国際収支改善緊急対策

昭和32年6月19日 閣議決定

収載資料:国の予算 昭和33年度 財政調査会編 同友書房 1958 p.881 当館請求記号:344.1-Z11k

国際収支の均衡回復のため、既に実行しつつある金融の引締め及び輸入の抑制等を強化するほか、急速に次の如き対策を総合的に実行するものとする。
1 財政面の施策
(1)財政投融資計画の運用に当つては、民間不要不急事業の徹底的削減、重要産業の事業計画の繰延べ等を期待することと併行して、次の方針により、財政投融資計画の総額につき15%をめどとして、繰延べを行う。
(イ)繰延べを実行するに際しては、経済効果のあらわれるのが遅いものから繰り延べるよう配意する。なお、使用資材の輸出との競合度、輸入依存度等についても考慮を払うものとする。
(ロ)中小企業金融については、別途後述のような配意を加える。
(2)一般会計、特別会計及び政府関係機関を通じ、公共事業費等について、物資需給の状況等を勘案し、それぞれの工事の実情に応じて施行時期を調整することを検討することとし、特に庁舎等営繕についてはその一部を繰り延べる。
2 金融面の施策
(1)信用膨張抑制のため、日銀貸出しの増加を極力圧縮する。
(2)資金運用部資金の短期運用として買上げ保有している公社債、金融債700億円は、金融引締めを今後相当の長期にわたつて行う趣旨をもつて、国庫収支の揚超が減少し、あるいは撒超となる時期において、これを売り戻すこととする。
(3)金融引締めの中小企業へのしわよせを防止するため、次の諸措置を講ずる。
(イ)中小企業金融公庫及び国民金融公庫に対し、第4・四半期借入予定の政府資金の繰り上げ使用等を行わしめることにより、実情に応じ、両公庫を通じて130億円程度の貸付増加を行うことを予定する。
(ロ)商工組合中央金庫については、商中債の資金運用部引受予定額を20億円増加して40億円とする。
(ハ)民間金融機関に対して、中小企業金融の疎通について格段の配慮を要請するとともに、銀行、相互銀行及び信用金庫が信用保証制度を利用して中小企業向融資を行つた場合には、当該金融機関が保有する金融債を資金運用部に買上げ、(約200僚円を予想)その資金の確保を図る。
(4)輸出金融については、特にその円滑積極化を図るものとする。これがため輸出金融を特に優先的に取り扱うとともに、輸出前貸手形の金利を1厘程度引き下げ、かつ輸出金融の手続の順便化を行うほか、外国為替引当貸付制度の一部拡充を行う。
(5)国民貯蓄増強に資するため、定期性預貯金金利の引上げを行う。
(6)社債等債券の発行条件を改訂(利廻を引上)する。
3 産業面の施策
(1)重点産業といえども資金計画を再検討するとともに、金融機関資金審議会、投融資委員会等の活動の強化等金融機関の協調を一層強化するとにより、特に資金の効率的使用に留意し、経済の実情に即応した民間設備投資の繰延べを図る。
(2)ビル建築その他不要不急事業については、庁舎等営繕の繰延べ措置と併行し、行政指導により新規事業は原則としてこれを見送るとともに、継続分についても繰り延べ又は削減を図り、金融面においても融資自主規制委員会の活動強化等自主的規制措置を中心として、これらに対する融資を厳に抑制する。
4 貿易面の施策
輸出振興については、前述の金融措置のほか、行政措置等により、輸出増加のため各般の措置を講ずるとともに税制、保険、貿易為替管理等の制度上の改善措置をも検討することとし、輸入については各般の総合施策により、その抑制を徹底する。これがため、貿易為替行政の総合計画的運営を確保するとともに、従来保証状等の差入れをもつて足りることとされていた品目につき、日銀に対する5%の現金積立を行わしめる等輸入担保制度を強化する。
5 貯蓄の奨励
国民消費の節約、国産品の愛用、貯蓄の奨励等につき、前記定期性預貯金の金利引上げ等諸般の施策を講じつつ、国民運動を展開する。
附記
地方公共団体に対しても、右各種対策の趣旨に沿い、自主的に協力することを要請するものとする。