別名を調べる

歴史上の人物や書画家、文学者などの別名(本名、筆名、通称、号・雅号など)を調べるツールを紹介します。書誌事項末尾の【 】内は当館請求記号です。

1. 人名辞典

1-1. 別名辞典、名や号から引く辞典

別名専門の辞典として、次のものがあります。

  • 『号・別名辞典 : 古代・中世・近世』(新訂増補 日外アソシエーツ 2003 【GB12-H13】)
    8,642人の号、別名20,555件を収録。
  • 『号・別名辞典 : 近代・現代』(新訂増補 日外アソシエーツ 2003 【GB12-H14】)
    7,757人の号、別名14,531件を収録。見出し語は号や名で、一文字目の読みの五十音順(例:元秋(もとあき)は元(げん)に排列)。「姓名から引く号・別名一覧」(五十音順)が付いています。
  • 近代人物研究会 編『近代人物号筆名辞典』(柏書房 1979 【GB12-38】)
    近代~現代の約5,700人を収録。見出し語は、一般に知られた代表的な姓名の五十音順。「号・筆名索引」(総画数順)が付いています。

見出し語に名、異名、通称、号、字などを広く収録した、名や号から引く辞典として、次のものがあります。

  • 『名前から引く人名辞典』(新訂増補 日外アソシエーツ 2002 【GB12-G45】)
    約70,000人の名、通称、号など約80,000件を収録。排列は五十音順。
  • 漆山又四郎 編『近世人名辞典 : 名号引き』1-3(青裳堂書店 1984-1987 日本書誌学大系 ; 36 【GB12-61】)
    江戸時代~大正時代の約40,000人を収録。排列は名、号、字、通称、諡号などによります。特に画家の情報が詳しいです。
  • 芳賀矢一 編『日本人名辞典』(思文閣 1969 【GB12-3】)
    大正3年刊【R281.03-H12ウ】の複製。大正初期までの約27,000人を収録。排列は性別によらず、異称、異名、雅号、芸名などを含む名の、歴史的仮名遣いによる五十音順です。

1-2. 別名索引が付いた人名辞典

一般的な人名辞典に、別名から引ける索引が付いている場合があります。以下は一例です。

  • 日本史広辞典編集委員会 編『日本史人物辞典』(山川出版社 2000 【GB12-G25】)
    実在人物のほか家名など約10,200項目を収録。巻末に「別名・異訓索引」が付いています。
  • 鷲尾順敬 編『日本仏家人名辞書』(増訂3版  東京美術 1966 【180.35-W48n-t】)
    552年~1902年頃の約6,000人(法師、尼法師、仏工、絵仏工など)を収録。勅号勅諡(ちょくし)索引、異称略名索引、禅僧別号室名索引が付いています。

2. 人名一覧

ここでは、各人物に関する記述が比較的簡潔な人名録などをご紹介します。

2-1. 略歴まで分かるもの

一般に知られた代表的な姓名、号の下に、本名、別名、没年などが列記されています。

  • 長澤孝三 編;長澤規矩也 監修『漢文學者總覽』(改訂増補 汲古書院 2011 【H2-J8】)
    江戸時代を中心とする6,711人の漢学者、漢文学者について、姓、号、名、通称、師名などを収録しています。修姓(姓を漢文風に一字に短縮したもの)からも検索できます。排列は姓名の五十音順。巻末に、姓以外の名称を対象とした索引(音読みの五十音順)が付いています。
  • 国学院大学日本文化研究所 編『和学者総覧』(汲古書院 1990 【H2-E2】)
    近世~近代の和学者(国学者。神学、歌学、歴史などの学問に携わった人物。)11,637人を収録しています。
  • 「俳人名彙」(『俳句講座. 第2卷』改造社 1932 pp.423-481 【911.308-H132-K】)
    「元祿以前の俳人名彙」、「元祿以後の俳人名彙」、「明治以後の俳人名彙」の3部からなります。排列は、歴史的仮名遣いの五十音順です。

以下の資料には、索引部分に別名や号が併記されています。また、本文を参照して人物の略歴を調べることができます。

  • 森繁夫 編;中野荘次 補訂『名家伝記資料集成』第5巻 総索引(思文閣出版 1984 【GB12-57】)
    鎌倉時代末期~昭和20(1945)年に没した国学者、歌人、漢学者、文人、高僧、芸術家、政治家、志士など約45,000人について、本名、通称、雅号、変名などを一まとめにした五十音順索引と別姓一覧、屋号一覧を収録。
  • 森銑三,中島理寿 編『近世人名録集成. 第5巻 (総索引)』(勉誠社 1978 【GB13-56】)
    江戸時代後期に刊行された文芸家を中心とした人名録64種についての総索引。検索は、姓名のほか、別称(字、号、通称など)からも可能です。
  • 小笠原長則 編『書家画家雅号(呼称)索引』上(書の部)下(画の部)(日本地域社会研究所 2000 【KC2-G10】)
    昭和時代までの書家・画家の雅号、名前、字名、通称などから、各種の参考文献、辞書類において見出し項目となっている代表的呼称を検索するための索引です。

2-2. 簡易な対照表

代表的な筆名や号と、本名や別名を対照できる資料として、以下のものがあります。ただし、人物の略歴は収録されていません。

  • 脇水謙也 編『先賢名家別号別称辞典』(石崎書店 1960 【281.034-W41b】)
    書家、画人をはじめ、公卿、僧侶、文人、歌人、政治家、軍人など約16,000人の雅号を五十音順に並べ、その下に本名を記載しています。
  • 天晶寿 編『別名本名対照便覧』(文化堂書店 1932 【281.034-A419b】)
    昭和前期までの約2,370人について、別名から本名を探すことができます。
  • 「号・筆名一覧」(紀田順一郎『ペンネームの由来事典』 東京堂出版 2001 pp.302-327 【KG311-G193】)
    近現代の物故作家約250人と現存作家を合わせて姓名の五十音に排列し、各作家の本名を掲載しています。
  • 中村忠行 編「明治漢詩文人雅號一覧」(『明治文学全集. 62』明治漢詩文集 筑摩書房 1983 pp.441-455 【918.6-M4482】)
  • 「筆名一覧」(『大衆文学大系. 別巻』 講談社 1980 pp.769-771 【KH6-24】)
  • 「筆名・雅号収覧」(『近代文学評論大系. 10』 角川書店 1975 付録pp.46-79 【KG311-42】)
  • 「筆名・号・本名」(久松潜一 等編『現代日本文学大事典』 増訂縮刷版 明治書院 1968 pp.1402-1420 【910.33-G292-(s)】)
  • 師井キヌエ「近代文学者筆名考--明治大正別名収覧」(『学苑』 305号 1965.5 pp.40-81 【Z24-49】)
  • 師井キヌエ「近代文学者筆名考補遺-1-」(『学苑』 312号 1965.12 pp.88-92 【Z24-49】)
    生没年や活躍分野を記載しています。末尾に筆名索引が付いています。

3. その他の文献

  • 佐川章 著『作家のペンネーム辞典』(創拓社 1990 【KG311-E103】)
    江戸時代~現代の作家(小説家のほか、詩人、俳人、歌人、狂歌師、劇作家、評論家、思想家、随筆家、画家など)235人を、ペンネーム(筆名)の五十音順に排列。各作家の解説に、ペンネームの由来、使用時期や、作家の本名、通称、字、号、その他のペンネームなどを記載しています。
  • 永田哲朗 編『日本映画人改名・別称事典』(国書刊行会 2004 【KD2-H27】)
    男女別に、一般に知られた代表的な姓名の五十音順に排列しています。別名や本名からは引けません。
  • 「ニックネーミング編」(荻生待也 編著『日本人名関連用語大辞典』遊子館 2008 pp.217-344 索引pp.(20)-(29) 【GB12-J6】)
    自ら名乗った別名ではなく、第三者から付けられたあだ名を対象としています。

書画や詩歌などの雅号を持つ政財界の人物については、以下の記事にまとめられていますが、収録人数は限られます。

  • 坂本箕山「明治時代名士雅號?(一)」(『新旧時代』 第1年(3月)(2)  1925.3 pp.45-47 【雑19-153】)
  • 坂本箕山「明治時代名士雅號?(二)」(『新旧時代』 第1年(4月)(3)  1925.4 pp.45-46 【雑19-153】)
  • 「當今名士の讀みにくい名前と雅號」(『実業の日本』 17(1) 1914.1.1 pp.81-83 【Z3-511】)
  • 「當今名士の讀みにくい名前と雅號――(二)」(『実業の日本』 17(2) 1914.1.15 pp.62-63 【Z3-511】)

4. データベース

5. 調べるうえでのポイント

以上で紹介した資料や類書に記述が見当たらない場合、

(1)もともと著名でなかった

(2)かつては有名だったが後世まで名が残らなかったため、現在の人名辞典類に収録されていない

(3)素性や本名を隠すために筆名や仮名を使用した

(4)本姓を使用した

(5)年齢や地位によって名前が異なる

などの事情が考えられます。

(2)の場合、その人物の活躍時期や分野を限定した、古い便覧や名鑑に収録されているかもしれません。

(3)の場合、「1.人名辞典」で挙げた辞典の刊行後に学術研究が進んでいれば、新しい研究文献が見つかるかもしれません。

また(4)について、江戸時代以前の日本社会では武士などを中心に、氏族を表す本姓と家名を表す苗字が使用されていました。一般に書類などの公的な場では本姓を使い、日常生活では苗字を使うという形で両者は使い分けられていました。
例えば江戸中期~後期にかけて活躍した国学者の「加藤千蔭」を例に考えてみます。この場合「加藤」の部分を苗字といいます(「千蔭」の部分は「実名」と言います)。しかし、彼は本姓としては「橘」という姓を持っていました。そこで本姓を使用した表記だと「橘千蔭」と表記されます。現在でも江戸時代以前の人名は苗字で表記されている場合と、本姓で表記されている場合とがあり、資料を調べる際にどちらの表記で記載されているか注意が必要です。

例 )

著作のある人物が本姓を使用していた場合は、『国書人名辞典』【GB12-E55】などに掲載されていることがありますが、町人などの庶民が本姓を使用していた場合、調べることが困難です。また実際の家系とは別に、自ら自由に本姓を設定することもあったため、本姓を手掛かりに家系図などで人名を調べることが困難な場合があります。
(尾脇秀和 著『氏名の誕生:江戸時代の名前はなぜ消えたのか』筑摩書房 2021 【GB43-M36】pp.72-84参照)

(5)について、明治時代以前は年齢によって名前を変更することが一般的でした。例えば幼少期には童名があり、成人後には実名が与えられました。

また地位を授かった際にも名前を変更することがありました。明治以前は「佐渡守」や「中務大輔」のように国名や官職名を通称として使用しており、地位が変わることによって通称が変わることがあります。特に近世には公家や武家以外の宗教者や職人も官職を名前として使用することがありました(実際は官職に就いていなくても、官職名を私称している場合もあり、注意が必要です)。
(大藤修 著『日本人の姓・苗字・名前:人名に刻まれた歴史(歴史文化ライブラリー;353)』吉川弘文館 2012 【GB43-J313】pp.71-134参照)

人名事典などには調べたい人物の全ての年齢、地位に応じた名前が掲載されているとは限りません。そのため、自分の調べたい人名がいつの時代の人名で、またその人物がどの年齢・地位にあったときのものなのかを推測しながら調べる必要があります。

国名や官職名が名前の中に入っており、いつの時代に使用されていた名前かが判明している場合は、官職事典や系図集などから調べることができる場合もあります。
武士の官職名について調べたい場合は、「武士の官職名を調べる」も参考になります。

(1)~(5)を踏まえた上で、それでも分からない場合は、人名辞典などを使って合理的に検索するのは難しいため、以下のような地道な調査が必要となります。

  • 周辺に著名人がいるようであれば、その著名人の日記や随筆、書簡を調べる
  • 家族に著名人がいるようであれば、当時の紳士録の家族欄を調べる
  • 文学同人に属しているようであれば、その同人雑誌や研究を調べる
  • 特定の雑誌に多く寄稿しているなら、目次を通覧して、掲載号の見通しをつける(巻号ごとに、署名の際、本名と号を使い分けている場合があるため)

関連情報