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調査研究部門に隣接する図書館は、その価値をいかに高められるか-平成25年度アジア情報関係機関懇談会 概要報告:アジア情報室通報 12巻2号

アジア情報室通報 第12巻2号(2014年6月)
冨田 圭一郎(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

平成26年3月19日(水)午後、国立国会図書館関西館において、平成25年度アジア情報関係機関懇談会を開催した。この懇談会は、国内のアジア情報関係機関間の交流を図り、国全体としてのアジア情報資源の充実と流通促進に資することを目的として、平成13年度から毎年開催している。

今回は、「調査研究部門に隣接する図書館は、その価値をいかに高められるか」をテーマとして、当館報告、外部機関報告及び懇談を行った。以下、その概要を報告する。

1 懇談のねらい

アジア情報室は、平成28年度までの新中期計画に基づき、既存業務の改善とともに、「アジア情報の普及」という観点から新たな取組を始めている。特に、当館の調査部門である「調査及び立法考査局」が行う国会に対する立法調査業務に、これまで以上に資することを重視している。調査研究部門に隣接する資料部門(図書館)が「価値をいかに高められるか」というテーマは、アジア情報室のこの取組を踏まえて設定したものである。

今回は、各機関が最新の活動を報告し合い、相互に知見を共有して業務改善に役立てることを目的として、アジア関係資料・情報を扱う図書館(室)のうち、調査研究部門に隣接する(附属、並列等のかたちで設置される)7つの機関にご参加頂いた[1]。

当日は、まず当館から、アジア情報室の新たな試みと、海外調査の成果として東南アジアの研究型図書館の活動事例を報告した。次いで、アジア経済研究所と九州経済調査協会から、各資料部門の「価値を高める」活動事例が報告された。その後、中国近現代史の研究者であり、かつ図書館の実務経験を持つ大澤肇氏(中部大学国際関係学部講師)から、各報告に対するコメントと質問がなされた。また、報告機関以外の5つの参加機関からは、調査票形式で「価値を高める」活動が紹介され、最後に全員で意見交換を行った。

2 当館からの報告

(1)「アジア情報室の情報発信、対外連携強化の取組」[2](アジア情報課長 塚田洋)

アジア情報室は、平成14年の移転・開室以来、それまで実施してきた図書館サービスに加え、新たに情報発信と対外連携活動に取り組んできた。情報発信の取組としては、Asia-Links、「調べ方案内」、『アジア情報室通報』等、ホームページを通じたレファレンス関連情報の提供がある。また、対外連携活動としては、本懇談会及びアジア情報研修の開催、中国、韓国の国立図書館との業務交流等の実績がある。

さらにアジア情報室は、平成25年に策定した新たな中期計画のもとで、当室の業務改善だけでなく、「アジア情報の普及」の視点から、①サービスの高度化と②連携活動の強化に着手している。

①については、「国会サービスの拡充」がある。アジア情報室は、これまでも調査部門(調査及び立法考査局)の求めに応じて、国会サービスに資する資料・情報提供を行ってきた。今後は、当室から積極的に情報発信することとし、平成25年度は「尖閣諸島、竹島等に関する最近の中国語、朝鮮語資料」[3]等を刊行した。また、新着資料解題送信サービスを通じて、調査部門の職員に役立つアジア言語資料を紹介するほか、調査員の資料購入リクエストの受付方法を改善し、ニーズ把握にも努めている。

②については、まず、「中国の資料デジタル化プロジェクト・CADALに関する情報提供」がある。CADALは、参加機関となれば約270万冊の中国関係のデジタル化資料が利用可能となる、国内研究者にメリットの大きいプロジェクトである[4]。アジア情報室はCADALに関心を持つ国内機関のため、参加手続きに関する情報を『アジア情報室通報』等を通じて紹介した。また、アジア情報室は、当館のCADAL参加検討に加わる予定である。

アジア情報研修についても、新たに「日本語・英語で調べるアジア情報」を開講し、アジア情報を必要としながら、言語読解力が壁になっている多くの図書館関係者、一般利用者に役立つ内容とした。

(2)「東南アジアの図書館における研究者支援サービス」(アジア情報課 齊藤まや)

シンガポールとマレーシアにおける2つの研究型図書館のサービスについて、現地調査の成果を報告する。

シンガポール東南アジア研究所図書館(ISEAS Library)は、東南アジアの政治、経済、社会、文化の研究を行う同研究所の研究員のための図書館である。所内研究員のために、研究員の学術活動時に作成・入手した資料の整理・保存、資料購入リクエストの受付と新着資料案内の通知、各種言語の新聞記事の翻訳サービスを行っている。外部研究者に対しても、有料で、文献リストの作成、他機関からの資料取寄せ等を行っている。

マレーシアにある華社研究センター集賢図書館(华社研究中心集贤图书馆)[5]は、マレーシア華人に関する研究を行う私立研究所に属する会員制の専門図書館である。利用者からの専門的なレファレンス、資料探しに対応すると同時に、研究者からは、資料の寄贈や、選書や資料デジタル化の際の協力を得ている。

上記2機関では、限られた利用者に対して「狭く」「深い」サービスを提供することで、利用者からは専門知識や寄贈資料を得る、という互恵関係を築いている。

3 各機関からの報告

(1)「研究インフラとしてのアジア経済研究所図書館」(日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館長 泉沢久美子氏)

アジア経済研究所図書館は、研究部門に対して収集・組織化した資料情報を提供するとともに、研究部門が生み出した成果をデジタル化、アーカイブ化して発信することにより、知の生産及び情報流通に貢献している。

図書館員は、研究部門で数多く開かれている研究会に定期的に参加することにより、研究動向、研究リソースの活用方法等を把握し、選書・収集に活かしている。また、イントラサイト、研修、ニューズレター等により、研究部門に対して資料情報を提供している。

一方、研究部門が生み出した成果は、図書館が、「出版物アーカイブ(AIDE)」、「学術研究リポジトリ(ARRIDE)」、「アジア動向データベース」により、広く発信している。また、図書館員の知見を活かして、毎年『アジ研ワールド・トレンド』の特集企画編集[6]や『アジア経済』の書評、資料紹介等に協力している。

さらに、最近は、より開かれた研究図書館を目指して、外部発信・連携を強化している。例えば、外部図書館との連携による企画資料展・講演会の開催、連携協定の締結による図書館共同利用制度の新設がある。

今後の課題としては、細分化・多様化した研究テーマや電子媒体へのシフト等に対応した蔵書構築、ウェブによる情報発信の拡充、管理業務の効率化・省力化等がある。

(2)「BIZCOLIの挑戦」(公益財団法人九州経済調査協会事業開発部主任研究員 岡本洋幸氏)

九州経済調査協会は、「九州の知恵袋」を目指して活動する地域シンクタンクで、調査研究部が自主研究・受託研究を行い、事業開発部が会員制ライブラリー「BIZCOLI」を運営している[7]。

「調査研究機関の競争力(価値)の源泉は何か」と問われれば、それは、「研究能力ではなく研究成果を流通させる力であり、図書館がそれを担うことである」と考える。

「図書館の価値を高める」要素としては、スタッフ、利用者、イベント・展示、空間デザイン・雰囲気、情報提供力(※蔵書数ではない)の5つが重要であると考えている。例えば、人脈作りのための週1~2回のイベント開催、アイディア創出のための書架づくり等を行っている。

「BIZCOLI」を運営する事業開発部と調査研究部は、定期的な人事異動や、「BIZCOLI」でのイベントを分担して行う(研究成果を利用者に伝える役割を共に担う)等の平素の業務上のつながりにより、密接に意思疎通をしている。図書館が調査部門のニーズを把握して資料面で支援するという発想に加え、図書館が地元経済界、行政、利用者等のニーズを吸い上げて調査部門に伝える役割もある。

4 コメント(中部大学国際関係学部講師 大澤肇氏)

日本の研究図書館の顕著な問題は、「デジタル化への対応の遅れ」である。情報環境の転換期にある現在、研究図書館は、文献資料を扱うだけではなく、来館するメリットをアピールする必要がある。以下3つの観点から現状を整理したうえで提案するが、これらに関する各館の状況をお教え願いたい。

① 多メディア・デジタル化への対応

有償大型データベースの契約・提供は、まさに図書館の出番である。さらに、図書館が非文字資料も扱えると望ましい。

② ユーザーへの情報発信・交流

研究図書館のプレゼンス強化には、ユーザーとのコミュニケーション、図書館側からの情報発信が必須である。

③ 対外連携とデータベース・アーカイブ構築の結合

自館で価値ある資料がデジタル化されていれば、他機関との相互提供により、経費をかけずに自館のリソースを拡充できる。

結論として、短期的には、①ユーザーへの情報発信、ユーザーニーズの把握、②研究図書館間の連携・協力により、価値を高めていくことが必要で、中期的には、①スタッフの分化(研究系、インフラ系等)、②書籍中心の図書館を脱し、参加や来館によってユーザーにメリットが与えられる空間を目指すことが必要であると考えている。

5 懇談―「価値を高める」2つの方向性

懇談では、まず、大澤氏によるコメント及び質問に対して、各出席者が回答した。

このうち、非文字資料の取扱いについては、当館が「歴史的音源」を、愛知大学が「絵葉書コレクション」を一般公開していること等が紹介された[8]。また、対外連携とデータベース・アーカイブ構築の結合については、東京大学東洋文化研究所が中国国家図書館に所蔵漢籍の画像データを提供・公開していること等が紹介された[9]。

全体の意見交換を通じて、各館の活動には、①特色ある資料を収集・提供することに比重を置く、あるいは、②情報発信・流通や研究活動への関与等に力点を置くという2つの方向性があることが、浮き彫りとなった。

おわりに

本懇談会では、調査研究部門に隣接するアジア情報関係機関が一堂に会して、テーマに即した有益な懇談を行うことができた。

当然ながら、機関によって「価値を高める」考え方や活動は様々であり、また、所蔵資料の特徴、立地、運営形態等も異なるため、懇談によって何か一つの結論が得られるわけではない。それでも、①特色ある資料の収集・提供、②情報発信・流通や研究活動への関与、という2つの方向性が示された意義は大きい。アジア情報室の取組では、CADALへの参加検討が①、国会サービス拡充が②に相当する。

また、①について、図書館の「究極の価値はコレクションの中身と図書館員の能力だ」という指摘があるように[10]、価値あるコレクションを構築することも、図書館員の能力が問われる重要な仕事である。ただし、それが困難な場合は、情報発信等の「図書館員の能力」がより重要となるだろう。

さらに、今回のテーマは、アジア情報関係機関に特有のものではなく、「調査研究部門に隣接する」各分野の専門図書館にとって、共通の課題でもある。情報発信型のサービスを実施している専門図書館は少ないという調査結果もあることから[11]、本懇談会の情報は、各館が自らの活動を検討する際に、参考になると思われる。

最後に、本懇談会で有益な知見をご披露頂いた各機関、コメンテーターの皆様方に、改めて御礼申し上げる。なお、本懇談会の当日配布資料(一部)を当館ウェブサイト内に掲載したので、併せてご参照頂きたい[12]。

(とみた けいいちろう)


[1]当日の参加機関は下記のとおりである(五十音順)。
・愛知大学国際問題研究所
・京都大学人文科学研究所
・京都大学東南アジア研究所
・公益財団法人九州経済調査協会
・公益財団法人東洋文庫
・東京大学東洋文化研究所
・日本貿易振興機構アジア経済研究所
(当館出席者:関西館長、関西館次長、同アジア情報課長、同アジア情報課員)

このほか、翌日3月20日に開催した「平成25年度アジア情報研修」の受講生のうち5名が聴講した。

[2]アジア情報室のこれまでの活動と今後の課題については、塚田洋「アジア情報室のさらなる発展に向けて ―情報発信と対外連携に向けた新たな取組―」『アジア情報室通報』11巻3号, 2013.9, pp.2-7も参照。https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin11-3-1.php

[3]鎌田文彦、濱川今日子、福山潤三「尖閣諸島、竹島等に関する最近の中国語、朝鮮語資料」『レファレンス』64巻3号, 2014.3, pp.123-144.http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8436649_po_075806.pdf?contentNo=1

[4]CADAL(China Academic Digital Associative Library)については、下記を参照。
湯野基生「中国の資料デジタル化プロジェクト・CADALの利用と参加について」『アジア情報室通報』12巻1号, 2014.3, pp.2-5. https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin12-1-1.php
関西館アジア情報課「中国の資料デジタル化プロジェクト ―国際連携を進めるCADAL」『国立国会図書館月報』637号, 2014.4, pp.12-16. http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8619055_po_geppo1404.pdf?contentNo=1

[5]華社研究センター集賢図書館については、齊藤まや「シンガポール、マレーシアの華人関係資料専門図書館 ―在外研究報告―」『アジア情報室通報』12巻1号, 2014.3, pp.10-11も参照。 https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin12-1-2.php

[6]『アジ研ワールド・トレンド』(2014.4)の特集「新しい研究図書館を描く ―海外の実践にみる知の集積・発信のいま―」では、「蔵書構築」「ライブラリアンの役割と図書館間連携」「学術情報の発信」の3点から、世界の図書館の事例を紹介している。 http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/W_trend/201403.html

[7]九州経済調査協会は、九州の地域経済・産業、アジアとの経済連携等に関する調査研究を行うとともに、旧経済図書館を会員制図書館「BIZCOLI(Biz Communication Library)」にリニューアルして運営している。「BIZCOLI」の詳細については、岡本洋幸「会員制ライブラリー「BIZCOLI」の挑戦」『専門図書館』261号, 2013.9, pp.23-28を参照。

[8]国立国会図書館「歴史的音源(れきおん)」 http://rekion.dl.ndl.go.jp/
愛知大学国際中国学研究センター「中国戦前絵葉書データベース」http://iccs.aichi-u.ac.jp/postcard/

京都大学人文科学研究所では、中国美術考古写真や地図のデジタル化に着手している。

[9]中国国家图书馆「东京大学东洋文化研究所汉籍全文影像数据库」http://mylib.nlc.gov.cn/web/guest/dongwenyanhanjiyingxiangku

京都大学東南アジア研究所では、デジタル化した外国図書館所蔵資料のデータを双方で共有する検討を行っている。東洋文庫では、所蔵資料のデジタル化データを台湾の中央研究院等に提供している。

[10]松本脩作「特別連載 アジ研の50年と途上国研究 第10回 図書館と調査研究 ―鳥の両翼,車の両輪―」『アジア経済』52巻1号, 2011.1, pp.72-73. http://d-arch.ide.go.jp/idedp/ZAJ/ZAJ201101_005.pdf

[11]日本国内584の各種専門図書館のうち、「資料の閲覧」「目録作成」「レファレンス」等の従来型の図書館サービスに比べて、「抄録・解題の作成」「資料・情報を加工・分析して提供」等の情報発信型のサービスを実施している館は少ないという。
青柳英治「専門図書館職員に求められる知識・技術:情報サービス活動にもとづく職務内容調査をもとに」『図書館界』65巻5号, 2014.1, pp.292-307.

[12]国立国会図書館リサーチ・ナビ「平成25年度アジア情報関係機関懇談会」https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-meeting25.php

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