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関西館アジア情報室が収集する南アジア地域刊行資料について:アジア情報室通報 14巻3号

アジア情報室通報 第14巻3号(2016年9月)
大石 高志(神戸市外国語大学国際関係学科准教授)

国立国会図書館関西館アジア情報室では、資料収集が困難な地域の蔵書構築の参考とするため、定期的に外部有識者の意見を聴取している。

平成28年2月24日、大石高志 神戸市外国語大学国際関係学科准教授をお招きし、アジア情報室が収集する南アジア地域刊行資料についてご助言いただいた。本稿はその概要である。(関西館アジア情報課)

1. はじめに

日本における南アジア、インドに関する研究のうち、インド哲学、仏教の研究は戦前から盛んに行われてきた。しかし、歴史(特に近現代史)研究や地域研究ということになると歴史は浅く、関連資料の収集も、アジア経済研究所(以下「アジ研」とする。)、東京外国語大学(以下「東京外大」とする。)、大阪外国語大学(現:大阪大学外国語学部)、東京大学、一橋大学、大阪市立大学、京都大学などいくつかの研究機関・大学により個別に行われ、結果として、連携を伴う蔵書構築が必ずしもなされないという状況が続いてきた。このため、長い間、個々の研究者は所蔵機関での資料閲覧に多くを期待せず、つねに、自力で関係資料の購入と収集を試みてきた。

そうした日本国内の資料状況もあり、2002年に新たに開室した国立国会図書館関西館アジア情報室(以下「アジア情報室」とする。)に、資料収集の指針を示唆したり、新たな収集が望ましい特定の資料群を挙げたりすることは、たやすいことではなかった。何らかの特色やまとまりのある資料がない限り、南アジア、インド関係の歴史研究や地域研究を行う研究者の念頭にアジア情報室が浮かぶようなことには、なかなかならないし、そもそも、そうした特色を他の所蔵機関との比定のなかで構想・確認すること自体も容易ではないからである。

そのような中で、10年余り前の開館当初、アドヴァイスやコメントを求められた際、①南アジアでの政府刊行物、②雑誌や新聞をはじめとする、保存スペースを多く必要としたり、定期性・継続性が前提になるような資料群、を収集することを助言した。本稿では、その後約10年間の資料収集の実績とその評価、今後の蔵書構築や対外交流への期待について述べてみたい。

2. 資料収集のポイント

2.1. 他機関との相互補完

アジア情報室開室当初、南アジア資料の蔵書構築を検討するに当たって、日本国内で所蔵されている南アジア資料との兼ね合いが想定された。具体的には、この分野に強い既存の研究機関や図書館、例えばアジ研や東京外大との相互補完という観点である。

インドを含む南アジアでは、概して識字率は高くないが、高等教育を受けたエリート向けの専門書・研究書は数多く出版されてきた。アジ研については、経済・政治分野のそうした専門書・研究書を積極的に購入している。また、雑誌は、学術誌を主とし、比較的多数(調査時で91タイトル)を継続収集している。しかし、新聞は、継続紙がインドの英語紙6紙、ヒンディー語紙1紙、パキスタンが2紙、バングラデシュが1紙と、多くはない。統計は、経済統計に強いが、かなり本格的に選挙が行われているインドについては、政治に関する統計も含まれている。

東京外大については、南アジアの新聞は一切継続収集されておらず、雑誌も附属図書館ウェブサイトの「南アジア関係所蔵雑誌リスト」には古いものが断片的にリストアップされているだけで、継続収集しているものは少ないと考えられる。これは、人文系の研究者が多く、こうした資料へのニーズが小さいためであろう。しかし他方、東京外大は最近「史資料ハブ地域文化研究拠点」[1]を謳っており、南アジアに関しても、非図書の印刷資料や非文字資料も積極的に収集対象にしている。

2.2. 新聞の収集

このような中で、アジア情報室が独自性を打ち出せるポイントとしては、アジ研でも所蔵が少ない新聞の継続収集があげられる。例えば、インドは言語的に多様な国家であり、連邦の公用語であるヒンディー語と英語のほかに、州の公用語もしくはそれに準じる主要な言語として20以上が公的に認知されている。そして、そのほとんどが数百万人から数億人の話者を擁している。しかし、アジ研で所蔵している新聞は、言語ごとに特化されたものではない、全国版の英字紙5~6タイトルのみである。

現在、アジア情報室で継続的に受け入れているインドの新聞は8タイトルある[2]。英字紙は植民地期から続いているような代表的なものである。一方、ヒンディー語紙『नवभारत टाइम्स = Nav Bharat times』【Y751-SN-1】[3]は、『The Times of India』【Z91-62】(国立国会図書館東京本館のほかにアジ研も所蔵)のヒンディー語版と言っていいもので、内容的な差別化が必ずしも図られているわけではない。こうした現状に鑑みて、今後、仮に州レベルの代表的な新聞をまとめて収集することができれば画期的である。

また、インド以外の国の新聞では、ウルドゥー語紙『جنگ = The daily jang』【Y752-SN-1】、日本在住のパキスタン移民のコミュニティ紙『دنیا جاپان = Dunya Japan』【Y752-SN-3】、バングラデシュの『দৈনিক ইত্তেফাক = The daily ittefaq』【Y753-SN-1】はアジ研でも所蔵していないもので、アジア情報室の独自性があると言える。

近年では、南アジアの新聞もインターネット版が充実しており、この意味で、アジ研やアジア情報室が唯一の入手ルートとまでは言えない状況もある。しかし、インターネット上の新聞記事データの継続的残留は期待できず、新聞を印刷物として中長期的に集積していく意味と価値は、間違いなく大きい。

2.3. インド政府刊行物の収集 ―中央政府―

アジア情報室が類縁機関との差異化を図るためのもう一つのポイントは、インドの政府及び政府系研究機関の刊行物の網羅的収集である。

インドには中央政府のほか、各州に州政府があり、それらの政府機関や、公的資金が投入されている政府系研究機関等では、多くの刊行物が発行されている。それらを網羅的に収集することができれば、日本における南アジア資料所蔵機関として特色あるコレクションになるであろう。

中央政府の刊行物については、ここ数年、電子媒体での出版へのシフトが進んでいる。重要なものは紙媒体でもそれなりの部数が印刷・発行されるが、それ以外は紙媒体での印刷部数が僅少であり、政府のウェブサイトにPDFファイルが掲載されるだけのこともある。年次出版物の場合、当該タイトルの刊行自体が終了したものと勘違いする恐れもあり、注意が必要である。

例えば、経済関係の研究者がよく利用する代表的な資料である『Economic survey』【Z61-E283】は、1990年代から各年版が国立情報センター(National Informatics Centre)作成の「Union Budget」(連邦予算)というウェブサイト[4]からダウンロードできる状況にある(最終アクセス日現在、1957-1958年版からダウンロードが可能である)。そのため、研究者にとっては、紙媒体での所蔵は必須ではなくなっており、日本国内の所蔵機関に関しても、継続して収集しているのはアジア情報室を含め4機関のみである。

ただし、ウェブサイトの場合アクセスの永続性の問題があることには留意が必要である。バックナンバーが突然消えてしまったり、逆にアップデートがまったくなされなかったりする可能性があるため、やはり紙媒体で所蔵していることが重要となる。紙媒体での収集を継続しようとするのであれば、先述の発行元に直接働きかけるなど、しかるべきルートで、数少ない部数の紙媒体資料をしっかりと収集していく努力が必要となる。

もう一つの潮流としては、民間の出版流通業者への委託が進んでいるということがある。版権は政府が持つが出版流通は民間で行うというものである。民間企業が出版する形をとるため、流通過程での宣伝広告によって発行部数が膨らみ広く流通するものがある一方で、たとえ内容が重要であっても「地味」なテーマのため比較的限定的な流通に留まるものが生じることが懸念される。また、こうしたことは、一部のタイトルが紙媒体での刊行物とならずにウェブサイト上だけの公開となってきている、先述のような昨今の傾向と表裏の関係にある。

図書館における資料収集は、商業的な流通性や内容の重要性に関する通念的な認識に必ずしも左右されずに行われるべきことは、言を俟たないであろう。収集すべき資料を見落としたりしないために、こうした点をあらためて留意しておく必要がある。

また、情報を利用する立場を突き詰めると、紙媒体であってもウェブサイトであってもよいが、どこかで継続的に集積されていることが大切であるとも言えよう。外国のウェブサイトなので困難があるかもしれないが、国立国会図書館などが継続的にアーカイビングすることができれば、国内の研究者にとっては有益であろう。

2.4. インド政府刊行物の収集 ―州政府―

イギリスは、植民地時代のインドにおいて、民族運動の抑制のためもあり、州政府の存在を認めるようになった。そうした歴史的背景から、独立後のインドでも連邦制の下で州が政治・経済的まとまりとして相当の実体性を備えている。中央における政治の勢力図とは別に、州ごとに政権政党が異なり、施策や方針が異なることも生じるため、インド研究においては州ごとに事情を見てゆくことも重要になる。

実際に、特に最近10~15年の間に、州あるいは特定の地方を単位とする研究への傾斜が生じている。例として、京都大学を中心拠点として行われている「南アジア地域研究プロジェクト」(2014年度までは「現代インド地域研究プロジェクト」)や、日本経済評論社発行の「激動のインド」シリーズのベースとなった研究プロジェクトを挙げることができる。

また、学術面だけでなく、企業の直接投資といったビジネス面や、国際協力機構(JICA)などによる経済支援・技術支援においても、上述のような観点から、州単位での対応が想定・実施されるようになっている。

こうした全体的状況は、州政府の刊行物が有する相対的重要性を、間違いなく高めてきている。

そこで、インドの州政府刊行物の日本国内での所蔵状況について、長い歴史を持つタミルナード州を例に調べてみた。同州の政府刊行物の情報や一部刊行物の本体を、州政府の印刷局(Stationery and Printing Department)のウェブサイト[5]で見ることができるので、それを日本国内の主要機関の所蔵状況と突き合わせるという確認作業を行った。例えば、『Annual Statistical Abstract for Tamil Nadu』については、アジ研が、1956年から1985年までは多くを所蔵していたものの、それ以降は所蔵していない。また同州の基本的な統計資料である『Statistical Handbook of Tamil Nadu』【Z61-E244】についても、ウェブサイトでは最新の2015年版が見られたが、アジ研では2012年以降、受入が途絶えている。そのほか、同州の農業統計の基礎的な資料『Basic Agricultural Statistics, Tamil Nadu』や『Season and Crop Report of Tamil Nadu』なども、アジ研では受入が途絶えており、一方、ウェブサイトにも全号が掲載されているわけではなく、漏れなくアクセスできる状況にはない。

同じく、マハーラーシュトラ州の場合、アジ研では経済統計『Maharashtra's Economy in Figures』の受入が2002年で事実上止まっていることに加えて、最終アクセス日現在、州の経済統計局のウェブサイト[6]でも、2007年分以降しか掲載されていない。現代の諸問題を扱う研究において1年分の情報が欠けるということは非常に重大な問題であり、ウェブサイトで現時点で見られるものも含めて、紙媒体として所蔵しておいた方が安定的であるとも言える。

3. 今後の蔵書構築に向けての提案

以上をふまえながら、今後の南アジア関係資料の収集について、以下、総括的に提案申し上げたい。

まず、新聞収集の増強である。インドに関しては、現在、全国レベルの英字紙がアジア情報室とアジ研のそれぞれで5~6紙収集されているが、各州ごとに代表的な新聞を1~2紙、英字紙と州の公用語で書かれたものを収集することが望ましい。それ以外の国では、主要な言語で書かれた複数の新聞を収集することが望まれる。

政府刊行物については、特にインドに関して中央政府だけでなく州政府レベルにまで網を広げて確実にカバーすることを、強く推奨したい。

逆に、雑誌については、収集ターゲットを明確にすることも重要であろう。ここ10年でオンラインジャーナルでカバーできる範囲が格段に広がっているので、アジア情報室のほか、国内の主要な大学でも、契約データベースで見ることができるような雑誌類は、紙媒体からの切り替えが検討されうる。

図書(学術書)は、レファレンスブックなど必要最小限にとどめることが可能だろう。図書に価値がないということではないが、大学図書館がそれぞれに多数所蔵しており、アジア情報室が同様のことをする必要性は低い。また、新刊の学術書は内容の評価が難しい。「当たり外れ」があるものをカタログを見て選ぶよりも、間違いのない政府刊行物や新聞の入手に労力と予算を振り向けるほうが遥かに価値がある。

図書については、研究者の引退・逝去の際に蔵書の寄贈を受けることで補う方法もある。南アジア分野の学界でいうところの「第一世代」に当たる研究者たちは、自力でかなりの蔵書を構築しており、特定のテーマに沿った資料を揃えている。しかし、引退・逝去後、その資料群の行き先がしばしば問題となる。整理作業の労力という問題はあるが、行き場を失っている蔵書群を有効に活用することは検討されてもよいだろう。

俯瞰的に申し上げると、図書や雑誌の収集にこれまで投じられてきた予算と費用、収集労力を、新聞の増強と政府刊行物の集中的入手に割り充てる方向性を意識的に推し進めることが、今後のアジア情報室の存在意義のみならず、日本における南アジアに関する研究や理解にとって、大きな意味を有すると思われる。

さて、実際に新聞や政府刊行物の収集を拡大するためには、収集ルートの確立が必要である。それは決して容易なことではないが、アクセス先として、まず中央政府刊行物については、デリーにある中央政府の出版局(Department of Publication)、そして政府刊行物の取扱専門店で日本ともやり取りのある書店(Bookwell社とJain Book Agency社)などに継続的にコンタクトをとって収集してゆくのが良いだろう。

出版物の国際見本市「New Delhi World Book Fair」[7]も、政府刊行物の入手に関して言えば重要である。このブックフェアは広大な敷地に数百の書店が出品して行われる。今年はやや少数だったが、良質の政府系研究機関の出版物をまとめて入手できる貴重な機会である。

なお、州政府のものはあまり民間の出版社が扱わず、商業ベースに乗らないため、州政府の出版局に依頼状を送ったり、現地に毎年足を運んで働きかけたりといった直接的なアクセスが非常に重要となる。一度入手ができたとしても、州政府の部局が都度国立国会図書館に刊行物を送付してくれる保証はないが、研究者のニーズは極めて高いので、試してみる価値はある。

4. 対外交流への期待

2016年1月、前述の「New Delhi World Book Fair」に足を運ぶ機会があったが、インドの人々の知的関心が非常に高まってきていることが如実に感じられた。このブックフェアも、以前は出版業者の見本市のような側面も大きかったが、現在は極めて多くの一般市民が直接書籍を手にとりながら購入する場ともなっている。そのため、出版社にとってはプロモーションの場となっており、売り出した書籍に関連する文化イベント、出版文化を考えるイベント、インドの歴史や文化遺産を紹介するイベントなど、書籍の販売だけにとどまらず、様々なイベントが開催されている。

2016年のこのブックフェアでは中国が「主賓」となっており、その力の入れようは印象的であった。イベントに合わせて出版した中印の歴史的関係に関する新刊本の記念イベントや、中国の紹介に繋がるような多様な出版物の紹介・展示等々が行われていた。

日本とインドには、歴史的に見れば、仏教やインド哲学、民族運動などなど、多種多様な交流があった。また、インドにおける日本語学習熱は今も高い。日本の政府系機関も、インドで一般の人にも広がりがあるようなかたちで、出版物や書籍関連のイベントや文化交流を企画することが期待されるし、そこに国立国会図書館が何らかの形で関与することがあってもよいのではないだろうか。

最後に、一点、付記させていただきたい。将来、国立国会図書館で南アジア関係の独自の資料群に即した研究会が、研究者によって開催されることを想定するのは、過度な期待であろうか。そうしたことが実現されれば、研究者の意識の中での国立国会図書館の位置づけが変わってくるだろうし、同館が研究者のみならず一般市民によってさらに利用されるようになってゆくきっかけともなるだろう。

(おおいし たかし)



[1] 文部科学省の平成14年度21世紀COE(center of excellence)プログラムのひとつとして採択されたものであり、同プログラムの終了後は、東京外大地球社会先端教育研究センターの構成組織として活動を継続している。詳細は同拠点のサイトを参照。
http://www.tufs.ac.jp/21coe/area/index-j.html
(ウェブサイトの最終アクセス日は2016年9月2日。以下同じ。)

[2] 国立国会図書館リサーチ・ナビ「アジア情報室所蔵資料の概要: 南アジア関係資料: 継続受入新聞リスト」 https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-02data-south-news-list.php

[3] 【 】内は当館請求記号。以下同じ。

[4] Union Budget. http://indiabudget.nic.in/index.asp

[5] Stationery and Printing Department, Government of Tamil Nadu. http://www.stationeryprinting.tn.gov.in/

[6] Directorate of Economics and Statistics, Planning Department, Government of Maharashtra, India. https://mahades.maharashtra.gov.in/

[7] http://www.newdelhiworldbookfair.gov.in/
National Book Trust, India(インド全国図書トラスト。インド政府人材開発省が設立。国内の地域的なものから国際的なものまで多くのブックフェアを主催。)が主催する国際ブックフェア。第1回は1972年開催、今年は第23回。

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