昭和23年度輸送計画に関する件

昭和23年5月18日 閣議決定

収載資料:経済安定本部戦後経済政策資料 第40巻 総合研究開発機構(NIRA)戦後経済政策資料研究会 1996.3 pp.426-447 当館請求記号:DC55-E831

石炭三千六百万屯生産に伴う鉱工業並に一般生産の増大、主食の増産及び生活物資の増加輸出入の著増等により本年度に於ける陸海の輸送要請は著しく増大するものと予見せられる。加うるに各種の産業はいづれも原材料の手持ストックが涸渇して居るのでこれが補給は適時適量の円滑なる輸送を必要とする。
しかるに輸送の現状を見るに鉄道においては戦時中より歴年資材窮乏の為施設、車両は老朽 荒廃し運行能率の低下甚しく、海上輸送においては戦災により壊滅的打撃が痛烈で未だ漸く回復の第一歩に就かんとする段階にあり、国内沿岸輸送には対処し得るが、輸出入貨物に配船可能の船腹は僅少である。道路輸送に於ては貨物自動車の燃料、タイヤチューブ等運転資材の窮乏と軽車両の不足により輸送力減退し、更に港湾施設の戦災復旧遅滞等いづれも生産の復興に対応する輸送の達成に激甚なる障害となっている。
斯の如き実情に鑑み、政府は『昭和二十三年度物資需給計画に関する暫定措置(一月七日閣議)』並に『二十三年度鉄道貨物輸送能力(一億三千万屯)確保について(四月二日閣議)』において輸送を石炭、電力と同等に超重点的に増強することを決定した。
本輸送計画の策定に当っては右閣議決定に従い、資材、資金、労需物資を確保して、輸送力を増強すると共に、極力能率の向上を計り、これによって生産と輸送との間隙を調整し、重要物資の輸送完遂を期することとした。
特に現下諸情勢に鑑みるに輸送能率の速やかなる向上には労働意欲の振起に待つこと深甚なるを以て作業用必需物資は極力重点的に之が確保を図るものとする。

第一 鉄道
(一)輸送目標
(イ)貨物輸送
昨年度における輸送実績は施設、車両の老衰弱化に加ヘ、水害、雪害等のため年間一億一千百八十万屯に止まり、現に沿線滞貨三百万屯、背後地在貨一千万屯を突破している。
本年度は鋼材十七万四千屯の配当が決定されて居るが、その現物化は毎月割であり、これが現実に施設、車輌を補修し、輸送力として働き出すまでには三ヶ月乃至六ヶ月を要するので、諸般の情勢が現状のままでは年間輸送能力を一億二千三百万屯以上見込むことは難しい。然るに本年度鉄道に対する輸送要請量の集計は一億九千万屯に達して居り、各種生産部門の相関的障害による生産渋滞を一割乃至二割、平均一割五分と見ても出荷量は一億六千万屯に達するであらう。従って輸送抑制の已むなき物資は四千万屯に垂んとする由々しき事態に立到るので、輸送能力の極限的発掘を図るため資材の繰上げ優先配当その他、別項記述の諸項の実現を前提として年間一億三千万屯を目途とし本計画を策定した。
輸送力の物資別配分については、物資需給計画、貿易計画等の大綱に則り生産と輸送との吻合を考慮し物資間の均衡、調整に留意した左の方針に依る。
(1)石炭及びこれが生産のための関連資材並びに主食糧については一〇〇%輸送する。
(2)鉄鋼、セメント等の基礎物資、肥料、紙、パルプ等並びにこれらの原資材に対しては可能最大限の輸送力を配当してその確保をはかる。
(3)輸出入物資に対しては関係資材をも含めて輸送を積極的に確保する。
(4)家庭燃料、衣料等重要生活物資はその供給計画に即応してこれが輸送の確保をはかる。
(5)建設、復興関係物資に対しては特に公共事業、労務者住宅、災害防止、農業水利等に重点を置きこれら関係資材の輸送を極力確保する。
(ロ)旅客輸送
本年度は依然貨物輸送に重点を置き旅客列車は現状、即ち一日平均列車キロ二三〇〇〇〇キロ維持を目標とする。
貨物及び旅客輸送の上記計画を遂行するために左の措置を講ずる。
(1)上述の貨客輸送を達成するには石炭七百七十七万屯を要するが極力消費の節約につとめると共に可及的良質炭の配給、並に冬季用炭貯備に早目手当を図る。
(2)施設車輌の復旧及び維持保安に重点を置き新規工事は必要最小限度に止める。昭和二十三年度重要物資需給に関する暫定計画によれば鉄道用(国鉄、私鉄)として鋼材一七四千屯、銑鉄三二千五百屯、セメント一四二千屯、木材五〇七〇千石の配当となって居るが一億三千万屯の輸送計画完遂には車輌の新造増加その他のため左記資材を追加配当する。
鋼材      八千屯
木材(車輌用) 一五〇千石
(3)輸送力の整備に当っては特に左に重点をおく。
(イ)機関車、貨物、電車の修繕促進による休車率の縮減と運用効率の向上
(ロ)通信施設の整備
(ハ)構内従事員並びに運転従業員の充実強化、配置転換の推進
(ニ)荷役及小運送力の強化及び能率化
(ホ)従業員の技術向上

第二 海運
(一)輸送目標
(イ)汽船
昨年度に於ける汽船海上輸送実績は国内物資八九一万屯、対外物資二二〇万屯、合計一、一一一万屯であるが、本年度に於ては物資需給計画及び輸出入計画による輸送要請を基準とし国内航路に於ては鉄道輸送力の現状に鑑み長距離大量貨物の陸送を極力海上輸送に転移する方針を引続き堅持すると共に石炭八二〇万屯を中軸として鉄鉱石、銑鋼、コークス、セメント、肥料、木材、其他基礎物資並に食糧、家庭燃料等の生活必需物資の輸送確保を図り、年間一、二〇〇万屯の輸送計画を策定した。対外航路については、貿易物資の荷動量約一、二〇〇万屯の大部分は我が海運の現状よりこれを外国船に依存せねばならないので、日本船の就航範囲を前年度と概ね同様としたが、国際収支の改善に寄与する我が海運の使命を逐次復元するため、新に海南島、仏印等の東亜地域にも或程度進出し得るものとし、その範囲内で出荷の確実性及び外国船の輸送状況を勘案して邦船による積取分を年間二七〇万屯と策案した。
なお我が海運の回復特に造船、港湾施設の整備等は経済安定期を目標として長期に亘り計画実施せられねばならないが、本年度計画に於ては、その初年度として出来るだけこれらの復興方策の実現に努力する。
(ロ)機帆船
機帆船は国内沿岸輸送に於ては石炭を初め各種の生産資材及食糧その他の生活必需物資の輸送は機帆船に依存する度合が大きく、且つまた汽船によって輸送された輸出入物資及重要物資の積替輸送に不可欠な役割を果している。今年度は昨年度に比しそれらの物資の輸送需要量は相当増大するものと思はれるが燃料油一八〇千キロリットルの供給を前提として中央機帆船一、〇二〇万屯、地方機帆船二、二二〇万屯の輸送計画を策定した。
(二)今年度の海運は、前期輸送目標を完遂する他に我国経済の安定を目指す長期復興計画の第一年度として船腹の増強、港湾の整備、外国航路への進出にふみ出さなければならないので、これがために左の措置を講ずる。
(1)汽船船腹増強
(イ)国内輸送に於て最も逼迫せる中型及小型貨物船並に外航に就航し得る大型及中型貨物船の建造に着手し、本年度内の起工目標を一五六、〇〇〇総屯とする。
(ロ)右の外不稼働船修理、沈船の引き揚げ修理等を行い新造を併せ稼働四三万重量屯を今年度中に増強する。
(ハ)右の船腹拡充計画の完遂に必要なる資金及普通鋼々材・銑鉄・カーバイト・コークス等の資材を優先的に確保すると共に、所要の電力を配当する。
上記船腹拡充計画とともに、船舶の建造輸出を図るため諸資材輸入が実現されたときは優先的に造船部門にこれを投入する。
(2)運行能率の向上
(イ)運行能率阻害の第一原因は港頭に於ける積荷待であるから出荷と配船とを一致せしめ、特に石炭については港頭貯炭を確保するよう、鉄道による港頭向輸送を強力に実施する。
(ロ)船舶修繕期間を短縮するため、修理用資材及電力を確保する。
(ハ)港湾荷役能力を強化するため、荷役用資材の確保、上屋倉庫及び荷役機械修理の整備、艀の造修、岸壁の整備、水路、泊地の浚渫掃海を強力に実施する。
(3)燃料油の確保
機帆船の運航を確保するため機帆船用燃料一八〇千キロリットル、油焚貨物船、油槽船、地方民生に不可欠な交通船用、曳船用等、海運関係用一六〇千キロリットル、合計三四〇千キロリットルの確保を連合軍に懇請する。
(4)外国傭船
昭和二十三年度貿易物資一、二〇〇万屯中郵船輸送二七〇万屯を除く残量の三分の一程度を日本海運を以て実施し貿易外収入による国鉄収支の改善に資するため、リバティ型船約五〇隻の傭船を連合軍に懇請する。

第三 道路運送
(一)輸送目標
昨年度に於ける道路輸送推定実績は貨物自動車により一億七千万屯、荷牛馬車により一億屯、荷車リヤカー等により五千万屯であるが、この実績は重要物資についてみても要輸送量対比八〇%を出ないものと推定される。乗合自動車については九億五千万人程度に過ぎずして主要交通需要に対してすら僅かに五〇%に充たない現状である。
しかるに昭和二十三年度における自動車に依る輸送量は、貨物約二億四千万屯と予測され、更に鉄道貨物輻輳緩和のため短距離貨物約二千万屯の自動車転移を見込めば貨物自動車の負担は実に二億六千万屯に達することとなる。尚乗合旅客については需要約一九億人と推定されるが国有鉄道と同様貨物重点の方針をとり輸送目標を一六億人とする。
(二)昭和二十三年度輸送力の見透
(イ)自動車
(表省略)
(ロ)燃料
所要量(揮発油換算)八〇〇、〇〇〇キロリットル
貨物自動車 六二〇、〇〇〇キロリットル
乗合自動車 一一〇、〇〇〇キロリットル
乗用車 五〇、〇〇〇キロリットル
その他 二〇、〇〇〇キロリットル
供給見込量
揮発油 三〇〇、〇〇〇キロリットル
代用燃料(揮発油換算) 二一五、〇〇〇キロリットル
木炭 二三〇、〇〇〇トン
ガス薪 四〇〇、〇〇〇トン
不足量 二八〇、〇〇〇トン
(ハ)タイヤ・チューブ(全部新品として、原料ゴム換算)
所要量 一八、〇〇〇トン
供給見込量 七、二〇〇トン
不足量 一〇、八〇〇トン
即ち現在の供給見込み量では、燃料、油脂、タイヤ、チューブに制約を受け約五〇%の輸送規正を必至とすべく、物資需給計画並に生産計画の実施はこの面より破綻を来すであらう。依て以下の様な輸送に対する施策及び運転資材の確保の方策を緊急且つ強力に実施して輸送力の充実を図る。
(三)輸送方策の改善
(イ)自動車の重点的運用を図るため、自動車とその運転資材(ガソリン、代用燃料、タイヤ、チューブ等)との総合運転計画を樹立し実施する。
(ロ)自動車の所有者又は使用者をして車輌毎に自動車運行票(仮称)を携行せしめ運行及び稼働の状況を明確に証示せしめると共に、この内容を検討して運転資材等の配当を行う。
(ハ)前(イ)(ロ)実施に要する中央、地方の機構の拡充強化を行う。
(ニ)輸送確保物資の指定並に「リンク」制度の拡充強化を行い、併せて不急不要物資の輸送の制度若くは禁止を行う。
(ホ)自家用自動車の輸送力を合理的に活用するため、その本来の用途において輸送効率を充分昂上せしめると共に、その用途外の余力利用につき、輸送秩序を確立しつつ、これを合理的に再配分して、重要物資の輸送に当らしめ得るような措置を講ずる。
(四)車輌資材等の確保に付いて次の措置を講ずる。
(イ)自動車車輌については、既定の生産計画を遂行する外修理部品の製造力を拡充し現有車の維持確保並に再生修理に重点を置きこれに必要な、鉄鋼、石炭、コークス、カーバイト、電力等の資材及び資金を確保する。
(ロ)燃料については、亜炭コーライト、ガス薪等の代用燃料の生産供給増加をはかると共に、ガソリン、樺太産コーライトの増配に関して、輸入増加を懇請する。
(ハ)タイヤの増産並びに品質の改善に努め増産に必要とする原料生ゴムの輸入増加を懇請すると共に、再生タイヤの生産伸長を図り不足量の充足に努める。之がため要すれば再生設備、資材、技術の輸入についても懇請する。
(ニ)ゴム輪軽車両の増加、挽牛馬に対する飼料の確保を図る。

昭和二十三年度鉄道貨物輸送計画(単位千瓲)
(表省略)

昭和二十三年度貨物自動車輸送計画(単位千瓲)
(表省略)
以上の外鉄道貨物のうち短距離貨物の自動車へ転移量  約20,000
総計 約260,000