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インドネシアの影絵人形芝居ワヤン・クリ(レファレンス事例・ツール紹介 17):アジア情報室通報 18巻1号

藤田 美奈子(国立国会図書館関西館アジア情報課)

 インドネシアの影絵人形芝居Wayang Kulit(以下「ワヤン・クリ」という。)は、バリ島とジャワ島の伝統芸能でユネスコの無形文化遺産にも登録されています。ワヤンは影、クリは皮の意味ですが、ワヤンという言葉は皮で作られた人形そのものを指すこともあります。

 本稿では、ミュージカルの演出の参考にワヤン・クリの上演風景と人形の図版を見たい、東南アジアの他の影絵人形芝居の人形とも見比べたい、というレファレンス事例をもとに、カラー図版(イラスト、画像を含む)を多数掲載した資料や、無料で使えるインターネット情報をご紹介します。

*【 】内は当館請求記号、国立国会図書館オンライン(https://ndlonline.ndl.go.jp/)において請求記号による検索ができない資料は、請求記号の代わりに【( )】内に国立国会図書館書誌IDを記載。ウェブサイトの最終アクセス日は2020年1月20日です。

1. ワヤン・クリの概要を知る

 初めに、ワヤン・クリの概要を知るため、以下のような事典を参照します。

石川栄吉 [ほか]編『文化人類学事典』(弘文堂, 1987.2)【G2-29】
 事項、人名、民族、部族など合計約2,600項目を収録しています。排列は項目の五十音順で、各項目に参考文献を付しています。巻末に事項、民族・部族・語族名、人名のそれぞれの和文、欧文索引と、解説されている民族・部族の居住地を示す民族・部族地図があります。

信田敏宏 編集委員長『東南アジア文化事典』(丸善出版, 2019.10)【GE8-M1】
 「I.東南アジアとは」、「II.東南アジアの社会と文化の諸相」、「III.日本と東南アジアの社会文化交流」の3部からなり、その中に「宗教と世界観」、「芸術・芸能・娯楽」など13章を設け、合計363項目を収録しています。巻頭に見出し語五十音索引、巻末に事項索引、人名索引、付録に「地図にみる東南アジアの生態、歴史、言語分布」、「各国基本情報」があります。

World Encyclopedia of Puppetry Arts
https://wepa.unima.org/en/
 国際演劇協会(UNIMA)が運営する人形劇のオンライン版百科事典です。アルファベット順の見出し語、キャラクターなどによる索引のほかキーワード検索もできます。歴史や技術、人形遣いに関する1,272の項目があり、「Wayang」を含む一部の項目には画像も掲載されています。

 以上から、ワヤン・クリは古い歴史のある伝統芸能で、観客は人形遣いの側からも鑑賞でき、人形は鮮やかに彩色されていることがわかりました。マレーシアやタイにも影絵人形芝居があるようです。そこで、こうした観点をもとに資料を探すことにします。以下にご紹介する資料には、全てカラー図版が掲載されています。

2. 上演風景の図版を探す

 まず、無形文化遺産やインドネシアのさまざまな伝統芸能を紹介している資料などから、ワヤン・クリの上演風景の図版を探してみます。

マッシモ・チェンティーニ 編著 岡本千晶 訳『ユネスコ世界の無形文化遺産 : フォトミュージアム』(原書房, 2019.10)【K275-M73】
 ユネスコの無形文化遺産57件を取り上げ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカの地域ごとに排列しています。巻末に無形文化遺産リストを付しています。ワヤン人形劇の項目では、人形の装飾の様子がわかります。

UNESCO Intangible Heritage
https://ich.unesco.org/en/lists
 ユネスコの無形文化遺産リストのウェブサイトです。登録年順リストのほか、キーワード、登録年、国で検索できます。それぞれの無形文化遺産について簡潔な解説があり、動画や画像も閲覧できます。カンボジアや中国などの影絵人形芝居も登録されています。

"Indonesian heritage"(Archipelago Press , c1996-)【(000007874443)】
 10巻からなり、各巻末に索引と参考文献を付しています。ワヤン・クリは以下の巻に記載があります。1. 古代史 6. 建築 7. 視覚芸術 8. 舞台芸術 9. 宗教と儀式 10.言語と文学

"Top 100 cultural wonders of Indonesia"(Ministry of Education and Culture, Republic of Indonesia , 2012)【(025402349)】
 名所旧跡62項目、「ワヤン影絵人形芝居」「伝統的なガムラン音楽アンサンブル」といった生活文化38項目を収録しています。巻末に参考文献と索引を付しています。ガムラン音楽は、ワヤンの伴奏にも使われる音楽です。

"Balinese dance, drama and music : a guide to the performing arts of Bali / text by I. Wayan Dibia and Rucina Ballinger ; illustrations by Barbara Anello"(Periplus , c2004)【(000007987314)】
 バリ島の伝統舞踊と演劇、ガムラン音楽、影絵人形芝居ワヤン・クリを取り上げています。上演前に神に祈る人形遣いや、昼間に演じられるワヤン・ルマの図版も掲載されています。

 上記の資料から、ガムラン音楽をともない一人の人形遣いが多くの人形を操って上演している様子や、幕に映し出されたワヤン・クリの様子がわかりました。

3. 人形の図版を探す

 人形の図版は、対象となるものだけが撮影されたウェブサイト、展覧会の図録、博物館の所蔵品カタログを使って確認してみます。

Google arts & culture
https://artsandculture.google.com/?hl=ja
 グーグルが提供する、世界中の美術館の所蔵作品や文化遺産を閲覧できるサイトです。Wayangをキーワードに検索すると、オンライン展示"Wayang: Playing with Shadows and Light"などを閲覧できます。

Europeana Collections
https://www.europeana.eu/portal/en
 EU圏内の文化機関のデジタルアーカイブを横断検索できるポータルサイトです。検索結果を年代、分野、静止画や音源といった種別、再利用できる画像などで絞り込むこともできます。

Collections Online (MOA-CAT)
Museum of Anthropology at UBC
http://collection-online.moa.ubc.ca/
 カナダにあるUBC人類学博物館のオンラインカタログです。キーワードを入力する簡易検索と、場所、文化、民族などを選ぶ詳細検索があり、48,000点の所蔵品を閲覧できます。ヒットした所蔵品の画像をクリックすると、歴史や素材もわかります。

東京国立博物館 編『ワヤン : インドネシアの人形芝居』(2010.9)【Y111-J1892】
 展覧会の図録です。ワヤン・クリの主な演目であるマハーバーラタ、ラーマーヤナで用いられる人形の図版40点を収録し、大きさ、キャラクターの名前と人物設定もわかります。

Eky Tandyo, "The collections of the National Museum of Indonesia" (National Museum of Indonesia, Ministry of Education and Culture, Republic of Indonesia , 2013)【(028067663)】
 インドネシア国立博物館の所蔵品カタログです。「輝く金」、「仮面とワヤン」、「宝石」の3巻からなり、各巻末に参考文献と索引を付しています。「仮面とワヤン」では、人形の図版、素材、大きさ、起源、解説を掲載しています。

Museum Basoeki Abdullah (Indonesia) , "Koleksi wayang kulit Museum Basoeki Abdullah" ( バスキ・アブドゥラ博物館ワヤン・クリコレクション)(Departemen Kebudayaan dan Pariwisata, Direktorat Jenderal Sejarah dan Purbakala, Museum Basoeki Abdullah , 2008)【Y735-M823】
 インドネシア語資料です。南ジャカルタにあるバスキ・アブドゥラ博物館が所蔵するワヤン・クリの図版を収録しています。同じキャラクターの人形による装飾の違いがわかります。

H. Solichin et al., "Ensiklopedi wayang Indonesia" (インドネシアワヤン百科事典)(Mitra Sarana Edukasi , 2017)【Y735-TS-3754】
 インドネシア語資料です。9巻からなる総合的な百科事典で、各巻頭に項目のリスト、各巻末に用語集と索引を付しています。排列は項目のアルファベット順です。キャラクターの名前やバリといった地域、人形制作や人形遣いなど幅広く扱っています。

 以上から、人形の図版を見ることができ、併せて人形の大きさや作成された地域・年代などの情報もわかりました。画像を大きく表示できるインターネットサイトでは、形態をよりわかりやすく確認できました。

4. 他の影絵人形芝居を調べる

 さらに、東南アジアにおける他の影絵人形芝居について調べてみます。前述のEuropeana CollectionsCollections Online (MOA-CAT)で、キーワードをshadow puppetなどとすることでも探すことができます。

金子量重 著『アジアの民族造形 : 「学び」と「遊び」と「芸能」の美』 (毎日新聞社, 1998)【KB16-G423】
 全体を「学」(文房具、書物など)、「遊」(玩具、人形)、「芸」(影絵人形、操り人形など)の3つに分け、その中を東北アジア、東南アジア、南アジア、西アジアの順に排列しています。巻末に概説と図版解説を付しています。影絵人形では、タイ、インドネシア、インドが紹介されています。

Ghulam-Sarwar Yousof , "The heritage of ASEAN puppetry"(Sena Wangi , 2013)【(025495420)】
 「起源と発展」、「ストーリーの起源」、「人形芝居の機能」など14章からなります。インドネシア、マレーシア、タイ、カンボジアの影絵人形芝居が紹介されています。

ASIAN TRADITIONAL THEATER AND DANCE
https://disco.teak.fi/asia/
 ヘルシンキ芸術大学の教授が運営する英語サイトで、インドネシアをはじめ12ヵ国の演劇と舞踊を扱っています。タイ、マレーシア、インドの影絵人形芝居の記事もあります。

"The encyclopedia of Malaysia"(Archipelago Press, c1998-)【(000007874206)】
 「環境」、「植物」、「宗教と信仰」など16巻からなり、各巻末に索引を付しています。8巻「舞台芸術」にマレーシアの影絵人形芝居についての項目があり、バリ島、ジャワ島、タイの影絵人形芝居とも比較されています。

まとめ

 今回の調査のポイントは以下のとおりです。

  1. 東南アジアや演劇に関する辞典・事典類を参照し、ワヤン・クリの概要を確認する。
  2. 上記で得られたキーワードをもとに、資料やインターネットを用いて図版を探す。

 ワヤン・クリをテーマとする資料に、求める図版が多く掲載されているとは限りません。インドネシアの文化全般に対象を広げたり、ワヤンと関わりの深いガムラン音楽から調べたり、検索時のキーワードをshadow theatreやshadow figureなどに変えてみることで、より効率的に多くの情報を得ることができます。

 アジア情報室では、地域や民族特有の芸能に関する資料も多数所蔵しています。ぜひご利用ください。

(ふじた みなこ)

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