日本-公務員(官吏)の人物情報を調べる(戦前編)

主に戦前(昭和20(1945)年以前)に国(官庁)等に勤務した職員の職歴調査や、ある人物の特定時点における官庁在籍の事実確認等、経歴情報を調べる方法について紹介します。【 】内は当館請求記号です。

1. 戦前の官吏制度

戦前の公務員(官吏)制度は現在と異なる点が多くあります。最初に、官吏の人物調査の前提知識として、官吏制度の概要と、官吏の種別について説明します。

大日本帝国憲法下において、国の機関に属する常勤の職員は、公法上の規定に基づいて天皇の任命によって任用され、国家の命令に従って無定量の勤務に服す義務を有する身分としての官吏と、私法上の規定に基づいて雇用される雇員と傭人(総称して雇傭人)、嘱託等に大別されていました。

地方については、府県と郡(大正10(1921)年廃止)には国の出先機関としての府県知事(北海道は道庁長官)およびその補助機関である官吏(地方官)と、自治体としての府県(北海道は道地方費)や郡に雇用される公吏(府県吏員、道庁吏員、郡吏員)の2種類の常勤職員がおり、自治体である市および町村には市長および町村長以下の公吏(市町村吏員)のみが置かれていました。

官吏には「官等」と呼ばれる等級があり、高等官と判任官に大別されます。

このうち、判任官は天皇の任命権を委任された行政機関の長によって任命される官吏で、一般事務に従事する属、技術に従事する技手、警察の中間管理職である警部・警部補などが含まれます。判任官は全部で四等の等級がありましたが、等級と別に、俸給月額を定めるための級俸を与えられており、辞令や職員名簿では等級ではなく級俸が表示されています。

高等官は、最上位には天皇が宮中で行われる親任式により任命する親任官(大臣等)があり、その下は九等級に分かれて一等と二等が勅任官、三等から九等が奏任官と呼ばれます。

官吏公吏(吏員)
官等政府道および府県市および町村


(等なし)

(内閣総理大臣)
(各省大臣)
一等~
二等


(各省次官)
(局長)
(知事)
(道庁長官)
三等~
九等


(事務官)
(官立学校教員)
(部長)
(理事官)
(警視)
(公立学校教員)(市長)
(町村長)
(助役・収入役等)


一等~
四等
(属)
(技手)
(属)
(技手)
(警部)
(書記)
判任官待遇(巡査)
官吏・公吏ではない職員・労務者(雇、傭人、嘱託)

以下で紹介する『官報』『職員録』や公文書などの資料で情報を得ることができる公務員は、官吏の判任官以上、奏任官以上、勅任官以上など、一部の常勤職員に限られます。雇傭人や嘱託などの身分や、地方の吏員については、このページに記載された調べ方のほか、「日本の人物情報」をご覧ください。

2. 戦前の官吏を人名から調べる

人物名から戦前の官吏の人物情報を調べるツールには、次のものがあります。

2-1. 人物情報

このほか、明治中期以降は、『人事興信録』(人事興信所 【95-15】ほか)、『日本紳士録』(交詢社 【86-41】ほか)等の名士名簿に記載がある場合があります。

2-2. 職務履歴情報

官吏の人事異動は、任命権者による辞令の発出によって行われていました。人事異動の発令に関する情報を知るには次の方法があります。

  • 『官報』(国立印刷局 1883- 【CZ-2-2】)(国立国会図書館デジタルコレクション)
    官報は、国が国民に周知する必要のある事項を掲載する国の機関紙です。戦前は高等官(奏任官以上)の辞令が掲載されます。掲載日は一般的に、辞令の発出から数日後です。官報の調べ方についてはリサーチ・ナビ「官報(法令情報)の調べ方」をご覧ください。

  • 公文書
    高等官(奏任官以上)は天皇の任命大権に基づいて人事の発令が行われていたため、内閣において天皇の裁可を受けるための書類を作成していました。任免裁可書は現在、国立公文書館に移管されており、国立公文書館デジタルアーカイブ外部サイトでデジタル化されたものが公開されています。ただし、検索用のキーワードのテキスト入力は目次のみ行われているため、人名をキーワードにしてすべての任免裁可書を検索することはできません。また、同アーカイブにおいて「官吏現員調書」(生年月掲載)、府県史料中の「官員履歴」において人物の履歴を調べることが可能です。

3. 戦前の官吏を官職名から調べる

官職名から戦前の官吏の人物情報を調べるツールには、次のものがあります。

3-1. 職員名簿

  • 『官員録・職員録目録 : 明治元年~昭和22年 国立国会図書館所蔵』(国立国会図書館参考書誌部編 国立国会図書館 1985 【A111-172】)
    太政官制度時代から内務省解体に至るまでの期間について、当館が所蔵している官員録・職員録約2,500冊を収録する目録です。中央・地方官庁(総合)、中央官庁(省庁別、旧外地等を含む)、地方官庁(都道府県別)の3つに分けて編成されています。掲載されている資料はデジタル化済みで、「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開されています。

  • 『職員録』(印刷局 【14.1-50】)(国立国会図書館デジタルコレクション)
    明治19(1886)年から年に1回(大正14(1925)年から昭和15(1940)年は年2回)刊行されている官公庁の職員名簿です。おおむね判任官以上の位階、勲等、功等、官等・俸給(高等官は官等、判任官は俸給の級俸)、住所(高等官の一部のみ)、氏名等を掲載していますが、公吏の掲載は市町村長などごく一部に限られます。詳細は、リサーチ・ナビ「日本-官庁職員(公務員)の名簿」をご覧ください。

  • 『明治初期歴史文献資料集. 第1集. 明治初期の官員録・職員録』第1巻-第6巻(寺岡寿一編集 寺岡書洞 1976-1981 【GB631-35】)

  • 『明治初期官員録・職員録集成』第1巻(慶応四年五月~明治元年十二月)-第4巻 (明治三年六月~明治三年十一月)(朝倉治彦編 柏書房 1981-1982 【A112-312】)
    職員録刊行開始以前に政府によって編纂され、『官員録』の書名により複数の出版者から刊行された官庁職員名簿を翻刻した資料です。なお、当館が所蔵する『官員録』の原本はデジタル化し、「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開しています。

  • 国立公文書館アジア歴史資料センター外部サイト
    「資料の閲覧・検索」アイコンをクリックし、次に「キーワード検索」をクリックして出てくる画面の左側にある資料群階層表示を「国立公文書館>太政官・内閣関係>官員録・職員録」とたどることで、国立公文書館が旧総理府から移管を受けた明治元年以来の戦前期の官員録・職員録等のデジタル画像を年別に閲覧することができます。

『職員録』をはじめ、当館が所蔵する職員名簿は「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開しています。「国立公文書館アジア歴史資料センター外部サイト」に収録されている官員録・職員録は、『国立公文書館所蔵明治大正昭和官員録・職員録集成 マイクロフィルム版』(日本図書センター 1990)と同じもので、明治19(1886)年から昭和18(1943)年までの『職員録』のほか、明治初期に各省・府県から太政官・内閣に提出された職員名簿を含み、『職員録』の欠を補うことができます。

3-2. 官職の歴代就任者リスト