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『現代政治経済の動向分析』:アジア情報室の社会科学分野の資料紹介(19):アジア情報室通報 16巻4号

1.26. 林建甫 主編 ; 林建甫 [ほか] 作『現代政經趨勢分析(現代政治経済の動向分析)』台灣經濟研究院, 2016.7. X, 267p.DC214-C86

本書は、台湾及び周辺地域の政治経済の動向について、60のテーマ[1]を全5章に分けて解説している。台湾経済研究院[2]の林建甫院長ら同研究院に所属する4名の専門家が分担執筆しており、テーマ設定は経済に比重が置かれている。新聞に掲載された記事やメディア向けの発言を転載または再構成したうえで再録したもので、比較的平易かつコンパクトにまとめられており、近年の動向の見取り図として活用できる資料である。

以下、各章から1テーマずつ簡単に内容を紹介する。

 

1章 国内外の政治経済課題の分析(透視國內外政經議題

「香港問題が中国共産党上層部の政治に及ぼす影響」(香港影響中共高層政治

 2014年以来、普通選挙の実施を求める学生たちによる「雨傘運動(オキュパイ・セントラル)」や政治的禁書を扱う銅鑼灣書店関係者の「政治的誘拐」疑惑と釈放運動等の事件が相次ぎ、香港と中国(大陸)間の緊張が高まっている。こうした情勢により、香港問題に対する習近平国家主席の処理能力欠如が露呈し、対立派閥にとっては、共産党現幹部の勢力を削いで十九大(中国共産党第19回全国代表大会)における人事主導権を弱体化させるための格好の攻撃材料となっている。香港情勢は、今や中国共産党上層部の政治を動かす重要なファクターとなっているので、中国の将来を予測するために注視すべきであろう。

2章 産業の創出と輸出の新モデル(創造產業及出口新模式

輸出促進のための中台の処方箋は一致している」(促進出口成長兩岸藥方一致

近年、中国の貿易輸出額がプラスに転じる一方で、台湾の貿易輸出額は下落を続けている。中国では自由貿易区の推進等の政策が一定の成果を収めており、これは台湾でも参考にする価値がある。台湾が輸出不振の苦境を脱するには、既存産業の改善だけでは不十分であり、「エコ」、「スマート」、「華文」[3]をキーワードとする新興産業を新たに育てる必要がある。また、サービス産業の発展を重点とする産業構造の転換も必要であり、そのためには中台の連携によるサービス貿易の自由化も欠かせないため、両者の対話プラットフォームを積極的に運用すべきである。昨今の台湾と中国は、ともに輸出促進と経済成長のプレッシャーを抱えているが、貿易の自由化や産業構造の転換は、両者に共通の処方箋である。

3章 両岸の経済貿易の競争と協力(兩岸經貿競爭與合作

「台湾総統選後の中国側研究者による両岸関係論議の分析」(台灣選後大陸學者關注的兩岸議題評析

2016年の総統選以降、蔡英文新総統の両岸関係に関する発言について、中国の政府関係者や研究者は、「92年コンセンサス」、「一つの中国の原則」等の共通認識がなければ両会交流[4]等の公的対話ルートは途絶えること、蔡新総統に、少なくとも「中台は一つの中国に属する」という考え方を受け入れさせるべき、「新南向政策」[5]のような中国との関係を疎遠にする政策をとれば、台湾は国際的な立ち位置を失うだろう等と分析している。

しかし、中国側がどう評価しようとも、「ひまわり学生運動」[6]や総統選の結果を見れば、台湾の政治情勢が大きく変化しており、肥大する中国経済が台湾に悪影響を及ぼし、更には政治的依存と主権の喪失につながることを民衆も恐れるようになっているのは明らかである。新政権は、両岸関係の新しい局面においても中華民国の主権と台湾の自主性と民主政治を堅持し、台湾の永続的発展の基礎を打ち立てるよう努めるべきである。

4章 プラットフォームの構築による地域経済統合の促進(構建平台推動區域經濟整合

TPP交渉事務局設立に見る台湾のTPP加入への決意」(TPP溝通辦公室展現台灣加入TPP決心

台湾は、長年にわたってTPPやRCEP等の地域貿易協定への加入を目指してきた。そのための体制を整備し、TPP/RCEP特別班(TPP/RCEP專案小組)やTPP交渉特別事務局(TPP溝通專案辦公室[7])等の専門機関を設置している[8]。このように地域貿易協定への加入を積極的に進める目的は、台湾の貿易経済域を拡大し、貿易の障害を取り除くことにより、台湾企業の輸出競争力を高めて世界的な投資競争の中で優位に立つことである。なお、AIIBへの加入もまた、新南向政策の成功だけでなくASEAN諸国との連携強化に有利に働くだろう。台湾は引き続き、各種貿易協定や経済的枠組みへの参加を目指すべきである。

5章 台湾経済の新しい位置づけの模索(尋找台灣經濟新定位

「大陸と隔絶して繁栄することは可能か?」(與大陸隔絕的繁榮,可能嗎?)

 蔡英文新総統が掲げる新南向政策では、台湾企業の進出や投資先を中国から東南アジアにシフトさせることを目指している。しかし、中国は世界第2位の経済大国であり、この政策が成功したとしても、台湾の経済が中国から完全に隔絶して成り立つわけではない。中国は、長らく台湾の第一の貿易相手国、投資先であり、特に中小規模の台湾企業にとって、言語の壁がない中国が最適の進出先であることは、現在も変わらない。

民進党陣営と国民党陣営では両岸関係に対する態度が異なるが、民進党政権においても、中台の経済貿易協議を継続する必要がある。これまでに中台が連携して作り上げた互恵的な産業発展の基礎を今後も新政府が守り続けることを期待したい。

 

 本書のほか、以下のような台湾経済研究院の刊行物がある。官庁や業界団体が公開するデータだけでなく、同研究院が取材や企業へのアンケートで独自に入手したデータを活用した市場分析や景気予測等、民間の研究機関だからこそ発信できる情報も収録しているので、併せて参照されたい。

 

『臺灣經濟研究月刊』(台湾経済研究雑誌社 月刊)【Z3-AC30

「台湾新南向政策の展望」や「国際経済情勢の激変が台湾の輸出に与える影響」等、台湾経済に関するホットトピックスを毎号特集し、各分野の専門家の論考を掲載している[9]。毎号巻末に業種別の市況や生産活動の良否を示す景気趨勢指標図等のデータを掲載している。

 

台灣各產業景氣趨勢調查報告』(台灣經濟研究院 年刊)【DC214-C79

食品業、紡績業、コンピューター製造業等の製造業、海運業、飲食産業、銀行業等のサービス業等の業種別[10]に、1年間の景気動向、市場規模、輸出入の動向、主要企業の売上高等を収録している。

(前アジア情報課 齊藤 まや)



[1] テーマの一覧は台湾経済研究院の出版物紹介のページで確認できる。

「現代政經趨勢分析」  http://publication.tier.org.tw/thebook.asp?doc_id=52016073024

[2] 1976年に設立された民間のシンクタンクで、国内外の経済動向の調査研究を行い、政府や企業に情報を提供することによって、台湾経済の発展を促進する役割を担う。

台灣經濟研究院ウェブサイト  http://www.tier.org.tw/

[3] 「華文」は中国語を指す。台湾では、東南アジアの華人等に向けた中国語デジタルコンテンツの売り込みに力を入れようとしている。

[4] 海峡両岸関係協会(中国側)と海峡交流基金会(台湾側)を通じた政府間交渉。

[5] 蔡英文総統が掲げる、東南アジアや南アジアなどとの関係強化を目指す長期的な政策。2016年8月には、同政策を推進するための「新南向政策推進計画」が、行政院によって策定された。

「台湾の「新南向政策」の推進計画について」2016.10.14, 台北駐日経済文化代表処ウェブサイト

http://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/40085.html

[6] 2014年3月、中国との間に締結したサービス貿易協定(海峽兩岸服務貿易協議)の批准に向けた立法院における審議の進め方に反発し、学生を中心とする団体が立法院を占拠した事件から始まった社会運動。

[7] 各種業界団体との協議を実施する等、TPP交渉チームと国内各界との連絡窓口の役割を果たしている。

「TPP溝通專案辦公室啟用 建立雙向溝通平臺」2016.1.27. 中華民國經濟部ウェブサイト

https://www.epza.gov.tw/info.aspx?pageid=a875323238688970&cid=a550c32221730540

[8] この他、2016年9月20日にTPPやRCEPなど経済貿易関連の対外交渉に関する計画や戦略の策定を行う専門機関「経済貿易交渉事務局(經貿談判辦公室)」も設置されている。

經貿談判辦公室ウェブサイト https://www.moea.gov.tw/MNS/otn/home/Home.aspx

[9] 各号のテーマや掲載内容は、台湾経済研究院の出版物紹介のページで確認できる。

「台經月刊」  http://publication.tier.org.tw/list01.asp?status=fp1&q2=1

[10] 扱う業種は年によって異なり、台湾経済研究院の出版物紹介のページで確認できる。

「台灣各產業景氣趨勢調查報告」  http://publication.tier.org.tw/list01.asp?status=fp1&q2=2

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