トップアジア諸国の情報をさがす刊行物>ベトナム・カンボジア・ラオスの国立図書館は今―シンポジウム&ワークショップ「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」での報告を元にして―(その1 ベトナム国家図書館):アジア情報室通報 18巻1号

ベトナム・カンボジア・ラオスの国立図書館は今―シンポジウム&ワークショップ「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」での報告を元にして―(その1 ベトナム国家図書館):アジア情報室通報 18巻1号

南 亮一(国立国会図書館関西館アジア情報課長)

はじめに

 筆者は、京都大学東南アジア地域研究研究所(CSEAS)からの依頼を受け、 2019年9月17日・18日の2日間、ベトナム・ハノイ市で開催された 「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」 (京都大学東南アジア地域研究研究所(CSEAS)・ベトナム社会科学通信院(ISSI)共催) というシンポジウム&ワークショップ[1](以下「S&W」という。)に参加するため、 同月15日から20日まで、ベトナム・ハノイ市に出張する機会を得た。

S&Wでの記念撮影写真。筆者は後段左から3人目

 このS&Wでの国立図書館からの報告や出張期間における視察を通じ、 筆者はベトナム、カンボジアおよびラオスの国立図書館の最新の情報を得ることができた。 ベトナム国家図書館(NLV)については、これまでいくつかの文献にて取り上げられている[2]ものの、 業務寄りの紹介はほとんどなく、また、カンボジア国立図書館(NLC)やラオス国立図書館(NLL)については、 ほとんど紹介されていない[3]。 このため、本稿では、これらの先行文献では触れられていない内容を中心に、これらの図書館の最新状況を紹介することとしたい。なお、紙幅の関係で、本号ではNLVを、次号ではNLCとNLLを取り上げることとしたい。

1 ベトナム国家図書館

1.1 概略

 ベトナム国家図書館(NLV)については、S&Wの1日目に、同館図書閲覧室課のトラン・プオン・ラン課長により発表された概況報告と、9月17日午後に筆者をはじめとするW&Sの日本側参加者が同館を視察した際に知り得た情報を元に、同館の概況を紹介する。

 同館は1917年に設立され、「インドシナ図書館」と呼ばれていた。現在の名称となったのは1958年のことである。

ラン課長の発表の様子

 図書は、納本制度により収集しており、年間58,000冊収集しているとのことであった。このほか、寄贈や国際交換による収集も行っている。蔵書数は270万点で、ベトナムの図書のほか、外国語の図書も所蔵する。

 また、国の中央図書館として、様々な図書館業務への技術を導入する活動を行っており、MARC21、デューイ十進分類法第23版(DDC23)のほか、2018年末にはRDAを導入し、全国各地の司書のための研修も行ったとのことである。

 博士論文は、32,233冊所蔵する。ベトナム人か、ベトナムで博士の学位を取った外国人の場合、博士論文の最終版を同館に納める義務があるとのことである。

 さらに、インドシナ関係の資料68,500点を所蔵する。そのうち1,700点は逐次刊行物であり、特別な資料として所蔵しているとのことである。

 また、漢喃資料を5,200冊所蔵しており、貴重な資料として指定され、漢喃研究所の研究員も利用してもらっているとのことである。

 デジタル化については、博士論文24,000冊、英語資料338冊、漢喃資料1,852冊、ハノイに関する図書や地図を対象とするとのことである。

1.2 納本制度

 ベトナムにおける納本制度は、ベトナムの出版法を根拠とし、1部から5部の範囲で、直接NLVに持参するか、郵送することとされている。地方の出版物については、出版社と取引のある業者に持参してもらっているとのことである。なお、納本された資料は、一部は納本書庫に収納され、利用には供されないとのことであった。

 現在は約8割については自発的に納本がされるが、残りについては、強制力を用いることになる。納本の有無は、出版を所管する情報通信省出版局から出版情報を入手のうえ、毎月確認しており、未納本の資料については、情報通信省出版局に連絡し、納本するよう取り計らってもらうとのことである。

 このように、ベトナムの納本制度は、出版法を根拠とし、出版の規制当局である情報通信省出版局が督促を担当するという、かなり強力な制度となっている。この制度と、出版情報を網羅的に収集する立場である同局から出版情報を入手していることを鑑みると、NLVは、ベトナム国内で出版される出版物を、ほぼ網羅的に収集しているものと思われる。

1.3 書誌作成

 このようにして収集した資料は、1週間で整理、分類、納架され、利用に供される。整理は目録編成室に所属する19人の司書が行い、週500冊から600冊程度整理しているとのことである。なお、雑誌については、納本室という別の部署で作業しているとのことである。

目録編成室の様子

 目録作成フォーマットはMARC21、目録規則はAACR2だったが2018年にはRDAを採用し、分類表はDDC23を採用している。書誌作成が終わったら自動的にOPACに搭載される。

整理作業の様子

なお、DDC23の採用により、欧米の図書館の書誌データと共通となり、コピーカタロギングができるようになったとのことである。

使い込まれたDDC23

1.4 排架と標示

整理を終えた資料は、まず開架式書架に排架され、4年経過すると書庫に移される。開架式書架と書庫では、ラベルも排架の順序も異なる。開架式書架がDDCで排架されているのに対し、書庫は受入順で排架されている。

左の標示が開架用、右の標示が書庫用

 上の写真の左の標示が開架用、右の標示が書庫用のものである。書庫用の標示にはバーコードと記号(Vから始まるもの)が、開架用の標示は書庫用のものより一回り大きく、DDCによる分類記号も表示されている。開架用の標示は、書庫用の標示に重ねるように貼り付け、4年経過後に書庫に配置換えをする際に剥がしてしまうとのことである。

 なお、この標示はNLV独自のものではなく、他の視察先であるISSI図書館、漢喃研究所図書館でも見られたものであり、漢喃研究所図書館の司書によれば、1948年にベトナムの図書館界で定まったとのことである。

ISSI図書館の書架。同じ標示が見られる。

1.5 資料保存

 NLVでは、デジタル化のほかに、紙の資料の保存にも力を入れている。このため、保存室を設けて、1954年までのインドシナの書物の修復を行っている。修復すべき資料は大量にあるので、まずはベトナム語のものから優先的に修復しているとのことである。

 保存室には技術者5人と修復前の状態を記録する者1人の計6人が配属している。

保存室の様子

 保存技術はNLVと関係のある欧米の専門家や元国立国会図書館職員の安江明夫氏を研修講師として招いて教わったとのことである。日本の和紙は高いので、文字でないところはベトナムの紙を使っているとのことである。また、糊はでんぷんではなく、CMCを海外から輸入して使っているとのことであった。

保存室に掲示されている資料保存の手順図

1.6 利用者サービス

 利用者サービスについては、佐藤章太[4]や兼松芳之[5]による紹介では触れられていなかったことを中心に紹介する。

 資料は社会科学関係の利用が多いとのことであり、約4万冊所蔵している。そのうちの一部については、社会科学系の資料室で利用に供している。科学技術・自然科学系の資料は約2万冊所蔵している。また、貸出は、1日300回から400回程度とのことである。

 新聞と雑誌については、1つの部屋を設けており、1日300人ほどが利用しているとのことである。

 新聞雑誌室の入口を入ったところには、排架されている新聞雑誌のタイトル一覧表が掲示されており、この表で目当ての新聞雑誌を確認した上で該当の書架に向かうことになる。

新聞雑誌室の入口 / 新聞雑誌タイトル一覧

 新聞は最新から数号前のバックナンバーまで排架しており、タイトルのロゴが貼付されている扉を縦に開く方式となっている。

新聞棚 / 雑誌棚

 閲覧室の資料はDDCにより排架されるが、背表紙にはDDCではなく書庫用の標示がされていて一見して分類が分かりづらいことから、背表紙に貼付されたシールの色を変えることで、視認性を確保している。

閲覧室の入口の様子
テープの色によって分類を区別

 閲覧室のローテーションは、朝8時から午後2時までと、午後2時から午後8時までを1人ずつで担当し、排架整頓は、その交代時と閉館時に行うとのことである。(以下次号)

(みなみ りょういち)


[1] このシンポジウム等については、CSEASウェブサイトの次のページにおいて報告されている。「シンポジウム&ワークショップ 「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」(9月17、18日 於:ハノイ) https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/2019/09/20190917-18/#report_20190917

[2] 木村麻衣子「ベトナムの図書館における目録作成ツール」『カレントアウェアネス』(323), 2015.3, p.10-13.では、 訪問調査による目録作成ツールの状況の紹介がなされている。 兼松芳之、竹内若生「世界図書館紀行 ベトナム」『国立国会図書館月報』(672)2017.4,p.14-19.では、 沿革について簡単に触れた後、施設紹介を兼ねた業務・サービスの簡単な紹介がされている。 佐藤章太「ベトナム国家図書館」(U-PARL編集『世界の図書館から アジア研究のための図書館・公文書館ガイド』(勉誠出版, 2019) p.64-69では、同館を利用するにあたって必要となる情報を詳細に説明されている。 なお、井上靖代「アメリカの図書館は、いま。90-番外編:ベトナムの図書館はいま。」 『みんなの図書館』(490)2018.2, p.66-75.では、NLVについては触れられていない。

[3]NLCについては、山口学「カンボジア国立図書館の再生へ向けて-コーネル大の援助プロジェクト」『カレントアウェアネス』(122), 1989.10.20, p.3-4.、宮島安世「カンボジアの図書館の現状」同(202), 1996.6.20, p.3-4.で触れられている程度である。NLLについて記載した日本語文献は、国立国会図書館オンラインで検索した限りでは見当たらなかった。

[4]佐藤章太・前掲注2を参照。なお、この記事の元となったコラム(佐藤章太「【世界の図書館から】ベトナム国家図書館」 U-PARLウェブサイト http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/archives/japanese/world-library33)は、ウェブ上で閲覧可能である。

[5]兼松芳之・前掲注2を参照。

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