トップアジア諸国の情報をさがす刊行物>ベトナム・カンボジア・ラオスの国立図書館は今―シンポジウム&ワークショップ「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」での報告を元にして―(その2 カンボジア・ラオス国立図書館):アジア情報室通報 18巻2号

ベトナム・カンボジア・ラオスの国立図書館は今―シンポジウム&ワークショップ「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」での報告を元にして―(その2 カンボジア・ラオス国立図書館):アジア情報室通報 18巻2号

南 亮一(前・国立国会図書館関西館アジア情報課)

1 カンボジア国立図書館

1.1 概略

カンボジア国立図書館(NLC)については、S&Wの1日目に同館資料保存室副室長のSok Sophal氏により発表された概況報告と同館ウェブサイト[1]の情報を元に、同館の概略を紹介する。

講演中のSophal氏
[講演中のSophal氏]

同館は、1924年12月24日、フランス保護領インドシナ政府により、プノンペン中央図書館として設立された。設立時の蔵書冊数は2,879冊であり、フランス語書籍が大半を占めていた。1951年に最初のクメール人館長であるPach Chhoeun氏が就任するまでは、フランス人職員によって運営されていた。また、1930年当時の同館の蔵書の8割はフランス語の書籍であり、ほとんどの著者はフランス人であった。このため同館の利用者はフランス人であった。このように、フランス植民地時代の同館は、在留するフランス人のための施設であったといえる。

ただ、カンボジア王国としてフランスから独立した後の1954年以降は、カンボジア人による出版活動が盛んになったことを反映し、クメール語図書の蔵書冊数が着実に増加していったという。

[設立当初のプノンペン中央図書館(Sophal氏の講演資料から)
[設立当初のプノンペン中央図書館(Sophal氏の講演資料から)]

ところが、1975年から1979年までのいわゆる「ポル・ポト政権」下には閉館を余儀なくされ、その間は、多くの蔵書を破壊した[2]同政権のメンバーの宿舎としてこの建物が使われていた[3]という。

同館が再び開館したのは、同政権が崩壊した翌年の1980年1月である。文化芸術省の傘下の機関として、専門能力を持つ職員[4]も、図書館資料を購入するための十分な予算もなかったが、現在では、資料保存への取組を中心に、フランスを中心とした外国政府からの様々な支援を受け、傷んだ資料の修復やその技術の習得を行いつつ、蔵書やサービスの再建に取り組んでいる。

現在の同館の概要は、次のとおりである。

  • 所蔵資料数:約125,000点
  • 貝葉文書:305点(マイクロフィルムでも閲覧可)
  • 所管省庁:文化芸術省
  • 定員:30人。うち21人が常勤職員
  • 部署:目録、保存及び法定納本の3つの部署がある。

1.2 NLCの来館サービス

これらの蔵書と人員により、NLCは各種の来館サービスを行っている。開館日・開館時間は、月曜日から土曜日までの午前8時から午後4時までであり、閲覧や複写のほか、貸出サービスも実施している。

閲覧サービスは学生、僧侶、図書館職員及び公務員にだけ認められており、利用者は1日当たり20人である。資料の複写は一部分に限り認められている。なお、貸出しを受けるためには、年8千リエル(約200円)[5]の登録料を支払って利用者登録を行い、貸出カードを発行してもらわなければならない。その上で、2冊を上限とし、2週間借りることができる。ただ、延滞した場合には延滞料を1日あたり500リエル(約13円)支払う必要があり、紛失した場合は代本を購入するか、定価相当額を支払わなければならない。

1.3 納本制度

カンボジアにおける納本制度は、著者又は出版者がその出版物を一定部数、所蔵庫(repository)に送付するというものであり、大抵は図書館に送付される。NLCの場合、通常は1タイトルにつき5部受領し、そのうち2部が閲覧用に、2部を貸出用に、1部が法定納本部門にそれぞれ送られる。

通常5部となっているのは、NLCがカンボジア国内のISBN登録機関となっており、5部の納入が、無料でISBNの発行を受けるための要件になっていることが大きいものと思われる。

またNLCは、新聞や雑誌、紀要については、その編集長(director)に対し、法定納本のほかに、NLCでの公衆へのサービスのため、5部から10部までの送付を求めている。

2 ラオス国立図書館

ラオス国立図書館(NLL)については、S&Wの1日目に、同館のKhanthamaly Yangnouvong館長により発表された概況報告、同館ウェブサイト[6]の情報及び2016年のIFLA大会のCDNLで発表された2015年のAnnual Report[7](以下「2015報告」)をもとに、同館の概況を紹介する。

講演中のKhanthamaly氏
[講演中のKhanthamaly氏]

2.1 概略

NLLが正式に開館したのは、ラオスの完全独立後の1956年のことであり、現在の名称で活動を始めたのは、1997年のことである。

これまで、デューイ十進分類表(DDC)及び図書館システム導入(1965年)、ラオス伝統音楽・画像コレクションの電子化(1999年)、貝葉文書コレクションのデジタル化開始(2004年)、ラオスの手稿資料に関する電子図書館の開設(2009年)、そして、NLL法及び納本制度の施行(2012年)と、着実に進展してきた。

NLLは文化観光省出版活動部に所属し、職員は39人(そのうち図書館情報学の学位所持者7人)、うち女性は21人である。組織体系は、館長1人、副館長4人、6つの部門(目録、収集、古典籍、総務、図書館情報サービス、アウトリーチサービス)に4人から7人、となっている。

2015報告によれば、蔵書数は46,843冊、うち未整理図書が15,000冊、整理済図書のうちラオ語が3,532タイトル、タイ語が3,526タイトル、英語が831タイトル及びラオ語児童書3,466冊となっている。このほか、外国語児童書(未整理)4,756冊、貝葉文書1,600冊等も所蔵している。また、概況報告によれば、NLLは1973年から学術雑誌の収集を開始し、現在では、雑誌40タイトル、新聞19タイトルを所蔵しており、さらに利用者に過去の情報へのアクセス環境を提供するため、過去に刊行された雑誌の収集も行っている。

2.2 納本制度

ラオスにおける納本制度は、1929年1月3日に、フランスの納本制度がフランス領インドシナにまで適用されることとなり、ハノイにあったインドシナ中央図書館に納本されることになったのが始まりである。

現在の納本制度は、2012年に制定された図書法の第17条において定められており、個人や法人、団体が書籍や雑誌、新聞等の印刷物を発行した際に、国立図書館の蔵書とするために、同館に3部を送付しなければならないこととされている。

2.3 書誌作成の状況

このように、ラオスの納本制度をもとに、ラオス国内の出版物がNLLに送られるようになっていることもあり、NLLは1975年からラオ語で出版された図書の全国書誌の運営を行っており、インターネット上のデータベースで書誌データにアクセスできる。またNLLは、ラオス国内のISBN登録機関となっており、ISBNの付与と維持管理も担当している。

それに比べ、NLLにおける雑誌の書誌作成は、かつては著者名、タイトル及び版について、司書が冊子やカードに記録する方法が採られていた。2015年にようやくコンピュータ入力を開始したが、Microsoft Excelによる入力にとどまっているとのことである。

2.4 利用者サービス

NLLは、公休日を除く午前8時から午後4時まで開館しており、NLCとは異なり、公衆に開かれている。閲覧室には紙の資料のほか、端末が配置され、図書館ウェブポータルの画面からデジタル化資料とオンライン情報源を閲覧できる。また、2016年には、館内でのWiFi接続サービスを開始した。

図書館の利用者登録は、1年おきに更新することとなっており、登録料は、ラオス人が3万ラオス・キップ(LAK。約360円)、外国人が5万LAK(約600円)である。登録の際にはパスポートサイズの写真1枚と本人確認書類が必要になる。登録すると、1回あたり2週間、3冊借りることができる。

このほか、車内に書架と閲覧スペースを設けたブックバスを小学校に走らせたり、本を詰めた箱や鞄を送るという「ポータブル図書館」事業を実施している。

2015報告によれば、2014年の総来館者数が14,005人、貸出を受けた者の数が2,150人、貸出冊数が4,480冊、新規登録者数が129人、更新者数が61人となっている。

おわりに

本稿が、これまで情報がほとんどなかったインドシナ三国の国立図書館についての理解を深め、日本における研究や利用の促進に資することになれば幸いである。

最後に、このような貴重な出張の機会を与えてくださったCSEASの大野美紀子先生に改めて御礼を申し上げる。

(みなみ りょういち)


[1] 同館は、独自のウェブサイトを構築しておらず、Facebook上にページを開設している。https://www.facebook.com/pg/NLC.gov.kh

[2] 山口学「カンボジア国立図書館の再生へ向けてーコーネル大の援助プロジェクト」『カレントアウェアネス』(122), 1989.10.20,pp.3-4.によれば、「「宗教および帝国主義者が及ぼした害毒の抹殺」を掲げて、彼等の影響を受けたすべての記録を消滅しようとし」、このため数万部に上るクメール語の蔵書が焼却され、残ったのは数百部に過ぎなかったという。

[3] 宮島安世「カンボジアの図書館の現状」『カレントアウェアネス』(202), 1996.6,20,pp.3-4.によれば、建物は食料や料理用品を蓄える倉庫となり、庭は豚や鶏の飼育場にされ、本や目録カードは巻き散らされてしまったという。山口・前掲注2によれば、豚小屋として使用されたとのことである。

[4] 山口・前掲注2によれば、1975年当時在籍していた約60人の図書館員のほとんどがポルポト政権により殺害されたという。

[5] 学生は半額、外国人は年10ドル(約1,100円)と設定されている。

[6] http://nationallibraryoflaos.net/

[7] "Annual Report National Library of Laos 2015 For Conference of Directors of National Libraries in Asia and Oceania Annual meeting of 2016 - at the National Library of New Zealand, Wellington,New Zealand" ラオス国立図書館ウェブサイト
http://nationallibraryoflaos.net/wp-content/uploads/2016/05/CDNLAO-Annual-Report-2015-Laos.pdf

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