トップアジア諸国の情報をさがす刊行物アジア情報室通報巻号から探す第19巻(2021年)>新たな現代中国研究の推進―国立国会図書館関西館及び東洋文庫の所蔵資料をめぐって―国立国会図書館関西館・(公財)東洋文庫共催研究会 概要報告―:アジア情報室通報 19巻3号

新たな現代中国研究の推進―国立国会図書館関西館及び東洋文庫の所蔵資料をめぐって―国立国会図書館関西館・(公財)東洋文庫共催研究会 概要報告―:アジア情報室通報 19巻3号

丹治 美玲(国立国会図書館関西館アジア情報課)

はじめに

2021年4月17日(土)、国立国会図書館(以下、「当館」という。)と公益財団法人東洋文庫(以下、「東洋文庫」という。)との共催により、研究会「新たな現代中国研究の推進―国立国会図書館関西館及び東洋文庫の所蔵資料をめぐって」を開催した。この研究会は、当初は2020年4月に国立国会図書館関西館(以下、「関西館」という。)で開催する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため実施を中止し、1年後となる2021年4月にオンラインで開催したものである。以下では、当館所蔵資料に関する報告を中心に、概要を紹介する。

1. 報告

報告①:東洋文庫「現代中国研究班」の研究活動(村田雄二郎氏(東洋文庫/同志社大学))

東洋文庫の現代中国研究班の活動は今年から第5期に入っている。最近、戦後から1979年頃までの日本人の中国旅行記を調査し、解題を付す活動を行った。「『明治以降日本人の中国旅行記(解題)』補遺(戦後篇)」と題し、1980年に作成された「明治以降日本人の中国旅行記 : 解題」とあわせて、オープンアクセスで公開している[1]。現在、東洋文庫未収蔵の旅行記を蒐集するための再調査を進めている。旅行記が書かれた時期、書き手、内容等からは、当時の中国と日本に関する様々な傾向を読み取ることができる。

報告②:国立国会図書館所蔵中国語資料と上海新華書店旧蔵書コレクション(筆者)

関西館は約36万5,000冊の中国語図書を所蔵しており、そのうち約4割を占めているのが「上海新華書店旧蔵書コレクション」(以下、「新華コレクション」という。)である。

新華コレクションは、上海新華書店が保管していた見本書[2]約17万冊からなるコレクションで、1996年から1997年にかけて当館が購入した。2006年までに約15万冊の中国語図書の書誌を作成し、資料を利用に供している[3]。2020年2月には書誌全件のデータセットを公開し[4]、また同年に、データセットを用いた分析結果をまとめた[5]

新華コレクションの個々の資料は様々な研究に活用できると思われる。また、コレクション自体が中国の近現代の出版文化史の研究材料となる可能性がある。調査研究の材料として、研究者の方々にご活用いただきたい。

報告③:上海新華書店旧蔵書コレクションと学術研究(中村元哉氏(東洋文庫/東京大学))

報告内容は、既に『アジア情報室通報』の記事にまとめているので、詳しくはそちらを参照されたい[6]

新華コレクションは、1950年代、次いで1980年代に出版されたものが多い。北京で出版された資料も一定数あることから、全国の状況を一定程度反映していると考えられる。同様のコレクションを一般に公開している機関は、国内外問わずほかにないことを考慮すると、利用価値は非常に高く、中華人民共和国史研究の「入り口」として利用すべきコレクションである。科学技術史、経済史、教育史、連環画、メディア史の研究に役立つ資料も多く含まれている。

また、「ソ連」等をキーワードとして書誌データの統計的調査を行ったが、その結果は、従来考えられてきたほどにはソ連と中国の結びつきは強くない、ということを示している。新華コレクションは、こうした実証研究への応用も可能だろう。

報告④:上海新華書店旧蔵書コレクションの利用-中国教育史研究を例にして-(大澤肇氏(東洋文庫/中部大学))

新華コレクションに含まれる教科書の数は少ないが、教学参考書(教員用の参考書)が一定数含まれている。教科書研究の手法として、教科書の内容分析、教科書の使われ方の研究、知識社会学的な分析等、様々なものが考えられるが、新華コレクションの教学参考書はこうした研究の材料の一つとして活用できるだろう。

また、新華コレクションのデータセットは、「シリーズ名」の項に着目すると面白い。例えば「語文補充読物」というシリーズからは、語文科の位置づけや国語の教材選択に関する情報を得ることができる。そのほかにも「国民教育文庫」「教育大躍進叢書」「工農通俗文庫」「日本知識叢刊」等、1950年代の教育、技術輸入、経済建設、思想導入等に関するシリーズを発見できる。

なお、新華コレクションには1949年以前の資料も約7,000件含まれているが、その大半は「万有文庫」[7]や「叢書集成初編」等の大型の叢書であるという特徴がある。

2. 総合討論

報告を踏まえて質疑や意見交換等を行った。一部を以下に紹介する。

  • 新華コレクションの特性を踏まえた利活用が期待できる研究分野やテーマとして、現代中国の出版文化・宣伝政策が挙げられる。
  • データセットを統計的な分析等に活用することで研究の可能性が広がるだろう。
  • 新華コレクションに含まれる理工系図書は、他機関ではあまり収集されていないものである。動物学・植物学等、科学技術史の研究材料として有用と考えられる。

おわりに

東洋文庫の村田氏、中村氏、大澤氏を始め参加された方々から、新華コレクションの強みや利用価値等について見解を伺うことができ、当館としても非常に得るところが大きかった。この場を借りて改めて皆様に御礼申し上げる。

新華コレクションは、当館の登録利用者の方ならどなたでも利用可能なコレクションであり、また、データセットは非登録使用者の方を含め、どなたでも当館ウェブサイトからダウンロード可能である。ご興味をお持ちの方は、資料やデータセットをご活用いただきたい。

(たんじ みれい)


[1] 「『明治以降日本人の中国旅行記(解題)』補遺(戦後篇)」
http://doi.org/10.24739/00007426外部サイトへのリンク
「明治以降日本人の中国旅行記 : 解題」
http://doi.org/10.24739/00007427外部サイトへのリンク

[2] 出版社から書店に見本として献本された資料を指す。

[3] そのほかに、児童書、雑誌、線装本など、未整理の資料約2万点がある。児童書は国際子ども図書館が所蔵している。

[4] オープンデータセット(国立国会図書館ウェブサイト)
https://www.ndl.go.jp/jp/dlib/standards/opendataset/index.html

[5] 「書誌データから見る上海新華書店旧蔵書コレクション ―データセットを利用した分析事例」『アジア情報室通報』18巻3号・18巻4号
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin18-3-2.php
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin18-4-2.php

[6] 「関西館アジア情報室が所蔵する上海新華書店旧蔵書について」『アジア情報室通報』18巻3号
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin18-3-1.php

[7] 万有文庫については以下も参照されたい。
「中国の図書館のための叢書―万有文庫」『アジア情報室通報』 第7巻第1号
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin7-1-1.php

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