税制改正に関する法律案要綱及び非戦災者特別税要綱

昭和22年10月28日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.1111-1114 当館請求記号:DG15-19

第一 方針
一 財政需要の増大に対応し、収支の均衡を図り、財政の強化に資するとともに、経済諸情勢等の推移に応じ、国民租税負担の公正を期する等のため税制の改正を行うこと。
二 所得税については、国民所得の現状及び国民生活の実情に顧み、いわゆる新円階層等一定額を超える所得者に対し重課するとともに、他面勤労所得者及び扶養親族を有する者の負担を軽減する措置を講ずること。
三 間接税中従量課税の酒税、清涼飲料税及び燐寸、飴、サッカリン等に対する物品税並びに入場税については、最近における物価の状況に即応して課税する等のため、相当の増徴を行うこと。
四 最近における物価の状況に顧み、定額税率による登録税、骨牌税、印紙税及び狩猟免許税についても、相当増徴すること。
五 戦災者と非戦災者との間における犠牲の不均衡を是正するとともに、臨時緊急な財政需要に応ずるため、別紙要領により非戦災者特別税を創設すること。

第二 要領
一 所得税
(一)課税所得金額七万円を超えるものの税率を、次のように引き上げること。
七万円を超える金額   百分の五十七(現行百分の五十五)
九万円を超える金額   百分の六十四(現行百分の五十五)
十二万円を超える金額  百分の六十八(現行百分の六十)
十五万円を超える金額  百分の七十二(現行百分の六十)
二十万円を超える金額  百分の七十六(現行百分の六十五)
二十五万円を超える金額 百分の八十(現行百分の六十五)
三十万円を超える金額  百分の八十二(現行百分の六十五)
五十万円を超える金額  百分の八十四(現行百分の七十)
百万円を超える金額   百分の八十五(現行百分の七十五)
(註)税額は、最高所得金額の百分の八十に止めること。
(二)給与所得の計算について、その年の収入金額から控除すべき金額は、その十分の二.五に相当する金額(最高一万二千五百円)とすること。但し、昭和二十二年分の所得税については、十分の二.二五(最高一万千二百五十円)とすること。(現行十分の二最高六千円)
(註)給与所得に対する源泉徴収については、七月分から十分の二・五を控除する。
(三)扶養親族の控除額は、扶養親族一人につき税額において年四百八十円とすること。但し、昭和二十二年分の所得税については、三百六十円とすること。(現行二百四十円)
(註)給与所得に対する源泉徴収については、七月分から月額四十円を控除する。
(四)簡易税額表を適用する場合を、所得金額八万円(現行五万円)まで拡張すること。
(五)予定申告書及び確定申告書の提出を要しない者の範囲を若干拡張すること。
(六)(二)乃至(四)の改正に伴い、簡易税額表及び源泉徴収額表を改正すること。
二 法人税
所得税の増徴に伴い同族会杜に対する加算税の税率を百分の五程度引き上げること。
三 登録税
定額税率については、二十割程度の増徴を行うこと。
四 酒税
(一)清酒について一升壜詰の小売価格を一級酒二百五十円程度(現行百三十二円)に、二級酒二百円程度(現行百二円)に、麦酒について壜詰一本の小売価格を四十円程度(現行二十三円)に引き上げる程度の増徴を行い、その他の酒類についても品質に応じ税負担に差等を設けてこれに準ずる増徴を行うこと。
(二)特定の酒類につき加算税を徴収し、特別価格(清酒第一級酒の一升壜詰一本当り五百五十円租度、麦酒壜詰一本当り百円程度)で自由販売すること。
五 清涼飲料税
第二種サイダーの税率を一石について六千九百円(現行二千三百円)に引き上げ、その他の清涼飲料についても同程度の税率の引き上げを行うこと。
六 物品税
燐寸については十割程度、飴類及び蜂蜜については二十割程度、サッカリン及びヅルチンについては四十割程度の税率の引き上げを行うこと。
七 入場税及び特別入場税
税率を、五割程度引き上げることとし、これに伴い課税最低限を三円程度(現行一円)に引き上げること。
八 骨牌税
税率を、一組につき麻雀千円(現行三百円)、その他の骨牌百円(現行三十円)に引き上げる等の増徴を行うこと。
九 印紙税
税率を、大体二十割乃至三十割程度引き上げることとし、これに伴い免税点の引き上げを行うこと。
十 狩猟免許税
税率を、一等二千四百円(現行六百円)、二等千二百円(現行四百円)、三等五百円(現行二百円)程度に引き上げること。
十一 その他
(イ)災害に因り被害を受けた者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する規定を整備するため、昭和十四年法律第三十九号を改正すること。
(ロ)租税の賦課徴収につき適正な運営を図るため、団体諮問及び徴収補助団体に関する規定につき、所要の改正を行うこと。
(ハ)納税施設法を廃止すること。
(ニ)罰則その他につき、所要の改正を行うこと。

非戦災者特別税要綱
一 戦災者と非戦災者との間における犠牲の不均衡を是正するとともに、臨時緊急な財政需要に応ずるため、非戦災者特別税を創設すること。
本税は、一回限りの課税とすること。
二 非戦災者特別税は、非戦災家屋税と非戦災者税の二本建とすること。
三 非戦災家屋税は、次により課税すること。
(一)納税義務者は、昭和二十年八月十六日(調査時期)において家屋を所有していた個人及び法人とすること。
(二)課税物件は、調査時期における家屋とし、家屋には、住宅、店舗、工場、倉庫等すべての家屋を含むこと。
(三)次に掲げる家屋には、課税しないこと。
(イ)国、都道府県、市町村が所有していた家屋及び公用又は公共の用に供していた家屋
(ロ)国宝又は史蹟名勝として指定された家屋
(ハ)私立の幼稚園、中等学校、大学等において直接に教育の用に供していた家屋
(ニ)宗教法人の神社、寺院又は教会の用に供していた家屋
(ホ)公益法人等の事務所又は直接公益の用に供していた家屋
(ヘ)賃貸価格が三十円程度未満の家屋等
(四)課税標準は、調査時期における当該家屋の賃貸価格とすること。
(五)税率は、賃貸価格の百分の三百程度とすること。
(六)本税は、申告納税の方法によることとし、家屋の所在地を納税地として、昭和二十三年一月三十一日までに、これを納付すること。但し、納税困難な者については、延納(原則として六箇月以内)を認めること。
(七)調査時期後災害に因り家屋が滅失又は損壊した場合等にっいては、軽減又は免除を行うこと。
四 非戦災者税は、次により課税すること。
(一)納税義務者は、昭和二十二年七月一日(課税時期)において家屋を使用していた非戦災者たる世帯主及び非戦災者たる法人とすること。
非戦災者とは、戦災者以外の者をいい、戦災者とは、戦時災害に因り家屋又は動産につき一定割合(三割程度)を超える損害を受けた者とすること。
(二)次に掲げる者には、課税しないこと。
(イ)国、都道府県、市町村等
(ロ)調査時期後法施行地外から引き揚げた者が世帯の生計を主として維持していた場合における当該世帯の世帯主
(ハ)賃貸価格百円程度未満の家屋のみを使用していた世帯で法施行前六年以内に戦時災害に因り当該世帯の生計を主として維持していた者が死亡したものの世帯主
(ニ)賃貸価格が三十円程度未満の家屋を使用していた世帯主等
(三)次に掲げる家屋の賃貸価格は、非戦災者税の課税標準に算入しないこと。
(イ)国宝又は史蹟名勝として指定された家屋
(ロ)私立の幼稚園、小学校、中学校、大学等において直接に教育の用に供していた家屋
(ハ)宗教法人の神社、寺院又は教会の用に供していた家屋
(ニ)公益法人等の事務所又は直接公益の用に供していた家屋
(四)課税標準は、課税時期における当該家屋の賃貸価格とすること。
(五)税率は、賃貸価格の百分の三百程度とすること。
(六)本税は、申告納税の方法によることとし、納税義務者の住所地(居所地)又は営業所若しくは事業所の所在地を納税地として、昭和二十三年一月三十一日までに、これを納付すること。但し、納税困難な者については、延納(原則として六箇月以内)を認むること。
(七)調査時期後災害に因り家屋又は動産が滅失又は損壊した場合等については、軽減又は免除を行うこと。
五 収入見込額昭和二十二年度六十五億円