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アジア資料・情報の領域におけるリソースシェアリングの 課題 ―平成27年度アジア情報関係機関懇談会 概要報告―:アジア情報室通報 14巻2号

アジア情報室通報 第14巻2号(2016年6月)
渡邉 斉志(国立国会図書館関西館アジア情報課長)

はじめに

平成28年2月18日(木)、国立国会図書館関西館において、平成27年度アジア情報関係機関懇談会を開催した。この懇談会は、当館と国内のアジア情報関係機関との連携を深め、国全体としてのアジア情報資源の充実と流通促進に資することを目的として、平成13年度から毎年度開催しているものである。

今回は、「アジア資料・情報の領域におけるリソースシェアリングの課題」をテーマとして、参加者からの報告、当館からの報告及び懇談を行った。以下、その概要を紹介する。

1. 懇談の目的

アジア地域の文献については、かねてから、言語の種類が多く、しかも特殊な文字を使用する言語もあるため書誌の作成が容易でない、欧米に比して電子ジャーナル・電子書籍化が進んでいない、日本国内での所蔵が少ない、といった問題が指摘されてきた。関西館アジア情報室は、アジア言語・アジア関係資料として約47万冊の図書、約8,800種類の雑誌・新聞を所蔵しており、これは国内でも有数の規模であるが、やはり上記のような問題と無関係ではない。アジア資料を活用した調査・研究がより一層活発化するよう、アジア資料を所蔵する他の図書館等との連携を強化し、文献利用の利便性を高め、利用の促進を図ることが求められている。

そこで、今回の懇談会では、アジア資料のリソースシェアリングに焦点を当て、主に"書誌情報の共有""資料そのものの共有"にかかる課題を洗い出すこととした。これは、当館や他のアジア資料所蔵機関にとって、今後どのような取組を進めうるのかを検討する際の基礎となるものであり、有益であると考えられたためである。

2.1 報告:東南アジア地域研究資源の共有について(京都大学東南アジア研究所助教 大野美紀子氏)

京都大学東南アジア研究所の所蔵資料は、大きく三つに大別される。すなわち、①東南アジア地域諸言語資料、②マイクロ資料、③特別コレクションである。①は、一般に流通している出版物はもちろんのこと、いわゆる灰色文献も収集対象となっている。②については、逐次刊行物を重視している。逐次刊行物は、同研究所の所蔵資料のひとつの特色を成している。

東南アジアの多くの国々では、国立図書館による全国書誌が未整備であり、かつ、書誌ユーティリティや総合目録が存在していない。そのため、そもそも書誌情報・所蔵情報の共有が十分に図られていないのが実状である。

また、資料の長期保存においても課題を抱えており、例えば、デジタル化は急速に進みつつあるものの、その反面、デジタル化済の原資料が廃棄されてしまう例も多い。

これらは、日本で東南アジア研究に従事している者にとっても大きな問題である。したがって、日本人研究者の文献アクセス環境を整備するという意味でも、現地の図書館による取組を待つだけでなく、国内外の機関が連携して、書誌情報・所蔵情報と資料そのものの共有とを進める必要がある。

2.2. 報告:地域研究情報資源としての新聞の保存と利用(日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館 研究情報整備課長 村井友子氏)

地域研究情報資源として、新聞原紙は重要な資料であるが、保存が困難で散逸・消失しやすい。アジア経済研究所図書館では約480種類の新聞を所蔵している(うち、アジア・中東・北アフリカ地域の新聞は390種)。同館では、1960年から2007年までの間、受け入れたすべての新聞を永久保存のために館内でマイクロ化していた。しかし、事業の見直しにより、内部製造による新聞のマイクロ化事業は打ち切りとなり、現在は厳選した16種のみ外注によりマイクロ化している。マイクロ化していない新聞は、廃棄せずに原紙保存しているが、保存スペース狭隘化の問題により、中長期的には廃棄せざるを得ない状況にある。その中には国内では同館しか所蔵していない新聞も多数含まれており、廃棄は貴重な地域研究情報資源の消失を意味する。しかしながら、新聞の永久保存のための媒体変換には多大なコストが必要となるため、単館での財源確保が困難な状況にある。

アメリカでは、CRL(Center for Research Libraries)のような、共同保存の取組が存在する。こうした先進事例を参考にしながら、日本国内でも、地域研究者と図書館員が連携して、地域研究情報資源の共同保存・共同利用の仕組みを整備してゆく必要がある。

2.3. 報告:国立三大学によるシェアード・プリントの取組(横浜国立大学 図書館・情報部図書館情報課長 山本和雄氏)

平成26年3月に、千葉大学、お茶の水女子大学、横浜国立大学の三大学は図書館連携に関する申合せを行った。この連携の枠組みの中で当面検討を行う事項として定められた7項目のうちのひとつが「紙媒体資料の効率的な共同保存(シェアード・プリント)」である。具体的には、三大学いずれもが電子ジャーナルのバックファイルを契約しているタイトルについて、冊子体は一大学だけで保存することで図書館の保存スペースの圧縮を図るという方針の下、現在、廃棄候補タイトルの冊子体の利用状況のモニターを行っている。モニターの結果については、連携申合せが期限を迎える平成30年度末を目途に評価を行う予定である(なお、連携申合せは特に破棄しない限りは5年毎に更新される)。

日本にはNACSIS-CAT/ILLが存在しているため、シェアード・プリントを実施するためのインフラは既に整っており、枠組みを整えることができれば実現は可能であると考えている。

3. 当館報告:国内図書館のリソースシェアリングにかかる取組の概観(関西館アジア情報課長 渡邉斉志)

我が国の図書館のリソースシェアリングは、1920年代に早くもその嚆矢が見られるが、1960年代末以降に大学図書館同士の分担保存が実施されるようになったのを皮切りに、公共図書館によるものも含め、数多くの事例が誕生している。一方、分担収集は、各図書館の蔵書構築ポリシーに直結するため実施例は非常に少ないが、数少ない成功例として国立大学による外国雑誌センター館制度がある。

集中型の共同保存については、大規模で、かつ学部ごとの自律性が高い大学における全学的な枠組みでの保存も「共同保存」と称されるが、これは、1980年代以降に幾つかの大学で実施されるようになったことが確認できる。一方、複数機関での共同保存は1960年頃以降に議論が活発化し、1960年代には日本医学図書館協会や日本図書館協会で検討が行われている。1970年代に入ると専門図書館で実施例が生まれ、その後、公共図書館、産学共同、産官共同での共同保存も行われるようになった。他方、共同保存の実現には調整コストを要するため、単一の組織でも実施可能な、民間の倉庫会社への委託保管も盛んに行われるようになってきている。

現在では、電子ジャーナルや電子書籍のようなデジタルコンテンツとの重複回避をも視野に入れたシェアード・プリントと呼ばれる共同保存がアメリカを中心に広がりつつある。

4. 各報告に対するコメント(東京大学大学院経済学研究科講師 小島浩之氏)

図書館資料は、博物館資料や文書館資料と異なり、一般的には、情報(メッセージ)と情報を入れる媒体(キャリアー)とを切り離すことができる。そのため、保存のために媒体変換を行い、紙媒体資料を廃棄すれば、保存スペースを圧縮することが可能となる。デジタルコンテンツの流通は、こうした前提の上に立って行われている。

また、現代では、Googleのように、より多くのリンクを張られたページを検索結果の上位に表示するというアルゴリズムを「民主主義的」とする見方がある。また、図書館の分類法ではなく、インターネット書店Amazonのように、統制されないタグ付けで書物を整理することによってこそ、権威主義的な知の体系を相対化できる、とする主張もある。

このような状況下で、図書館は、切り札である蔵書の価値をどのようにして高め、情報として流通させ、保存し、後世に伝えるかが非常に重要な問題である。情報の保存と共有の在り方は、情報の特性と内容、法的な諸権利、費用対効果等を検討した上で最適な方法をとるべきであるし、ボーンデジタル資料と対立するのではなく、ボーンデジタル資料を図書館資料の枠組の中に取り込み、適切に位置づけねばならない。

5. 懇談-アジア資料・情報の領域におけるリソースシェアリングの課題

懇談では、各報告とコメントを踏まえて、リソースシェアリングにかかる課題や今後の方向性について、東京外国語大学附属図書館課長補佐の加藤さつき氏も含めた全出席者で意見交換を行った。まず、議論の出発点として以下の三点が確認された。

  • ① アジア資料は、日本にとっては外国資料であり、多くの図書館にとってはコア資料ではない。すべての図書館の所蔵を合計しても、質量ともに決して十分とは言えない。
  • ② アジア資料は、中国と韓国を別にすれば、欧米資料に比して電子ジャーナル・電子書籍化が大幅に遅れている。
  • ③ アジア資料の書誌情報の整備は、日本においても現地においても不十分な段階にある。

①及び③については、日本国内の図書館のみならず、出版国の図書館もカバーする総合目録の構築が有効な対処法であるとして、京都大学東南アジア研究所を中心とした逐次刊行物総合目録データベース[1]の今後の拡充が期待されるという点で意見が一致した。また、国内の図書館においては、アジア諸言語というハードルのため書誌作成に困難を抱えている図書館が多いことから、書誌作成ノウハウの共有を進めることが必要との指摘もあった。

共同保存については、国立三大学によるシェアード・プリントの経験を踏まえ、他の地域でも同様の取組が行われるようになるのか、公共図書館や専門図書館等も参加する形でのシェアード・プリントが実現するのか、保存対象資料の拡大が図られるのか、といった点と併せて、東海北陸地区の国立大学における共同保存書庫の検討が今後どのように推移するのかも注目されるとの見方が示された。

おわりに

本懇談会には、アジア資料所蔵機関及びリソースシェアリングに積極的に取り組んでいる先進的な図書館に御参加いただいた。アジア資料を切り口にした発表と意見交換により、デジタルコンテンツが爆発的に増加した現代においても、書誌情報と資料そのものの共有が全国の図書館にとって依然として重要な課題であるという認識を共有することができた。参加者の皆様方に改めて御礼申し上げる。

なお、本懇談会の当日配布資料の多くを当館ウェブサイト内に掲載したので、併せて御参照いただきたい[2]。

(わたなべ ただし)


[1] 東南アジア逐次刊行物総合目録データベース
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/databases/sealibdb/

[2] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「平成27年度アジア情報関係機関懇談会」
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-meeting27.php

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