「リサーチ・ナビ」に関するアンケートを実施しています。皆さまのご意見をお聞かせください。アンケートに答える

トップアジア諸国の情報をさがす刊行物>平成17年度アジア情報研修の概要報告 : アジア情報室通報第4巻第1号

平成17年度アジア情報研修の概要報告 : アジア情報室通報第4巻第1号

アジア情報室通報 第4巻第1号(2006年3月)

平成17年11月24日(木)、25日(金)に平成17年度アジア情報研修を実施した。第4回目となる今年度は共通テーマを「東アジア情報の検索と情報ニーズへの対応」とした。

1. 受講者について

受講者の内訳は、以下の通りである。昨年度は近畿圏が全体参加者の3分の2、大学図書館が8割を占めたが、今年度は館種も多様で地域的にも全国からほぼ偏りなく参加が見られた。

受講者の内訳

 

東北 関東 中部 近畿 中国 九州 合 計
大学図書館 1 3 2 5 2   13
公共図書館         2
専門図書館他   4     6
合 計 1 7 3 7 2 1 21

2. 研修内容

研修の各科目の概要を以下に紹介する。

■1日目

(1)「日韓学術書籍の相互流通―過去・現在、今後の展望―日本語と共に歩んだ一韓国書店人の45年」(講師:金星天 (有)京都金星堂取締役)

1960年(昭和35年)~1989年(平成元年)を「過去」、1990年~2005年を「現在」として論ずる。「過去」はいわゆる「規制・取り締まり」の時代である。60年代は、韓国における外国図書輸入量のうち、全体の3分の2を日本書籍が占めており、大半は専門図書であった。政府が行う「輸入推薦制度」と呼ばれる事前検閲審査制度のもとでの輸入であった。文教部で一般図書、著作権及び出版業務、公報部では定期刊行物を取り扱っていた。これらが一元化され68年に文化公報部出版課が発足し、「外国刊行物配布に関する法律」の公布とともに規制は強化された。

70年代に入っても日本図書の輸入は活発で、外国書輸入の53~60パーセントを占めていた。ただし、輸入のパターンに変化が現れ、専門図書だけでなく定期刊行物、全集物、百科事典の輸入が増加した。また、日本書一辺倒から欧米書優勢に変化する兆しが見え始めた。一方、米国の編集物の無断複写版(海賊版)が急増するという問題も起こった。

80年代は韓国出版界の「向上的転換期」と位置付けられる。韓国初の大規模書店「教保(キョーボ)文庫」のオープン(81年)、「万国著作権条約」への加入、社会主義関係書籍の出版容認(82年)、効率的な出版流通システム確立に向けた政府の取組み等、出版界と書店界に重大な転機をもたらした。

「現在」である90年代以降は「規制緩和」「規制撤廃」の時代である。社会の「民主化」「多元化」が一層進み、他方インターネットの普及により情報のグローバル化が進んでいる。上記の文化公報部が90年に廃止される(文化部と公報処に分離され、現在では文化観光部となっている)など出版界に望ましい動きがあり、また、92年には教保文庫が拡大再オープン、


ほぼ同規模の大型書店「永豊(ヨンプン)文庫」が開店し、両書店はともに現在全国チェーン展開中である。97年には出版流通市場の全面解放、金大中政権になってからは日本大衆文化の全面解放も行われた。

韓国での日本語教育の普及、日本での韓国語教育の拡大により、日韓の出版の相互流通が今後さらに盛んになると予想される。

(2)「環日本海関係資料・情報の提供」(講師:薛末子 鳥取県立図書館環日本海交流室相談員)

1993年9月に鳥取県立図書館に環日本海コーナーとして出発し、その後95年4月に、環日本海交流室を設置した。中国語、ハングル、ロシア語の資料(図書、代表的な雑誌・新聞)及び環日本海諸国に関する日本語資料、約1万4千冊を所蔵している。

収集に関しては、人文・社会科学分野を中心にして、各国の地理・歴史、社会事情、文化及び日本紹介に関するものを重点的に収集している。特に、外国語資料では中国、韓国、ロシアで話題になった図書、日本で出版された翻訳本の原書、風俗、文化に関するもの、及び絵本の収集に力を入れている。環日本海地域の相互関係を伝える史料も集中的に集めている。代表的なものは『朝鮮王朝実録』(全49巻)である。

利用については、県民のほか、県内在住の外国人(中国人、韓国・朝鮮人、ロシア人等)を主たる利用者と考えている。近年は特に中国人(留学生、企業研修生、短期就労者等)の利用が増えており、ロシア人の利用は減少が見られる。県民からのレファレンスは高度な内容のものが増えており、蔵書の質の転換が問われている。利用促進事業として、東アジアに関する連続講座、講演会、有志による歴史学習会等を開催してきた。また、諸国の特色ある絵本を翻訳し、小学生に原文と翻訳文で読み聞かせを行っている。

国際協力として、中国の河北省図書館、韓国江原道春川市立図書館、ロシア沿海地方ゴーリキー図書館と図書交換事業及び相互訪問を実施している。

(3)「アジア情報検索入門-インターネット情報を中心に」(講師:関西館資料部アジア情報課 小笠原綾、安藤一博、田中福太郎)

アジア情報室ホームページのリンク集(研修後AsiaLinksと改称)から特に使いやすく便利なサイトについて解説を交えて紹介した。詳細は同ホームページの研修テキスト(http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/asia/contents/internet_text.html)を参照のこと。

2日目

(1)「韓国史研究・教育の社会資本―大学・学会・ツール」(講師:吉田光男 東京大学大学院人文社会系研究科教授)

巻頭記事参照

(2)「漢籍の扱い方-日本における漢籍を中心に」(講師:土屋紀義 大阪学院大学国際学部教授)

資料論、情報サービス論の観点に重点をおき参考文献を紹介しつつ漢籍の扱い方について述べる。((1)(2)、以下括弧内は下記「参考文献」の番号)

1. 漢籍とはなにか

概括的に言えば「中国の書物。中国人が漢文で書いた書物」だが、実務的観点で見ると洋装本の問題等曖昧さが残る。((3)(4))

2. 目録学

漢籍を扱う場合に必要不可欠な四部分類法は、中国に固有の「目録学」を背景にしている。((5)(6))

3. 漢籍と和刻本と準漢籍

和刻本は版本、テキスト伝来のうえで一定の意義を持ち、日本が中国の文化をどう受容してきたかを示す意義ももつ。準漢籍は漢籍との線引きが難しく、整理にも頭を悩ませられる。((7)~(12))

4. 漢籍を取扱う際の諸相

昔の版本では全く同一の複本はありえないので「刊、印、修」が重要である。「印記、書き入れ」もその本の伝来や鑑定のための情報になる。和紙は耐久性が高いが、保存環境に配慮する必要がある。補修も図書館員がある程度手をかけるべき。((7)~(11)、(13))

5. レファレンスに役立つツールと留意事項:

(14)は漢籍と日本におけるその受容という観点から有用。(15)は歴史学中心だが、コメントつきでツールを紹介している。(16)は情報が新しく、かつ中国語のツールの評価があり判定に役立つ。(18)は中国の制度の変遷について知るのに現在でも十分通用する。((14)~(18))

(ⅰ)文献の確認: 「全国漢籍データベース」(http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/kanseki外部サイトへのリンク)が有効。諸橋徹次『大漢和辞典』(大修館書店、1989-90(修訂第2版))や大きな図書館の漢籍所蔵目録などにもあたる。

(ⅱ)出典調査: 台湾の中央研究院のデータベース「漢籍電子文献」(http://www.sinica.edu.tw/~tdbproj/handy1/外部サイトへのリンク)が画期的。諸橋『大漢和辞典』は用例が多く、返り点がついており有用である。四角号碼索引の習得を薦める。また、詩文の語句を探す場合は『佩文韻府』も併用する。中国語に慣れていれば『漢語大詞典』(漢語大詞典出版社、1986-94)も使う。

(ⅲ)人物調査: 諸橋『大漢和辞典』は人名をはじめ事項調査に便利である。出ていない場合は中国の大型の人名辞典等を調べる。人名標記には「諱、字、号、諡」があるので注意。原則として「諱」で項目が立てられている。わからない場合は「別名索引」、「別号索引」の類を見る。

(ⅳ)地名、地図: 近年地名の変化が激しい。『中国歴代地名要覧』、『中国古今地名大辞典』は1920年代から30年代のものに基づく。現代の地名は中国の新しい辞典で調べる。また、民国時代の地図と今の地図を付き合わせると地名の変化がわかる。

(ⅴ)年表: (17)の『東方年表』を座右に置くとよい。元号、年号と数字、干支が並んでいるもの。

(ⅵ)簡化字の問題: 『新華字典』を使う。

(ⅶ)原典の翻訳: 『漢文叢書』(有朋堂)、『漢籍国字解全書』(早稲田大学出版部)、『国訳漢文大成』(国民文庫刊行会)が有用。一方、『中国古典文学大系』(平凡社)など近年の翻訳は、付属資料に当時の制度等の解説が丁寧で、情報量が多い。『翻訳図書目録』(日外アソシエーツ)、相島宏「中国詩詞翻訳索引(1~4)」(『アジア資料通報』『参考書誌研究』(ともに国立国会図書館刊)に掲載)も有用。


6. 漢籍以外の文字資料

  金石文は史料として、または書道の観点で扱われる。⑲の観点は後者だが、前者についても役立ち、これに紹介されているツールは信頼できる。(20)(21)  は出土文献の最新の情報を把握するのに有用である。((19)~(21) )

7. 参考文献:

(1)井波陵一『知の座標』(白帝社、2003)
(2)京都大学人文科学研究所附属漢字情報センター『漢籍目録-カードのとりかた』(朋友書店、2005)
(3)陳国慶著、沢谷昭次訳『漢籍版本入門』(研文出版、2001(4刷))
(4)長沢規矩也『図書学辞典』(三省堂、1979)
(5)内藤湖南「支那目録学」(『内藤湖南全集』第12巻pp.363-464、筑摩書房、1976(2刷))
(6)倉石武四郎『目録学』(汲古書院、1979)
(7)橋口侯之介『和本入門-千年生きる和本の世界』(平凡社、2005)
(8)中野三敏『書誌学談義  江戸の板本』(岩波書店、1995)
(9)廣庭基介、長友千代治『日本書誌学を学ぶ人のために』(世界思想社、1998)
(10)中村幸彦「漢籍-和刻、注釈、翻訳、翻案」(『中村幸彦著述集』第7巻、pp.363-399、中央公論社、1984)
(11)長沢規矩也『和刻本漢籍分類目録』、『和刻本漢籍分類目録補正』(汲古書院、1976、1980)
(12)高橋智、高山節也、山本仁「漢籍目録編纂における準漢籍の扱いについて」(『汲古』46号、pp.25-35、2004.12)
(13)遠藤諦之輔『古文書修補六十年-和装本の修補と造本』(汲古書院、1987)
(14)頼惟勤「工具書」(『中国文化叢書』9 「日本漢学」5章4節 pp.335-360、大修館書店、1968)
(15)島田虔次「序論」(『アジア歴史研究入門』1 中国Ⅰ pp.1-50、同朋社、1983)
(16)Wilkinson, Endymion“Chinese history : a manual”rev. and enl. Harvard Univ. Pr., 2000
(17)藤島達朗、野上俊静編『東方年表』(平楽寺書店、1990(29刷))
(18)伊藤東涯『制度通』上、下(岩波書店、2005(3刷)(岩波文庫))
(19)杉村邦彦編『中国書法史を学ぶ人のために』(世界思想社、2002)
(20)浅野裕一、湯浅邦弘編『諸子百家 < 再発見 > -掘り起こされる古代中国思想』(岩波書店、2004)
(21)冨谷至『木簡・竹簡の語る中国古代-書記の文化史』(岩波書店、2003)

3. 研修を振り返って

今回の研修は、特殊な取扱いが必要な漢籍の基礎知識、最近特にニーズが高まっている韓国・朝鮮情報の探索、そして現在必要不可欠となっているインターネットによるアジア情報の検索を中心に取り上げた。各分野の第一線で活躍中の講師が科目を担当したこともあり、終了後の研修生のアンケートでは、「大いに役に立つ」と総じて高い評価を受けた。また、第1日目終了後の懇親会は例年以上の多数の参加が得られ、各館の実情とともに当研修に対する忌憚のない意見を伺うことができた。この場を借りてお礼申し上げたい。

  • 国立国会図書館
  • 国立国会図書館オンライン
  • 国立国会図書館サーチ
  • 国立国会図書館デジタルコレクション
  • ひなぎく
  • レファレンス協同データベース
  • 本の万華鏡
  • 参考書誌研究