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多文化共生施策と図書館の多文化サービス―平成26年度アジア情報関係機関懇談会 概要報告―:アジア情報室通報 13巻2号

アジア情報室通報 第13巻2号(2015年6月)
冨田 圭一郎(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

平成27年2月5日(木)午後、国立国会図書館関西館において、平成26年度アジア情報関係機関懇談会を開催した。この懇談会は、当館と国内のアジア情報関係機関との連携を進め、国全体としてのアジア情報資源の充実と流通促進に資することを目的として、平成13年度から毎年度開催している。

今回は、「多文化共生施策と図書館の多文化サービス」をテーマとして、基調報告、当館報告、外部機関報告及び懇談を行った[1]。以下、その概要を報告する。

1. 懇談の目的

関西館アジア情報室は、平成14年に開室した際に、アジア各国出身の地域住民や留学生等を対象とした多文化サービスを課題の一つと考えていた。平成25年度から、改めてこの課題に取り組むため、シンポジウム参加、国内外の関係機関への訪問調査を通じて、多文化サービスの現状を把握するように努めた。また、調査結果をふまえ、日本国内の多文化サービスにおけるアジア情報室の役割についても検討を始めた。

今回の懇談テーマは、上記の取組をふまえて設定したもので、①多文化サービスを行っている各機関と有益な知見を共有すること、②アジア情報室が各機関の多文化サービス充実のために果たせる役割を探ること、の二つを目的とした。①については、図書館の多文化サービスと国・自治体の多文化共生施策との関係や、多文化サービスに関する他機関・他部門との連携のあり方を意識した[2]。②については、各館で認識している多文化サービス充実のための課題と、課題解決のために当館(特にアジア情報室)が果たせる役割を、具体的に把握することに留意した。

なお、本懇談会では、便宜的に、「図書館の多文化サービス」を「主にアジア各国出身の地域住民や留学生等を対象として、多言語(日本語、英語、アジア言語)の資料・サービスを提供すること」と定義した。これは、本懇談会がアジア関係資料を扱う機関の会合であり、また、実際に在留外国人のなかに占めるアジア各国出身者の割合が高いためである[3]。

2. 基調報告:多文化共生施策の動向と図書館の役割(静岡文化芸術大学文化政策学部教授 池上重弘氏)

池上氏は、日本に在住する外国人の現状、多文化共生に関する国の施策を整理したうえで、図書館は、外国人政策の2つの柱「出入国管理」「社会統合」のうち、根拠法や明確な政策方針は未だないが、近年重視されてきた「社会統合」の役割を担うことができると指摘した。具体的には、①外国人住民にとっての生涯学習の拠点、②多様な住民の交流拠点、③多様な社会的サービスにつながるハブ、④日本人にとっての異文化理解の場、という機能を挙げた。

図書館は、在住外国人への支援だけではなく、彼らの社会参加や社会への定着を促進し、また、日本人の異文化理解や意識改革を進めることを主目的としてサービスを提供し、生涯学習と多文化共生の「結び目」の役割を果たすことが重要であるとの指摘である。

3. 当館からの報告:国内外の図書館における多文化サービスの調査結果(アジア情報課 福山潤三、森田理恵子)

当館からは、国内及びオーストラリアの現地調査をふまえ、多文化に関する施策との関係、他機関との連携、の2点を意識しながら、多文化サービスに見られる傾向をまとめた。

日本の公共図書館と大学図書館の場合、各館は積極的に活動しているが、自治体の多文化共生施策に図書館の役割が明記されておらず、また、自治体や大学の他部門との連携が不十分な場合も見られる。一方、オーストラリアでは、連邦及び州の法律で多文化主義の原則が明確に定義されており、それを十分意識して図書館サービスが行われていること、また、州立図書館が最前線で住民サービスにあたる市立図書館の支援に徹するという方式で、両者が緊密に連携して有益なサービスを提供していることを紹介した[4]。

4. 各機関からの報告

4.1. 大阪市立図書館における多文化サービス(大阪市立中央図書館利用サービス担当 大山尚子氏)

大山氏は、大阪市立中央図書館では、1996年のリニューアル時に「外国資料コーナー」を設置し、同時に、国際交流を促進するための行事を始めたこと、その後1998年に「大阪市外国籍住民施策基本指針」が策定され(2004年改定)、そのなかに市立中央図書館の上記事業が位置づけられたことを説明した[5]。

また、利用状況について、言語では英語、中国語、韓国語、分野では小説、児童書、語学学習書等の利用が多いこと、課題として、各言語資料選書のための情報の把握、利用案内の各国語への翻訳、おはなし会で用いる各言語の絵本の入手等があることを紹介した。

4.2. 九州大学附属図書館における留学生支援サービス(九州大学附属図書館eリソースサービス室 工藤絵理子氏)

工藤氏は、九州大学では約2,000人の留学生のうち8割以上をアジア各国・地域出身者が占めること、「グローバル30」[6]採択大学として、英語のみで学位を取得できる「国際コース」を一部学部とほぼ全ての大学院に設置したこと、2014年の「スーパーグローバル大学」[7]への採択により、留学生や英語講義等の数をさらに増やす計画があること等を紹介した。

次に、図書館の留学生支援サービスの一例として、図書館単独ではなく大学内の事務部門や各学部と連携して行った英語による図書館ツアーが盛況で、以後定例化したこと、多言語の資料を収集するが図書館サービスは英語に絞って行っていることを紹介した。

5. 各報告に対するコメント(京都大学附属図書館研究開発室准教授 北村由美氏)

北村氏は、日本国内の図書館の多文化サービスの多くは、増加し多様化する(出身国、在留資格、所属コミュニティ等)在留外国人のニーズに基づき、現場レベルで展開している状況であろうと指摘した。

また、スウェーデンやデンマークの図書館では、移民や難民等のマイノリティ住民の社会統合を意識して、移民・難民児童の学習支援や、多言語による就労情報等の提供等を行っていることを紹介した。

そのうえで、各報告をふまえ、日本の多文化サービスの課題を下記の4点に整理した。

  • ①多文化共生施策における図書館の役割の明確化
  • ②図書館間、関係機関間の連携の強化(資料やノウハウ提供の中心となる図書館の設定)
  • ③各地域の外国人住民の特徴をふまえた図書館サービスの提供とそのモデル化
  • ④以上により、図書館が、多様な人々の結節点(結び目)の役割を果たすこと

6. 懇談-多文化サービスの課題と国立国会図書館の役割

懇談では、各報告とコメントをふまえて、各館における多文化サービス充実のための課題、課題解決に向けた取組、当館が果たしうる役割等について、全出席者で意見交換を行った。各館の課題解決に向けて、当館には、主に下記4点の協力が求められた。

  • ①アジア諸言語資料を選書するための現地の出版情報の提供
  • ②アジア諸言語で書かれた日本関係資料(Books on Japan)の当館所蔵情報の提供
  • ③アジア諸言語(特に中国語・韓国語以外の言語)の目録作成ノウハウの提供
  • ④アジア諸言語の児童書の公共図書館等へのセット貸出し

これに対し、アジア情報課から、①②については、当館リサーチ・ナビ「アジア諸国の情報をさがす」における情報提供、③については、アジア情報研修における関連科目の開講等を検討し、可能なものから取り組む旨を回答した。

上記のほか、今後の日本社会における多文化共生のために図書館が果たしうる役割について、当館が課題を明示し、理論的な裏付けを提供できるのではないかとの指摘があった。

おわりに

本懇談会では、積極的に多文化サービスを行っている機関が一堂に会して、有益な懇談を行うことができた。参加者の皆様方に、改めて御礼申し上げる。特に、活動事例の紹介だけでなく、多文化サービスの目的や方法論について新たな視点が提供されたことが有意義であった。

また、各機関から頂いた具体的なご要望については、当館で真剣に検討し、可能なものから着手して、具体的な成果を関係者の皆様にご提供していきたいと考えている。

なお、本懇談会の当日配布資料の多くを当館ウェブサイト内に掲載したので、併せてご参照いただきたい[8]。

(とみた けいいちろう)



[1] 今回は、アジア各国出身の住民や留学生向けに積極的に多文化サービスを行っている下記5機関にご参加いただいた(五十音順)。
・一般財団法人アジア図書館・アジアセンターをつくる会
・大阪市立中央図書館
・国立大学法人大阪大学附属図書館外国学図書館
・国立大学法人九州大学附属図書館
・独立行政法人国際交流基金関西国際センター図書館
(当館出席者:関西館長、同次長、同アジア情報課長、同アジア情報課員)

[2] なお、各図書館で行われている多文化サービスについては、既に全国図書館大会の多文化サービス分科会等で、多くの活動事例が紹介されている。例えば、下記を参照。
第100回全国図書館大会東京大会(2014年)「第19分科会 多文化サービス」
http://jla-rally.info/tokyo100th/index.php/section19
(ウェブサイトの最終確認日は2015年5月11日である。以下同じ。)
「第19分科会 多文化サービス 多様な文化を活かす図書館」『平成26年度 第100回全国図書館大会記録』2015, pp.138-143.

[3] 2014年12月末現在、在留外国人総数2,121,831人のうち、アジア各国の国籍保有者が1,731,896人(約82%)を占めている。
法務省の在留外国人統計「14-12-01-1 国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 在留外国人」
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html

[4] オーストラリアの図書館の多文化サービスの詳細については、下記記事を参照。
森田理恵子「オーストラリアの図書館における多文化サービス―ニュー・サウス・ウェールズ州を例に」『アジア情報室通報』13巻1号, 2015.3, pp.2-6.
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin13-1-1.php

[5] 「「大阪市外国籍住民施策基本指針」について」
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000270449.html
直近では、図書館の事業は、上記指針第4章のなかの、「1.外国籍住民の人権の尊重 (1)情報提供」及び「2.多文化共生社会の実現 (9)国際理解・交流の促進」に位置付けられている。
「「大阪市外国籍住民施策基本指針」の取組み(平成25年度および平成26年度事業一覧)」
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000293891.html

[6] 2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指して、文部科学省が実施している「国際化拠点整備事業」のこと。
http://www.uni.international.mext.go.jp/ja-JP/global30/

[7] 国際通用性及び国際競争力の強化に取り組む大学の教育環境の整備支援を目的として、文部科学省及び日本学術振興会が実施している「スーパーグローバル大学創成支援」事業のこと。
http://www.jsps.go.jp/j-sgu/index.html

[8] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「平成26年度アジア情報関係機関懇談会」
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-meeting26.php

 

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