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韓国史研究・教育の社会資本-大学・資本・ツール: アジア情報室通報第4巻第1号

アジア情報室通報 第4巻第1号(2006年3月)
吉田 光男(東京大学大学院人文社会系研究科教授)

 

(1)はじめに

日本では現在、いくつかの大学に専門課程が設置され、歴史をはじめとしてさまざまな韓国朝鮮関係の教育が行われており、韓国朝鮮史関係の学会も複数が活動している。とりわけ1990年代以降の変化には目覚ましいものがある。日本における韓国朝鮮史の研究と教育の社会資本について、その歴史と現状を概観する。

(2)前史―第2次世界大戦前

a.東京帝国大学と京都帝国大学

日本の高等教育機関でもっとも早く韓国朝鮮関係の専門的な教育を開始したのは、東京外国語専門学校朝鮮語科で1880年のことであった。同科は、1927年まで継続した。

はじめて正式に歴史の講座が設置されたのは、1914年の東京帝国大学文科大学史学科の朝鮮史講座である。ところが、この講座の教員は最後まで池内宏氏1人だけであり、同氏が定年退官する1939年まで存続したが、その後、閉鎖されたまま日本の敗戦をむかえることになる。これと同じころ、京都帝国大学でも今西龍氏によって朝鮮史の講義が始まった。今西氏は1926年からは京城帝国大学と併任していたが、1932年に在職のまま死去し、講義も閉鎖された。

b.京城帝国大学と朝鮮史編修会

戦前期の日本で研究と教育の中心となったのは、1926年に第6番目の帝国大学として京城(現ソウル)に開設された京城帝国大学である。その2年前に京城帝国大学はすでに予科を開設していたが、この年、進学生を迎え、大学課程が開始された。京城帝国大学は開設当初から、法文学部史学科に朝鮮史講座を設置し、今西龍氏(前近代史)小田省吾氏(近代史)による2講座制で運営された。その後、同講座は藤田亮策(考古学)と末松保和(古代史)に引き継がれ、京城帝国大学最後の日まで継続された。

京城帝国大学には、朝鮮史講座と合わせて、小倉進平と高橋亨の2氏を擁して朝鮮語学文学講座も開設された。その他の学科や講座に属した人々の中にも韓国朝鮮に関する研究と教育を行う人も多く、その数は法文学部の教授・助教授合計35名の4分の1を越えていた。それら教員はすべて日本人であり、朝鮮人が専任になることはなかった。

京城には、修史事業を行うため、朝鮮総督府中枢院の朝鮮史編修会が開設され、多くの歴史研究者を擁していた。本会と京城帝国大学が両輪となって朝鮮における研究活動が進められた。こうして京城は戦前期における韓国朝鮮史研究・教育の中心となっていた。

(3)歴史と現状

a.大学

第2次大戦後、最初に韓国朝鮮関係の専門研究教育組織を開設したのは、1950年の天理大学文学部朝鮮文学語学科であった(文学部は後に外国語学部に変わる)。

1963年には、国立大学としてはじめて大阪外国語大学外国語学部に朝鮮語学科が開設された。1970年代になると、各地で新たな研究教育組織の開設が見られるようになる。1974年には九州大学文学部史学科に朝鮮史専攻が開設されたが、これが現在に至るまで、学部レベルでは唯一の韓国朝鮮史教育の専門課程である。1977年には東京外国語大学外国語学部に朝鮮語学科が開設され、1978年には富山大学人文学部に朝鮮語学文学コースが開設されて、それまで西日本だけに偏っていた研究教育組織が東日本と中日本にも広がった。

天理大学以後、1970年代までに韓国朝鮮関係研究教育組織を設置したのはすべて国立大学であったが、1989年の神田外語大学外国語学部韓国語学科開設から私立大学にもその動きが広がっていった。1994年には熊本学園大学外国語学部東アジア学科韓国語コース、1998年には福岡大学人文学部東アジア地域言語学科韓国コースと相次いで開設された。こうして20世紀末には、国立大学と私立大学それぞれ4校ずつ、合わせて8校に韓国朝鮮関係の学科・コースが整備された。その一方で、1993年には東京大学文学部附属文化交流研究施設に朝鮮文化部門が、また2000年には九州大学に韓国研究センターが開設され、研究組織も整備されていった。

21世紀に入ると、2002年4月に東京大学が、教養学部に韓国朝鮮地域文化研究コースを、また文学部附属文化交流研究施設朝鮮文化部門を廃止して大学院人文社会系研究科に韓国朝鮮文化研究専攻を開設した。後者は9名の専任教員を擁し、韓国朝鮮歴史社会、韓国朝鮮言語思想、北東アジア文化交流の3専門分野で構成される、日本で最初の大学院における韓国朝鮮に関する総合研究教育組織である。

以上の歴史と現状を2005年度現在でまとめると、以下のようになる。まず開設当時の名称を示し、組織改編等による現在の名称を→の次に示す。

1950年   天理大学文学部朝鮮文学語学科

         →国際文化学部アジア学科韓国・朝鮮語

           コース

1963年   大阪外国語大学外国語学部朝鮮語学科

         →外国語学部アジアⅠ講座東アジア地域

           文化研究専攻朝鮮語専攻

1974年   九州大学文学部史学科朝鮮史学専攻

         →文学部人文学科朝鮮史学専攻

1977年   東京外国語大学外国語学部朝鮮語学科

         →外国語学部東アジア課程朝鮮語専攻

1978年   富山大学人文学部朝鮮語学文学コース

1989年   神田外語大学外国語学部韓国語学科

1993年  東京大学文学部附属文化交流研究施設朝鮮文化部門

         →2002年に廃止

1994年  熊本学園大学外国語学部東アジア学科韓国語コース

1998年  福岡大学人文学部東アジア地域言語学科韓国コース

2000年   九州大学韓国研究センター

2002年  東京大学教養学部地域文化研究学科韓国朝鮮地域文化研究コース

2002年   東京大学大学院人文社会系研究科韓国朝鮮文化研究専攻

2005年度にはこれらのうち5校に歴史の専任教員による専門講座が置かれている。また、管見のかぎりでは、全国で50以上の大学が専任教員を有して韓国朝鮮史関係の講座を開設している。教育と研究をめぐる状況は大きく変化しつつある。

b.学会

①朝鮮学会(本部:天理大学、創立:1950年、機関誌:『朝鮮学報』(季刊))

本会は、歴史学、文学、言語学、文化人類学、民俗学など、人文社会系各分野から自然科学まで、韓国朝鮮研究のあらゆる分野の研究者を糾合して発足した総合学会である。会員数は約600名で、現在の構成を専門分野別に見ると、歴史学(29.1%)、言語学(28.7%)、文学(15.6%)、考古学(6.0%)の順になる。

原則的に天理大学を会場として毎年10月に年次研究大会を開催し、研究発表の場を継続して確保してきた。その回数は50回を超えている。また韓国との交流が困難な時期から、大会の講演者・発表者として韓国の研究者を招聘し、日韓の学術交流に貢献してきた。

機関誌『朝鮮学報』(季刊)の通算刊行数は200輯に達し、韓国からの投稿も多い。

②朝鮮史研究会(本部:一橋大学、創立:1959年、機関誌:『朝鮮史研究会論文集』(年刊)、http://wwwsoc.nii.ac.jp/chosenshi/外部サイトへのリンク

日本における唯一の韓国朝鮮史専門の全国学会であり、関東・関西の2部会制をとっている。会員数は、関東部会約350名、関西部会約150名で、合計約500名である。会員構成を見ると、大学教員(44.4%)についで、学生(21.5%)と小中高教師(10.5%)が多い。韓国朝鮮史研究者と大学院生の大部分が加入している。

本会は発足当時、3つの特色をもっていた。第1に、日本人と在日韓国朝鮮人がともに対等の立場で参加するかたちをとり、幹事は両者同数とした。第2に、民間団体としての性格を重視し、会員資格を「本会の綱領に賛成する者」として、ほとんど制限を設けなかった。第3に、能動的な研究活動を重視した。これは、現在まで継続している。

月例研究発表会、年次研究大会、『朝鮮史研究会論文集』を活動の3本柱としている。

月例研究発表会は、関東・関西の両部会ごとに毎月開催され、研究報告、書評、研究動向紹介などを行っている。通算開催数は、両部会合わせるとおよそ1000回にのぼる。

年次研究大会は、原則として10月に、関東が3年に2回、関西1回の割合で開催されており、2005年で42回になる。講演とシンポジウム形式のテーマ研究発表で構成されている。

機関誌『朝鮮史研究会論文集』は2005年で43集を数える。前年度のシンポジウム関連論文や投稿論文のほか、文献目録などで構成されている。

本会は研究活動以外に社会活動にも積極的に関与し、多くの声明や決議を表明してきた。1970年代までは、在日韓国朝鮮人の人権問題に関する発言が多く、1980年代以降は、いわゆる歴史教科書問題での積極的な意見表明が目に付くようになる。

朝鮮史研究会が刊行した主要出版物には、研究手引『新朝鮮史入門』(龍渓書舎、1981年)、研究文献目録『戦後日本における朝鮮史文献目録』(緑陰書房、1994年)、通史『新版・朝鮮の歴史』(三省堂、1995年)などがある。

③韓国・朝鮮文化研究会(本部:東京大学、創立:2000年、機関誌:『韓国朝鮮の文化と社会』(年刊)、http://www007.upp.so-net.ne.jp/askc/外部サイトへのリンク

「現場性」と「非境界性」の二つを共通項として、歴史学、文化人類学、民俗学、社会学など、人文社会科学諸分野の研究者が集まって結成された。会員のほとんどが韓国に長期滞在の経験をもち、韓国朝鮮語を研究言語として駆使している人々である。

2005年現在の会員数は約200名で、これを専門分野別構成で見てみると、人類学(31.6%)、歴史学(24.3%)のほか、社会学、宗教学、音楽学、美術学の順になる。

毎年10月に年次研究大会を開催し、年間4回の例会を行って研究発表の場を提供している。研究大会は自由論題による個別研究発表とシンポジウムで構成されている。

機関誌『韓国朝鮮の文化と社会』は2005年で4号を数える。同誌は研究論文のほか、研究エッセイ、展覧会評、韓国学界動向紹介などで構成されている。

④関連学会

歴史学と間接的に関係する学会には以下の2つがある。

a.現代韓国朝鮮学会

(本部:東京大学、創立:2000年、機関誌:『現代韓国朝鮮研究』(年刊)

http://www.meijigakuin.ac.jp/~ackj/front/外部サイトへのリンク

現代の現代の韓国朝鮮を研究対象とする社会科学系研究者が集まって結成した。会員は約400名で、例会と年次大会を開催している。

b.朝鮮語研究会

(本部:東京大学、創立:1983年、機関誌:『朝鮮語研究』(年刊)http://www.l.u-tokyo.ac.jp/tyosengo/外部サイトへのリンク

韓国朝鮮語研究者が結集して結成した。会員は約300名で、月例会と年次大会を開催している。

(4)研究情報

代表的な研究文献目録・研究者銘鑑には以下のものがある。

①末松保和編『朝鮮研究文献目録 1868-1945 < 単行書編 > 』(3冊、東京大学東洋文化研究所附属東洋学文献センター、1970年)、末松保和編『朝鮮研究文献目録 1868-1945 < 論文・記事編 > 』(3冊、東京大学東洋文化研究所附属東洋学文献センター、1972年)

1945年8月15日以前に発表された朝鮮研究の包括的な目録であり、人文科学・社会科学・自然科学の単行本・雑誌論文等を網羅的に収集し、分野別に編成している。いずれも汲古書院から1冊本の復刻版(1980年)が出版されている。

②朝鮮史研究会編『戦後日本における朝鮮史文献目録』(緑陰書房、1994年)

第2次大戦後に日本で上梓された韓国朝鮮史関係単行本や雑誌論文の目録である。①と合わせると、明治初期から1991年までの著作を網羅的に調査することができる。

③『朝鮮史研究会論文集』「文献目録」

前年1年間に日本で発表された韓国朝鮮史の研究書と研究論文の目録である。http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~mizna/sengo/外部サイトへのリンクで全年分を検索することができる。

④『史学雑誌』各年5月号「回顧と展望」

日本で前年に発表された歴史研究を総括しており、研究動向を知ることができる。韓国朝鮮史も古代・中近世・近現代の3部に分けて研究の紹介と評価がされている。

⑤日韓文化交流基金編『日本における韓国・朝鮮研究研究者ディレクトリ(2004年調査)』(同基金、2005年)

研究者銘鑑である。専門や所属などが記載されている。同基金ホーム・ページ(http://www.jkcf.or.jp/外部サイトへのリンク)で公開されている。

(本稿は平成17年度アジア情報研修における講義内容にもとづいて執筆したものである)

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