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ベトナムの逐次刊行物 : アジア情報室のコレクションより: アジア情報室通報第3巻第4号

アジア情報室通報 第3巻第4号(2005年12月)
矢野 正隆(元国立国会図書館アジア情報課非常勤調査員)

近年、アジア諸言語資料における書誌情報のデータベース化、ウェブ公開のための環境が整いつつあるが、国立国会図書館関西館アジア情報室のコレクションも次々にその対象となっている。本稿で取り上げるベトナム語資料についても、最近整理が済み、オンラインでの検索が可能となった*1。

図書については以前紹介されたことがあるので*2、ここでは、特に雑誌に的を絞り、二三関連事項を報告する。

○所蔵の概要

当館では、新聞雑誌も含め、ベトナム語表記の資料は、原則としてY741という分類記号が付されることになっている*3。2005年11月段階で、雑誌の総タイトル数は121、うち受入を継続しているものは61を数える。発行年代を見ると、1950年代のものは2タイトル、60年代は漸増する (16タイトル) が、このうち現在も継続しているものは4タイトルに過ぎず、定期的な受入という点では70年代以降が中心となる。発行地は首都ハノイが八割以上を占め、それ以外としては、ホーチミン (1975年以前はサイゴン) が14タイトル (現在受入継続は2)、フエ1 (継続中)、ブンタウ1 (廃刊)、東京9 (継続2)、合衆国サンノゼ2 (受入停止)。内容は、一般雑誌と学術雑誌という区分に倣うならば、後者寄りの硬めのものが中心となっている。特に、政府系研究機関の学術誌、党、省庁、軍の機関誌、統計をはじめとする年鑑類で大半を占め、図書館の蔵書としてはオーソドックスな構成であると言える。

○ベトナム国家書目

ハノイにあるベトナム国家図書館が刊行するThư mục quốc gia Việt Nam(ベトナム国家書目)(請求記号Y741-ZS-1年刊, Y741-ZS-50月刊) は、全国書誌に相当する基本資料であるが、日本国内で継続的に収集している機関は意外に少ない。当館には、南北統一以前 (-1975) についても、現在に継続するハノイ刊行分は勿論のこと、南のサイゴン政権で刊行されたもの (Y741-ZS-47,49) も比較的揃っている*4。

書目の内容は、全体を単行書sách、音声画像地図資料tác phẩm âm nhạc, tranh ảnh, bản đồ、定期刊行物ấn phẩm định kỳの三つに区分している。うち定期刊行物は、新聞báoと雑誌tạp chíからなる。

当館所蔵中最新版にあたる2002年度を見ると、総タイトル数は677、出版地の内訳は、

新聞

中央128 (ベトナム語122, 外国語6)

地方122 (ベトナム語118, 外国語4)

雑誌

中央329 (ベトナム語307, 外国語22)

地方98 (ベトナム語)

中央、つまりハノイの刊行物が大半を占める。この数字は、ベトナムにおける出版の全般的傾向を反映したものであり*5、もちろん当館の所蔵内容とも無関係ではない。

○「ベトナム」の逐次刊行物

ベトナムの地に、初めて逐次刊行物が現れたのは、1860年代のこと、当時のフランス植民地権力が発行した官報であったという*6。Nguyễn Thành著, Từ điển thư tịch báo chí Việt Nam(ベトナム逐次刊行物事典)(Y741-N142) は、以来百数十年の間に刊行された夥しい数に及ぶ新聞雑誌を、網羅的に調査した成果で、新旧のタイトルを通覧できる便利な本であるが、序論に、その前提として、いったい何を「ベトナムの逐次刊行物」と呼ぶのか、という議論が付されている。

それによると、まず、言語はベトナム語に限らない。例えば1945年以前フランス植民地時代、ベトナム人革命運動家達によるフランス語や中国語他の刊行物は、国外で編集発行された分も含め、全て「ベトナム」ものと認められる。

逆に、植民地権力が刊行したものは、たとえベトナム語表記であっても、この範疇には入らない。例えば、ベトナム初のクオックグー*7紙としてしばしば名の挙がるGia Định báo(嘉定報)は「ベトナム」ものではないとされている。また、ベトナム人以外ということで、チョロン在住華人による漢語表記の刊行物、あるいは在越の各国大使館によるベトナム語表記のものもこれに準ずる扱いである。当館のベトナム語雑誌で言えば、東京で刊行されているタイトルのいくつかが、これに該当するであろう (Y741-ZS-73, 76, 83など)。

資料整理の現場もこれに配慮すべし、という話ではない。ここで著者が言うのは、①「ベトナムの刊行物」は、②「ベトナム語表記での刊行物」、③「ベトナムの地で発行された刊行物」とは区別して考えるべきだということなのである。そのように見るならば、当館のY741が対象とするのは②であり、前掲『ベトナム国家書目』の対象は③にあたり、それぞれ首尾一貫している。ただし、この著者は、これらふたつは「ベトナム」の内容としては不十分であり、あるいは余計なものまで含まれると言う。

我々異国の者としては、普段何気なく口にする「ベトナム」が、その含意するところ、実は一枚岩ではなかったことを、こうした議論は、改めて思い出させてくれる。戦争が終結し南北統一を果たしたのはつい30年前のこと。「仏領印度支那」(-1945) を知る者も多く健在である。

○「ベトナム」

「ベトナム (越南Việt Nam)」という呼称自体は、19世紀初頭、最後の王朝となったグエン(阮)朝の南北統一時に遡る。ただし、その呼称の意味するところは、以後、各局面で転変を繰り返し、常に政治的な課題となり、学界の論争の的であり、つまり、「ベトナム」の歴史そのものであった。

ここは詳説する場ではないが、その背景として、19世紀半ば以降のフランス植民地支配、八月革命 (1945)、第一次インドシナ戦争 (1946-54)、南北分裂、ベトナム戦争 (1960-75)、といった単語を並べるだけでも、常に外からの動揺を受けていたことは窺い知れるし、内を顧みれば、この地には多数を占めるベト族以外にも、多くの少数民族があり、独自の文化的伝統を育んでいた。現在ベトナムで公認されている民族は54を数える*8。

動乱に終止符を打ち、統一を達成したベトナム共産党は、その過程において、人心を掌握し権力を保持するための手段として、情報媒体の重要性を知悉していた。例えば、ホーチミンは活動の初期から新聞を中心とするマスメディアを活発に利用していたし、長く権力の中枢にいたチュオンチンはHọc tập (学習、のち改題Tạp chí Cộng sản共産雑誌)(Y741-ZS-7) 他多くの逐次刊行物を編集していたことで知られる*9。

こうした歴史的背景をもつ共産党が、政治の中心にあるという事情が、現在の、出版に限らぬ言論状況を基礎付けている。出版社、報道機関は基本的に共産党、国家省庁のものであり、また、報道法により、政治的安定や人心の善導に反するような言論、報道は厳に禁じられている。

当館蔵書中、共産党関連の逐次刊行物で、現在受入を継続しているものから主なものを拾うと以下の通り。

党: Tạp chí Cộng sản (Y741-ZS-7)、改題以前から継続的に受入

軍: Văn nghệ quân đội(軍隊文藝)(Y741-ZS-28、Y741-SN-13)、

中央省庁: Thương mại(商売)(Y741-ZS-56以下略して右の数字のみ), Con số & sự kiện(数値と出来事)(70), Tạp chí giáo dục(教育雑誌)(101), Văn hoá nghệ thuật(藝術文化)(59), Tạp chí hoạt động khoa học(科学活動雑誌)(35), Xuất bản Việt Nam (ベトナムの出版)(75) など*10


政府系研究機関: Nghiên cứu lịch sử(歴史研究)(9), Nghiên cứu kinh tế(経済研究)(13), Thông tin khoa học xã hội(社会科学通信)(14), Tạp chí dân tộc học(民族学雑誌)(16), Nhà nước và pháp luật(国家と法律)(18), Xã hội học(社会学)(20), Nghiên cứu văn học(文学研究)(22), Triết học(哲学)(25), Ngôn ngữ(言語)(26), Tạp chí khoa học xã hội(社会科学雑誌)(54), Văn hoá dân gian(民間文化)(58), Khoa học và công nghệ(科学と工藝)(36), Dược học (薬学)(37)

祖国戦線: Thế giới ảnh(写真界)(100), Xưa này (昔今)(107) など*11

一方、同じベトナム人でも、共産党関連以外の所蔵となると、僅かに、サイゴン政権 (1955-75)下の刊行物、Thống kê nguyệt san(統計月刊)(Y741-ZS-3), Thống kê ngoại thương(統計外商)(Y741-ZS-5)、Luật học kinh tế tạp chí(律学経済雑誌)(Y741-ZS-4)、Kinh tế tập san(経済集刊)(Y741-ZS-8)、Văn hoá tập san(文化集刊)(Y741-ZS-24)、Sách mới(新刊書)(Y741-ZS-47), Thư tịch quốc gia Việt Nam(ベトナム国家書籍)(Y741-ZS-49) 等が挙げられるのみである。

こうして見ると、当館の蔵書がオーソドックスであるとは、内容の硬さはもちろんであるが、ベトナム人編集のものが大半を占めること、また、現在の政治的状況が反映された内容であることを含意させることもできそうである。

○収集・整理・保存

時代背景を考えれば、収集保存の困難は想像に難くない。紙質の劣悪等、形態の問題はもちろんであるが、各時代の権力が誰のもとにあり、その強弱がどの程度であったか、歴史的資料の現存状況については、まずこれら政治的条件を抜きにして考えることはできない。

フランスによる納本制度 (1922-45) はそれなりの網羅性をもったが、今日の正統からは傍流とならざるを得ない。一方、前掲Nguyễn Thanhによると、ホーチミンがThanh niên(青年)を創刊した1925年から45年八月革命に至る20年間に非合法で出版されたタイトルは400を数えると言われるが、著作執筆段階で蒐集できたのは20に過ぎない。また、1945年以降75年に至るまで、国家による収集は十全には機能せず、当時の出版状況の全貌を掴むのはいまだ困難であるという。当然の成り行きとして、各機関の蔵書において、欠号は相当数にのぼり、研究者達による網羅蒐集の努力にもかかわらず、現段階では、未確認の巻号が無数に存在する。

そうした条件のもとでの資料整理には、さらに、独特の困難が生ずることになる。上にも極力ベトナム語のまま表示しておいたが、その雑誌のタイトル表示がまず問題で、時期にもよるが、編集主体の改組等による誌名の変更がしばしば起こること、さらに、異なる媒体でありながら、同一の誌名を持つものが多く見られ、異同の判断をするためには、各書誌事項を網羅的に把握しておく必要がある。当館の蔵書で言えば、văn hoá(文化)、nghệ thuật(藝術)、 văn nghệ(文藝)(Y741-ZS-23, 27, 59, 63, 64, Y741-SN-3) 等の単語を含む誌名は注意を要する。

また、誌名にはtạp chí(雑誌)という単語を先頭に付すことが多いのであるが、この単語の使い方が一定しないことがある。Tạp chí cộng sản(共産雑誌)のように、一貫して誌名として一体になっているものがある一方で、例えば、Tập chí hoá học(化学雑誌)(Y741-ZS-38)は、誌名をTập san hoá họcと断続的に変更している時期があった。tập san(集刊)もtạp chíと同様の意味を示す単語である。また、Tập chí đuọc học (Y741-ZS-37)のカバー表記は一時期Duọc học であったが、これに限らずtập chíを省略する例は頻繁にみられる。このような場合、カタログの対象となった巻号によって誌名の先頭が変化するため、アルファベット順のインデックスならば、順列の異同を生ずることにもなるのである*12。

こうした不合理不明瞭は巻号の誤記等とともに、編集出版界の発展途上を示すエピソードの一部をなすが、もちろん当のベトナム人も承知していることであって、状況は、ドイモイ以降、特に90年代になってから劇的に改善されている。紙質は格段によくなり、紙面も洗練されてきていることが、各時代の現物に触れた者としては、特に印象に残った。

以上誠に雑駁ながら当館所蔵ベトナム語逐次刊行物の概要に代える。現在わが国におけるベトナム語書籍の普及度を考えれば、このコレクションは決して小さなものではない。ベトナム語を読む者はなにも研究者に限られるわけではなく、専門研究機関でもない公共の図書館がこれほどの蔵書をもち、こうして手軽に現物の在処が確認されるという環境は、在日ベトナム人にとっての便益はもとより、まず我々にとって、異国に対する理解を深めるための基盤となるはずである。当館では、今後も継続的に収集する方針とのこと、ベトナム語読者のより広い認知、そして利用を、心より願う。

*1国立国会図書館に1985年以前受入れられた図書はNDL-OPAC (http://opac.ndl.go.jp/)、1986年以降受入分はアジア言語OPAC (http://asiaopac.ndl.go.jp/)、逐次刊行物はすべて前者で検索できる。現物の在処は、ベトナム語表記であれば、基本的に関西館に収められているが、法令資料及び受入の古いものの一部は東京本館にある。

*2『アジア資料通報』30 (1992.5), 37 (1999.12)

*3ただし、別言語と並列表記されている書籍の一部や受入の古いもの等、この記号が付与されていない書籍も、例外的ではあるが存在する。

*4国家図書館関係では、Thông tin văn hoá và nghệ thuật(文化藝術通信)(Y741-ZS-32), Tập san thư viện(図書館集刊)(Y741-ZS-53), Thư viện Việt Nam (ベトナムの図書館)(Y741-ZS-108) が継続的に受入れられている。オンラインで知り得た限りでは、何れも日本国内機関の所蔵は稀である。

*5 Niên giám thống kê(統計年鑑)(Z61-F279) 2004年度版の、全出版物統計では

中央: 10,122 title  193,900,000 copies

地方:  4,526 title   12,700,000 copies

*6Bulletin officiel : l’expédition de Cochinchine(東京本館所蔵YC-A10)

*7アルファベットと補助符号からなる現行の正書法

*8「ベトナム」の含意するところについては、古田元夫『ベトナム人共産主義者の民族政策史 : 革命の中のエスニシティ』大月書店1991

*9Nguyễn Thanh, Sự nghiệp báo chí của chủ tịch Hồ Chí Minh(ホーチミン主席の報道事業), Hà Nội, 1988 (Y741-S6), Đồng chí Trường Chinh với báo chí(チュオンチン同志と報道), Hà Nội, 2003 (Y741-N181)

*10統計、ダイレクトリー等年鑑類もこのグループ含まれる。所蔵はほとんどが1990年代半ば以降である。(Y741-ZS-84~90,92~95,97,98,102,103,105)

*11祖国戦線は共産党と密接な関係をもつ政治連合組織。これに属する組織・団体の編集になる大衆向けの刊行物は、当館では現在受入停止中のものが多い。(Y741-ZS-6, 29, 30, 31, 43, 63 など)

*12例えば、Niên giám báo chí Việt Nam(ベトナム報道年鑑)2000年版(Y741-ZS-90)のように、インデックス作成にあたり、全誌名の先頭にTạp chíを付するものもみられる。

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