制額よりも多額であるときは改訂前の統制額を超えない限度において政府の同意した価格等の額)を超えない価格等及び約定の数量の範囲内において実際使用された数量若しくは提供された数量により、又、賃金額は、職種ごとに、労務使用当時の標準賃金額(契約成立後標準賃金額の改訂があった場合においては、標準賃金額の改訂後使用された労務については、改訂後の標準賃金額が改訂前の標準賃金額よりも多額であるときは改訂後の標準賃金額を超えない限度において政府の同意した賃金の額)を超えない賃金額及び約定の員数の範囲内において実際使用された員数により計算しなければならない。但し、やむを得ない事由により、政府の同意を得て約定の数量を超える数量の材料若しくは役務が使用若しくは提供され又は約定の員数を超える員数の労務者が使用された場合には、その同意を得た数量又は員数により、計算しなければならない。
標準賃金額は、主務大臣がこれを定め、官報を以てこれを告示する。
統制額には、物価統制令第三条第一項但書に規定する許可による価格等の額を含み、第一項の統制額の改訂には、価格等の額につき同条第一項但書に規定する許可のあった場合を含む。

第三 第一の支払請求書には、左に掲げる事項を証する書類を添付しなければならない。
一 第一の規定による計算の基礎となった価格、賃金等の額が同項の規定に適合していること。
二 支払請求書に記載された規格、品質及び数量の材料、職種及び員数の労務者並びに労務以外の役務が実際に使用若しくは提供され、又、賃金については支払請求書に記載された額が実際に支払われたこと。(且つ、当該賃金額については、法律により差引かれた金額を除く外その金額を実際に労務者が受け取っていること。)

第四 第一に規定する給付につき政府に対し対価の請求権を有する者は、第一及び第三に規定する適法の書類を政府に提出しなければ、その権利を行使することができない。
政府職員は、第一及び第三に規定する適法の書類の提出がなければ、第一に規定する給付の対価を支払ってはならない。
前二項の規定は、仕事の完成前において対価の一部を支払う旨の特約がある場合における前金払については、これを適用しない。この場合においては、当該給付の対価につき前金払を除く以外の最後の支払の請求をしようとする際、前二項の規定の適用があるものとする。

第五 第一に規定する給付の対価のうち、材料(その対価につき統制額のあるものに限る。)の価額の合計額、賃金の合計額又は、労務以外の役務(その対価につき統制額のあるものに限る。)の対価の合計額を区分し、その各区分について約定金額(価格等又は賃金につき第二の規定による政府の同意を得た場合において、その同意を得た結果に基き約定金額に所要の修正を加えて算定した価額をいう。以下本項中同じ。)が第一の規定による支払請求書に記載された金額を超えているときは、当該支払請求書の提出のあった時において、約定金額は、第一の規定による支払請求書に記載された適法の金額に改訂されたものとみなす。

第六 第一に規定する給付を目的とする請負契約の請負人は、契約成立の日から三十日以内に、政府に対し、政令の定めるところにより、当該請負に係る給付の対価の約定金額につき、その詳細の内訳を記載した内訳書を提出しなければならない。
第一に規定する給付につき予め政府に提出した前項の内訳書に記載された材料の価額、賃金又は労務以外の役務の対価の額は、これを前項の約定金額とみなす。

第七 第一に規定する給付を目的とする請負契約の請負人は、その使用する労務者の就業する事業場ごとに、当該事業場において同項に規定する給付に関し就業する労務者に関する賃金支払簿を備え、これにその使用した労務者の氏名を登録し、その職種、賃金支払額及び本人の受け取った金額を明かにして置かなげればならない。

第八 前七項の規定は、左の各号に掲げる給付を目的とする請負には、これを適用しない。
一 第一に規定する給付で契約成立の際その対価につき約定金額の確定していないもの
二 第一に規定する給付でそれ自体の対価につき統制額のあるもの
三 継続的給付で、定期に定額の対価の支払をなすべき旨の契約のあるもの

第九 前八項の規定は、地方公共団体、政令で指定する者のためになされた工事の完成、物資の生産その他の請負に係る給付につきその者に対して対価の請求をしようとする者について、これを準用する。

第十 第一乃至第八の規定は、第一又は第九に規定する請負を元請とする下請による給付につき元請人に対して対価の請求をしようとする者にこれを準用する。
前項の場合において必要な事項は、政令でこれを定める。

第十一 会計事務を所掌する政府職員(第十の政令で指定する者の職員を含む。)は、何時でも第七の規定による賃金支払簿の開示を求め、又、これに関し説明を求めることができる。
会計事務を所掌する政府職員は、第一に規定する給付を目的とする請負について調査のため必要があるときは、請負人若しくは下請人その他当該請負に関連して請負人と取引した者に対して質問し、報告を徴し、これらの者の営業場、事業場に臨検し、帳簿、書類その他の物件を検査し又参考人について質問することができる。

第十二 第一に規定する給付につき、同条に掲げる事項について、第一及び第二の規定に違反し、当該違反に係る部分の記載金額が第一及び第二の規定を適用して算出した金額を超えるような支払請求書を政府に提出した者は、これを三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。但し、その超過額の三倍が十万円を超えるときは、罰金は、当該超過額の三倍以下とする。
第九又は第十に規定する給付につき、第九又は第十において準用する第一及び第二の規定に違反し、当該違反に係る部分の記載金額が第九又は第十において準用する第一及び第二の規定を適用して算出した金額を超えるような支払請求書を第九の政令で指定する者又は、第十に規定する元請人に提出した者も、また前項と同様とする。

第十三 第十二の罪を犯した者には、情状により懲役及び罰金を併科することができる。

第十四 第四第二項(第九又は第十において準用する場合を含む。)の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。

第十五 左の場合においては、第一、第九又は第十に規定する者はこれを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 第三(第九及び第十において準用する場合を含む。)の規定による書類に虚偽の記載をしたものを、政府、第九の政令で指定する者又は第十に規定する元請人に対して提出したとき
二 第七(第九及び第十において準用する場合を含む。)の規定による賃金支払簿を備え置かないとき又は虚偽の記載をしたものを備え置いたとき
三 第十一第一項の規定による開示又は説明を拒み、妨げ又は忌避したとき
四 第十一第二項の規定による質問に対し答弁をしないとき又は虚偽の答弁をしたとき
五 第十一第二項の規定による報告を怠り又は虚偽の報告をしたとき
六 第十一第二項の規定による検査を拒み、妨げ又は忌避したとき

第十六 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第十二及び第十五の違反行為をしたときは、行為者を罰する外その法人又は人に対して同条の罰金刑を科する。

附則
本件の施行期日は、法律の成立の日から二十日を超えない期間内において、政令でこれを定める。
本件は、第一に規定する給付につき、本件施行後使用される材料及び労務並びに本件施行後提供される労務以外の役務について、これを適用する。
(下略)