労務基本契約の改訂交渉経過について

昭和28年9月4日 閣議報告

収載資料:資料戦後二十年史 4 労働 大河内一男編 日本評論社 1966 p.5 当館請求記号:210.76-Si569

全駐留軍労働組合が8月21日の基本労務契約改訂に関する三者会議開催後第2次スト通告を発するに至った経緯並びに基本労務契約の改訂に関する交渉経過については、8月25日報告したが、その後、日、米、組合の三者の間で連日に亘り交渉を重ねた結果、同組合の実力行使は一応回避せられると共に、9月1日三者間において主要なる事項につき意見の一致を見るに至り、契約主文については近く調印し得る状況となった。この間の経緯は概ね左<下>記の通りである。

一、先に報告した日、米、組合の少数幹部による代表者会議の進展をはかるため8月22日以後組合代表者と日本側代表者の事前打合せを行い、各組合の最終的修正意見に集約せしめた結果、組合側としては

(1) 保安上の措置として危険人物を排除し、又は人員整理の職種別員数を決定する権利は軍にあることを認めるが、これに伴う解雇その他の人事措置は、共同管理の原則によって行う旨を規定すること。

(2) 労働組合以外の団体を育成するおそれのある条項を削除する共に、労働条件の基準については組合との団体交渉による協議決定制を規定すること。

(3) 労働委員会の調整を尊重し、裁判所の判決に従うべきことを明記すること。

(4) 組合専従者の施設内立入りを条件付で許可する外、文書の配布、掲示を或る程度認め、休憩時間中の組合員の連絡もこれを認めること。

等の諸点について強硬に主張し、これに基き具体的修正案を8月25日作成し、三者間の代表者会議に臨むこととなった。

二、一方日本政府としては、組合側の主張も考慮し、軍側との意見の調整に鋭意努力した結果、予定通り8月26日三者の代表者会議が開催せられ、組合側から修正案の説明があり、これに対し軍側は、契約の早期締結について確認し且つ細合側の意のあるところも一応了解した。

これに対し組合側は、同夜それぞれ中闘委員会の決定をもって実力行使を一応中止し、その旨8月27日正式に通告してきた。

三、組合側の実力行使の中止並びに8月27日のクラーク司令官、労働大臣の会談等により事態は好転の方向を辿り、8月27日及び8月31日の三者代表者会議を経て9月1日三者会議を開催し、組合側の修正意見に対する管理者側の最終的態度として概ね別紙の通り提示したが組合側もこれに同意した。これによって財務関係における補償条項その他一、二の条項を除き,契約主文については殆んど意見の合致を見、条文調整の上正式調印となる予定である。

従って、今後は付属書その他の細目に関する意見調整の段階に移ることとなり、10月1日より発効せしめることを目途として作業を進めることになっている。

9月1日三者会議における労務基本契約案に関する管理者側提示事項概要

一、主文について

(1) 契約期間は1箇年とした。

(2) 人事管理については日米共同管理の「例外」という表現を削除した。

(3)「人員整理」はできる限り整理の円滑を期しうるよう事前の調整を日米間で行うよう条項の修正をした。

(4) 「保安」については事前に相当程度の日米間の意見の調整をなしうるよう改めるとともに人事措置は、共同管理の原則を採用することとした。

(5) 「団体交渉」については、労働組合は他の団体と異るという組合の主張を考慮して条項の修正を行うとともに、管理者側で御用団体を設立せしめる意思はない旨を付属書類で明かにすることとした。

二、付属書については日米間で次の原則が合意された。

(1) 新職階制による給与切替の結果、給与につき損失のないようにすると共に枠外高給者についても一般的給与改訂の際増給につき善処する。

(2) 給与格付につき日米両国の風俗習慣の相違について考慮を払う。

(3) 船員については特殊事情を考慮して処理をする。

三、労働政策指令について

(1) 組合専従者が組合員の連絡のために施設区域に立入ることは特別の場合、施設の長の許可があるときは認められる。

(2) 休憩時間中の組合の連絡は集会以外は認める。

(3) 会合の通告等を掲示板に掲示することは許される。