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『"一带一路" : 机遇与挑战』:アジア情報室の社会科学分野の資料紹介(10):アジア情報室通報 14巻3号

1.15.  王义桅 著『"一带一路" : 机遇与挑战("一帯一路" : 機会と挑戦)』北京 : 人民出版社, 2015.4. 2, 249p ; 23cm【DE9-C22】

「一帯一路」とは、「シルクロード経済ベルト(一帯)」と「21世紀海上シルクロード(一路)」の総称であり、2013年に習近平国家主席により発表された構想である[1]。

本書は冒頭で、「一帯一路」は、中国の全方位的な対外開放、かつてシルクロード交易で繁栄したユーラシア諸国の現代における復興、文化や発展段階が異なる諸国を取り込んだグローバル化という要請への対応であり、中国がグローバル化を「創造する存在」になる象徴であると概括している。

また、「一帯一路」の趣旨は、沿線諸国との経済協力パートナーシップを発展させ、政治・経済・文化を包含した共同体を形成することであり、長江経済ベルト[2]、自由貿易試験区[3]、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)などとともに、「中国の夢」[4]を実現するための大戦略の一部であると指摘している。

第1部「"一帯一路"の歴史的な突破」では、「一帯一路」推進の理由を、生産過剰産品の市場の獲得、天然資源の獲得、安全保障上の観点からの内陸部開発に求めている。また、「一帯一路」は、中国国内の不均等な発展を解消して内陸部を含む全土の全面的な発展を促進するため、各地方政府による国外との経済関係強化を促す意味を持つと指摘している。

第2部「"一帯一路"の機会」では、「一帯一路」は、①「全方位」的な対外開放、②周辺地域との外交、③地域協力の枠組み、④地球規模の発展といった方面で好機をもたらすと指摘する。①の「全方位」とは、対外開放分野の拡大、中国国内の地域格差の調整等を目指したものである。②では、東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア、中東の地域別に、「一帯一路」が対外関係にもたらし得るプラスの効果を概観している。③では、アジアと欧州の各経済圏の協力関係の発展により、欧州諸国にとって、対ロ関係の改善、域内の統合強化、EUの国際的影響力の上昇といったメリットがあること等を指摘している。④では、「一帯一路」は中国モデルを世界に広め、その発展の果実を世界にもたらすものとしている。また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、環太平洋パートナーシップ(TPP)等とは競合関係にはなく、相互に協調、補完を進めるべきと述べている。

第3部「"一帯一路"の挑戦」では、様々な側面から想定されるリスク要因について述べている。中央アジア、中東、東南アジア、アフリカの地域別に政治リスク分析するとともに、「封じ込める米国」「猜疑するロシア」「戦略的非協力のインド」「撹乱する日本」の存在を指摘している。

第4部「"一帯一路"をいかに進めるか」では、習主席が提唱する「五通」[5]を実現させるため、まず道路、通信等のインフラ建設協力から着手して、その基礎の上に政策面の連携を進め、自由貿易区の建設を推進し、相手国のニーズに応じて中国の生産過剰産業の国外移転等を進め、ひいては沿線諸国内での生産物資、労働力、資本等の自由な移動を実現していく構想を述べている。また、実務的な協力により利益の最大化を図る「利益共同体」、環境や対テロなどの問題を共同で解決する「責任共同体」等から、より強固な「運命共同体」[6]の構築を目指すとしている。

最後の「結語」では、まず、「一帯一路」に対する外国からの「10の誤解」に反駁を加え、次いで、関係国の関与の度合い等に応じて、文明共同体、利益共同体などの意義を使い分けて強調すべきこと、西側諸国が主導してきたこれまでのグローバル化とは異なる革新性を強調すべきこと等を述べている。

本書は中国の「一帯一路」に対する基本的立場を知る上で参考になる。著者の王義桅氏は、中国人民大学国際関係学部教授、同大学の国際事務研究所所長、重陽金融研究院高級研究員で、本書発表以後も「一帯一路」に関する論考[7]を多数発表している。

(前アジア情報課 湯野 基生)

[1] 「一帯一路」をインフラ建設の面からサポートする存在として、アジアインフラ投資銀行(AIIB)がある。「一帯一路」とAIIBの関係については、田中菜採兒、湯野基生「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の概要」『調査と情報 -ISSUE BIREF-』888号, 2015.12.24を参照。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9578214

[2] 長江流域の11省を対象に、流域一体としての経済発展、産業構造の高度化を進め、内陸部と沿岸部との連動強化を促進することを目的とする計画。

[3] 2013年に上海に設置された、外国企業の進出、投資に係る各種障壁の撤廃を試験的に導入した開発区。

[4] 習主席が2012年から提起した政策スローガンで、「中華民族の偉大な復興」の実現を内容とする。

[5] ①太平洋とバルト海、インド洋を連結するユーラシア大陸の交通幹線の建設、②手続きの簡素化、高付加価値製品の比率拡大等の貿易、投資の発展、③現地通貨による決済等の貨幣流通の促進拡大、リスク管理能力の増強、④政策面の連携強化、利益共同体と運命共同体の構築、⑤文化面の協力強化、民心の相互理解の実現、を指す(p.161)。

[6] 上記3つの「共同体」は、「三同」と略称され、前出の「五通」と合わせて用いられることが多い。また、著者は上記のほか、①ユーラシアに歴史を共有する「文明共同体」、②経済や安全保障上の利害を共有する「安全共同体」の概念も提示している。

[7] 例えば、「观察者网」の同氏のコラムのページ(http://www.guancha.cn/WangYiWei)には、「"一帯一路"に対するカンボジアの10の懸念」などの「一帯一路」に関する論考が収録されている。

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