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インドのことを調べよう!~法令・政府情報と統計を中心に~ ―令和2年度アジア情報研修 概要報告―:アジア情報室通報 19巻1号

佐藤 久美子(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

令和2(2020)年11月26日(木)及び27日(金)、当館と独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所(以下、「アジ研」という。)との共催により、令和2年度アジア情報研修を実施した。この研修は、アジア情報の収集・提供に関する知識の増進と探索スキルの向上を図り、また、当館とアジア情報関係機関との連携を深めることを目的として、平成14(2002)年度から毎年実施しているものである。19回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、初めてのオンラインでの開催となった。

今年度は、「インドのことを調べよう!~法令・政府情報と統計を中心に~」をテーマに、インドの法令や統計の調べ方に主眼を置いた研修を行った。以下、その概要を報告する。

1. アジア情報研修の特徴

ここ数年の本研修の特徴の一つは研修生の多様な属性である。今年度も、広報に際して学会のメーリングリスト等も活用し広く参加を呼びかけた結果、公共図書館員 1 名、大学図書館員 4 名、研究者 5 名、大学院生・学生 2 名、一般財団法人職員2名、一般社団法人職員1名、民間企業4名及び個人事業主1名という多様な属性の研修生20名が集まった。また、オンラインでの開催により地理的制約がなくなったことで、日本各地から、さらにはインドからも参加を得ることができた。

もう一つの本研修の大きな特徴として、研修生が講義内容への理解を深めることを目的として、例年グループワークによる実習を行ってきたことが挙げられるが、今年度はオンライン開催であることを考慮して、研修生個々人での実習形式とした。一方、例年通り、研修生には事前課題を課した。

さらに、受講者に図書館とは異なる視点での情報収集手段も知っていただくために、岐阜女子大学客員教授、公益財団法人日印協会インド研究センター上席研究員の堀本武功氏に研究者の視点での情報収集手法についてご講演いただいた。

2. 各科目の概要

2.1. 科目① インドの法令・政府情報を調べる

(国立国会図書館関西館アジア情報課 佐藤 久美子、大西 啓子)

科目①②の資料は、当館及びアジ研のウェブサイトに掲載[1]しているので、詳しい講義内容はそちらをご参照いただきたい。本稿では、講義の流れと、研修中に気づいた点や当日の質疑応答等について簡単に紹介したい。

初めに、国立国会図書館関西館アジア情報室の概要を説明し、インドの法令について概説した上で、信頼性の高い情報を得るための調査の進め方や、参考となるインターネット上のツールの紹介を行った。

インドにおけるプラスチック規制をテーマとした事前課題については、研修生の回答例を紹介しつつ講師からの回答例を示し、また、研修生から寄せられた質問への回答を行った。

マハーラーシュトラ州での牛の販売を禁じた州法をテーマとした当日課題においては、研修生が調査過程や調査結果についての発表を行った。講師とは異なる方法で回答を導き出した研修生も多く、手法の共有の点でも意義深いものとなった。

主な質疑応答は次のとおりである。

  • インドの官報における、号外と週刊の性格の違いはあるか。
    ⇒eGazetteや関連サイトには明確な説明は見当たらないが、 連邦の法律は司法公正省により号外に掲載されるようである[2]。一方、マニプル州の出版部局のサイト[3]には、週刊の官報は号外を編集して発行されるとの記載があり、連邦と州では掲載基準が異なるかもしれない。
  • 連邦と州の共管事項だと、連邦の法律と州の法律でどちらが優先されるか。
    ⇒憲法254条に規定があり、連邦の法と州の法が抵触する場合は連邦の法が優先され、州法は連邦法に抵触するかぎりにおいて無効となる。また、254条2項に例外の規定があり、州法が連邦法に抵触する場合は大統領の裁可を得るために保留され、裁可が得られれば当該州に適用される。

2.2. 講演 インド情報の入手方法

(講師:岐阜女子大学客員教授、公益財団法人日印協会インド研究センター上席研究員 堀本 武功 氏)

「インド情報の入手方法」をテーマに、インドにおける情報収集を取り巻く現状と、その中で信頼できる情報とは何かについてご講演いただいた。主な内容は次のとおりである。

  • 民主主義国家であるインドでは、情報公開法にあたるTHE RIGHT TO INFORMATION ACT, 2005が定められており、情報の透明性は比較的高いと言える。
  • 自身の日々の情報収集のために使っているツールとしては、電子雑誌・新聞が多い。
  • 出版社は、Sage等大手の出版物は信頼性が高いと言える。
  • インターネット上の一次情報(統計等)で削除の恐れがあるものについては、自分の端末にダウンロードする、プリントアウトしておく等の対策をとっている。
  • 研究者も図書館員も不断の研究・調査を続け、常に執筆活動を行って欲しい。

質疑では、次のようなやり取りがあった。

  • 情報源として、政治家や研究者のTwitterについてはどう考えるか。
    ⇒モディ首相のTwitterはよく見ており、興味深い。なぜこういう発言をしているのか、その裏の狙いは何かを考えるヒントになる。
  • ヒンディー語等の現地語と英語で情報の違いはあるか。
    ⇒1980年代まではヒンディー語の情報も使っていたが、1990年代に個人としての研究テーマが内政から外交にシフトしてからは、主に英語情報で足りておりヒンディー語の情報はあまり使っていない。
  • モディ政権以降、地域語を重視する傾向が出てきたか。
    ⇒地域語の強調、地域ナショナリズムの動きは、ボンベイからムンバイへと名称が変更される等、1980、90年代から見られる。もっと遡れば1950年代の州再編あたりからある流れである。
  • インドでは、どのようにファクトチェックが行われているか。
    ⇒ファクトチェックを行うサイトがある。インドでは議会での発言についてファクトチェックがよく行われている。
  • 公開情報の正確さに疑義があるということだが、そういう場合はどうしているか。特に経済データは対応が難しいと感じている。
    ⇒経済関係であれば、Centre for Monitoring Indian Economy(CMIE)[4](有料DB)等を見る。また、信ぴょう性が低いと思う情報があれば、現地の知人に確かめる。ヒューマンネットワークが重要になってくる。

2.3. 科目② インドの統計を調べる

(講師:アジア経済研究所学術情報センター 坂井 華奈子 氏)

初めに、アジ研図書館の概要紹介があり、次にインドの統計情報の基本的な調査方法が説明された。また、日本語情報源、英語二次情報源、インド政府統計それぞれの主要情報源が紹介された。

事前課題はインドにおける予防接種率を問うものであった。出題の意図として、人口や経済等の統計と異なり、保健等の社会統計はウェブのキーワード検索では簡単にヒットしないことがあること、国家レベルの統計は日本語資料や国際機関統計でも得られることがあるが、州レベルのデータは国別の統計情報を探す必要があることが説明された

その後、研修生は、訪印観光客数に関する当日課題に取り組み、調査過程や調査結果について発表を行った。

主な質疑応答は次のとおりである。

  • 人口移動の実態を調べた統計データは存在するか。また年に数カ月だけ出稼ぎに行くような人の捕捉はどのようにされているか。
    ⇒センサスのサイトに、Data on Migrationがあり、国内移動についても調査結果がある。居住地の移動は分かるが短期の出稼ぎまでは補足されないと思われる。関連する論文を検索して、研究者がどういうデータを利用しているかを参照するとよいのでは。
  • District Census HandbookとDistrict Gazetteerとは別の物か。
    ⇒別物。District Census Handbookは地方誌的内容を含んでいるが、あくまでセンサスの報告の一部。一方、District Gazetteerは地誌的資料。詳しい土地の歴史等を調べるときにはこちらを参照するのをお勧めする。
  • データの信頼性が疑わしいことがあるとのことだが実際に違っていた事例はあったか。
    ⇒今回の課題で、インドは結核の感染者数世界一なのにBCG接種率が高かったのは意外に感じた。年齢を区切った標本調査であるといったデータの定義や、出生登録が100%ではない等の背景事情を考慮したほうがよいのではないか。また、政府のデータを別の角度から見ると異なっている旨の指摘を論文で見たことがある。

3. 研修に対する反応

研修生へのアンケートでは、大変満足:78.6%、満足:21.4%と大変肯定的な評価が得られた。研修科目については、難易度、分量、講義のバランスが適切だったとの感想が多かったほか、演習を取り入れた内容を評価する意見が見られた。開催形式については、オンラインのため参加しやすかったという感想が多かった一方、参加者同士の交流ができず残念だったとの声も寄せられた。次年度への課題としたい。

おわりに

研修生には、少し手間がかかるが一次情報を調査することで、正確な最新情報が得られること等を実感していただけたのではないかと考えている。本研修が成功裡に終了したことについて、講師を務めて下さった堀本氏、坂井氏及び研修生の皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げる。

次回のアジア情報研修は、令和3年秋以降に国立国会図書館関西館で実施予定である。ぜひ奮ってご参加いただきたい。

(さとう くみこ)


[1]国立国会図書館リサーチ・ナビ「令和2年度アジア情報研修」
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-workshop2020.php
日本貿易振興機構アジア経済研究所「図書館イベント開催報告:令和2年度アジア情報研修「インドのことを調べよう!~法令・政府情報と統計を中心に~」」
https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Event_report/20201126_kouen.html

[2] Manual of Parliamentary Procedures in the Government of India(Ministry of Parliamentary Affairs JULY , 2019)
https://mpa.gov.in/publication/manuals
に以下の記述がある。
9.22 The Ministry of Law and Justice (Legislative Department) will:
(a) publish the Act in the Gazette of India Extraordinary;
(b) forward copies of the Act to all State governments for publication in their Official Gazettes; and
(c) get copies of the Act printed in a suitable form for sale to the general public.

[3] https://manipurgovtpress.nic.in/index.php?option=com_content&view=article&id=68&Itemid=54

[4] https://www.cmie.com/

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