武士の官職名を調べる

日本の歴史上、○○大夫、○○守といった官職名(官途名・受領名)は、通称として多く使われていました。武士が使っていたこれらの官職名を調べるための資料を紹介します。

官職の本来の意味・職掌や仕組みなどについて調べる場合はリサーチ・ナビ「官職・位階を調べる」を参照してください。

書誌事項末尾の【 】内は当館請求記号です。

1. 官職名(官途名・受領名)についての基礎知識

「左衛門督」・「修理大夫」といった中央の官職名を官途名、「武蔵守」・「上総介」といった国司の官職名を受領名といいます。これらは律令制の官職名であり、本来は、相当する位階に叙された上で任官し、初めて名乗ることができるものでした。

例)従五位下に叙された上で伊予守に任ぜられる、など

武士については正規に叙任を受ける以外にも、大名が家臣に自らの権限で官途・受領名を名乗ることを許したり、勝手に自称したりする例も戦国時代にかけて多く見られました。そのため、朝廷の叙任記録などでは調べられない場合が多くあります。

また、江戸時代には大名や一部の高位の旗本を序列化する体系として官職・位階(武家官位)が利用されました。官途名・受領名は幕府による推挙と朝廷による叙任を経ているものの、大名や一部旗本の名乗り(通称)として使われています。これらの官位は本来の公家の官位とは別系統のものとされていたため、朝廷の叙任記録では一般的に調べることができません。

2. ある人物の官職名(官途名・受領名)を調べる

ここでは、武士の人名が収録されており、官職名の記載がある代表的な資料をご紹介します。

  • 国史大辞典編集委員会 編『国史大辞典』(吉川弘文館 1979-1997 【GB8-60】)
  • 今井尭 [ほか]編集『日本史総覧 3 (中世 2)』 (新人物往来社 1984 【GB8-122】)
    「武家系図」(pp.197-396)
    中世を中心に活躍した主な武家の系図をまとめたもの。系図中に幼名・通称・官位・号などを記載しています。索引はないため、探している人物の姓と年代を手掛かりに通覧することになります。
  • 安田元久 編『鎌倉・室町人名事典 : コンパクト版』(新人物往来社 1990 【GB12-E30】)
    武士以外の人名も収録しています。
  • 戦国人名辞典編集委員会 編『戦国人名辞典』(吉川弘文館 2006 【GB12-H43】)
    巻末の人名索引では官職名などの通称がまとめて併記されており、通称からでも探しやすくなっています。
  • 阿部猛, 西村圭子 編『戦国人名事典』(新人物往来社 1990 【GB12-E22】)
    見出しの後に幼名・官名・法号などをまとめて( )内に示しています。
  • 山本大, 小和田哲男 編『戦国大名家臣団事典』全2巻(新人物往来社 1981 【GB12-46】)
    見出しの人名に通称が含まれている場合と、本文の冒頭に通称が記載されている場合があります。見出しに通称が含まれている場合は各巻巻末の人名索引で確認できますが、索引に出ていない通称は本文を確認する必要があります。
  • 今井尭 [ほか]編集『日本史総覧 5 (近世 2)』(新人物往来社 1984 【GB8-122】)
    「大名系図」(pp.14-301)
    江戸時代の各大名家当主の系図。通称・官名などが記載されています。
  • 木村礎 [ほか]編『藩史大辞典』全8巻(雄山閣出版 1988-1990 【GB8-E9】)
    各藩の「藩主一覧」の項目(「藩主一覧」の項目がない藩もあります)に、その藩を治めていた藩主の「姓」・「諱」・「受領名または官職」・「通称」が記載されています。また第8巻の「藩主名索引」で、藩主の姓から人名を引くことができます(官職名から引くことはできません)。

3. 位階・官職名(官途名・受領名)から人名を調べる

一般に、官職名だけで人物を特定することは困難です。年代や地域などを考慮して、該当人物を判断することになります。また、苗字と官職が分かれば、「2. ある人物の官職名(官途名・受領名)を調べる」で取り上げた資料等で見当をつけていくのも1つの方法です。

官職名の索引

下記資料には官職名の索引があり、姓と合わせて検索することで手掛かりを得られます。

  • 御家人制研究会 編『吾妻鏡人名索引』(吉川弘文館 1992 【GB271-E20】)
    『吾妻鏡』に登場する人物について官職名を含む通称・異称から引くことができます。正式な叙任を受けたものか、私称していたものか区別されていません。
  • 斎木一馬 [ほか]監修『寛永諸家系図伝 索引 2』(続群書類従完成会 1997 【GB43-146】)
    江戸時代の大名・旗本の家系図集『寛永諸家系図伝』の官職索引・国名索引を収録しており、官途名・受領名から人名を引くことができます。江戸時代初期に各大名・旗本から提出された系図をもとに編纂されたものであるため、収録されているのは江戸時代まで存続した家に限られており、記述は必ずしも正確でない部分があります。また、正式な叙任を受けたものか、私称していたものかも区別していません。
  • 『寛政重修諸家譜索引 第4 新訂』(続群書類従完成会 1967 【288.21-Ka479-H】)
    江戸時代の大名・旗本の家系図集『寛政重修諸家譜』の称呼索引(官職名の部・国名の部)を収録しており、官途名や受領名から人名を引くことができます。江戸時代後期に各大名・旗本から提出された系図をもとに編纂されたものであるため、収録されているのは江戸時代まで存続した家に限られており、記述は必ずしも正確でない部分があります。また、正式な叙任を受けたものか、私称していたものか区別していません。
  • 田畑喜右ヱ門 撰, 斎木一馬, 岩沢愿彦 校訂『断家譜 第3』(続群書類従刊行会 1969 【GB43-2】)
    江戸時代に断絶した大名家・旗本家などの系図集『断家譜』の索引(称呼の部)を収録しており、官職名から人名を引くことができます。正式な叙任を受けたものか、私称していたものか区別していません。
  • 『歴史読本』編集部 編『日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本 増補改訂版』(新人物往来社 2014 【AZ-141-L135】)
    「江戸大名官職名[逆引き]人名事典」(pp.209-282)では官職名と苗字から江戸時代の歴代大名を探すことができます。
  • 竹内誠, 深井雅海, 太田尚宏, 白根孝胤 編『徳川幕臣人名辞典』(東京堂出版 2010 【GB12-J25】)
    「通称・官名・国名索引」(pp. 804-766)を収録しています。

任官・叙位一覧

正式に叙任される場合、時期や地位によっては任官一覧(補任類)に掲載されていることがあります(「官職・位階を調べる」参照)。ただし、鎌倉末期以降は公家の一部を除き、官職ごとの補任記録を一覧できる資料がありません。また、前述の通り江戸時代の武士の官位は公家とは別建てとされたため、補任類には記載されませんでした。

次の資料では、室町時代後期~安土桃山時代の武士の任官について、年代順の一覧表にまとめています。いずれも、「歴名土代」「公卿補任」「お湯殿の上の日記」などの各種史料で手続きが確認できる武家の任官を一覧表にまとめたものです。同じ期間を対象としていても扱っている史料・解釈の違いなどで記述が異なる場合があります。

明応2(1493)年~永禄11(1568)年

永禄元(1558)年~慶長6(1601)年

天正10(1582)年~慶長5(1600)年

天正13(1585)年~慶長20(1615)年

  • 下村效「史料紹介 天正 文禄 慶長年間の公家成・諸大夫成一覧」(『栃木史学』(7) 1993年3月 pp. 200-224 【Z8-2782】)

ここに挙げられたものについては、何らかの典拠となる史料が存在するということになりますが、必ずしもその典拠史料の記述が正確であるとは限らないことに注意が必要です。
これらの一覧表で確認できない人物について、任官を史料上で確認したい場合は、その人物の伝記や地方史などを調査し、関連文書の中から該当する文書を探していくことになります。

4. 参考文献

関連情報