昭和26年度予算編成方針

昭和25年7月11日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第18巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1982 pp.104-105 当館請求記号:DG15-19

昭和二十六年度予算の編成に際しては、経済の自主自立態勢を一層推進して、米国対日援助の漸減に備えることを建前とし、これがため経済の安定と復興とに重要な役割を果した従来の財政政策を原則的に踏襲するも、事態の推移に応じて、健全な経済基盤の育成と、公正な国際競争力の充実とに寄与しうるよう、所要の転換を行うものとし、左記方針によって処理する。

第一、均衡財政の堅持と予算総額の削減
財政の基本方針として総合予算の均衡を確保し、経済の安定を維持する傍ら、極力歳出を抑制し、予算総額を削減して、国民負担の軽減をはかること。これがため
(1)すべての経費につき、厳にその緊要度と効率とを精査するとともに、極力物件費の節用に努めること。
(2)一般会計に於ては、法律の規定によるものを除くのほか、債務償還費の計上を廃し、産業資金の供給は、原則として見返資金並びに国民の自発的貯蓄にまつものとすること。
(3)主食を除くのほか、配給・価格等に関する統制は原則としてこれを撤廃し、価格補給金の削減、公団の廃止等に関する既定の方針を遂行すること。なお、国際小麦協定への参加を懇請し、輸入食糧に対する補給金の節減を期すること。

第二、行政の合理化と公務員給与の改善
(1)経済の推移に伴い、行政全般にわたって再検討を加え、権限の分散と重複とを省き、不急の事務を整理し、行政機構及び政府関係機関の機構の刷新合理化を行うこと。
(2)公務員給与の改善を行い、官庁能率の刷新向上に資すること。

第三、経済基盤の充実
(1)公共事業に関しては、その重点を治山・治水・その他災害の防除及び復旧・道路・港湾・農業土木・運輸通信等の施設の改良復興に置き、経済基盤を充実する傍ら、雇傭機会の増大を図ること。
公共事業の範囲は、その本来の趣旨にかんがみ国土の総合的保全開発に関するものに限ること。
(2)農業生産を確保し、農家経済を健全化するため、農地改革事業の充実と農業金融の流通に留意するほか、国際価格を勘案しつつ、米麦の価格を調整すること。
(3)電力・造船その他基礎産業部門の再建上緊急な資金で、一般金融機関において融通困難とするものについては、見返資金よりの融資を行うほか、預金部資金の効率的な利用をはかること。

第四、輸出の振興
(1)輸出貿易を振興するため、輸出金融金庫を活用し、外国及び外国貿易業者に対する長期クレヂット等の途を開くこと。
(2)見返資金等の活用により、国内輸出産業及び輸出業者に対する長期金融を図るほか、輸出増進に至大な寄与をしている中小企業に対する貸付を増加すること。
(3)右の措置と併行して、国際通貨基金及び国際開発銀行への参加を懇請すること。

第五、社会政策の強化と失業対策の充実
(1)社会保障制度については、現行制度を漸進的に統一整備する方針の下に、社会保険その他生活援護に関する公的扶助制度の運営を適正化するとともに、結核対策を中心として医療機関の整備と公衆衛生の向上をはかること。
(2)生業資金・住宅資金等については、前年度に引続き之を確保し、社会福祉の向上を期すること。
(3)失業対策としては、生産的事業により、その吸収をはかるほか、引続き失業応急事業を考慮すること。

第六、文教及び科学の振興
(1)文教の振興については、その重点を義務教育におく外、育英資金の増額を考慮すること。
(2)科学の振興については、産業経済の発展に寄与しうるよう、重点的に配意すること。

第七、治安の確保及び平和体制の整備
最近の情勢にかんがみ、警察及び海上保安を充実強化し国内治安を確保すると共に在外機関の拡充その他平和体制整備の措置を講ずること。

第八、税制の改正と地方財政の確立
(1)歳出削減の余裕をもって所得税を中心とする減税を行うこと。
(2)関税については、最近の情勢に対応して、全般的にその合理化をはかること。
(3)地方財政については、国と同調して行政の合理化と経費の節減とに努めるとともに地方自治の本旨に従い、国と地方との事務および経費の負担区分の確立を図ること。
なお、災害復旧費の全額国庫負坦の制度はこれを廃止すること。
付記
一、本方針のうち、緊急を要するものについては、本年度内にその実現に努力すること。
二、昭和二十六年度予算は、本年十月末日までに編成を完了することを目途とし、これがため、各省各庁は七月末日までに概算要求書を大蔵省に提出すること。