「リサーチ・ナビ」に関するアンケートを実施しています。皆さまのご意見をお聞かせください。アンケートに答える

トップアジア諸国の情報をさがす刊行物>上海新華書店旧蔵書と中国の連環画: アジア情報室通報 第10巻第1号

上海新華書店旧蔵書と中国の連環画: アジア情報室通報 第10巻第1号

アジア情報室通報 第10巻1号(2012年3月)
中野徹(近畿大学文芸学部特任講師)

はじめに

近年、中国におけるデジタル化資料の充実ぶりは目を見張るばかりである。いまや中国研究における必須のツールとなった、「CNKI」(China National Knowledge Infrastructure)こと、「中国学術文献オンラインサービス」は、「中国期刊全文数拠庫」(中国学術雑誌全文データベース)にアクセスすれば、日本国内であまり所蔵されていない雑誌や最近の刊行物の記事を検索することができるだけでなく、有料ではあるが、ダウンロードしてプリントアウトもできる。「CNKI」の登場により、中国語の論文や雑誌記事へのアクセスは飛躍的に容易になった。なお、国立国会図書館でも「CNKI」のうち、「中国期刊全文数拠庫」と「中国重要報紙全文数拠庫」(中国重要新聞データベース)の利用が可能であり、「デジタル化資料データベース」からアクセスができる。

日本にいながらにしてアクセスできる中国語文献は、雑誌や新聞記事だけではない。中国国家図書館のデジタルライブラリーをはじめ、大成老旧刊数拠庫(有料。検索は無料)などにアクセスすれば、1910年代から40年代までの中華民国期の刊行物を閲覧することができるようになった。

今後、中国におけるデジタル化データは、ますます拡充され、図書館の端末やインターネットを通して、さまざまな中国語資料に容易にアクセスが可能になるだろう。しかしながら、紙媒体の一次資料の貴重さはなんら失われるものではない。国立国会図書館関西館の上海新華書店旧蔵書本は、1950年代60年代の版本を中心に、日本国内の他の研究機関や大学図書館が所蔵する中国語資料を補完する貴重なコレクションといえるだろう。

上海新華書店旧蔵書

本コレクションは、上海新華書店が保管していた中国書の見本約17万冊からなる。1930年代から1990年代初めまでの、毛沢東やマルクス・エンゲルスの著作集、啓蒙書、実用書、古典文学、現代文学、連環画など、ほぼすべての分野の書籍が収められている。

国立国会図書館による遡及入力は、平成13年度からはじまり、平成18年度までに、14万338件15万803冊が遡及入力された。本データは、アジア言語OPACに搭載され、資料の検索と請求ができるようになった。上海書店旧蔵書は、国立国会図書館の分類記号のうち、〈請求記号〉が「XP」から始まるものである。「XP」に続くAからDは、書籍の大きさを表し、Aは小型(縦20㎝未満)、Bは中型(縦20㎝以上27㎝未満)、Cは大型(縦27㎝以上32㎝未満)、Dは規格外(縦32㎝以上または横24㎝以上)である1

これまで、上海新華書店旧蔵書の所蔵データは、アジア言語OPACを検索しなければならなかったが、今年、国立国会図書館のシステムが変更されたことにともない、NDL-OPACでの検索が可能になった。これにより、上海新華書店旧蔵書へのアクセスは、より簡便化された。

上海新華書店旧蔵書のうち、特に異彩を放つのが、連環画コレクションである。連環画約4,000タイトルが国立国会図書館関西館に所蔵されており、コレクションの一部は国際子ども図書館に移管されている。連環画は、日本国内の大学や研究機関の一部の図書館に蔵書がわずかにあるだけであり、これほど大規模な連環画コレクションを揃えている図書館は他にはなく、中国においてもこれほど充実した連環画蔵書を備えた図書館は多くはない。

連環画について

連環画は、連環図画や小人書とも呼ばれ、中国で数多く出版されている絵物語である。連環画にはさまざまな形態のものがあるが、一般的なものは、一頁あたり一コマの図版が割り振られ、図版の下もしくは左右に解説文が施されている。図版は白黒で、表紙のみカラーという形式がほとんどである。多くは線描画で描かれるが、映画のシーンのスチル写真が用いられるものもある。

連環画の判型は小さく、およそ10cm×13cmほどのサイズが一般的である。連環画の奥付に、「開本850×1048 1/64」と表記されていれば、その連環画は、850mm×1048mmの印刷用紙を64分の1にした、「64開」というサイズであることがわかる。連環画の判型はさまざまであり、印刷用紙のサイズにもよるが、50開、60開、64開の手のひらサイズのものが一般的である。

中国連環画春秋

次に中国連環画史を概観する。

連環画は、中華民国期、1920年代30年代に上海でさかんに出版された。当時の連環画の題材は、中国古典小説、神怪小説、武侠小説など、通俗小説が中心であった。上海の街角には連環画の貸本屋が櫛庇し、そこには子どもから大人までが集まり、廉価で借りることのできる連環画はたいへんな人気を博していた。

1930年代に連環画の持つ力に注目した人物が二人いる。中国現代文学の作家であり、文芸批評家であり、のちに中華人民共和国で文化部長(日本でいう文部大臣)を務める茅盾である。茅盾は、連環画の大衆性とその読者層に注目し、図が主であり、文が補助的である連環画は民衆教育のツールとなりうると考えた2。もう一人は、 中国現代文学者として知られる魯迅である。当時の論争のなかで、連環画がもちうる芸術性について言及している3。両者は、図版つきの連環画がもつ、媒体としての宣伝力に注目しているが、そこに注目し、巧みに利用したのが中国共産党であった。

1949年、中華人民共和国成立による社会システムの激変にともない、1950年代の中国の出版社は、私営から公営へ整理され、出版のシステムが整備されてゆく。連環画を扱う出版社も例外でなく、統廃合を繰り返し、整備されていった。毛沢東は、1949年、文化部副部長であった周揚に、「連環画は子どもが読むだけでなく、大人も字を読めない人も、知識のある人も読む。ひとつ出版社をたちあげ、新しい連環画をまとまって出版して、神怪だの、武侠だの、迷信だの、古いものを排除しないか」と指示したという4。周揚は、文化部芸術局美術処処長の蔡若虹と協議し、文化部は北京に大衆図画出版社の設立を決定する。大衆図画出版社は、連環画や通俗読物専門の出版社であったが、1951年に人民美術出版社が成立すると吸収された。同年、人民美術出版社は、連環画専門誌『連環画報』を創刊した。上海でも出版のシステムが同様に整備された。1949年の上海には、出版社が510あり、そのうち連環画関係のものは110あったという5。新華書店華東総本店は連環画出版に従事する者を集め、連環画創作部門を設立した。この部門は、華東人民出版社美術編輯部となり、1952年に華東人民美術出版社と合併し、1955年に上海人民美術出版社に改称された。上海人民美術出版社は、新美術出版社や上海画片出版社を合併した。また、出版業界の改編の過程のなかで、連環画の著作権料の規定も整備されていった。

中華人民共和国期の連環画の内容は多岐にわたる。労働者・農民・兵士を描いたもの、婚姻法など政策の普及をはかるもの、科学知識普及もの、朝鮮戦争を背景とした抗美援朝(反米朝鮮支援)を題材にしたものなど、時代を反映した作品が次々に生み出された。また、中国共産党による革命の歴史を描いた「革命歴史故事」を題材にした作品が次々に連環画化された。これにより、連環画の本屋からは、中華民国期に一世を風靡していた通俗小説を題材とした連環画が「悪書」として一掃されることになった。また、連環画は非識字者をなくすためのツールとしても期待されていた。

1963年、北京の中国美術館で、連環画コンクールが開催され、全国から集められた2,000点もの作品のなかから優秀作品が選ばれ、その芸術性が評価された。選考は絵画部門と脚本部門のふたつに分かれており、絵画部門では、賀友直『山郷巨変』、劉継卣『窮棒子扭転乾坤』、王叔暉『西廂記』、王緒陽・賁慶余『我要読書』、丁斌曽・韓和平『鉄道遊撃隊』、趙宏本・銭笑呆『孫悟空三打白骨精』の六作品、脚本部門では、張再学『鶏毛信』、姜維朴『窮棒子扭転乾坤』、費声福・呉兆修『風暴』、董子畏『屈原』の四作品が一等賞に輝いた。

このように中華人民共和国成立後、連環画の出版機構が整備され、発表の媒体とその評価のシステムが構築されてゆくが、1966年、“文化大革命”が勃発すると、69年まで、連環画の創作はすべて停止された。“文革”終了後、1950年代60年代に出版された連環画が再販されるようになるが、1980年代の半ばから、連環画はしだいにその人気に陰りを見せ、連環画は、日本の影響を受けた漫画などに市場を奪われてゆく。そして、連環画は、本屋から姿を消し、古本市の片隅に置かれ、しだいに忘れられた存在になっていった。

失われた連環画を求めて

しかし、連環画を取り巻く環境はまたしても一変する。2000年以降、「革命歴史故事(紅色経典)」のテレビドラマや映画へのリメイクブームが起こると、それらの原作の改編作である1950年代60年代の連環画が再び注目され、大量にリプリントされる。時を同じくして、連環画は、コレクターたちによって、美術作品や文学作品の価値というよりも、骨董品的な価値が見出されるようになった。コレクターたちにより、中国全土から稀少価値のある版本が探しだされ、連環画の古本市場では値段が高騰している。

一例を挙げておこう。連環画『鉄道遊撃隊』全10冊(劉知侠原著、董子畏改編、丁斌曾・韓和平絵画、上海人民美術出版社、1955-1962)である。『鉄道遊撃隊』は、日中戦争期、山東省南部に実在した中国共産党系ゲリラ部隊の活躍に取材した物語であり、現代版『水滸伝』ともいうべき作品である。この連環画シリーズは、先に見たように、1963年の連環画コンクールの絵画部門第一等賞、脚本部門第二等賞を獲得しており、その評価は高い。1989年までに合計発行部数が3,651万冊にのぼり、連環画のなかでもっとも発行部数が多い作品である6。『鉄道遊撃隊』の連環画は、上海人民美術出版社以外からも出されているが、董子畏、丁斌曾、韓和平のトリオによる初めての作品は、1955年に同社から出版された「打洋行」である。この版本は、「鉄道遊撃隊之二」と注記されているところから、もともとは連環画『鉄道遊撃隊』シリーズの第二弾であったことがわかる。絵画を担当した、韓和平、丁斌曾はこの作品を担当した後、作品の出来に満足できず、作品の舞台である山東省南部を五度にわたり訪れ、モデルとなった人物たちに取材し、合計で2,000点にものぼるスケッチをとった。これらの綿密な取材をもとに、かれらは、シリーズ第10作目までを書き上げたのち、シリーズの第1作目と第2作目を描き直し、シリーズ全10冊1,229幅の連環画を完成させた。この書き直しのために、1955年に出版された「飛車搞機槍」(王景樾改編、李新絵、上海人民美術出版社)と「打洋行」はいずれも幻の版本となった。筆者が上海南市の古本市で見かけた連環画『鉄道遊撃隊』の、1955年版のこの二作品は、ともに2,000元もの値がつけられていた。

現在も、インターネットのオークションをはじめとする連環画マーケットでは、連環画の原画や1950年代の希少な版本が高値で取引されている。連環画が今世紀に入ってふたたび脚光を浴びたのは、美術作品や文学作品への関心というよりも、コレクターたちの収集欲つまりは物欲によるのである。

近年、中国では連環画収集ブームによって、目録作りが進められ、連環画研究の基礎的工具書が整備されつつある。王玉興匯編『中国連環画目録匯編 : 大可堂版(1949-1994)』(上海画報出版社、2003)はその代表である。

おわりに─連環画研究の今後

上海新華書店旧蔵書の連環画コレクションを調べるうえで、非常に便利な目録がある。鴇田潤「国立国会図書館関西館所蔵中国連環画書名一覧」(『アジア情報室通報』第9巻第4号、2011年12月、2−12頁)である。国立国会図書館ホームページの「リサーチ・ナビ」からもアクセスが可能である(https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin9-4-1.php)。今後、日本における連環画研究において、必携の工具書であろう。国立国会図書館上海新華書店旧蔵書の連環画コレクション約4,000タイトルのうち、1950年代の連環画が五割、60年代、80年代がそれぞれ二割、70年代が一割を占めている7。NDL-OPACの検索画面で、この「一覧」にある請求記号の一部(XP-A-**の**部分)を入力するだけでも、より簡単に連環画資料にアクセスすることができる。

本コレクションを利用すれば、さまざまな連環画研究を行なうことが可能であろう。文学作品の改編作の研究、連環画出版研究、連環画作家研究はもちろんのこと、大衆向けに作られた連環画─とくにそこに描かれる図像分析をもとに、社会研究、風俗研究、政治運動の再評価など、さまざまな角度からの研究資料として活用が期待される。

上海新華書店旧蔵書は、出版社から献本された見本でありながら、保存状態がよくないものが多数存在する。中華人民共和国期の中国書籍の多くは、毛沢東のいわゆる「文芸講話」(1942)の大方針のもと、政治性の強いものが多い。本コレクションは、ともすれば、政治臭を放つぼろぼろの古紙の山のような存在かもしれない。しかしながら、視点をかえれば、当時の社会や文化を映す宝の山でもあるのだ。


1 関西館資料部アジア情報課(鴇田潤)「上海新華書店旧蔵書遡及入力の終了について」(『国立国会図書館月報』547号、2006年10月、26-27頁)

2 茅盾「連環図画小説」(1932)(『茅盾全集』第19巻、人民文学出版社、1991、340-343頁)

3 魯迅「“連環図画”弁護」(1932)(『魯迅全集』第4巻、人民文学出版社、1981、445-450頁)

4 姜維朴「新中国連環画芸術的六十年」(姜維朴『新中国連環画60年』人民美術出版社、2009、64頁)

5 余嘉輯録「建国初上海書店、出版社情況摘編(一)−(十一)」(『出版史料』1988年第1期−1991年第1期)

6 傅恵民「40年来我国部分出版社発行在50万冊以上的図書目録(一)」(『中国出版』1989年第10期)

7 鴇田潤「国立国会図書館関西館所蔵中国連環画書名一覧」(『アジア情報室通報』第9巻第4号、2011年12月、2-12頁)

(なかの とおる)

  • 国立国会図書館
  • 国立国会図書館オンライン
  • 国立国会図書館サーチ
  • 国立国会図書館デジタルコレクション
  • ひなぎく
  • レファレンス協同データベース
  • 本の万華鏡
  • 参考書誌研究