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国立国会図書館関西館アジア情報室で所蔵するビルマ語資料について  ―評価と提言―:アジア情報室通報 13巻4号

アジア情報室通報 第13巻4号(2015年12月)
原田 正美(岡山大学グローバル・パートナーズ特任准教授、前 国立国会図書館非常勤調査員)

はじめに

筆者は、平成25(2013)及び26(2014)年度に、国立国会図書館の非常勤調査員として、同館関西館アジア情報室で所蔵しているビルマ語資料の整理及び蔵書評価等に携わった。またその間、東京外国語大学附属図書館及び大阪大学附属図書館外国学図書館から、各館所蔵のビルマ語図書に関する貴重な情報も得た。

本稿では、2015年2月時点でアジア情報室が所蔵するビルマ語資料全体の状況について、他機関との比較も行いながら、若干の評価を試みる。

1. ビルマ語図書の書誌データの公開

アジア情報室所蔵のビルマ語資料を評価する前に、まず述べておかなくてはならないことがある。それは、2015年1月から、ビルマ語図書の書誌データがNDL-OPAC(国立国会図書館蔵書検索・申込システム)を通じてオンラインで公開され、原綴りで、表示、検索できるようになったことである[1]。オンラインによる書誌データ公開は、国立国会図書館内において他のアジア諸言語に遅れての実施であったが、ビルマ文字による表示、検索が可能になったことは、画期的である。

従来、日本の図書館では、ビルマ語資料の書誌情報については、欧米諸国の図書館と同様に、ALA-LC方式[2]の翻字を用いて表記、検索するシステムが採用されてきた。しかし、この翻字は、ビルマ語を知る読者にとってはほとんど馴染みのない表記方法であった。このため、次第に原綴りを補記し、検索結果に原綴りが表示される方法がとられるようになったが、この方法でもビルマ語のフォントがもつ種々の問題から原綴りで検索することは基本的に難しかった。

しかし、この度の国立国会図書館の書誌データ公開では、図書の書誌情報を原綴りで表示するだけでなく、Unicode対応のビルマ文字フォントを用いれば、検索も原綴りで行えるようになった。他の図書館に先駆けてビルマ文字による検索ができるようになったことの意義は、極めて大きい。このことを最初に指摘しておきたい。

2. アジア情報室所蔵ビルマ語資料の特徴

日本には、国立国会図書館関西館アジア情報室、東京外国語大学附属図書館及び大阪大学附属図書館外国学図書館のほかにも、ビルマ語資料を所蔵する図書館がある。例えば、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所図書館、京都大学東南アジア研究所図書室、みんぱく(国立民族学博物館)図書室、東洋文庫、福岡市総合図書館、龍谷大学図書館、アジア図書館等である[3]。このほか、東京の高田馬場には、ビルマ人自身が運営するモータウチェー図書館[4]もある。

各図書館で所蔵しているビルマ語資料には、それぞれ特色がある。例えば、東京外国語大学は、史資料ハブ地域文化研究拠点の成果として電子化された写本を公開しており、大阪大学には、原田文庫、杉本文庫、大野文庫(ビルマ語研究室所蔵)等の寄贈書が多い。アジア経済研究所は、経済に関する統計資料を多く所蔵している。

それでは、アジア情報室所蔵のビルマ語資料はどのような特色をもち、どのように位置づけられるであろうか。まず、近年購入、整理された蔵書の良さと気になる点、次に、2000年代以前に収集された図書の良さと弱点という順で述べる。その後、逐次刊行物、新聞等についても触れ、最後に若干の提言を述べる。

2.1. 近年収集された図書

まず特徴として取り上げるべきは、アジア情報室には、比較的年代の新しい図書が揃っていることである。国立国会図書館は、2008年から米国議会図書館(Library of Congress : LC、以下「LC」という。)ジャカルタ事務所の東南アジア共同収集プログラム(Cooperative Acquisitions Program for Southeast Asia : CAP-SEA、以下「CAPSEA」という。)[5]のミャンマー刊行資料収集プログラムに参加し、同年以降に刊行されたビルマ語図書を購入している。

比較のために、日本国内でビルマ語専攻が置かれ、最大級のビルマ語蔵書を有する2つの大学、すなわち大阪大学(ビルマ語専攻開設は1945年[6])及び東京外国語大学(同1981年)の各図書館の事情を簡単に紹介する。

大阪大学附属図書館外国学図書館の場合、3年に一度の頻度で購入が行われており、2000年以降の出版物の所蔵は600冊以上を数える。主な内訳は、歴史が190冊、文学が161冊、言語が88冊、芸術34冊、社会科学が80冊、仏教が15冊(このほか精霊信仰が1冊)である。これらの中には、選書した側の専門に関わる文献、いわば目利きの研究者が選んだ学術専門書、研究書が多く含まれている[7]。

他方、東京外国語大学附属図書館においても、人文・社会系各分野の良書、必携書が揃えられており、また、希少な雑誌の一括購入なども行われていた様子が窺えた。ただし、ビルマ語図書の新規購入は一時期から止めているとのことであった[8]。

両大学に比し、アジア情報室の場合、比較的新しいビルマ語の書物が揃っているというだけでなく、その分野は多岐にわたっている。すなわち、偏りなくバランスよく収集し、宗教、民族、政治関係においても、メジャー、マイナーの別なく揃えている。例えば、2015年2月までにオンラインで書誌が公開された図書約270タイトルのうち、宗教関係では、仏教は28冊、キリスト教は13冊、イスラム教は4冊となっている。また、国民民主連盟(National League for Democracy : NLD、党首はアウン・サン・スーチー氏)の共同設立者で、1989年から20年近く投獄されていた故ウー・ウィンティン氏の著作ဘာလဲဟဲ့ လူ့ငရဲ(『何という人の世の地獄』国立国会図書館請求記号【Y746-TS-127】、以下同じ)も遺漏なく含まれている。

また、新刊書という場合、必ずしも全く新たに刊行されたものとは限らず、古典作品の復刻版である場合も少なくないが、その場合も、例えば、မဏိရတနာပုံကျမ်း(『法珠建白書』【Y746-TS-200】)等のように、復刻により内容の充実を図って書物の価値を高めているものを所蔵している。この資料の場合、校訂版として、古語、パーリ語の借用語、宮廷用語、ビルマ式年月の表記を西暦にする等々の注釈が施されている。復刻版には、そのような良書が含まれている場合が少なくない。

そのほか、近年の出版物はまた、時代の変化に伴う出版事情の変化をも反映している。例えば、装丁や紙質の向上、出版印刷のデジタル化、海外での出版、民主化ならびに表現の自由を含む人権意識の高まり等は、あらゆる意味で、時代を映す良質の出版物の刊行を可能にしている。その意味でも、アジア情報室の所蔵資料には、新刊の良書が数多く見られる。

以上のように、2008年からCAP-SEAにより新規購入した資料群には、イスラム教、キリスト教、少数民族の宗教、少数言語、軍政からは反政府と位置づけられた民主化運動に関するもの等、多様な文献が収められている。これは、LCが多様な文献を収集する方針を採用していることと、アジア情報室の担当者がその中からバイアスなく選書したことの結果によると思われる。それはすなわち、「良心の選書」ともいうべき蔵書構築のあり方と言えよう。

ただし、「良心の選書」は、裏を返せば、特色ある蔵書を積極的に構築しようとしていないことでもある。あらゆる分野が平等にあるという多様性は、敢えて言えば散漫であり、研究者、一般読者いずれの需要にも対応していないとも言えよう。

しかし、場合によっては、本国の状況の変化により入手困難になる文献を確保する、という結果につながる可能性もある。例えば、宗教対立などの理由から本国では所在不明もしくは入手困難になった文献が、結果として日本の国立国会図書館の蔵書の中に見つかるといったことは、十分に予想できる。

2.2. 2000年代以前に収集された図書

次に、2000年代以前に収集され、整理されている蔵書及び現在整理中の蔵書を見てみよう。「仏教」「歴史・地理」「言語・文学」の3分野が約6 割を占めており、基本的にいずれの分野でも古典的位置づけがなされている図書が揃っている。しかし、法律、統計、年鑑等の基礎資料は不足しているように思われる。

また、1988年8月から1993年9月までに整理された768タイトルの目録[9]を見ると、各分野内の蔵書構成に偏りがあったことが一目瞭然である。一例をあげれば、思想・宗教のカテゴリーに入る文献23冊のうち、22冊は占星術にかかわるもので、残りの1冊も仏教史であった。要するに、キリスト教、イスラム教にかかわる文献は、以前は何とゼロであったのである。ただ、これはアジア情報室のみに見られる現象ではなく、それまでの宗教に関するビルマ語蔵書のあり方や出版状況、少数派が表現する手段を奪われていた状況等を反映していたともいえる(ただし、そこには分類のあり方を精査すべきという問題も残されてはいる)。

いまひとつ残念なのが、基本文献であるမြန်မာ့စွယ်စုံကျမ်း(『百科事典』【Y746-M56】)、မြန်မာအဘိဓာန်(『ミャンマー辞典』【Y746-P10】)などの多巻ものに欠損があることである。『百科事典』は全14巻のうち5つの巻のみを所蔵、『ミャンマー辞典』は全5巻のうち第2巻が欠けている。これらにはCD-ROM版もあり、版の更新も含め、不足を補う必要があろう。

なお、現在整理中の資料の中には、1960年代から80年代にかけて「古典文学研究者の一人」というペンネームの編者が丹念に手書きあるいはタイプ打ちして印刷した貴重な写本集成が100点近く含まれている。これは、特筆すべきであろう[10]。

2.3. 雑誌、年鑑、統計

ビルマ語の雑誌をNDL-OPACで検索すると、111件がヒットするが、ほとんどは1980年代から2000年頃までに刊行された政府広報誌、地方雑誌、民族雑誌、大学年刊(鑑)、学術雑誌等である。当時の逐次刊行物のあり方が伺えるものの、既に図書同様、数多くの良質の雑誌が刊行されている現在の出版事情を考えれば、これは物足りないと言わざるを得ない。

また、所蔵する年鑑リストで挙げられているものの中には、最近の刊行状態が不明のものが含まれている[11]。

こうした状況になっている理由として、出版状況の確認が難しいということがあろう。また、2011年のテインセイン政権発足前後で、出版物の断絶があることも考えられる。

加えてCAP-SEAを通じての購入の場合、継続発注していても、既に品切れになっていて購入できない場合もあると聞く。購入リストに挙げていても実際には届いていないという状況は、需要のある逐次刊行物、年鑑の場合により多く発生するのではないか。

それゆえ、まず、継続収集に値する逐次刊行物のタイトルを特定し、それらを切れ目なく入手するよう努力する必要がある。例えば、社会主義時代、軍政期を通じて発行されたတက္ကသိုလ် ပညာပဒေသာစာစောင်(『大学学術研究』【Y746-ZS-28】)などは、その後の刊行状況を追跡する必要があろう。また、မြန်မာ့စွယ်စုံကျမ်းနှစ်ချုပ်(『百科事典年鑑』【UR41-17】東京本館所蔵)は、毎年起こった重大事件の事実関係や物故者の情報が盛られており、必ず確保されるべき年鑑である。また、資料の性格は異なるが、アジア情報室に開架しているYangon Directory(『ヤンゴンディレクトリー』【Y746-ZS-8】)も同様である。

2.4. 新聞

いまひとつアジア情報室のビルマ語蔵書の特色として触れておくべきは、ビルマ語の新聞を紙媒体で今日まで継続して収集している点である。電子新聞の登場により、2000年代初頭に、大阪大学はそれまで継続していた紙媒体の新聞収集を取りやめたため、今日、日本においては、アジア経済研究所図書館とアジア情報室のみが収集している状況である。

アジア経済研究所図書館では、ビルマ語紙မြန်မာ့အလင်း(『ミャンマーアリン』)と英字紙The Global New Light of Myanmar(前身はNew Light of Myanmar、1914-2014年)を、アジア情報室では、ビルマ語紙ကြေးမုံ(『チェーモン』【Y746-SN-3】)とThe Global New Light of Myanmar (【Z91-275】)を収集している。ビルマ語紙『チェーモン』は、アジア経済研究所図書館で所蔵していないため、貴重である。上記は、いずれも国営新聞というべきものであるが、紙媒体と電子新聞の内容が必ずしも一致しない時期があること、電子媒体の場合は一定期間を過ぎた場合探しにくいデメリットがあることから、紙媒体の収集は重要である。

また、日本で刊行されているရွှေဗမာ(『シュエバマー』【Y746-SN-2】)というミニコミ誌(前身はMyanmar Times 、1996-2002年)が所蔵されている点も興味深い(ただし、2014.3.1で刊行終了)。

3. 収集と広報に関する提言

以上をふまえて、最後に若干の提言を行いたい。

【提言1】CAP-SEAプログラムによる収集の継続と弊害の回避

先にも述べたが、2011年3月に文民政権が発足して以降、ミャンマー国内の状況は予想だにしなかったスピードで変化しており、それは出版事情においても一定程度同様である。2012年8月には事前検閲が廃止され、2014年3月には報道の自由を保障した「メディア法」が制定された[12]。2013年4月には、民間の日刊紙が刊行されるようになっている。

このような状況において、CAP-SEAによる収集は、依然として、先に述べたような利点を持つ。それゆえ、新刊書を揃える方針を継続して特色としつつ、逐次刊行物が届かなくなっても気づかないといった、CAP-SEA依存による弊害を回避する努力が求められよう。

【提言2】現地との協力による特色ある蔵書の構築

今日、ミャンマーでは、大学間協定・覚書の締結など、外国との交流が活発に行われるようになっている。よって、ミャンマーの国立図書館、大学中央図書館等と図書館との交流、研究者への選書の委託等により、何時でもミャンマー国内の協力者から情報提供やアドバイスを受けること、さらに可能であれば、ミャンマーブックセンター[13]等の書店や出版社等を通じた資料収集のルートを作ることを検討してもよいと思われる。

これにより、例えば、ある年に注目を集めた問題等にかかわる文献を網羅的に収集する等、先に述べた「良心の選書」を基礎としながら、それに加えて、アジア情報室ならではの特色ある蔵書を構築することも可能になると思われる。

【提言3】利用促進のための積極的な広報

今後、留学生の往来をはじめとして、ミャンマーとの人的交流が増えることが予想される。日本国内のビルマ語専攻学生やミャンマーからの留学生等には、ミャンマー国内で刊行された新刊書へのニーズがあると思われるが、これらを日本国内で入手することは困難であろう。彼らを対象に、アジア情報室には上述したような特色あるビルマ語図書があることや、来館利用だけではなく、図書館間貸出あるいは遠隔複写等のサービスが利用できることを積極的にアピールする必要があろう。

オンラインで検索可能になったビルマ語図書を少しでも多くの人に利用してもらえるよう工夫することは、資料収集にも増して重要な課題であると考える。

(はらだ まさみ)



[1] 、当館で所蔵するビルマ語の雑誌、新聞及び1985年以前に受入れた図書(東京本館所蔵)の書誌情報は、2014年以前からNDL-OPACで公開されている。ただし、上記はALA-LC方式の翻字により表記されているため、検索する際には翻字を入力する必要がある。

[2] 米国議会図書館及び米国図書館協会によって定められた、ローマ字以外の文字をローマ字に翻字する際の規則。

[3] 主要図書館とビルマ語蔵書数などについては、やや数字が古いが、以下を参照。
リサーチ・ナビ「アジア情報機関ダイレクトリー」 https://rnavi.ndl.go.jp/asia/directory/language/lang-southeast/lang-bur/index.php
ウェブサイトの最終アクセス日は、2015年11月20日。以下同じ。

[4] モータウチェー図書館(Moe Thauk Kye Library)の利用方法等については、電話でお問い合わせいただきたい(03-3364-5163)。

[5] ジャカルタ事務所は、米国議会図書館のインドネシアにおける現地収集事務所である。米国議会図書館のほか、主に北米の大学図書館のために、東南アジア地域資料の共同収集プログラムを実施している。
Jakarta, INDONESIA, Library of Congress Overseas Offices, Cooperative Acquisitions Program for Southeast Asia (CAP-SEA) http://www.loc.gov/acq/ovop/jakarta/jakarta-coop.html

[6] 当時は大阪外事専門学校。その後、大阪外国語大学を経て、2007年10月に大阪大学外国語学部となった。

[7] 2014年中頃に筆者聞取り。約3年に一度の頻度でビルマ語資料が購入されている(2009年に292冊、2012年に281冊)。大阪大学附属図書館箕面地区図書館サービス課外国学図書館班のご協力による。記して感謝申し上げます。

[8] 2014年9月26日に筆者聞取り。ちなみに蔵書数は、1999年の964冊から2013年の3,540冊へと増加しているが、これは未整理資料の整理が進んだためである。

[9] 「国立国会図書館所蔵 ビルマ語図書目録(1988年8月以降整理分)」『アジア資料通報』35巻特集号, 1997.4.
上記に掲載されている書誌データは、今後順次NDL-OPACに登録される見込みである。

[10] この資料の著者は、U Thun Yee(ウー・トゥンイー)氏であると思われる。同氏は、その後愛知大学に客員研究員として在籍し、その奥深い学識を生かし、貴重な写本史資料について、英語及びビルマ語で解説している。

[11] リサーチ・ナビ「アジア情報室所蔵資料の概要:東南アジア関係資料:継続受入年鑑リスト」https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-02data-southeast-yb-list.php#12

[12] 「ミャンマー、検閲廃止 報道の自由保障の新法」日本経済新聞電子版, 2014.3.18. http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1803M_Y4A310C1FF1000/
Media Law, Myanmar President Office http://www.president-office.gov.mm/en/?q=briefing-room/news/2014/03/20/id-3459

[13] Myanmar Book Centre http://www.myanmarbook.com/

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