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日本で初めてCADALの利用を実現  ―東京大学大学院人文社会系研究科人文情報学拠点の取組み―:アジア情報室通報 17巻1号

南 亮一(国立国会図書館関西館アジア情報課長)

はじめに

CADAL(中国デジタル図書館国際協力計画[1])とは、「中国の大学図書館が中心となり、所蔵機関がデジタル化資料を提供することで協力し、各機関のデジタル化資料を参加機関全体で共有する国際的な資料デジタル化プロジェクト」[2]である。CADALには、中国の雑誌や図書、博士論文を中心に約276万冊以上のデジタル化資料が収録されており[3]、世界最大級の規模といえる。

国立国会図書館では、このような大規模な中国文献のデータベースの利用方法やCADAL参加のための条件を紹介することは、日本における中国情報のインフラ整備の面で有益と思われたことから、2013年12月にCADALプロジェクト管理センター副センター長の黄晨氏(浙江大学図書館副館長)(当時)を招へいしてCADALプロジェクトの現状と今後の展望についての講演会を開催し[4]、また、CADALの利用や参加方法についての紹介記事を本誌に掲載した[5]

このCADALについては、日本学術会議の提言においても、人文学的アジア研究の基盤として取り上げられている[6]など、日本国内の人文学的アジア研究の振興のためには、その利用環境を整備することの必要性が提唱されていた。しかしながら、CADALへの参加には、3,000点以上のデジタル化資料またはデジタル化用の紙資料をCADALに提供することが必要とされる[7]など、参加のためのハードルが高いことから、当館を含め、これまで日本国内で参加する機関は見られなかった。

そのような中、2018年1月24日、東京大学大学院人文社会系研究科人文情報学拠点(以下「東大人文情報学拠点」または「拠点」という。)が、日本で初めてCADAL参加を実現し、東京大学全体でCADALを利用できるようになった[8]。このことは、日本におけるアジア研究の情報基盤の整備にとって大きな一歩であると考える。

本稿では、拠点長である下田正弘教授と拠点の客員研究員の永崎研宣氏にお話を伺い[9]、同拠点のCADAL参加までの取組みと現状について紹介する。本稿が日本の他の機関におけるCADAL参加の取組みの参考となれば幸いである。なお、本稿のうち、意見にわたる部分については、筆者の個人的見解に基づくものであり、筆者の所属する組織の見解を代表するものではないことを、ご承知おきいただきたい。

Ⅰ 東大人文情報学拠点とは

東大人文情報学拠点とは、デジタル化技術の革新とウェブシステムの急速な発展により大きく変革した人文社会学における知の保存形態と発信の方法にいかに対応し得るかという課題に対応し、次世代人文社会学に備えるべく、2013年に、東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター創成部門に設置された組織である[10]。拠点長を務める下田正弘教授と拠点専任教員のミュラー・アルバート・チャールズ教授、6人の兼担教員、そして永崎氏ほか1人の客員研究員の計10人によって構成されている[11]

拠点の活動は、教育活動と研究活動に分かれる。教育活動としては、研究科内での講座(人文情報学概論および特殊講義)を開講し、大学院部局横断型教育プログラム「デジタル・ヒューマニティーズ」の主査を務め、コア科目を提供している。このほか、対外活動として、日本における人文情報学の発展に資するための様々な活動を行っている。研究活動としては、アジアに伝承された仏教の壮大な知識体系である大蔵経のデジタルテキストコーパスを基盤としつつ、内外の諸機関と連携しながら、文字資料による世界最先端のデジタル知識基盤のモデルを提供するという活動を行っている[12]

Ⅱ CADAL参加に取り組むきっかけ

拠点がCADAL参加に取り組むきっかけは、2017年5月に拠点がCADAL推進の中心的な役割を担っている浙江大学から仏教研究のデジタル化をテーマとする会議に招待されたことであるという。招待を受けた時点では、日本や海外の研究者がどれほどCADALを歓迎しているかわからなかったため、CADALの参加については意識していなかったが、その後CADALとの提携を視野に入れて招待を受けることとしたとのことである。

CADALは大学図書館を中心としたネットワーク事業であるため、海外での取組みと同様、大学図書館が取り組むのが自然と思われる。このため、東京大学総合図書館やアジア研究図書館構想を推進しているU-PARL[13]にも声を掛けたが、必要性は理解されたものの、実行体制の構築は難しいようであった。このため、仏教研究における人的関係が築かれていた拠点において主体的に取り組むこととなった、とのことである。歴史的に日本の高等教育が果たしてきた大学図書館の役割と学部の役割とが欧米とはかなり異なっていて、大学の図書館員と研究者との間に距離があることから、欧米のように大学図書館が研究者の研究基盤形成にあまり積極的でないことが関係しているのではないか、とのことであった。

また、拠点が取り組むことで、大学図書館や他機関に要望するだけの「他人任せ」で終わるのではなく、研究者自身により従来の枠組みを超えた研究基盤を構築するモデルケースとなることも意識した、とのことであった。

 参加までの経緯

CADALへの参加の必要性については、当初から東京大学総長に報告して理解してもらったこと、学内でも参加への要望があることから、学内での理解があったとのことである。実際に参加が実現した際も賛辞の声が寄せられたとのことである。また、前述の日本学術会議の提言があったことも、日本における中国研究の基盤を整備するという理念を理解してもらうために大変役立ったという。

CADALは、その名称からもわかるとおり、「所蔵機関がデジタル化資料を提供することで協力し、各機関がデジタル化資料を参加機関全体で共有する」プロジェクトである。このため、参加にあたっては、前述のとおり「3,000点以上のデジタル化資料又はデジタル化用の紙をCADALに提供することが必要」となる[14]

このため、拠点が中心となって完成させた、東京大学総合図書館所蔵の万暦版大蔵経の19万枚超の版面画像データ[15]を提供することとした[16]。この大蔵経は、CADALを主管する浙江大学の近隣にある径山寺で印刷されたものであり、このデータを提供することはCADALにとって最もふさわしいのではないかと考えた、とのことである。

むしろ課題となったのは、協定書の内容と文学部内での異論への対応であったという。

前者は、弁護士を通したやりとりの中で、条項の中国語文と英語文のニュアンスの違いや、東京大学側とCADAL側との解釈の齟齬について、事務局の浙江大学と調整するのに時間が掛かったとのことである。最終的には、学術データの共有が中心ということで双方理解することで解決したとのことである。CADAL側にも、補助金獲得とネットワークの拡大のため、日本の機関に加入してほしいという判断があったのではないかという。

後者は、デジタルデータを提供すると中国に奪われるのではないかという懸念からのものである。これについては、提供するデジタルデータである万暦版大蔵経の版画画像データは、そもそもCC-BYというライセンス[17]を元に一般に提供されている[18]ため、そのような問題はそもそも生じない旨を説明することで、解消することができたという。

これらの課題を解決することにより、取組みの着手から1年7ヵ月ほどで、参加を実現することができたという。日本での最初の参加であったにしては、かなり早期に実現できたと考えているとのことであり、これには、仏教学を通じた浙江大学と拠点との人的関係が大いに寄与している一方で、当館からの日本語による情報提供[19]も大変役に立ったとのことであった。

今回の東京大学の参加により、先例ができたことから、他の日本の大学にも参加が広がり、日本の中国学や図書館が中国や世界に対して開かれてくることを期待しているとのことで、実際にも、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター[20]から問い合わせが来ているとのことである。

Ⅳ CADALの利用環境

CADALの利用環境については、契約上は、東京大学の学内ネットワークにアクセスが認められれば、同大学に所属していない者であっても利用が可能となっているとのことである。ただ、同大学では、商用データベースのアクセスを同大学に所属している者に限定している関係で、結果的にCADALについても同大学に所属している者にしかアクセスすることができない状態になっており、日本国内でCADALを利用できるのは、現時点では、同大学に所属している者だけとなる[21]。なお、同大学に所属する者であっても、CADALを利用するには、CADALに登録をして個人アカウントを作る必要がある(次図参照)。

図 アカウントを要求された画面の例

また、CADALは、同大学の学内ネットワークを通じてアクセスすることとされているため、同大学に所属する者であっても、学外からのアクセスは原則としてできない。ただし、CADALでは、データベース内のデータにある誤りを補正すると、「ポイント」がユーザーに付与されるというサービスがあり、それが10ポイント貯まると、「館外貸出」という、同大学の外からでも閲覧することができるとのことである。このような仕組みは、中国の著作権法における電子書籍の貸出しについての規定に基づいて行われているという。

おわりに

これまでは、大学において研究を進める上で必要な情報へのアクセスを確保するという「研究者に対する研究活動支援」は、大学図書館に求められる機能・役割と位置付けられてきた[22]。ところが、東京大学での導入については、研究組織である拠点が行った。

同拠点は、これまでの研究組織にありがちだった他人任せな考えをやめ、研究組織自らも研究基盤の整備の役割を担っていくべき、という考えから、世界の仏教学者とのネットワークを有し、また、万暦版大蔵経のデジタルデータというコンテンツを有するという、CADALへの参加における2つの強みを活かし、ほぼ自力でCADALへの参加を実現した。

CADALへの参加については、協力事業というCADALの性質を考えると、今後も大学図書館ではなく、このような研究組織が主体となって行われていくことになるのではないかと考える。本稿がそのような取組みの参考となれば幸いである。

(みなみ りょういち)



[1] 中国語名は、「大学数字图书馆国际合作计划」という。「项目简介」CADALウェブサイト<http://www.cadal.cn/xmjj/>を参照。

<[2] 湯野基生「中国の資料デジタル化プロジェクト・CADALの利用と参加について」本誌第12巻第1号(2014年3月),pp.2-5のp.2を参照。なお、CADALの概要や利用方法、参加の条件等は、この文献に詳述されている。

[3] 2017年12月現在の数値である。「表一:2017入库量」CADAL项目管理中心秘书处編『大学数字图书馆国际合作计划CADAL2017年度报告』CADAL项目管理中心秘书处, 2017.12.31, p.10. <http://www.cadal.cn/d/2017CADAL.pdf>

[4] 関西館アジア情報課「中国の資料デジタル化プロジェクト-国際連携を進めるCADAL」『国立国会図書館月報』637号(2014年4月),pp.12-16.<http://www.cadal.cn/d/2017CADAL.pdf>

[5] 前掲注2の文献を指す。

[6] 日本学術会議 言語・文学・哲学委員会・史学委員会・地域研究委員会合同 アジア研究・対アジア関係に関する分科会「提言 新たな情報化時代の人文学的アジア研究に向けて-対外発信の促進と持続可能な研究者養成-」(2017年9月21日)http://www.jaibs.jp/wp/wp-content/uploads/2014/09/Recommendations-for-asian-studies-from-sub http://www.jaibs.jp/wp/wp-content/uploads/2017/09/scj20170921.pdf committee.pdf, p.7.

[7] 前掲注2, p.5.

[8] 「東京大学大学院人文社会系研究科人文情報学拠点が中国デジタル図書館国際協力計画(CADAL)に日本初の加盟」東京大学ウェブサイト.<http://www.l.u-tokyo.ac.jp/assets/files/news2017/CADAL20180118.pdf>

[9] 平成31年2月1日に東京大学法文2号館インド学仏教学研究室演習室にて行った。なおその際には、同大学院博士課程の王一凡氏も同席した。

[10] 「拠点の概要・沿革」東京大学東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター創成部門人文情報学拠点ウェブサイト< http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/DHI/index.php?%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%83%BB%E6%B2%BF%E9%9D%A9>

[11] 「Staff」東京大学東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター創成部門人文情報学拠点ウェブサイト<http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/DHI/index.php?%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%95>

[12] 前掲注10を参照。

[13] 東京大学にアジア研究の一大拠点として設立される「アジア研究図書館」の構想を実現し実現するため、上廣倫理財団の寄付を得て2014年に設置された東京大学附属図書館の初めての研究部門である「東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(Uehiro Project for the Asian Research Library)」の略称である。

[14] 前掲注2, p.2.を参照。

[15] 下田正弘、久留島典子「デジタルアーカイブ「万暦版大蔵経(嘉興蔵)デジタル版」公開のお知らせ」(平成29年8月30日)東京大学附属図書館ウェブサイト <https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/sites/default/files/files/2017-09/%E3%80%90%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%80%91%E4%B8%87%E6%AD%B4%E7%89%88%E5%A4%A7%E8%94%B5%E7%B5%8C%EF%BC%88%E5%98%89%E8%88%88%E8%94%B5%EF%BC%89%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E7%89%88%E5%85%AC%E9%96%8B.pdf>

[16] 前掲注8を参照。

[17] 適切なクレジットを表示することを条件に、営利非営利を問わず、複製や再配布だけでなく、改変や二次利用も許容するという表示をいう。「表示4.0国際(CC BY 4.0)」クリエイティブ・コモンズウェブサイト<https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja>を参照。

[18] 「万暦版大蔵経(嘉興蔵/径山蔵)デジタル版」ウェブサイトhttps://dzkimgs.l.u-tokyo.ac.jp/kkz/のトップページの最下部に、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの第4版(国際)の「表示Attribution」のライセンスであるCC-BYライセンスが適用される旨の表示がされている。

[19] 前掲注2及び前掲注4の文献を指す。

[20] 関西大学が長年にわたり培ってきた東アジア文化研究の学術リソースと国際的学術ネットワークを基盤に、デジタル知識基盤社会に適合した「デジタルアーカイブ」を構築し、さらに、世界に開かれたハブ的機能を備えたオープン・プラットフォームを形成し、世界最高水準の東アジア文化研究拠点を形成すべく活動することを目的として、2017年4月に同大学に設置された組織である。「センター長あいさつ」関西大学アジア・オープン・リサーチセンターウェブサイト<http://www.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/outline/greeting/index.html>

[21] もちろん、参加機関に属さない個人の閲覧を認めているデジタル化資料(著作権上の問題が無い古典籍と一部の外国語図書)については、同大学に所属しない者でも利用することができる。前掲注1, p.2を参照。

[22] 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会「大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学にあって求められる大学図書館像-」(平成22年12月)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1301602.htm, p.8.

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