昭和29年度予算大綱

昭和29年1月5日 閣議決定

収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 pp.176-177 当館請求記号:210.76-Si569

国際収支の著しい逆調、インフレ傾向の濃化の趨勢に鑑み、通貨価値の安定を図るとともに、更には積極的な物価の引下げ、国際収支の均衡を期するため、この際国民生活の刷新、企業合理化の推進と相俟って、財政経済の運営の面において、思い切った引緊め重点化の方針をとり、国、地方を通じて財政規模を強力に圧縮し、財政収支の総合均衡を厳に確保することとし、これによって独立にふさわしい経済の自立と自衛力充実の基盤を確立するものとする。
1.基本方針
(1)財政支出を根本的に再検討して、新規経費の計上は一切とりやめるとともに、財政投融資の総額を圧縮する。なお、行政整理については、別途方針決定を俟って処理するものとする。
(2)地方財政についても行財政の刷新整理を行い、財政規模の膨脹を極力抑止するとともに、国、地方を通ずる財政の調整を行うものとする。
(3)財源調達の面においても、物価の低下を見込んだ租税等の収入を計上するにとどめインフレ抑制の見地から普通公債の発行、過去の蓄積資金の喰いつぶしは絶対に行わない。
なお、増減税については、別途検討を進めるものとする。
(4)物価の抑制に資するため、原則として、消費者米価、国鉄、郵政等の公企業料金の引上げは当分行わない。
2.一般会計予算
昭和29年度一般会計歳入歳出概算は別表の通りである。(別表略)
(1)防衛、賠償関係 内外の情勢を勘案し、防衛の増強賠償の支払等のため必要己むを得ない金額を計上する。
(2)公共事業、食糧増産、災害復旧事業 公共事業費等については、別紙<別紙略>の通り、治山治水対策及び道路事業に重点をおいて計上するが、全般として新規事業の抑制、既定計画の重点施行、零細補助金の整理、災害査定の厳正実施等により経費の効率的使用を強化し総額を圧縮する。
(3)文教施設 公立文教施設については、義務教育年限延長に伴う一般校舎の既定計画は引き続き確保するが、戦災復旧危険校舎改築等のための経費については、必要最少限度の計上にとどめ総額を圧縮する。
(4)住宅対策 住宅不足の現状に鑑み、公営住宅施設費、勤労者厚生住宅費を増額し住宅金融公庫の円滑な運営等と相俟って財政資金により概ね10万戸程度の建設を行う。
(5)出資及投資 過剰投資、不要不急投資の抑制を図るため別紙<別紙略>の如く財政投融資の総額を圧縮する。
(6)社会保障関係 経済引緊めの方針をも勘案して、国、地方を通ずる社会保障関係経費全体についてその充実を図るが、生活保護費、児童保護費、社会保険費、結核対策費、失業対策等の補助費については、この際国、地方の負担区分を是正し、従来の補助費中の一部を地方財源計算に移す。なお、旧軍人遺家族等恩給費については、制度の平年度化に伴い増額を行う。
(7)地方財政関係 地方財政関係の経費については、別紙<別紙略>地方制度改正要綱の通り、地方制度調査会の答申の線に沿って、地方財政平衡交付金を廃止し、新たに地方交付税交付金、地方譲与税交付金を計上し、義務教育費国庫負担金を定員定額制に改めるとともに、警察費を制度の改正整備に伴って組替え削減する。この際国に準じ強力な行財政の整理を実施するものとする。
(8)輸入食糧補給金 国際収支の均衡回復、財政規模の圧縮等に資するため外米の輸入を麦に転換し、輸入補給金の大幅な削減を行う。
(9)外航船建造利子補給 開銀利子補給制度を廃止し、開銀支払利子を5分に改める外、この際補給内容を再検討して財政負担の軽減を図る。
(10)その他 官庁営繕費を大幅に削減するとともに、旅費の概ね2割程度を圧縮する外、補助金負担金、交付金及び委託費等については、別紙<別紙略>整理要綱に基き全面的に再検討して徹底的な整理を行う。
3.財政投融資
(1)金融の引緊めによる民間投資の規制と相俟って、電源開発資金を重点的に確保する外、財政投融資の総額を圧縮する。
(2)財政投融資の資金源の調達については普通公債の発行を取り止め、過去の蓄積資金の使用は一切行わないが、公社債地方債の公募についても前年度以内に抑えるとともに一般会計よりの出資投資を削減する。なお緊急物資輸入基金特別会計の廃止による資金を産業投資特別会計に繰り入れるものとする。
4.特別会計予算及び政府関係機関予算
(1)特別会計予算及び政府関係機関予算についても、一般会計予算の例によって経費の縮減を図り、特に公共企業体においては、極力経営の合理化を推進することとする。
右の方針に基き国鉄に於ては新線建設の中止、不要資産の売払等を実施すると共にその料金については、通行税を外枠とする外その引上げを行わない。
(2)米価については、別紙<別紙略>食管特別会計予算編成要領の通り当分の間消費者価格を据え置くとともに、29年度産米生産者価格の一本化を図る。なお、食糧管理制度を再検討し、特に外米の輸入を抑制して極力麦への転換を図る。